2007年10月31日水曜日

沈まぬ太陽②アフリカ編下

著者名;山崎豊子 発行年(西暦);2001 出版社;新潮社
 パキスタンのカラチ支店からイランのテヘランに赴任する場面から始まる。ペルシア証人=砂漠の民の厳しい商法に耐えながら恩地はテヘランでテヘラン支店の開設準備を始める。論理性・表現性・人格を重視してイラン人の現地採用を充実させ、支店の備品をそろえる。その最中母親が日本で亡くなる一方で、会社では第二組合が創設され、第一組合の組合員は陰湿ないじめにあっていた。現在このモデルとおもわれる企業の21世紀初頭の財務状況は、約2兆円を超える有利子負債にあえぎ、さらに競争会社とのコストカット競争も余儀なくされる中、代表取締役の解任劇が新聞で報道されている。イランのロイヤルファミリーの腐敗ぶりが描かれるが、中近東の情報が少なかった当時の日本ではロイヤルファミリーというだけで取引条件を緩和したり、バックマージンを支払うといったことは十分に考えられる。鹿児島出身の豪快なテヘラン支店長は更迭されるなど、理不尽な人事が横行する中、社内の良識派はどんどん閑職に追いやられていく。そんな中でも恩地のすごいところは「会社が自分の我慢の限界を待っているのだと思うと焦燥の気ぶりは見せられない」と自分にいいきかせているところだ。確かに感情的な行動や尊大な振る舞いは企業社会ではタブー。閑職が長い人間であるのに、そうした客観的認識はカラチ支店からテヘラン支店に異動してもなお衰えることがない。そしてテヘラン支店からさらにアフリカ、ケニアのナイロビ支店への異動が通知される。当時のナイロビには飛行機は飛んでいない。
 10年にも及ぶ生殺しの状態に耐え、時には猟銃を自室で乱射するという行動をとりながらも、あくまで倫理的に行動しようとするこの精神力がこの人物の魅力だろう。
 企業社会というのはどうしても派閥の中で、個人の意見が優先されない面がある。そして会社自身も「個人の意見」はけむたい。ある意味で、こうして非常に魅力的ではあるが、個性的な人物への報復人事はおそらく高度経済成長期には相当におこなわれていたのだろう。作者は執拗に「総務」としての主人公の日常生活を綿密に描きながらも、ストーリーとしては絶妙のタイミングで飛行機事故のアクシデントと隠蔽工作の様子を挿入し、最後は東京都中央労働委員会や国会質問などの様子も描きだす。ここまで「自分」あるいは「ライフスタイル」にこだわる人間というのは現在でも少数派というよりも皆無に近いのではないだろうか。そして会社上層部のほとんどが冷淡な振る舞いをするのも無理はない。個性を殺すことでしか会社経営の中では生きていけないのだから。どんな大企業であっても、最終的には一人の人間が動かしている。そしてその人間が常に高度な判断力を兼ね備えているわけではない。そうしたミスが「空の安全」という社会上の倫理と営業追求という使命の2つを追求していくのは相当に難しい。主人公恩地の姿はある意味ヒーローだが、ある意味では生まれる時代を間違えた人物であるかもしれない。だが多くの人間がこの恩地に共感をよせる理由。それは大方の人間が少なからず、不満をかかえながら自分個人の「倫理性」を貫こうとしているからではないかと思う。そこに日本社会の希望がある。

沈まぬ太陽③御巣鷹山編

著者名;山崎豊子 発行年(西暦);2000 出版社;新潮社
 労働委員会、国会質問などをへて恩地は日本に復帰。そんな中、御巣鷹山に航空機約520人乗りが墜落する…。この当時の社会的衝撃はすさまじいものがあった。実際の事件だが、テレビのクルーが機材の搬入がなかなかできず、ラジオの深夜放送はすべて臨時放送に切り替えられ徹夜の報道が繰り広げられた。それまで「東都大学で共産党細胞をつとめ、治安維持法違反で逮捕後10ヶ月転向」した堂本はその地位に執着したあげく、その社長の座を追われる。この冷徹なリアリストはかつてフランスにいたフーシェを思わせる独特の戦術で生え抜きの社長の座に上り詰め、100万円のステレオでマーラーの第1番を聴くという設定。実在したのかどうかは不明だが、かなり屈折した人生観と冷徹な現状分析能力を兼ね備えていたのだろう。だがしかし、不慮の事故への対応までは想定の範囲外だったと思われる。たんなる勧善懲悪のストーリーではない。安全あるいは製品神話、ブランドの頂点にたつ人間は、ある意味ではいつでもその商品とともに葬られる可能性を秘めている。人間と営利というある意味両立不可能な目的を山崎豊子は描き、遺族の悲しみを徹底的に描き、損害賠償金額を値切る人間の姿も執拗に描ききる。人間の命を値切る姿は株式会社の姿勢としてはその延長戦にある行為だが、一つ、同じ人間という立場でみると異様な姿に目に映る。会社内部の視点と遺族の視点の両方の狭間に恩地は遺族交渉係として赴任して、テクニカルな交渉ではなく、人間同士の共感と理解をと訴えて冷笑される。第1巻から始まり、事故を通じて営利主義と人間、出世主義と報復人事の極端な対立を描写。読んでいてこれほど辛い物語はないが、ここまで引き込まれる物語も少ない。小説という姿を借りているがまさしくこれはあの会社のあの事件ではないか。

沈まぬ太陽④会長室編(上)

著者名;山崎豊子 発行年(西暦);2002 出版社;新潮社
 大企業神話が崩れ始めた今も、この小説のモデルになっている航空会社への就職希望者は多い。ただしその希望者の多くが見落としている事実は、規制の緩和がおこなわれれば、日本の航空会社でなくても海外の航空会社が日本の空をとび、さらに安全性が確保されれば乗客は移動してしまう…という事実。たしかに国際化の流れは人の流れをあちこちに移動させる必要性をうむが、そこに新たな競争がうまれる。競争の時代に利権や組合関係、複雑な労使関係をかかえた企業はいずれ衰退していくという事実。いずれは国内専門の航空会社に転落しかねない危うさをだれもが認めつつも現在では約40,000人をかかえる大企業は苦悩のリストラと調和をめざさざるをえない。
 この第4編では繊維会社から異質の経営者をむかえ、4つの並存する労働組合の融和を図ろうとする中、職域生協にまつわる不明朗な資金の流れや、さらに運輸省などとの不可解なつながり、さらには日本を代表するある大手新聞と大企業広報部との取引などの様子が描写される。現在ではウェブがあるので大新聞の論調で世間の意見が左右されることは少ないが当時の新聞の影響度は今よりはるかに大きかっただろう。「利権」をめぐる争いの中に会長室がおかれるが、次第にその利権と利権、エゴとエゴの争いは調和どころか激化していく様相を呈して第4巻は終了する。主人公の「実際」が必ずしも清廉潔白な人物像とは思えないが、ここにきてかつての純粋な「労働者」の生き方がそれぞれの保身をかけた争いになる。いずれもがかつて同じ「東都大学」出身でありながらも、ポストと利権をめぐる争いはむしろ「東都大学」出身者を中心として戦国時代の絵巻のようだ。こうした組織の内部抗争はむしろ他の組織体にとっては有利な面があり、超過利潤を横から奪い取るチャンスとなる。特殊法人から民間企業となった大企業のいわばもともとあった問題点が市場主義が発展すればするほどにあらわれてきた矛盾。単に航空問題だけにとどまらない。日本郵政公社もこの本のストーリーにあるような「大企業」になる可能性が現在のところではかなり高い。労働組合が4つに分かれるといった特殊な問題はおそらく生じないだろうが、総務省との天下りの問題や組合と経営者の関係、さらには、特別にみとめられている特権制度などは組織のスリム化を促進するスピードを妨げ、国際競争力を奪う可能性の原因ともなる。「魑魅魍魎」の男たちの醜い保身の争いだが、その争いが「空の安全」に関わる問題だ…という公益性の意識のなさにつながっている点が国民の興味をうんだのだろうし、日本郵政公社についてもいずれ同様の問題が発生する可能性はある。
 第4巻では底がみえない利権と金の奪い合いといった様子が描かれ第5巻につながるが、読んでいくのが本当に怖くて辛い。なぜなら人間だれしも自分が可愛ければ「行天」や「堂本」といった小説の中にでてくる「魑魅魍魎」になりかねない要素をかねそなえているからだ。自意識や美意識をなくせば人間はどこまでも他の人間に対して残酷にも尊大にもなれる。ただし、自意識や美意識を失った結末は、「華麗なる一族」の最後の晩餐のような様子を呈するのだろう。第4巻は第1巻とはまた違った意味での一つの大企業の内幕を合法的にフィクションとして描いた名作だ。

沈まぬ太陽⑤会長室編(下)

著者名 ;山崎豊子 発行年(西暦);2002 出版社;新潮社
 何某巨大航空会社を題材に取ったこの物語も第5巻で結末を迎える。最後には内閣総理大臣や運輸大臣といった閣僚レベルまでの人物を巻き込み、分裂した労働組合問題や不明朗なアメリカホテルの買収といったきなくさい「実話」がエピソードとして盛り込まれる。さらには10年間にわたる為替予約契約というちょっと信じられない話まで出現するほか、荷物を隠して到着を延期させるなどといった「稚拙な労務管理政策」まで飛び出し、この「会社」がいかにボロボロになっていったのかが第三者にもよくわかるような物語になっている。経済小説としては一流の作品で、実名はあがっていないが、ちょっと調べれば誰のどういうエピソードかは読者全員が把握できるという仕掛けになっている。巻末には協力者の名前があがっているが、それがまた皮肉な協力者の羅列状態。10代、20代の若者にはそれでも夢と希望のあふれる職場にみえるのかもしれないが、実際に飛行機を利用している立場からすると、航空会社というのはみかけの華やかさのわりには、あまり割りの会わない職場環境のようにみえてしょうがない。いわゆる客室乗務員の給料も軒並み抑制気味とは聴いているが、あれは端でみていても重労働。さらにテロ防止のための警備員などのストレスもかなりたまるだろうし、整備の人たちの苦労もすごい。パイロットはいうに及ばずで、航空管制官の仕事も秒単位のすさまじいストレスとの戦いだろう。すべての会話がボイスレコーダーで録音されているわけだから一瞬の油断が命取りになるケースもある職場だ。さらに一般の会社でいう営業職も現在では海外の企業との競争もあるのでかつての親方日の丸・特殊法人意識では有利子負債の返済はおぼつかない。今は知名度もあるので金融機関もそれなりの対応だろうが、今以上に規制緩和が進むと金融機関自身の防衛のためにも、融資先の選別は今後さらに強まるものと予測される。ある人に聞くとモデル企業は現在合併した航空会社の組合を加えて9つ存在するということだろうが、これで春闘や労働環境の整備、さらに管理職などの人事政策などを含めるととてもではないが、かなり優秀な人間でなければトップはつとまらない。派閥抗争にあけくれている間にフランスやアメリカの航空会社が覇権を伸ばす可能性もあるだけに、新聞で先日報道されたような事件が続くかぎり消費者の視線はさらに厳しくなるだろう。
 人事の公正、組合統合、財務面の乱脈ぶりといった一連の流れは、規制時代の産物でもあるし、特殊法人という営利主義と国家の覇権という二律背反の目的追及のアンバランスに由来する。整備の人間がパイロットよりも格下に見られるというのは他の企業からするとちょっと想像できないが(メーカーでは工場のほうがおそらく本社よりも力をもつケースは少なくないし、むしろその方が良い製品ができるケースもある)、少なくとも整備に詳しい役員が航空会社に数人いてもおかしくはない。こうしたあたりは論理とか経済性の問題ではなく、社会集団とか人間感情というレベルの問題だから、もうまともな経営学や経済学に詳しいトップではなく、多少泥臭いレベルでの交渉ごとが苦にならないトップや心理学者や社会学者の出番なのかもしれない。いずれにせよ現在の国土交通省も運輸の自由化の重要性と海外資本との競争はすでに織り込んでいると思われるし、労務政策についても厚生労働省自身が10年前とは比較にならないほど労働基準法や労働組合法遵守の姿勢を打ち出しているため、この小説に書かれているようなエピソードは今後は少なくなるだろう(特定の商業雇用人を隔離するというのは他の企業でもおこなわれていたという話は聴いたことがあるが、今の時点でそれを継続した会社は不当労働行為で相当に重い処分になると思う。H銀行に労働基準監督署が先日も立ち入り不払いの残業代の支払い命令を出したがこれも時代の変化に気づかなかった何某地方銀行の経営者の見通しの甘さだろう)。
 これまで、を総括するとともに現在の新聞記事の「裏」を読むようにもさせてくれる経済小説の名作として今後もこの小説は時代を超えて読み継がれていくと思う。大作ではあるが、けっして退屈することはない。

きっと元気になってくれる34のアドバイス

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2005 出版社;実業之日本社
 これまでのいろいろな「和田哲学」を34にまとめた一冊という位置づけだろうか。4月に特有の注意事項などを34にまとめて文章化。ただわりとこれまでの本と重複する論理が多いのが、やや…。

イチロー勝利の方程式

著者名;永谷脩 発行年(西暦);2001 出版社;三笠書房
 冷徹なまでに自分の目標と現在の距離感をはかり、目的に向かって試行錯誤しながら努力を積み重ねる。理論的に正しいことだが、理論でそうであっても実際にそこまで「正しい努力」を積み重ねるのは並大抵のことではない。「恵まれていない体だからこそ鍛えがいがあると思うんです」「自分でやる練習は、ただやればいいというのではダメなのです」「無理をして体に負担をかけるよりも、状況に応じて目的を決めてやる。それが継続してできればそれでいいと思っています」といったメタ認知と目標設定能力の高さ、そして継続とテーマ性をもつ練習。まさしく「技」をいかに高みに持っていくのかというお手本のような本だが、実際にそれで結果がでているわけで、だれもそのイチローの美学に対して異論を挟む余地はないだろう。おそらくマイペースであり、しかも時には偏屈な様子すら第三者には伺えるが、それでもなお、イチロー語録の内容にうなづけるのは、天分としての才能以外にメンタルなトレーニングや厳密かつ継続した練習という実績があってのこと。こうした野球理論を自分の今の状況に置き換えてみると、いろいろ「まねる部分」「まねたくない部分」といったものが浮かび上がってくる。スポーツや野球の面白さは確かに自分自身で実際に運動してみることかもしれないが、さらにその内容をいろいろな場面、たとえば仕事や勉強といった分野に応用可能な点ではないかと思う。

営業のビタミン

著者名;和田裕美 発行年(西暦);2005 出版社;三笠書房
 別に自分は営業ではないのだが、それでもこの著者の本は本屋さんによく置いてある。この本を読んでみて理由が分かる気もした。とにかくバイタリティと仕事に対する「繊細さ」の組み合わせがうまい。英語もおそらく相当にできるはずと推測されるが、それよりもなによりもまず高度な理論を自分の日常に置き換えて説明してくれているので、自社商品の「強み」「弱み」といったことを勉強するのはむしろ当然のような気持ちもしてくる。「知識」「情緒」「意識」といった用語で仕事の段階や区分けをしていく手法は非常に見事。隠れた需要をいかに掘り起こしていくのかはおそらくもっときめ細かいスキルがあるはずだが、まず大まかな理論と例示でたくみにやる気と工夫を引き出す内容だ。外資系の営業部長をつとめた後、独立開業という実績も説得力の裏づけか。

新・世界の七不思議

著者名;鯨 統一郎 発行年(西暦);2005 出版社;東京創元社
 名作ミステリー「邪馬台国はどこですか?」の続編世界の七不思議の解明ミステリー。舞台はバー。オシャレなカクテルの紹介とアトランティス、ストーンヘンジ、ピラミッド、ノアの箱舟、秦の始皇帝、ナスカの地上絵、モアイ像の7つの題材をオシャレに料理。個人的には除福伝説をたくみに描いた秦の始皇帝の章が面白かった。13歳にして墓作りに着手しつつも不老不死伝説にまとわれた新の始皇帝と漢の時代に執筆された「史記」をまつわる考察など世界史が好きな人なら素直に這いこめるミステリー。特にモアイ像の謎ではポリネシア民族の伝播と日本の「谷」と「山」の文化論など、仕掛けが一杯。「ヒーロー」でも描写されていた秦の始皇帝が戦国時代を終了させた功労者という描き方はわりと世間にあるがそれをさらに拡大してミステリーにしてしまう…。
 「秦」の国がとてつもなく魅力的なのは、その国の影響が少なからず日本にも及んでいるからかもしれない。除福の東方伝説の行き先が実は日本だったからかもしれないという説はある程度の根拠はあるし、度量衡の統一や万里の長城などの偉業が日本の戦国時代やその後にも影響はあっただろう(豊臣秀吉に秦の始皇帝と共通するものが歩きがしてならない)。あーでもない、こーでもないと世界史をめぐるエピソードを展開する7日間のバーでの歴史談義。ミステリーでもあり娯楽小説もでもある1時間半の娯楽の時間…。

マンガに教わる仕事学

著者名;梅崎修 発行年(西暦);2006  出版社;筑摩書店
 長期的な将来像が描きにくくなっている現在、それでも目の前にやってくる「現実」の仕事というイメージ…。具体的なイメージが描きにくい「仕事」をマンガを利用して描き出そうとした新書。けっしてきらきらした実態をかけはなれた理想像ではなく、過去を振り返りながら、またマンガの人間像をときに突き放しながら、「現実」に肉薄していこうとする努力をこの本はみせる。とはいってもやはり「理想」的な部分がどうしても多いような気はするのだが。「自分なりの意味」をどうやって仕事にみつけていくのかは結局一人ひとりの個人の問題ということになりそうだ。
 こうしたマンガを題材に講義をすすめるというのも著者の「余裕」の表れかもしれない。そう、「遊び」とか「余裕」の心も確かに仕事には大事…

大人のための科学的勉強法

著者名;福井一成 発行年(西暦);2002 出版社;日本実業出版社
 波長の話…とか海馬の話などの「まとめ」として使える本かもしれない。リラックスしているときにはα波が出るので効率があがるとはいっても、年がら年中リラックスもしていられないし、どちらかといえば切羽詰るような時間のほうが社会人は多いとは思う。あとは細切れの時間の中でどうやってやりくりしていくか、ということなのだろうと思う。一つにはなるべく前向きな未来をイメージするとともに、客観的な情勢をなるべくいい方向で考えていくことが重要なのだろうと思う。いずれにせよ、こういう本を読んで自分の勉強ペースをチェックしていくことはそう無駄ではない。

2007年10月29日月曜日

食い逃げされてもバイトは雇うな~禁じられた数字(上)~

著者名;山田 真哉 発行年度;2007年 出版社;光文社新書
 株式投資などの項目は面白いが「数」そのものの話になるとやや退屈。数の論理とかエピソードなどはやはり数学の歴史などからのアプローチのほうがやはり面白い。アニメ関連のバブル、財務諸表の数字をチェックするといった会計学もしくは監査実務の話になると面白くはなる。特にトランプのジョーカーとチェック項目をたとえるあたりが有用。決算書を過去5年間分excelに入力して数字の変化を追うとか、変化をグラフで見えるようにしておくといったスキルが面白い。利益が黒字ギリギリの場合には粉飾決算を疑ったほうがいいなど、「数」よりも「数の活用」に話をしぼったほうが新書サイズとしてはもっと売れる本になりそう気がする。勘定は感情ではなく勘定でおこない、数の順位性・単位・価値の表現・変化しないといった特質を理解して会計学の活用にいかしていくのには、読んでおいても悪くはないが、ちょっとパワーが落ちているのかなあ…。巻末の索引(1ページ)とミニミニ会計セミナー(6ページ)の有利子負債比率、PER(時価総額÷当期純利益)、PBR(時価総額÷純資産)の活用方法が役に立つ。

2007年10月28日日曜日

女子大生会計士の事件簿

著者名 ;山田真哉 発行年(西暦);2002 出版社;英治出版
 女子大生会計士と29歳の青年会計士のコンビが繰り広げる監査事件簿。自己株式の取得や商法の規定などはもうだいぶ変化しているのだが、それでも粉飾決算の「手口」は2002年当時と現在とで大きく変化しているところはなさそうだ。「ストラクチャード・ファイナンス」とよばれる手法を用いた監査ファイル5は、特別目的会社を通じて銀行から融資を受けるとともに、本体の決算では借入金が実際よりもかなり少なく計上するという手法だった。この特別目的会社を投資事業組合とすると、現在証券取引法違反容疑で取り調べ・刑事告発を受けているL社とほぼ同様の手口となる。上場廃止になったL社では商品の品質の良さで知られる会計ソフトなどを軸にして経営を立て直すようだが、正直厳しい。しばらくは、短期売買の繰り返しなどで、多少の株の売買はあるかもしれないが、これからさらに粉飾決算がでてくるようだと、グループ解体どころではすまないかもしれない。株主の損害賠償訴訟なども予想されるので、実際には債務超過と推測してもおかしくはない(偶発債務としての損賠倍賞なので実際には「負債」にはならない。ただそれが現実化していくと事実上の債務超過となる)。
 エンロン事件で用いられたペーパーカンパニーの名前が「ジュダイ」や「チューコ」など「スター・ウォーズ」からとられた名前が多かった…など会計にまつわる種々の知識が豊富に取り込まれている。価格がやや高い(本体価格950円)ではあるが、こういう本から会計の世界に入るのも悪くはないし、公認会計士という実務の世界出身だけあって会計学の話にもリアリティが相当ある。ただし小説という設定なのでしょうがないのかもしれないが、現役女子大生で公認会計士ですでに主査もつとめていて、合同コンパなどもやって…というのはやや…辛い…。ただまあ、そういう設定がまた受けるような土壌がどこかにあるのかもしれないが…。

人生を変える最強の資格230

著者名;朝日新聞社編 発行年(西暦) ;2006 出版社;朝日新聞社
 「天下の」朝日新聞社とは思えないほど充実した資格取得のスキル本になっている。値段がやや高いが、司法試験や公認会計士の試験制度の変更などの最新説明と、これからの資格取得とキャリアアップの因果関係など辛口ながらも実用的な資格紹介をしてくれている。おそらくウェブの発達でだいたいの情報は受験生はウェブから独自に取り入れるようになったわけで、こうした資格取得の本の方向性もまとめて230個の資格をただ紹介するだけでなく、資格取得とはなんぞや?といった根源的な問いも含めて内容構成をしなければならない時代になったということだろう。悪いことではない。
 ただ、資格をとればばら色といった話がこの世にはないことをもっとはっきりしておかないと「勘違い受験生」が勘違いして専門学校などに数十万円の受講料を払い込み、たった数回かよって受験を断念…といった悲劇がまたどこかで起こらないとも限らない。この本のさらなるバージョンアップとともに、受験断念組の切実な現実などもどこかでレポートしてほしいものだ。実際、司法試験って大変みたいだし。合格前も合格後も…。
 で、この本の「値段表」を利用して現在自分が取得している資格取得に必要な「授業料」をトータルしてみることにした。価格帯に幅がある場合には一番上限の合計として計算する。
行政書士約20万円
宅地建物取引主任者約20万円
マンション管理士約10万円
管理業務主任者約10万円
初級システムアドミニストレータ約1万円
DCプランナー約2万円
パソコン財務会計主任者2級約10万円
 もしこれらの「標準価格帯」で上記の資格を取得したとすると約73万円が必要になるという計算になるわけだが…。(ちなみにこの本では建設業経理事務士はキャリアアップに役立つそのほかの資格のところにオフィススキルとして紹介され、価格の表示はなかった…)。個人的な実感としては全部独学だったため、トータルで10万円も支払っていない。一つあたり2万円~3万円程度ではなかろうか。一番お金をかけたのはマンション管理士でLECの講座を2つ申し込んだが、そのときしはらったのが2万4000円。それ以外は専門学校にはお金は払い込んでいなかったりする…。というよりも司法試験や公認会計士試験、司法書士、不動産鑑定士といった最高峰レベルの国家試験以外は独学でもなんとかなることはあるのではなかろうか。というようなことも色々考えるのに情報源として便利な一冊。1800円はむしろ安いかもしれない。とにかく色々な意味で楽しめる内容と構成で、さらには「人生とは?」と考えさせる余地も残っている。

朝刊10分の音読で脳力が育つ

著者名 ;川島隆太 発行年(西暦);2002 出版社;PHP研究所
 左脳の前頭前野が創造性を発揮する分野に主に用いられていることは述べられているが左・右と脳を分割して考えることには、確かに根拠はなさそうだ。「音読」だけで「脳」のすべての知的作業領域がアップするということではなく、あくまでもフルに活性化されることが科学的に立証されたということなのだろう。タイトルを逆に読むと、10分だけで十分ということでもあると思う。ただ「音読」や「手書き」を繰り返すことで漢字や英単語などの記憶効率がアップするのは経験的にも正しく、わかりにくい法律の条文などを音読していくことは多少かっこが悪くても能率向上、知的処理作業能力上昇といったことに役立つだろうと思われる。会話などのコミュニケーションも活性化には有用とのことなので、おそらくはディスカッションなどで創造性が発揮されるのもそうした背景があるのだろうと思われる。

ホイホイ勉強術

著者名 ;多湖輝 発行年(西暦);1992  出版社;ごま書房
 おそらく勉強法の草分け的存在になるのではなかろうか。1974年発行1992年第84刷というのが今読んでいる本だが、休みのとり方や書籍の活用方法など細かいスキルが全部で7つの章にわけて紹介されている。「勉強をするということはすこし難しく言えばある情報をインプットし、自分のものにしてからアウトプットするという人間がものを学習するときの典型パターンを意識的に操作すること」であり、そのためには他人が見に付けている技術や知識を盗み取ることがもっともてっとり早い方法とする。書籍を2冊購入して内容を切り取って配列しなおしたり赤線を引くなど書籍をいかにして「汚す」のかというノウハウなども公開されており、このデジタル社会になっても内容的には応用がきくものばかり。基本的にペーパーテストであれば、自分自身でアナログな出力を試験会場でしなければならないわけで、アナログな勉強方法はおそらく今後も内容的に古びることはないだろうし、いかにデジタルコンテンツが発達しても書籍を購入してそれを整理していくというプロセスで学習するかぎり、資格書籍などのニーズがなくなることはないだろう。
 問題集を学習計画にそって編集しなおすなど本当に何度読み返してもノウハウの宝庫といえる一冊だろう。

インターネット術語集Ⅱ

著者名;矢野直明 発行年(西暦);2002 出版社;岩波書店
 前作につづくサイバーリテラシーにまつわる用語集。個人情報保護法施行前の内容だがそれでも今後のサイバー空間についての意見が非常に興味深い。メールマガジンなどによる情報発信も常時接続環境のもとではかなり普通に行われる一方で郵送のダイレクトメールはかなり激減したように思う。一つは個人情報保護法の影響が大きいが、もう一つにはメーリングリストなどでダイレクトメールを発信するほうがコストがかなり安くなる一方であらかじめメーリングリストを申し込むぐらいなのだから当然潜在需要者なわけで広告効果も高いと想定される。新聞の社説や記事内容も10年前の官庁のプレス発表の記事をリライトするだけではおそらく成立しない。掲示板などのアマチュア経済理論よりも鋭い記事内容でなければ、クオリティの差異がそのままさらされるわけだから文筆関係のプロには厳しい時代になったといえるだろう。
 文字の文化から声の文化への先祖がえりと著者は指摘しつつ、自立した個人社会が到来するとともに、軸足をきちんと現実世界におきつつサイバー空間に対処する方法をいくつか提示もしてくれる。便利な時代だからこそのパノプティコン社会などいろいろなキーワード満載の2002年発行の情報処理用語新書。わかりやすくて面白い。

快適睡眠のすすめ

著者名;堀忠雄 発行年(西暦);2000 出版社;岩波書店
 格調高く睡眠の定義が冒頭でなされている。「睡眠とは人間や動物の内部的な必要から発生する意識水準の一時的な低下現象」とされるが、これを統計学的に分析したのがこの本。枕の高さをどうするか、といったようなことはあまりかかれて居ないのだが、眠気が催す交通事故の統計学的証拠や眠気のリズムなどについて章がさかれている。
 個人的には第6章の「昼寝」の効用について説かれている部分が興味深かった。人間の本能というか身体にはもともと昼寝をするようにインプットされる部分があることが暗に示されている。だいたい午後2時から午後4時にかけてはその前日に16時間睡眠をとっていても眠気を覚える時間帯らしい。昼寝の長さは科学的には20分が適当とのことだが、これを地球の緯度でみると南北45度の範囲内の国では昼寝が習慣として定着し、それよりも緯度が高くなると昼寝がタブー視される傾向があるという。英国ではちょうどお茶の時間がこの午後2時ごろに相当するが著者はそれを文化の多元性ということで解釈している。確かに同じ眠気を感じるのであってもそのまま昼寝するのかお茶の時間にするのかはまた文化とか国民性による部分も多いのだろう。昼寝によって「うっかりミス」が防止できる効果なども指摘されており非常に興味深い新書である。人生の3分の1は睡眠時間なのでもし科学的に効率的あるいは快適に睡眠時間をすごすノウハウがあるのであればそれをどんどん取り込んでいくのは悪くないことだと思う。

なぜこの人は成功するのか

著者名;邑井操 発行年(西暦);1996 出版社;PHP研究所
 どうしてもこの手の書籍の内容は歴史的エピソードが多くなる。同じ歴史的事実でも人によって見方が異なるので、この本の中で高い評価をされている電力関係の成功者のM氏や船舶関係の成功者であるY氏については、他の人からみればおそらく違う評価もでてくるだろう。かなり日本の農村主義的なビジネス形態が根底にあるようにも思ったが、「名刺1000枚もっていればくいはぐれない」という発想はほとんど農業主義的思考で、これがハンターの仲間内の話であれば知り合いのハンターが増えればふえるほど獲物の競争率は高くなるので、そうした発想はでてこない。「君は君、我は我なり、されど仲良き」(武者小路実篤)といった言葉も引用されており、白樺派や儒教などの教えなどが混在した妙なビジネス書籍で、社会科学というよりもむしろ「宗教」に近い内容といえるかもしれない。「相対生」(あいたいいき)というお互いの人生を尊重する姿勢についてはなるほどと思ったが、これもドライな若者でさえむしろあたりまえのことだと思っている人は多かろう。他人を傷つけずにお互いのライフスタイルを尊重する…小さなことだがまずそこから社会生活は始まるし、安易な勝負論ですべてを整理してしまうのではなく、儒教的な見方や日本社会特有の見方なども身に着けておく必要性があると感じたときには、こういう本も役に立つ可能性はあるのかもしれない。

MBA人材・組織マネジメント

著者名 ;梅津佑良  発行年(西暦);2003 出版社;生産性出版
 バブル経済の後に長く続く平成大不況。そして昨今再び企業の投資意欲も回復してきつつある。ただし経済環境がどう変化しようと企業のヒューマン・リソース・マネジメントに対する努力には変わりがない。そしてヒューマン・リソース・マネジメントの当事者は働いている従業員となる。かつてはこうしたヒューマン・リソースの教育や目標設定などは労働組合がになう面もあったが現実的には人事部などによる研修プログラムなどに園役割はそうとう移管していると考えられる。これまでの日本企業を支えてきた労働者には、高いモチベーションと生産性、サービス品質にたいするあくなく追求力、技術力、チームワーク力そして高いコミットメント(貢献意欲)だった。だがそうしたヒューマンリソースプログラムが存在しない企業も実際には多数あって、私自身が働く職場にもそうしたプログラムの導入はない。その一方でモチベーションをいかに高めて低下傾向にあるモラルをいかに高めていくかは引き続き企業のかかえる課題となる。
 だが逆に言えば企業側がそうした研修プログラムを設定しない(あるいはできない)ケースも多々あると予想されるため、そうした場合には従業員の側で研修プログラムを策定して自分で立案したプログラムに対しての達成度などを反省してさらに仕事にフィードバックしていくという努力が必要になる。トランスフォーメーションとよばれるような大変革がはたしていいのかどうかは不明だが、個人が個人で自分のプログラムを策定して、立案評価するという仕事の仕方はけっして個人のライフスタイルをそこなうことなく充実した仕事人生につながるのではないだろうか。ジョンソン&ジョンソンでは医薬品を中心としたミッション(credo)を基礎にして企業戦略を策定する。そのなかの人材開発の目標は①やりとげる意思②職場風土の醸成③最高の業績を引き出すための能力の開発ということになる。そしてジョンソン&ジョンソンの社員は「目標による管理」プログラムをうまく使っているとされている。
①上司と部下のコミュニケーション評価
②部下育成責任
③公正で明瞭な評価
などなどである。こうした企業で働く人間の能力が高まってくるとこれは企業の一つの資源となり、ヒューマン・リソースということになる。あるいはもっと能力が高まればヒューマン・キャピタルということになる。
①人材の職上の成長を支援
②公平、公明な処遇の提供
③権限委譲をして生産性を高める
④人材の個性を尊重
これが企業側と労働者側との話し合いで設定されるのはもちろん望ましいが、それよりもまず自分個人でキャリア開発などで底力をつけていく方法もある。むしろ大半の人間にとっては外資系企業が展開しているこうしたヒューマン・リソースについてのプログラムを自分なりに咀嚼して取り入れて、そのプログラムにそった継続的な努力を続けるのが望ましいのではなかろうか。目標設定→目標遂行→業績評価→フィードバックと活用といったサイクルを重視しつつ自分自身が働いている職場のリソースとなるような目標を見つけていくことが重要だろう。営業であれば自社製品のこの部分については誰にも負けない商品知識をもっているというようなキャリアは企業にとっても非常にプラスになることは大きい。また社外の人間関係についても情報入手といった観点から大いに進めていくべき課題だと思う。組織マネジメントも最終的には人間と人間の集合体の中でいかに効率性を重視しモチベーションを高めていくのか、という点に尽きる、企業側にこうしたプログラムをまかせきりにしないで、自分自身でいろいろ取り組むという姿勢が重要だろう。

ひたむきに生きる

著者名 ;澤地久枝 発行年(西暦);1986 出版社;講談社
「不慮の事故など経験しないほうがいいに決まっている。しかし人生とは一歩先に闇の待つ生活でもあり、挫折をいかに生きるかが、その人の人間的価値を決める。身体障害者は社会的には弱者であろう。弱者となってなお不屈であろうとする人にわたしは心をひかれる」という人間の弱さや痛みといったものに深い理解を示しつつ、さらにそれを乗り越えようとする精神的強さに魅力を感じる筆者は人生についても「ひたむきさ」を重視する。すべての困難とひたむきに取り組んできた彼女は「ここまで生きてくるとすべての点で私は幸運な人間だったことになる。マイナスと思われたものはいつの間にかプラスの要因に変わっていた」とまでかけるような境地にはいるわけだ。これもまたマイナス部分をひたむきにプラスに転じようと努力してきた筆者の努力の現われなのだろう。いろいろな小説の話や「人間の条件」の作成助手として注記を担当する話など非常に興味深い点は多いのだが、私なりに要約していくと「なにかしらの目的意識をもって取り組むこと」がすべて最終的な結果に結びついた一つの例ということになるのだと思う。目的意識もなしにただ忙しいだけでは時間に流されているのと変わりはなく、ひたむきに生きる、ということはいろいろ考えながら生きる、という意味と同じなのだろう。

ヒトはなぜ夢を見るのか

著者名;千葉康則  発行年(西暦);1989 出版社;PHP研究所
 脳は使えば使うほどよくなる(用不用の原則)や脳のキャパシティはほとんど無限といったようなことが紹介されている。やや古い本であるがため、現在の脳科学関係の本と比較するとちょっと「まわりくどい」説明が多いのが気にはなるが、この当時から反復演習の重要性や目的意識の設定などが提唱されていたのかとおもうと、今巷でいわれている目的意識の設定についても非科学的な思い込みではなく、科学的な根拠にもとづくものであることがよくわかる。タイトルは「夢」だが実際の内容は脳の働き全般に及ぶ。脳の働きがあまりにも広範なため、働きを限定したり一見ばらばらな知識を統合するのにはやはり目的意識の設定が重要に生るということだろう。面白い本だとは思うが「第6感」などちょっと眉唾的なテーマについても言及されているのが個人的には白ける部分か。

ヒューマンリソース

著者名;グローバルタスクフォース 発行年(西暦);2002 出版社;総合法令
 ヒューマンリソースとはもともとMBAの学位の一つとして海外の大学院で履修できた科目。そのエッセンスは今日邦訳で書店で簡単に入手できるようになった。人的資源の管理と組織行動をいかに充実させていくか、といった理論だが、その中には人材の適正と採用、キャリア開発プランといった非常に難しい問題も存在する。生身の人間が対象となるだけに必ずしもこうしたヒューマンリソース理論がすべての企業に等しくあてはまるわけではないだろうが、組織の活力をそこなわずにいかに戦略的な人事配置(内部フロー)を行うべきかといった一つのモデルを示しているといえる。
 ともすれば人事管理は派閥の原理や経営者の恣意的な人事配置に左右されがちな面があったが今日の経営学ではそうした恣意性をなるべく排除して、つとめて人間一人ひとりの活力を組織全体の活力に結び付けていこうとしているように思える。感情論に左右されない人的資源管理へと時代は動いてきたのだが、こうした理論が日本でも取り入れられるようになった背景には、昔と違って、転職市場が発達し、有能な人材のやる気をそいだ場合には位置も簡単に別の組織へ移動してしまう時代になったということも影響しているのかもしれない。

メルロ=ポンティ入門

著者名 ;船木亨  発行年(西暦);2000 出版社;筑摩書店
「ポストモダン」とか「実存主義」とかいうのは疲れる。たまにこうした世界にたちかえることもある。でもしんどいので「長居」ができない。サルトルの実存主義についてきわめて簡略にまとめられており、人間は基本的に自由であり、自由であるからこそ自らの行為に対して責任をもつ。だったらもう自分から行為を進んで引き受けるべきだ、それこそが実存主義的だ…というやや「疲れる」内容となる。サルトルに影響を受けた人は結構多いが、マルクス主義者以上に時には疲れ果てている印象を受けることがある。サルトルの実存主義が「義務的」な面が強く打ち出されているからかもしれない。またマルクス主義については、ある段階でふっきれてしまうと後に尾を引きにくい要素が多いと思う。元マルクス主義者がその後高級官僚となり自由構造改革路線や新保守主義者に転じやすいのは、ある種の「明晰さ」がマルクス主義者にあるからかもしれない。その点サルトルっていうのは、すべてが自由選択という立場から派生してくるので転向するのも自己責任だし、就職するのもしないのも自由意志の結果というように考えていくと「結果」も含めてすべて自己責任。これって非常に疲れる。でも疲れることこそが実存主義なのかもしれない。
 メルロ・ポンティはそうした実存主義とは一線を画すようだ。経済学や生物学などからはみだした一種の「雰囲気」「言語」「感覚」そうしたものの総体を実存とする。このほうが実は人間にとっては非常に楽だししかも伸びやかな思想が生まれるのではないかと思う。社会科学の論理や近代経済学の論理を包含してさらになおかつ、その枠からはみ出たりあるいは背後に隠されたりするイメージの総体が実存とすると、他の客観的な諸科学との共存も図りやすい。「意味空間」という用語が用いられているが、言葉とか行動とか出来事などによって大概は説明されつくされるものの、それでも説明しきれない一種の「質感」。それが実存なのであり、となると既存の価値観を測定する指標、たとえばGDPとか株価指数とか年収とかといったインデックスもあながち無意味ではないにせよ、さらにそれを超えた幸福感みたいな「意味空間」、それが実存ということなのだろう。
 となるとサルトルのような孤高の哲学者というよりも、むしろ日常感覚に程近い哲学者がメルロ・ポンティということになりそうだ。ほかの理論を否定することにはならない。経済白書や有価証券報告書を参考にしつつ投資に関する意思決定をなす場合、たしかに数値や理論は一種の一般原則となりうるがその場合の意思決定の内容は人間の自分自身をかける決断ということになる。そこにもし「意味空間」を創出できるとするならばそれこそが実存的な生き方ということになるわけだ。これって無意識のうちに誰しもが実践していることだと思う。結婚するという意思決定はやはり自己特有の意味空間を作り出していることになるわけだし、知覚や感覚もそのときに創出されるわけだ。こうした伸びやかな哲学思想であるならば十分受入可能だし、しかも日常生活を、終わりなき日常生活をいきぬくことができる。
 哲学者がどうこういおうと、人間は毎日働いてお金を稼がなければ生らない現実があるし、周囲の人間に対しても日常的な配慮が必要になる。サルトルの「嘔吐」を読んでもそうした日常生活がただ単に味気なく思えてくるだけだが、メルロ・ポンティの実存主義であればむしろ毎日が新しい意味空間の創出と思えてくる。歴史に名を残すかどうかといった問題ですら実はさして重要なことでもなく、意味空間あるいはイメージ的な「感覚」がどこかしらに継承されていくのであればそれで十分実存的、というきわめて楽でしかも実践的なライフスタイルにつなげることができる。
 「思想」や「哲学」が日常生活を制約したり、行動を強制するのはおかしい。マルクス主義者の発言が息苦しいのは、理論が生活を制約するからだと思う。実存主義者やマルクス主義者の多くが高度経済成長期にはサラリーマンとしてGDPの増大のみに時間を費やしたのは、哲学と日常生活が切り離されるという不幸があったからかもしれない。どうしたって人生には不幸もあれば死別もある。そうしたときの言葉・しぐさ・感情といったものを包含できる意味空間。案外ウェブの時代には意味空間ってさらに大きな意味を持ち始めるのかもしれない。

会社本位主義は崩れるか

著者名 ;奥村宏 発行年(西暦);1994 出版社;岩波新書
 バブル経済がはじけた後の日本経済の惨状を伝える一種の「古典」に近い書籍になったのかもしれない。企業集団の問題、ケイレツの問題については連結財務諸表作成基準の改正により相当透明化が進んだし、株式所有の法人化についても自己株式の取得が自由化されているほかに有価証券の時価評価制度が導入されているので以前よりも持ち合い株式というものは重要性はなくなった。もちろん持ち合い株式やマトリックス保有制度というものは当然残存はしているだろうが、評価損が膨らんだ場合には経営陣が代表訴訟などにさらされるリスクがあるため、業績の悪い持ち合い株式は当然売却せざるをえないことになる。政治献金の問題もかなり透明化が進んできたと思う。労働から仕事へというハンナ・アレントの言葉がラストに引用されているのだが、もし、これからの日本資本主義が克服すべき問題というのはこの「仕事」思想の浸透ではないかと思う。
 大企業神話というものもかつてほど存在はしていないはずだが(というのは大企業であっても辞めたり転職する人は時代をこえて一定の割合で存在するわけで)、仕事をいかに社会性に結び付けるか、というテーマはこれからますます問われる局面は増えるだろう。情報処理企業のL社が証券取引法違反で現在刑事告訴されているわけだが、こうした事件もバブル期であればもみけしになっていた可能性が高い。4大証券トップの交代や相次ぐ自殺者、都市銀行トップの引責辞任、損失補てんなど歴史に残る経済事件をのりこえて今の時代に到達したのかとおもうと、この10年間はむしろ改革のスピードが速かったといえるのかもしれない。(個人的にはやや息苦しい社会になったような気もするがこれもやむをえない副作用かもしれないし)。
 国際化という言葉が独り歩きをしていたような感じもあったのだが、いい意味での国際化はこれからさらに必要だし、それはただ単に海外で仕事をするとか海外の投資家を国内に招くといった表面的な事例だけではないだろう。測定単位が共通の貨幣尺度になることだけが国際化ということではなく、一種の経済取引の「雰囲気」を共有できる状態が国際化ということになると思う。ケイレツが当時批判されていたのは海外の人間からすると不可解で理解不能な取引であったことにくわえて当時の通産省などもからんだ「三位一体の日本株式会社」といった奇妙な状態が経済鎖国にみえたからだと思う。
 もうこの本の改訂ということは考えにくいが、80年代と90年代の雰囲気と問題点を把握するには格好のテキストではないかと思う。そして戦前・戦後のドラスティックな経済改革と90年代半ばから21世紀にかけての構造改革はそれなりに意味のある改革だったと思える人も多いと思う。

図解雑学身近な心理学

著者名 ;瀬尾直久 発行年(西暦);2002 出版社;ナツメ社
 定評のある「図解雑学」シリーズの心理学バージョン。見開き2ページ1テーマ制度を採用して2色刷り。しかも右側は図解が必ず入っているので非常にみやすい。価格が1300円だが入門書としてこのシリーズがよく読まれているのもわかるような気がする。なにぶん1つのテーマを図式化するという本なので改訂作業とかが大変なのかもしれない。既刊のテーマの中にはちょっともう時代遅れの感が否めないものも混ざってはいるが、それでもなにか建築学であれ歴史であれ、とりあえず全体像をつかもうという場合にはかなりお勧めのシリーズである。さてこの「身近な心理学」では習慣、ストレス、キャリアアンカー、リーダーシップ論、睡眠、夢、言語相対仮説、ベンダー・ゲシュタルト検査など一通りのテーマをすべて網羅。興味のあるところから逆に専門書に進めばよいので心理学専攻とか研究とかでない場合にはちょうど電車の中などで読むには適切な分量。特にキャリア・アンカーなどは保障・安定タイプの人間が中小企業に入るリスクや想像・独創タイプの人間が公務員などになるリスクなどをわかりやすく説明してくれる。世間体がどうこうではなくキャリア・アンカーをしっかり確立していないと確かに就職や転職などでミアスマッチを起こすことは多かったかもしれない。そうした意味でいえば今多数存在するニートってそれほど悪い選択肢とも実は思えない。
 キャリア・アンカーをどうするか、という問題はすでにその上の世代が限りなく大きなミス事例を積み重ねている。何も前の世代がおかした過ちを今の現役世代に押し付ける必要性はないと思う。バブル経済のおりに暴落するワラントをあちこちで押し込み販売していた証券営業マンやら地上げをしていた不動産業者といった例があるが、キャリア・アンカーとしてそのような企業や職業に就職したいとおもう人は少ないだろうし、一生懸命勉強して一流大学→一流企業→左遷→リストラといった事例をみてきた世代にはそれなりに努力の適切な方向性をみきわめる必要性もでてくると思う。過ちを繰り返さない、という姿勢は重要だし、おそらくニート世代のその下の世代はよりソフィストケートされた学習スタイルや就職スタイルを生み出していくと思う。
 世の中ってこうしてみるとやはり進歩している。

この国のかたち(1)

著者名 ;司馬遼太郎 発行年(西暦);1992  出版社;文藝春秋
 司馬遼太郎というとどうしても「オッサン」が読むもの…という偏見があったのだが、実際に手にとって読んでみるとどれも面白いのだからやはりすごい。やや偏向した分析ではサラリーマン向けの歴史などともされているが、実際にこの本を読むかぎり、歴史的著述をなるべく身近なエピソードともからめつつ、今のこの日本がどこから来たのかをゆっくり探ろうというスタンスが感じられる。あまり昭和の時代などを小説にしてこなかった司馬遼太郎だが、この本では「宋」がなぜ尊皇攘夷になったのかを女真族との関係(金)から分析して明治の近代につなげるととともに明治の改革と7世紀の大和王朝の全国統一(?)といった一種の革命を中国からの情報が分析としている。また長江周辺の稲作文化が百済をへて日本にきた流れなどどのエピソードをとっても面白い。佐賀藩では相当に厳しい勉強が強制されていたが大隈重信の在野の精神とはこの佐賀藩の教育方針に反発するものだろうとか、若衆組の解体が明治におこなわれたもののその精神的土壌があちこちに残存している日本といったエッセイが収録されている。1980年代のエッセイだが、なんだかこの続きをさらに読みたくなってくる…。

数学アタマのつくり方

著者名;和田秀樹 発行年(西暦);2002 出版社;日本実業出版社
 どうしても人間の「印象」や「観察」にはバイアスがかかるので、文書と並行してグラフや数値を読み解く力というのも必要になる。それで数学ということになるのだが、個人的にも数学をある程度マスターしておいて得したことはあっても損をしたことはあまりない。マクナマラがアメリカ国防総省でかなりの世界的危機に直面しつつも冷静な判断をくだせたのは管理工学の基礎を政治にもってきたためではなかろうか。
 新書からはいって金融工学などに進む方法を著者は提唱しているが、個人的にはかなり納得がいく。新書だと項目がある程度揃っている上に解説が充実していることが確かに多い。さすがに教科書と教科書ガイドのセットにまでたちのぼるのは勇気がいるが、それでもそうした方法が否定されることは少ないだろう。さらに索引がついた本というのも推薦されているがそれも新書をいろいろな項目から利用できるので確かにそのとおりだと思う。数式や関数は中立的な存在なので、偏見などがかかりにくい分野だ。こうした方面の本がもっとでてもいいように思う。

凡庸さについてお話させていただきます

著者名;蓮實重彦 発行年(西暦);1983  出版社;中央公論新社
 「凡庸さ」という言葉がフランス第二帝政期に生まれた言葉と分析して、凡庸さと才能の有無を対比する現在の文化システムの「凡庸さ」を取り上げるという刺激的なエッセイの集大成。1980年代にあって、そして今の日本でもそうなのだが才能のあるなしと凡庸さとの裏表の構図などまずだれも考えようとしない。それを独特の文体で一冊の本にしてしまうのだから、この人、自分でいうほど凡庸な人ではやはりない。だれもが捨て去るイメージや文章ですら律儀にとりあげてはっとするような視点を与えるということ。凡庸さの中にダイナミズムを見出し、そしてまた新たなダイナミズムを生み出すこうした本への需要は…実はこれからますます減退していくのだろう。
 だれしもが凡庸でありながら凡庸さから逃れようとする状況は確かに不幸なのだが、不幸を幸福へと変換する装置というものは実は「教育」だ、とする。なんだかすごい話の展開なのだが成熟と凡庸という言葉についてここまで戯れる本というのは本当に貴重だ。

ハンニバル・レクターのすべて

著者名;新潮社 発行年(西暦);2001 出版社;新潮社
 映画「ハンニバル」の舞台となったイタリア、フィレンツェの街並みの写真紹介とグルメ紹介。トスカーナ州フィレンツェの簡単な地図をかわきりにヴェッキオ宮殿、サンタ・クローチェ教会、パッツィ家礼拝堂、ヴェッキオ橋、ヴェルヴェデーレ要塞などの紹介をハンニバル・レクターが愛用していたという設定の店の数々。イタリアの街の中でもトリノのような工業都市とは異なる伝統の重さがひしひし伝わってくるかなり写真やイラストを多用した豪華な本である。「羊たちの沈黙」で脱走に成功したハンニバル・レクターはその後フィレンツェでイタリア語をたくみに操る学者として成功している。もちろんその姿はいずれ明かされるわけだが、稀代のインテリであり、殺人美学なるものを実践している「怪物」の潜伏場所としては世界の中で一番適した場所だったのかもしれない。ハンニバルの脚本なども収録されており、ラストの描写についていろいろ意見がかわされた背景もあかされる。フォションが実際にレクター博士のランチを作成するなど、細かいところまでこだわった映画副読本。
 とはいえ個人的には「ハンニバル」や「羊たちの沈黙」よりも「レッド・ドラゴン」というあまりハンニバルが表にでてこない作品が一番好ましいのではあるが。

なぜか「できる人」の7つの疑問力

著者名;和田秀樹  発行年(西暦);2002 出版社;海竜社
 実際には「7つ」以上の疑問力が収録。世の中の流れに対して疑問を抱くことと「試行錯誤」する能力を提唱。実際、疑問力だけが突出していても、それを実行したり確認したりする作業も必要になるので、いろいろな疑問力というのは必要になるだろう。その際に別の書籍で和田氏が提唱されている3分の1程度の損失を見込んでの試行錯誤というのが現実的だと確かに思う。どうしてもこの世の中では背水の陣をしいてというような方策がもてはやされる傾向もあるが、実際にとりかえしのつかないリスクテイクは本当に悲惨なことになる。「起業」ブームではあるけれど、これもまた取り返しのつく範囲内での独立や起業ということでないと、自己破産などした場合に目も当てられない結果となる。会社法の施行で株式会社設立は相当楽になるが、会社は作るよりも維持するほうが数倍大変なような気がする。
 で、最近の世の中の傾向からするとやはり「景気回復」ということになるのだが、ちょっとこの景気回復ブームには個人的にはついていけない部分が多い。株式投資などが相当楽に出来るようになったが、やはり株式は値動きが激しいリスク商品であることには変わりがない。長期投資・分散投資といった原則からするとデイトレーダーよりもやはり一定の個別銘柄を長期保有しておくのが現実的だと思う。日本銀行のゼロ金利政策解除などを受けてこれから利子率も上昇傾向をたどるが、こうした利率上昇がすべての企業にとってプラスの要因になるとも断言しにくい。金融機関の業務純益の上昇にはつながる可能性は高いが、借り入れ主体の企業にとっては債務負担がそれだけ重くなると同時に投資収益率もこれまで以上に慎重に見極める時代に入ったといえる。消費性向は確かに上昇したかもしれないが、投資がすぐこれからも上昇局面に入るとは誰にも断言はできないだろう。で、個別企業の「生産関数」は実のところその企業にしかわからないデータなので、投資家が入手できるのはあくまでも事後的な情報しかないということになる。これはどれだけ情報産業が発達しても変わりがないことかもしれない。逆に事前的に情報を入手して投資するとそれは明らかなインサイダー取引になるわけで…。
 「バブル」ブーム、「デフレ」ブームとこれまで幾多のブームがあったが、これからもいろいろなブームが作り出されていく可能性は大きい。そんな時代に振り回されずに疑問を呈しつつ、リスクがある程度見込める範囲内で試行錯誤をしていくという手探りの状況を楽しむのが一種の「成熟」ということかもしれない。

OUT

著者名;桐野夏生 発行年(西暦);1997 出版社;講談社
 8年前に出版された直後に購入して読破し、気になりながらもこれまで読み返さずにいた。その後映画化もされたがその映画も気乗りがしないまま見ておらず、気が思いながらやはり読み返してしまった1冊ということになる。
 粗筋はもはやその後ベストセラーになったこともあり、また現実にこの小説の内容を地でいくような事件が発生したこともあって、有名すぎるほど有名。「主役」を勤める4人の女性はいずれも「近代家族」の枠組みを外れているし、「敵役」となる「佐竹」も「近代家族」の枠組みから遠く離れた存在だ。「弥生」は祝福された結婚式をあげたものの旦那はバーの女とバカラに入れあげる。「邦子」は消費生活に生きるライフスタイルでクレジットローンで自己破産すれすれの生活。ヨシエは介護と二人の娘と孫の面倒で毎日の生活に追われている。そして「雅子」は、建築不動産会社の営業マンの旦那と高校中退の息子を抱える43歳の主婦という設定だ。この中でも「雅子」がやはり突出しているのは、家族の崩壊を客観的に認知しつつ、さらに個人のジャイロスコープをしっかり維持している点だろう。それだけに自分の意思とは無関係にどんどん粗筋の主役におどりでてくるプロセスが痛々しい。どうにもやりきれない「産業廃棄物」的な仕事でためたお金をもとに人生の再出発を最後ははかるのだが、必ずしも祝福は出来ない上にすでに薄暗いイメージが基調にあるので前途も安泰とはいいがたいという救いのない結末だ。ラストは4人それぞれが「解放」されるのだが、はたしてその「解放」が本当に「解放」だったのかどうかも怪しい。実はそのまま「解放」されたりせずに、現状追認で生きていたほうが幸せだったのかも…と突きつけられるような終わり方が読んでいて苦しいのかもしれない。
 いろいろな読み方があるとは思うが、数百円規模の「話」から数千万円の規模までお金の話がずっと生々しく描かれ、結構大事件を引き起こしている割に「3,000円」のお釣りの話などがでてくる瞬間にリアリティのある現実感に読者は引き戻される。どこにあってもおかしくはない家族の風景にお金の話で、今自分が暮らしている日常生活というのも結構基盤が脆いということを再実感するからかもしれない。読んでいるうちに一種の「崩落感覚」を味わうのはなんだか「悪夢」をみているようなやりきれなさを覚えたりもする。
 なんの教訓めいた話も救いもなさそうにみえるこの本がそれでもベストセラーになったのは、もう一つの人生をこの中に誰もが見出すからかもしれない。これがアメリカが舞台だったならこうはならないだろうし、1990年代のバブル崩壊の暗い世相とバブルの遺産に苦しむ日本の姿もだぶる。

2007年10月27日土曜日

社会学講義Ⅱ

著者名;橋爪大三郎 発行年(西暦);1997  出版社;夏目書房
 社会学講義の「Ⅰ」というのもあるのだが、この「Ⅱ」のほうがページ数が厚く、最初はとっつきにくい印象を受ける。が、実際には内容的になるべく現実の日常生活に近い内容を紹介しようということで「Ⅱ」のほうが理解しやすい。タイトルは社会学となっているが内容的には「社会についての学問」という趣旨で、特に社会学にこだわるものではなく歴史学、経済学、政治学といった社会科学総体の観点で「現在」の問題を取り扱うという流れになっている。社会科学入門の書籍ラインナップもあり、これまで社会科学に疎遠だった人にも敷居を軽くするような配慮が見受けられる。特に歴史的に日本社会を考察したくだりは、非常にわかりやすく、時代がどういう方向に向かっているのか自分自身でもある程度の方針が決めれるようになるのが、この本を読んでの大きな収穫といえるかもしれない。どうしてもポストモダンだ、消費生活の記号論だ…といった抽象的な議論にとてつもなく入り込んでいく学問といった印象をうけていたのだが「モダニズムも非常に大きな存在」と現実をふまえた趣旨で社会全体をとらえようとしているので、特段にポストモダンについて理解がなくても内容に入り込みやすいというのがメリット。言語学でチュオムスキーを読むというのはしんどいが、文化人類学の「野生の思考」や「タテ社会の人間関係」などはわりと読みやすいブックガイドだし、哲学についてもミッシェル・フーコーに的をしぼったブックガイドに好感がもてる。「監獄の歴史」などは教育学などでも最近よく引用されているのでわからないなりに手許においておいても損はない名著だと確かに思う。
 国際関係や大学制度などを題材にした入門書なのだが、いろいろな状況の中でそれでも最善の選択をすることが危機管理の定義である、など近代経済学の理論などをところどころに用いながらきわめて明瞭に説明をしてくれるあたりが本当にありがたい。もちろん専門家になるのであれば、こうした「既知」の説明ではなく、新たな地平線をみつける必要性があるので相当に大変な作業になるが、社会科学を現実の日常生活に活用しようという視点は大学や研究が日常から「遊離」しないためにも必要なことではないかと思われる。

ユダヤと華僑に学ぶお金持ちになる習慣術

著者名;和田秀樹 発行年(西暦);2004 出版社;ビジネス社
 故国を持たない歴史が多かったユダヤ民族の教育方針に、強い実践力を見出すビジネス本。故国がないということは、それなりに覚悟を有することなのかもしれない。市場競争という原理の中では強みを発揮するわけだが…。ただ読んでいてタイトルが非常に辛くなってくる感は否めない。特段にお金持ちにこだわるライフスタイルが主流の現在ではないし、結果論として「お金」に結びついた例もあればそうでないケースもあるだろう。物理学など専攻している人はおそらく物理そのものに興味があるのであって、それを一種の経済的価値に置き換えようとしていたとは思えない場合も多い。一種の「比喩」としてとらえると、いろいろな現実との適合性を図りつつ、ノウハウや理論を蓄積して加工していくことが重要、ということになるのだろうか。

プロが教える中小企業の新「会社法」対策

著者名;鳥飼重和・内田久美子 発行年(西暦);2006 出版社;TKC出版
 合計で135問の疑問に解答をつける形式になっているが、これまで読んだ本の中でも出色の出来の解説書だと思う。対称を中小企業に絞っているからかもしれないが、合併の対価の柔軟性など実務に即した解説がなされており、きわめて理解しやすい。非公開会社ではおそらく新たな株主を迎えることに不安があるはずだが、対価を株式以外にすると組織再編がきわめてやりやすくなるのはこの本のとおり。さらに存続会社の株主総会の決議要件について、消滅会社の株主への財産額が存続会社などの純資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会の承認が不要という規定もある。旧商法では20分の1だったから企業の再編は本当にやりやすくなったといえるだろう。合併や買収などによって逆に企業生命が延命する会社もでてくると考えられるのでこれまで大企業中心の合併などが一挙に非公開会社や中小企業にも道がひらかれたと考えられるだろう。こういう実務中心の解説から逆に大企業のあり方なども垣間見えて、非常に興味深い内容。会計参与についてもいろいろな指摘がなされておりお勧めの一冊ということになるだろう。価格が2200円というのは確かに厳しいのだが…

世界地図から歴史を読む方法②

著者名;武光 誠 発行年(西暦);2002  出版社;河出書房新社
 世界史と地理というのは受験勉強としてとらえると非常に「無味乾燥」な科目だが社会人となってこうして一般書籍で娯楽として読む分には非常に面白い。なぜ面白いのかといえばおそらく現代社会に起こるさまざまな事象が実は過去の歴史に相当に因縁があることがわかるからかもしれない。第1巻も読んだのだが第2巻のこの本の方が面白い。人類の始まりとか民族大移動、アレクサンダー遠征、ローマ帝国のシーザー、中国統一、パルチア帝国といった近代以前の歴史からアメリカ独立戦争、フランス革命、ウィーン体制、イギリスのインド支配そして21世紀のイスラム問題などまで新書1冊でよくここまで扱えるというほどテーマは大きくしかも幅広く地図をまじえて紹介してくれている。歴史の深みを味わうにはまず粗筋をおさえておくことも楽しみの一つ。世界史の本だけだと地図がかけていて地理関係が頭に入りにくいがこの本では地図がちゃんとまめに入っているので読みやすいというのもメリット。トルデシリャス条約などでスペインとポルトガルの境界線がちょうど日本を縦断していたりするなど、頭の中で想像するだけでは足らない部分も補ってくれる。第1巻では「ちょっと…」という感じも正直あったが、第2巻は新書にしては思わぬ拾い物をしたという感じ。お値段のわりには、お買い得な一冊だと思う。

巨人軍論

著者名 ;野村克也  発行年(西暦);2006  出版社;角川書店
 累計15万冊を超えたとかともいわれる巨人軍論だが、内容的には現代の組織論とかリーダーシップ論に近い。いわば経営管理やサラリーマン術などにも容易に移植可能なスキルや考え方が紹介されており、さして野球が好きでない人間にもわかりやすく組織の形態論が紹介されているのが売れた理由ではなかろうか。原理・原則を大事にしつつ、一種の人格修養をも組織の発展には必要とするあたりですでに他の監督経験者とは異なる重厚さがある。有形の力よりも無形の力を信じる野村克也氏の持論は4番バッターを取り揃えることではなく組織にとって重要なのは「機能性」だと喝破し、組織の機能性に必要なものは何か、といった視点からチーム作りを始める。観察、分析、判断、決断といった力が重視されるのだがもちろんデータという第三者に説明可能なスキルの活用も主張されている。また「中心なき組織は機能しない」という原理から4番打者やエースの重要性もとかれる。会社でいえばエース社員といわれる存在だろうか。数字だけでは説明できない一種の人間性を兼ね備えた存在のことである。「ツボ」「コツ」「注意点」という3つの視点で野球を解読する手法も実は仕事に非常に通じるものがある。仕事にはやはり「ツボ」と「コツ」そして「注意点」などいくつかのチェックポイントがあり、それをないがしろにして仕事が先に進むことはないように思う。日々の積み重ねと相手の弱点をつくという野球のセオリーは企業の間の戦略競争などを思わせるふしもあり、何度読んでもこの「野村節」には個人的にはうならされることが多い。

テキスト新企業会計

著者名 ;早川豊・米山裕司・吉田勝弘・久保淳司・宮川昭義 発行年(西暦);2005 出版社; 同文館出版
 2005年の会計学のトピックスを特集した本。北海道大学の先生方による新会計基準の入門書といったところだろうか。通説に準じた平易な説明はなかなかいいとは思うが発行当時すでに会社法は発表になっていたので、もう少し内容的にアップデートされていないと学生にもサラリーマンにも近現代の会計学の歴史を学習するような意味では役に立つがそうでない場合にはちょっと内容的に古くなっている面もあるように思う。とはいえ減損会計や企業結合会計についても実務指針発表前の段階の通説が紹介されていると同時に、1株あたり当期純利益や1株当たり純資産の情報開示については、企業の清算価値と企業の継続企業価値という2つの目的にてらして、企業の収益力を判断するのには1株当たり当期純利益が重要であることや、1株当たり当期純利益の遡及修正や希薄化などについての計算手順なども説明されており非常に有用だ。97年ごろには企業の収益力低下を反映して清算価値の方が継続企業価値よりも重視されていた背景なども紹介されている。1株あたり当期純利益の会計基準も公表されており、その理解にも有用な書籍といえるだろう。いわゆる「マメ知識」を蓄積するには特にいい本だといえるかもしれない。ただし総合的な会計学や新会計基準の理解にはさらに別の書籍を参照していく必要性があると思う。

野望の航跡東大経済卒の18年

著者名;鎌田慧 発行年(西暦);1989 出版社;講談社
1971年に東京大学経済学部を卒業した卒業生の約18年後を描写する。銀行、情報通信、鉄鉱、船舶、アルミ、商社、不動産、官僚、証券会社、脱サラと卒業生の生き様はさまざまなルートをたどる。ただ一貫しているのはなにかしらの目標意識と課題設定能力であり、必ずしも個人それぞれの思い込みがその後の日本の経済社会のためになったものばかりではないことは別としても一種のミッションをおびて仕事をしているのが印象的である。税金でかなりの部分の学費をまかなっていたわけだが、その税金の重さを卒業してから把握した、というようなこともいえるのかもしれない。当時通産省の行政指導についても行政側の論理がかいまみえて非常に興味深いものがあった。結果として通産省が重点産業とした産業はいずれも斜陽化となり、むしろ通産省が当初はあまりあてにしていなかった分野が現在では日本の経済を牽引しているのはこれもまた不可思議ではあるが、こうした予定調和を度外視した経済発展は市場経済の原理の賜物かもしれない。

高校生の勉強法

著者名;池谷裕二 発行年(西暦);2002 出版社;株式会社ナガセ
 東進ゼミナールの高校生をターゲットにした勉強法の本だが内容的には社会人にも通用するレベルの高さ。記憶の正体をみる、脳のうまいだまし方、海馬のLTPなど最新脳科学の理論を応用した勉強方法を一般論として展開。海馬を通過して必要な情報をみにつけるノウハウがいかんなく著述され、この種の勉強関係の本では出色の出来ではなかろうか。扁桃体と海馬の関係など合理的で淡白な説明はまさしく入門者用といえるが反復演習の必要性やエピソード記憶の重要性など種々の勉強法の総まとめとしても利用可能。タイトルを高校生に限定しなければもっと話題になったかもしれない名著だと思われる。

脳の中の人生

著者名;茂木健一郎 発行年(西暦);2005 出版社;中央公論新社
 最近「脳」ブームということでこうした企画本がたくさん出版されるのは非常に嬉しい。ただあんまり脳科学に偏りすぎているとどうしても「せちがらく」なる印象もあるので、「人間はおもいつきでものをいう」とか「当たり前の判断が人生をつくる」「世界の中の自分を楽しんでいますか」といったタイトルで脳について語ってくれるとなんだかほっとする部分もある。自然保護とか「常識」とかいったものまでも柔軟に扱ってくれるので、百マス計算や音読教育の重要性は認識しつつも、こうした多角的なものの見方も同時並行で残しておきたい。
 脳は刺激を求める…といった一種の開き直りを「何が起きるか人生わからない」のでだとしたらいっそ新しい出会いを志向したほうがよい…といった積極的な態度に転じることができる著者は、読んでいる人間にもエネルギーを与えてくれる。ただ、やっぱり相当な変人ではないかと思うが、東京大学の理学部を卒業してから再び法学部に入学して再び大学院では理学部に入りなおして、現在はソニー関連の企業でシニア・リサーチャーといういかにもソニー的な天才肌の人だ。担当している科目が認知科学や美術解剖学というのもすごい。この著者の本はまだ2冊しか読んでいないのだが執筆目録にはまだたくさんの書籍があるので、これから継続して読んでいこうと思う。

テクノロジー・マネジメント

著者名;グローバル・タスク・フォース 発行年(西暦);2004  出版社;総合法令
 MOT…というとやや堅苦しい感じだが要は技術に理解のある経営をしようということ。生産資材などの動きも含めてトータルな理解をしていこうということでメーカーであれば当然生産技術の理解になるし、金融であればデリバティブなどの「金融技術」ということになるだろう。為替の動きなどを判断するときに地球物理学の要素をおりまぜた新分析技術などを生み出すケースも当然ある。要素技術の革新(アーキテクチャ革新)などキーワードとその解説に特化したこの本はお手軽でしかもわかりやすいいい企画だと思う。設計、テストなど一連の製品開発の流れもシンプルにまとめられて入門書としては最適。ただし価格が890円というのはもう少し安くなればいいなあ、と思うが…

野村ノート

著者名;野村克也 発行年(西暦);2005 出版社;小学館
 情報を重視しつつも人間の機微にも通じた指導者…というのは世の中にそうはいないが、この野村克也氏については毀誉褒貶はあるかもしれないが、やはり野球史に確実に名を刻む人だろう。現役の選手としての活躍はもちろんだが、それにくわえて指導者としての原理・原則についてここまで深く考えている人というのは世の中にそういるものではない。「ファンが何を要求し、何に感動するのか考えてもらいたい」とファン重視のポリシーを打ち出しつつ、「プロというものは本来知力で勝負するもの」ときっぱり断言し、祖の一方で選手の「やる気」についてもしっかり目を配っている。また人間学と証する一種の品性や知性についても重視しており、こうした原理・原則がしっかり紙に印刷されて配賦されるとなるとその下で働くコーチや選手にも明確な目標原理として機能する。場当たり的な気分で選手を采配するのではなく、明確な原理のもとに采配するというプロ意識がかいまみえる。この本は15万冊を超えるベストセラーになったようだが、おそらく野球で使えるこの原理・原則がそのままビジネスにも応用可能な部分が多々あるためだと思われる。「思考が人生を決定する」という野村克也氏のセリフはもちろん知性や情報の活用を含む概念だが、それよりも幅広い品性や人間としての礼儀といったものまでを含む高度な概念を指している様だ。ベストセラーになる理由もうなずける充実の野球評論あるいはビジネス倫理の書籍である。

上品な人、下品な人

著者名;山崎武也 発行年(西暦);2006 出版社;PHP研究所
 「集合写真で中央取り」「寸借詐欺」「覗き見」「売り言葉に買い言葉」‥といったようなことはすべて「下品なこと」として紹介されている。「計画性のない上司ほど忙しがる」など実践的なアドバイスも結構あって、読んでいる分には無邪気に楽しめるが、ではだからといって何かの役に直接立つのか…というとそういう内容でもなさそうだ。実際のところ、上品と下品の境目というのが、行為自体で明確に区別できるほど世の中はわかりやすくできていない、というのが難しいところだと思う。「だじゃれ」というのも一種の下品な行為として紹介されているがそれも程度の問題で、場が緊張感にあふれているときに駄洒落を無理に言う…なんていうこともわりと日常ではよくあること。程度の問題とか場の雰囲気とかで「品」というのは実際には相当左右されることなので、もし上品か下品かということが問題になるとすれば、その「場」の空気を読めているか読めていないか、といった「差」から生じるものだろう。ただ「個人的な判断基準に従うかぎりは偏見にすぎない」といったようなビジネスの現場からしみでてくる言葉やアドバイスにはなかなか重いものがあるように思う。異なる意見や生活様式にいかに偏見をもたずに謙虚に耳をかたむけることができるか、といったことがおそらく「力量」とか「心の広さ・狭さ」ひいては「上品か下品か」といったことを決定づけるのだろう。話のネタとしては非常に面白いし、たまにこの本をひろげて我と我が身を反省するときには有用な内容だと思われる。もっとも本当に下品な人は「自分で自分を下品」などと自己反省しないあたりがそもそも下品…といった自己矛盾もあるわけだが…。

夢をかなえる勉強法

著者名 ;伊藤真 発行年(西暦);2006 出版社;サンマーク出版
「やればできる必ずできる」という名言でしめくくられるこの本は、やはり一種のノウハウ本ではあるのだが、それ以上に憲法の理念を重視する法曹人口養成者の一種の哲学をもうかがいしることが出来る本でもある。もともと司法試験受験生の間ではカリスマ講師として名高い著者だが、おそらくカリスマのカリスマたる所以は、単なる受験テクニックだけではなく、憲法という学問分野を学習する必要性や趣旨など根本から教え諭すその基本重視の思想が司法試験受験生に感動を与えたことにあると思う。受験テクニックは一定程度あっても邪魔ではないが、長期間にわたる勉強生活の間には好調なときもあれば不調なときもあるはず。そんなときに無味乾燥な条文からどのような理想を教えることができるのかが、法律教育者のポイントになるような気がする。「人生の目的とはなにか」から始まるこの本では、勉強というのものを人間本来の「知への探究心」であることにきづかせてくれる一種の名著かもしれない。

くらたまのどっちが委員会!?

著者名;倉田真由美 発行年(西暦);2003 出版社;講談社
 「彼にするならどっち 年上?年下?」「男を狙うならどっち 大物一本釣り?底引き網取り?」といった両立がなかなか難しいテーマ(特に恋愛関係)をネタにしたマンガエッセイ。このマンガを書き始めた頃には結婚していた著者も出版するころには離婚だったとか。自虐的なタッチにリアリティあふれる生活感覚は、すでに西原理恵子というこの道では「プロ」の領域にある先輩もいるだけに、西原理恵子と異なるアプローチで、恋愛や結婚をテーマに描写。ただなんとなく読んでいるうちに「寒々」としてくるのは、マンガのストーリーの背後に流れる「序列感覚」とか「階級社会」みたいなもののせいか。もっと開き直ればもっと面白くなるかもしれないのに、おそらく「常識」とか「世間」とかいうものを著者が意識しすぎていて、そこから逃れようとするあまり、かえって逆に「寒々しい階級社会」みたいなものを感じてしまうからかもしれない。いっそのこと白夜書房あたりの過激な「なんとかパーティ」みたいなものに参加しておもいきり既成概念を崩してしまったほうが、読者がほっとする瞬間もあるのかもしれず…。「そんなことない」「そんなことない」‥と否定を何度もしていると限りなく「肯定」に近いニュアンスを帯びる…というのとちょっと似ているのかもしれない。

30歳から本気で始める大人の勉強法

著者名;西山昭彦 発行年(西暦);1999 出版社;中経出版
 社会人大学院入学など、どちらかといえば学術的な方面での研究をするには役立つ本といえるかもしれない。勉強会を開くノウハウなども紹介されているが、基本的に独学と仕事の両方とさらに趣味もいろいろ展開したい…という立場からはあまり参考にはならなかった本でもある。大学に戻るとかいう発想がそもそもないので、社会人大学とか法科大学院とかいっても実はあまりピンとこない部分もあり、特に海外留学とかにはぜんぜん興味がない。観光にいくのならともかくアメリカまでわざわざ勉強しにいく…というのはちょっと辛い。ただ統計学や経済学を重視するという筆者の主張には賛成。統計学的なものの見方ができないとどうしても感情に左右されてしまい冷静な判断ができなくなる可能性がある。経理、労務、販売管理といった面を重視するのも実務的には非常に有用な分野なので賛成だ。特に労務関係はこれから多様な働き方がでてくるので遵法精神と両立するという視点からも重要なポイントとなるのだろう。目標を設置して段階的に進化していくことが筆者の主張だとすれば、「30歳」でなくても「20歳」でも「40歳」でも「50歳」でもいいような気がする。タイトルがちょっと読者を「限定」しすぎた面はあるかもしれない。

千円札は拾うな。  

著者名 ;安田佳生  発行年(西暦);2006 出版社;サンマーク出版
 タイトルが意味深だが経営コンサルタント会社を築いた著者だけにちょっとひねって内容をタイトルに反映。本質を見逃してまで道路に落ちている千円札を拾うな…という意味に解釈すべきなのだろう。「変化」を重視する著者は、決断と判断を区別し、決断には根拠が必要だが判断には早さがなによりも必要とする。そして、何かの意思決定をする際には目端の小さなことよりも大きな本質を見逃すな…という主張だ。とはいえこうした勢いのある判断力というのも一定程度の知的蓄積がある人にしか許されない行為で、勢いだけで物事を決めるリスクというのもさりげなく本の中にはかかれていたりする。要はそれなりの知的蓄積や経験をふまえて判断して、さらに必要であれば過去の蓄積を捨てるぐらいの覚悟が必要ということだろう。
 過去の蓄積にこだわりすぎては確かにまずいのだが、過去の蓄積もそれなりに有用ではなかろうか…と個人的には思う。ある程度「捨てる」覚悟も必要だが「残す」覚悟も同じように必要なのかもしれない。

頭がいい人の45歳からの習慣術

著者名;小泉十三 発行年(西暦);2004 出版社;河出書房新社
 まだ45歳にはぜんぜん達していないのだが、それでも年下の視点からしても45歳というのは生きていくのに難しい年齢ではないかと思う。30代ほど仕事に熱中してばかりもいられず、といって家庭もそろそろ成熟化してきて子供がいれば独り立ちするころ。50代からの次の人生にも目配りをしつつ、さらに自分より下の世代の面倒もみなければならない世代。それが45歳という世代なのではなかろうか。この本でも仕事に夢中になりながらも3割は会社から離れるといったようなアドバイスがなされているのだが、急にそんなことをはじめても方向転換がききにくい年齢でもある。まだ趣味とか友達づきあいとかで多様な世界観が30代のころから育っていればまだいろいろ試行錯誤もできるのではないかと思うが…。感情の老化防止などいろいろな細かいテクニックも紹介されているが読んでいて感じるのはやはり方向転換することの難しさとちょっとした新しいことをまめに自分の生活にふだんから取り込む「几帳面さ」の重要性だ。家事が大事とか思っていても実際に行動にうつせるかどうかはまた、別の問題で、普段からすっと家事ができていれば45歳になってからあたふたしなくても済むという考え方もある…。

経営の大局をつかむ会計

著者名;山根節 発行年(西暦);2005 出版社;光文社新書
 会計学の学習方法を大局をつかむ場合と複式簿記の技術的な面も含めたテクニカルな場合とに場合わけして、特に経営に有用な会計学という視点から財務諸表の読み方を伝授してくれる本。実はこうした試みはこれまでいろいろな著者が行ってきたが必ずしもすべてが成功してきたわけではない。が、この新書サイズの本では消費者金融や自動車産業など具体的な実例をふくめて財務諸表の読み方を解き明かしてくれているのが個人的にはきわめて有用だった。特に消費者金融の「お金」の仕入れが2パーセントで貸し出しが23パーセント、貸倒引当金が8パーセントといった具体的な数値例が示されているあたりが非常に面白い。なぜその産業が伸びたのかといった視点を財務諸表を通じて分析する手がかりがふんだんに盛り込まれている。
 実際のところ財務諸表作成にたずさわるケース以外では財務諸表を読み解くケースの方がはるかに多い。特に連結段階まで含めると連結修正消去仕訳まで実際におこなう例はほとんど限られた層になると思われる。これまで作成方法についてはかなり詳細に解説された本がでていたが、読み解くケースの紹介はほとんどなかったというのが(あるいはあっても新書サイズでは少なかった)というのが実態だと思う。会計学をとっつきにくいと感じている人には特にお勧めできる本ではないだろうか。

アイデア脳の磨き方

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;青春出版社
 仮説と検証を重視する著者らしい一冊。意外なビジネスヒントがうまれる「立場置き換え法」や「確率を度外視する心理」などマーケティングや需要の喚起に非常にやくだつヒントがあふれている。当たり前のニーズというのが案外見つけるのが難しいのだが、この本ではインターネットや本などを利用した情報収集や情報や理論を基盤とした理系的発想で試行錯誤する方法を伝授。これまでの各種の書籍の総まとめといった感じの1冊。

百戦百勝のメモ術・ノート術

著者名;本田尚也 発行年(西暦);2003 出版社;三笠書房
 メモやノートにはわりと個人的にこだわる方だが、なかなか効率的なメモとかノートとかの作成はできずにいる。この本もなんとかメモやデータの整理をうまくしたいと思って読んでみたのだがあまり個人的に役立つところはそれほどはなかったようだ。ただ手帳、メモ、ノートとツールを3つに細分化して、手帳はスケジューリング機能に特化させるという方法は合理的ではないかと思う。自分自身では手帳をto do listとスケジューリング機能の両方の目的で使用しているが、こうすることで今日一日何をどうすべきかという段取りが一目瞭然に把握できるので便利という理由による。パソコンでto do listをやる方もいらっしゃるが、やはり何をすべきか、ということはアナログに手帳で把握したほうが早くて確実なような気がする。
 となると後はメモとノートなのだが、ポイントはメモをとった後にやはり何らかのm形でデータベースにしておくということなのだろうと思う。著者はメモ→ノートという段取りにしているが、メモ→パソコン、ノート→パソコンという流れでパソコンに「一元化」する方法が今では合理的なのかもしれない。いずれにしてもメモをとりっぱなしでは単に紙切れが膨大にたまるばかりで後から検索できないとうのが難点。その点パソコンのファイルにうまく整理できれば、あるいはデータベースをまめに更新していれば、後日データの整理がかなり効率的にできるというメリットは享受できるだろうと思う。アウトルックなどにもスケジューリング機能などはあることにはあるが…。まだまだこうしたアナログなツールとデジタルなツールの上手なバランスの取り方というのが見つけられない…。

あなたはシゾフレ人間かメランコ人間か

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;新講社
 和田秀樹さんの心理学関係の新刊だ。以前から和田氏が提唱されていたメランコ人間とシゾフレ人間との分類による現実把握をさらに深く特集した本といえるだろう。シゾフレ人間が過去と不連続でメランコ人間が過去と連続しているという着眼点が面白いと思った。過去と不連続であるがゆえに回顧主義的なものにこだわりをみせるのがシゾフレ人間という視点も面白い。過去は過去として現実をしっかり生きようとするメランコなタイプでいえば、おそらく現実と未来しかみえていないわけでレトロに興味をいだく動機は確かにない。10代、20代で70年代や80年代に興味を持つ人の多くがシゾフレに分類されるのは、確かに興味深い現象ではある。
 一種の冷淡さがシゾフレの特徴とする着眼点も非常に面白い。一種の防衛本能という見方も8割がたあたっているような気もする。こうした分類が直接的に何かに役立つというわけでもないが世代論などで印象で分析するよりも別の視点で人間を分類するべきではないか…という個人的な疑問にも答えてくれる心理学の新刊。マーケティングなどにも応用可能な視点が多数収録されている。

自分の中に歴史を読む

著者名;阿部謹也 発行年(西暦);1988 出版社;筑摩書房
 東京商科大学(現在の一橋大学)でゼミナールに入るために、上原専禄教授のご自宅に訪れるところから本は始まる。「どんな問題をやるにせよ、それをやらなければ生きていけないというテーマを探すのですね」というかなりハイレベルな指導をあおぎつつ、著者は大学院に進み、ドイツ騎士修道会研究を進める。「ヨーロッパが分かるとはどういうことか」という自問自答を繰り返しつつ、「ハーメルンの笛吹き男」の伝説にドイツでたどり着いた著者は12~13世紀ごろの時間軸や空間軸が18世紀とは異なるものがあり、「大宇宙」と「小宇宙」の二元構造の中で未知なるものへのおそれがあることを解明していく。キリスト教は世界を一元化していこうとするが、そうした中でも大宇宙へのおそれがあらゆるところに残存しており、それはメルヘンや伝説の中にもあらわれることを指摘。そしてその分析視点は日本の内側にも向いていく。
 研究者の役割や「わかる」とはどういうことか、といったことをおしつめて研究していった結果の研究はたとえばシンフォニーの構造などにも向けられ、現在がけっして「現在」という言葉で一言に総括できるものではない重層的な構図であることを示す。
 中世のヨーロッパと日本を結びつけるとともに一人の学者の精神の軌跡を描くスリリングな歴史本。名著ではないだろうか。

お金が集まる人の心理学

著者名 ;和田秀樹  発行年(西暦);2005  出版社;新講社
 タイトルが非常に「エゲツナイ」感じではあるが、現実主義に徹することと自分の分を知ることの重要性を説いた本といえるだろう。一攫千金に乗る人もいればそうでない人もいるわけだが、「己」を見失っている人ほど夢物語にのせられる。つまりは現実的にどう判断して行動するのか、について「お金」を題材にして語られた本ということになると思う。自己分析というのが実はそれほど簡単な作業ではないこともあるのだが、自分をいかにして知るのか…という点については実はブラックボックスになっている。クリティカルシンキングなどMBA関係で自己の意思決定を検証する方法はあることにはあるのだが、それを日常的に行っている人は少ない。方法は多分この本の通りだと思うが、それではそうやって自己分析をするのか、というとまだまだ具体的な方策はそれほどないようだ。

嫉妬の世界史

著者名 ;山内昌之 発行年(西暦);2004 出版社;新潮社
 「嫉妬」について世界史あるいは日本史で偉人たちがどのように「事件」を巻き起こしてきたかという視点からの本。忠臣蔵、アレキサンダー大王、森鴎外、大田道潅、徳川慶喜、ロクソラン、近藤勇、ヒトラーとロンメル、東条英機、カエサル、スターリン、島津義久、保科正之といった歴史上の人物の「嫉妬」について考証。正直面白かった。沈黙と寡黙を守りつつ、自分の領地では国内初めての社会年金制度を導入した保科正之が一番「嫉妬」の世界をうまくくぐりぬけた人物ということになるだろうか。歴史の本らしく事実関係にもとづいた考証が行われ、歴史初心者にもわかりやすいように語り口などもかなりさばけて書かれた本。非常に面白い。

自己変革の心理学

著者名 ;伊藤順康 発行年(西暦);1990  出版社;講談社
「論理」の筋道をたてすぎるとたまに間違える…という具体例を中島みゆきや太宰治などの作品を例にしてわかりやすく解説。非合理的な信念を「イラショナルビリーフ」となづけて、なぜゆえにその論理が非合理なのかを解き明かしてくれる。物事の本質は事実とその事実の受け止め方にあるとして、人間がときに陥りやすい論理の間違いを正してくれる本。特に過度の一般化についてはかなり厳しく指摘し、注意していないと人間はとかく間違った論理をたてやすいものだ…ということを認識させてくれる。心理学の本だがマーケティングや経営学などにも通じる名著だろう。

コーチングの思考技術

著者名 ;ハーバード・ビジネス・レビュー 発行年(西暦);2001 出版社;ダイヤモンド社
 コーチングというのがここ半年前に凄く流行していた。そのときはなんだか変な名称のビジネススキルだなあなどと思い特に気も留めていなかったのだが、経営学者たちはすでに2000年以前からコーチングについて研究をしていたようだ。内容的には既存の経営科学の業績をしっかりふまえつつ、知的財産や従業員のスキルアップやモラルアップをいかに図るか、あるいは望ましいリーダーシップなどについて著述。ダニエルゴールドマンによるEQの紹介もある。
 またキャリアデザインによるやる気についても紹介。自らの弱点を認める成熟したリーダーシップについてかなりのページが割かれており、ロンドン・ビジネス・スクールのロバート・ゴーフィーとBBCのガレス・ジョーンズの「他人との違いを隠さず」「自らの弱点を認める」リーダーの望ましさと欠点、さらに「自分自身であること、しかしスキルを少しばかり備えた自分になること」という提唱が具体的でわかりやすい。
 また成熟した人間の特質として「意欲の高い人は記録がおもわしくないときも楽観的な態度を保っている」という研究成果を発表し、「達成意欲のほかに自己規制が働いて挫折や失敗によって感じる欲求不満や気分の落ち込み」を「自己規制」で克服していると示唆する。仕事そのものへの情熱は「達成感を動機」にする人が一番高いという結果も興味深い。「最良の仕事の方法をとことん突き詰め、仕事への新しい取り組み方を探ることに熱心」さらに「より高い基準を求める」というのと「結果を記録するのが好き」という研究結果はこうしてウェブで自分自身を探索しようとしている自分には有難い結論でもある。ハーバートビジネスレビューの雑誌そのものは非常に高いが特定のテーマにしぼったこの単行本シリーズはいずれもテーマが明確でしかも読みやすい構成なので非常にいい企画だと思う。良書。

上手にグズを捨てる本

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;新講社
 一日が終わりそうになって「あれもできた」「これもできた」「あれもやらなくちゃ」「これもやらなくちゃ」とあれこれ焦ってから周り‥というようなときに有用なこの一冊。行動主義的心理学を重視する著者らしい、「まずは行動から」というアドバイスがすごく個人的には納得できるうえに実践可能な点が非常にいい。グズとは一種の習慣だ→習慣だから修正できるという論理のあまりにも明瞭な運びにすごく納得。カレンダーややるべきことのリストアップなどの効果や方法論も非常に有用。もともと和田秀樹氏の著作物にはほとんど目を通すようにしているが、最近の一連の新刊の中でも特に有用なハウツー本ではないかと思う。

ベルサイユのばら①~⑤

著者名 ;池田理代子 発行年(西暦);1994 出版社;集英社文庫
 フランス革命を舞台にした長編歴史漫画の名作中の名作。ルイ14世から始まる頽廃したベルサイユ宮殿に男装の麗人として近衛兵隊長を勤めるオスカル。オーストリアから政略結婚の道具として送り込まれてきたマリー・アントワネット。その夫ルイ16世。そしてスウェーデン貴族フェルゼン。ポリニャック夫人の巧みな権力へのすりより、首飾り事件など宮殿の頽廃をたくみにおりまぜ、虚実をとりまぜた歴史物語は1879年7月14日にむけて突き進む。男装の麗人といういわばありえない存在が自由に不自由な時代を突き進む。型破りな貴族という設定は、民衆が自由と平等を訴えてたちあがったときに、予想されるべき行動をとるわけだが…。「制約」「抑圧」から常に自由と解放にむけてつきすすむ「ぶっとんだ存在」は、1970年代から現在に至るまで根強い人気を誇る。読み進めていくうちに、単なる恋愛物語ではすまない「抑圧」との戦いがすけてみえる。フランス革命以後の物語はほろにがい。フェルゼン自身が非情な権力者として暗殺されるくだりまでおそらく池田理代子は「書き続ける必要性」があると感じて筆を進めたのだと思われる。単なる人権革命、不平等革命という点だけをとらえずに、「その後」の歴史の皮肉さまでも描くその容赦のないストーリー。そしてそれを書いたのは当時24歳の池田理代子という天才。昭和の時代の凄さを思う。
 シュテファン・ツバイクの「マリー・アントワネット」は、以下のような前文からマリー・アントワネットを「平凡な一主婦」として位置づけるものの歴史の流れの中でこの平凡な人間が「不幸のうちに初めて人は、自分が何者であるかを本当に知るものです」という発言をする一種の突然変異のようなヒロインとして描く。「ベルサイユのばら」でもけっして並外れた才能を示すわけでもないマリー・アントワネットが急に輝きだすのは、断頭台を前にしての毅然とした女王としてのプライドがうづく瞬間からかもしれない。だとするとオスカルはやはりフランス革命の発生時点でやはり死ぬ運命にあった。ヒロインは一つの作品に一人で十分だったであろうから。

なぜか「いいことがいっぱい」舞い降りる心理学

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;新講社
 本屋さんのレジに持っていくのが非常に辛いタイトルで、しかも読んでみると内容は女性向けのようだ…。「気の持ちよう」をいかに変化させるか、というのが主眼ではあるのだが、気負いを捨てて意地をはらない、といったことが書かれておりもちろん役に立つのだが、「いいこと」は普段の日常にあって、日常にないものをもてめようとする心こそ実は不幸なのだ…という筆者の主張はかいまみえる。でも確かに、「幸せ」って身近なものかもしれないし…。抽象的な「不満」よりも具体的な「原因」を明らかにしていくことで問題解決を図ろうとする手段は結構いいかもしれない。図にして考える…という手段は有効なような気もするが、あとは実はなんともコメントしにくい内容ではある…。

バカはなおせる

著者名 ;久保田競 発行年(西暦);2006  出版社;アスキー
 人の人生を3つに区切った「脳によい習慣」が具体的で非常によい。35歳を過ぎてから60歳までが一つの区分として上げられており、人間の宿命として使わない機能は衰える…といったぎくっとした指摘も。この世代は意図的に脳を使わないと退化していくという主張も非常に耳が痛いが感性に加えて一種の明確な努力も当然必要なのは日々感じているので筆者の主張にはわりと同意できる。職場や家庭におけるコミュニケーションの重要性や新しいことへの積極的な兆戦、さらに生活習慣病の予防やジョギングなどの重要性、そして「記憶し、想いだし、比較する」といった一連の手順の重要性などの具体例が素人にはわかりやすい。反復演習は確かに重要だが、それをさらに細分化していくと「記憶」「連想」「比較」といった3つのプロセスになるわけだ。確かにただ単純に反復演習するだけではなく、想いだした結果を別の事象と「比較」することで知識や理論の定着度はすごく高まるような気がする。明確な努力事項を示してくれているという点で、さすがはコンピュータ関連の老舗が出すだけのことはある「脳」の本といえるだろう。

モナ・リザの罠

著者名 ;西岡文彦 発行年(西暦);2006 出版社;講談社
 美術史の本ということになるのだろうか。「ダビンチコード」冒頭の場面でフランス人がダイインメッセージで英語表記でモナリザと記す不自然さを指摘し、この絵画には南部のラテン的気質と北部のゲルマン的気質の調和があること、そしてゲルマン的文化では自然をそのままに描写する考え方が発達し、ラテン的文化では自然を理想化する考え方が発達したのだが、この絵画ではその両方がたくみに織り交ぜられていること、そしてルネサンスの人間中心主義や特定の思想や宗教にとらわれない人文主義的考え方がもちこまれ、その先駆となったダビンチの作品などについて紹介。美術史がとかく難解に思われてしまう原因などについても紹介されており、非常に面白い。
 「単に本の内容が読めても、そんなことは面白くもなんともない。本当に面白い本や学問というのはそれを学ぶことによって、世の中や自分自身のことが読めるようになること」という筆者の考え方がそのまま活きている非常に面白い美術史あるいは西洋史の入門的著作。

数学を愛した作家たち  

著者名 ;片野善一郎 発行年(西暦);2006  出版社;新潮社
 文学者を中心にとりあげて、その数学の出来・不出来を紹介するというエピソードの数々。夏目漱石は数学と英語が苦手だったもののその後英国に留学したり、数学を教えていたりするし、二葉亭死命は数学ができなくて士官学校不合格だった…など明治初期の人材発掘の状況や「文学に数学は必要ない」とする見解の一面的なものの見方を否定する本になっている。一般人と同じで文学者でも数学が好きな人と苦手な人がいる。統計的に見てあたりまえのことなのかもしれないが、エピソードがまとめて出てきてはじめて納得できる「偏見の否定」ということにもなる。
 ポール・バレリーやスタンダール、スウィフトなど海外の文学者についてもエピソードがまとめられており、面白い。

ひらめき脳

著者名 ;茂木健一郎 発行年(西暦);2006 出版社;新潮社
「アハ体験」と命名される前頭葉と側頭葉との関係やセレンディピティと名づけられる幸運とのめぐり合わせなども一種の「ひらめき体験」として位置づけて、ある程度の知識や体験と意欲との「乗算」結果がひらめきに直結するととく。実用的であると同時にそれまで概念がつかめなかったものをはっきり自分の前頭葉で認識することは人類にとって最大限の至福であることも切実に訴えられており、そのために必要なのはやはり一種の「質感」(クオリア)と呼ばれるものになりそうだ。
 わかりやすい文体で各種のロールシャッハ的な図版も織り込まれ、脳と心の関係を推察するのには非常に適切な新書。神経細胞と神経細胞の結びつきをいかに高めていくかについてもそのシステムが紹介されており、非常に興味深い。

休暇力

著者名;和田秀樹 発行年(西暦);2004 出版社;インプレス
 「休暇」については3つのとらえ方があるという。①身体の疲労を癒す目的②心を癒す目的③ご褒美・景気づけの目的。そのうち積極的な目的が景気づけの③ということになるが、②についても要注意だと筆者は指摘する。②の目的での休暇をとらないと疲労を蓄積した結果、「理性の力が弱まる」と指摘。欲求を抑えるのが「理性」だとすると疲労を残す結果理性の力を弱めて欲求を行動に移す結果、犯罪に手をそめて瞬時に人生を棒に振る、結局は「心の疲労は人生をくるわせる危険性を秘めている」と指摘。
 昨日何某地方自治体の部長職の人間が電車の中で「鬘をつけてミニスカートをはいて女装し、さらに下半身露出」の罪で逮捕。書類送検されたが、現実的には、そのまま定年までいれば数千万円の退職金をもらえたはずの人生ではあるが実際には諭旨退職か自主退職の道を選ぶことになるだろう。「解放されたかった」というのが本人の弁らしいが、その「欲求の解放の仕方」に理性が歯止めをきかせられなかったのは、思うに明確な目的意識の欠如、さらには普段の業務のストレスの増加などが推察される。どうしても日本人は休暇について目的意識をもって消化するという発想に乏しいのだが、身体・精神そして御褒美という3つの目的にてらして適切に休暇を消化していく重要性をさらに認識するべきだろう。

図解雑学「社会心理学」

著者名 ;井上隆二・山下富美代 発行年(西暦);2000 出版社;ナツメ社
 社会心理学の定義(序章)、個人レベルの社会心理学の応用(第1章)、対人レベルの社会心理学(第2章)、集団レベルの社会心理学(第3章)、社会レベルの社会心理学(第4章)と素人にもわかりやすい社会心理学の応用部門の紹介。もちろん実際には統計学やデータとの地道な取り組みからこうした理論がいろいろでてきたのだろうが、このシリーズでは素人にもわかりやすい社会心理学の説明ということでコンセプトが統一されており、しかも一つのテーマが見開き構成というのがかなりわかりやすくてよい。「繰り返しの広告」「キャラクター広告のメリット・デメリット」「広告に不可欠な要素」といったあたりのビジネスにも役立つ情報を紹介。「群集」とは何か…といった定義なども興味深い。

他人を見下す若者たち

著者名;速水敏彦 発行年(西暦);2006 出版社;講談社
 「仮想的万能感というのがキーワードになりそうだ。人間の感情を「自尊心」と「万能感」の2つの軸できりとり、「実際にはそれほどでもないし実績もないけれども万能感があって他人を見下す」ことを仮想的万能感といい、この現象が20代と50代の両方に強くみられるのではないか。しかもそれはおそらくデジタル機器などによって世界の情報を瞬時に知ることができる今という時代のせいもあるのではないか、という言説になる。でも考えてみると自分自身がどの程度の人間でどの程度の実績かということもインターネットで知ることができるわけで、しかも自分が若いときには今よりは確実に「万能感」にあふれているのは間違いなく、現代に特有の傾向と断定することはすごく難しい。若者が他の世代よりも無茶だったり自分を過大評価するのはいつの時代でもそうなわけで実際の社会にでてみて自分のたいしたことなさと実感して、等身大の自分で仕事をしていくうちに現実社会と向き合うという構図がある以上、30代、40代がわりと自分を客観的にみれてその分20代が「仮想的万能感」にひたるのは無理もないことのように想われる。

消費の正解

著者名 ;松原隆一郎 辰己渚 発行年(西暦);2006 出版社;光文社
 商業あるいは流通というものの見方を多角的にとらえて「消費」について考える本。必ずしも結論は出ない本なのだが、それでも消費のプロセス自体が一種の消費の娯楽だり、消費の対象は最終的にはマイナーチェンジをして新製品として市場に提供されるという指摘には非常にうなづけるものがある。質がよくて安くて品揃えがいいという流れで考えるのであれば、確かにそれは商品として魅力的だが、しかし実際の消費行動って価格や品質などの総合作用的な面もあって、投資や生産といった活動と明確な線引きをするのは難しい。時には山崎正和さんの評論なども引用されつつ日常生活を密着したまま「消費」について考える「正解がなかなかでてこない」割には明晰な内容の経済本。面白い。

スラスラ書ける!ビジネス文書

著者名 ;清水義範 発行年(西暦);2006 出版社;講談社
 前半の「敬語の使い方」などは他のビジネス文書でも取り扱われているテーマだがこの本の眼目は「説得力をもたす企画書」あたりの説明からではないだろうか。企画書はもちろん説得力をもたすことがなによりも重要だが、説得力をもたせるのに「企業イメージがアップします」とか「とても現代的です」というような抽象的な言い回しでは説得できないと筆者はする。まずは「これまでの経緯」を分析してさらに現状を分析し、さらにデータを集めての4分類の分析を加えて「以上の分析により…」と企画案を提出していく。さらに「現状分析」以外に背景や現状の問題点などを切り口として用いるという手法も紹介。さらに企画書をビジュアルにチャーミングに見せる手法なども重要としているがコレがいかに実践的な「企画書」であるかは実際に企画書を作ったり、「あーこれはしょうもない」という企画書の山をみてうんざりしたことがある方にはよくわかっていただけるのではないだろうか。たかが書類とはいえ企画書ばかりは企画だけよくてもだめで「説得」できない企画書はほとんごが環境資源の無駄としてしか機能しないというのがもう日本の企業社会の伝統芸…。それを克服する手段をユーモアをまじえて紹介してくれているのがこの本。結構実践的でしかも応用がきく内容だ。

日本人大リーガーに学ぶメンタル強化術

著者名 :高畑好秀 発行年(西暦);2003 出版社;角川書店
 野球といえば体力と技術、そして理論の3つのバランスが重要なスポーツではないかと想う。他のスポーツと異なり、理論で技術や体力のなさをカバーできるケースもあり、それがサッカーとはまた異なる魅力を生み出してもいるようだ。松井選手やイチロー選手などが土壇場のプレッシャーの中で結果をだすときの心理構造やストレスなどの調整方法を内的集中、外的集中といった用語でトレーナーが解説してくれている本で、共有型指導はたんなる指導よりも記憶に残りやすいなど実践的なスキルが掲載されている。ラソーダやラルーサなど大リーグの監督の指揮方法などについても解説。直接に日常生活に応用がきく内容とは想わないが、野球をみるときに一つの参考にはなるであろう本。始まってしまったらもちろん試合に集中せざるを得ないと想うが、そのプレッシャーの中でも「考える」力というのは一種のメンタルな強さがないとできないことではないかと想う。

大人の勉強法

著者名;西山昭彦 発行年(西暦);2000 出版社;三笠書房
 ビジネススクールや社会人大学などにある程度重点が置かれた本。さらに異業種交流や勉強会のメリットなどにも重点が置かれるが、こうした外部組織の利用方法については筆者自身がいろいろ活動されているようなので、他の勉強方法とは異なり、実際の研究会の運営などにスペースがさかれるのは当然なのかもしれない。
 個人的にはあまり海外留学や社会人大学などには魅力を感じないのだが、一つの会社だけでなくほかの分野の人間とも交流をしたいと想ったときには異業種交流などは確かに便利なのかも。ただ最近「異業種交流パーティに参加してきました」という人はかなり減少しているような気もするが。
 図書館や書店の「定点」を定めるといった具体例には賛同できるが、それ以外の哲学的あるいは理念的な部分はやはり人それぞれといったところか。経理や販売、労務はもちろんビジネスの基本だが重点の置き方や修得方法はまた人それぞれといった感じもするし。自己成長にはいろいろな道のりがあるのでその選択肢の一つと考えればいいのかもしれない。

2007年10月26日金曜日

右脳でわかる会計力トレーニング

著者名;田中靖浩著 出版社名;日本経済新聞社 出版年;2007年
 貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の基本財務諸表を視覚的にとらえてクイズ形式で進行していくという異色の会計本。レベルは非常に高いほうだと思う。なかでも「会計力UP」というコラムが面白い。米国の純資産の部がcommon stockとcapital surplusで表示されているとか、損益計算書の当期純利益が「原因」で貸借対照表の(利益)剰余金は結果とする見方、M&Aで急成長の株式会社の貸借対照表は膨張していく、豊田自働織機の財務諸表にみる時価評価の影響、一般に流通業の会社の売上総利益率がメーカーよりも低い理由高い営業利益率をだすためには他社と差別化された仕組みが必要ブランドには粗利益が高くなるという効果など読んでいて「ふむふむ」と納得することが多い。売上総利益がいわゆる「粗利」だが、この売上高総利益率を計算する理由っていうのが今まで実はわかっていなかった。販売費などが計算プロセスに入ってこないためだが、ブランドの力や差別化の度合い、そして商品(あるいはサービス)の付加価値の高さをみる指標と考えれば売上総利益を計算する理由もよくわかる。800円で新書サイズだが、「お買い得」(それこそ売上総利益率が高い書籍)といえるだろう。それにしてもこんな内容の本が書店に並ぶ時代…ちょっと前には想像でもできなかった時代だ…。

2007年10月15日月曜日

会社法入門

著者名;神田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;岩波書店
 「入門」というタイトルのわりには相当に高度な内容で、法務や総務といった部門で実際に商法と格闘してきたビジネスパーソンかあるいは法学部で商法などを学習してきたことを前提とすれば「会社法入門」といえるかもしれない。証券取引法(金融商品取引法)や税法関係などの関連法典についても目配せをし、さらに日本語の限界や歴史の流れなどにも配慮した大きなグランドデザインが魅力的な岩波新書の新刊だ。内容的には難解であると同時に高度でもあるのだが、その分苦労しただけ内容の一文一文に深い含蓄があり、奥行きがとにかく広い法律の新書である。日本の企業法が大きく変化しようとしている現在、この商法あるいは会社法の泰斗ですら「この会社法は難解」といわしめるほどの内容。ただ、これから日本の企業社会がこれまでに経験したことがない事後規制型社会あるいはコーポレートガバナンス社会を迎えるので、法律の条文がやや難解であってもやむをえない面もあるのかもしれない。ライブドアによるニッポン放送株式買収やD銀行の株主代表訴訟事件など具体例も紹介されたとにかく難解ではあるが、いろいろと新しい視座を与えられる名著だろう。

子どもの脳が危ない

著者名;福島 章 発行年(西暦) ;2000 出版社;PHP新書
 環境ホルモンなどの影響が脳のハードウェアなどに与える影響を考察。やや「暗い」事件が続く中、昔読んだ本をひっぱりだして読んでみる。社会学や心理学あるいは犯罪学といったジャンルの学問は主にソフトウェア面での分析だが、この本はMRI画像などを交えたハードウェア的な分析に徹底する。生物・心理・社会といった3側面にまず分類して生物学的な側面のみに「集中」していく。合成黄体ホルモンと環境ホルモンの類似性やダイオキシン、DDT、BHCなどの化学物質と「学級崩壊」やADHDなどの相関関係を分析。さらに世間をゆるがせにした神戸の「例の事件」などを紹介してくれるのだが…。
 「形態と機能」に集中したこの本はタイトルも含めてあまりこれまで語られてこなかった言論かもしれない。読んでいてちょっと「う~ん」と考え込んでしまうことも実は個人的にあったのだが、多様な分析こそが現実を分析するのに必要な科学的態度といえるのかもしれない。

フリーズする脳

著者名;築山 節 発行年(西暦);2005 出版社;NHK新書
 昔はあまり気にしなかったことだが、ハードウェアとしての「脳」の活性化とは神経細胞のネットワークをどんどん緻密に築き上げていく作業…と要約できるのかもしれない。種々の出来事で活性化された神経細胞の総体としてのネットワークと考えると「忙しい最中」なのに急にクリエイティブな発想がわいてくるとか、企画案が思いつくというのは偶然ではないことになる。著者は、脳内の活動をマルチにするうえで、予測不可能なトラブルも一種の刺激で、その刺激から受けた有形無形の情報をいろいろ組み合わせた結果、「クリエイティビティ」が生まれてくるという発想だ。「アイデアはゴミの山から拾うもの」という著者の指摘には「なるほど」と思う。

邪魔

著者名;奥田英明 発行年(西暦);2001 出版社;講談社
 単行本で新刊がでたときすぐ購入したミステリーだった。が、その暗い始まりにやや腰がひけてその後5年間にわたり本棚に置きっぱなしだった本。その前の奥田英明の名作「最悪」はすぐに読んでしまったのだが、高校2年生の「オヤジ狩り」のシーンから始まるわけだが、刑事の張り込みに遭遇した高校2年生と中退の3人組は返り討ちにあってしまう。ティーンエイジャーが大人に対して向ける憎しみというのはよくテーマになるが、7年前に妻を交通事故でなくし、さらには同僚の職務規律違反チェックのための張り込みをしている刑事九野という34歳の大人は逆に少年達に怒りをぶつける…。
 このミステリーにでてくる大人たちはみなある意味生活に疲れている。
「でも悩みが形を変えるだけなんだよね。ローンが終わるまでは病気もできないとか、夫がリストラされたらどうしようかとか。人間って
、足りなければ足りないことに悩んで、あればあるで、失ったらどうしようって悩むんだよ」という登場人物のセリフに生活の疲れが滲み出す。また普通の主婦恭子はスーパーのレジでアルバイトをしながら狭い人間生活に耐えながら、夫の不始末に耐えさらにはとてつもない「メタモルフォーゼ」を遂げる。750万円で自分のすべてを売り、さらには、孤独な自転車のペダルを踏み出し、陰の道を走り続ける。
 そして最後にまた高校生が登場するが、大人の裏の世界をみた3人は冒頭とは異なる成長を遂げている。後味はたしかによくないが、「それほど簡単に大人は生きているわけでもないし、子供考える反抗期など、暴力団や警察などが取り組んでいる課題に比べればどうってことない」ぐらいの薄暗い社会の裏側を描き出す。
 ミステリーというよりも一種の転落の物語といえるのかもしれない。こうした物語は実は結構好きなのだが、かすかな救いと社会の裏側に対する洞察を秘めたこの著者の類稀な才能に感動する。

マキアヴェッリ語録

著者名;塩野七生 発行年(西暦);1994 出版社;新潮社
 300年間という月日の栄光に輝いたフォレンツェ共和国とマキャベリ。あくまで現実を客観的にとらえようとしていたマキャベリの語録を塩野七生が編集。単なる語録ではなくフィレンツェ共和国の衰退の原因をマキャベリの語録に求め、さらに「興隆の原因となったと同じものが衰退の要因になる、という私の仮説が正しければ、衰退期をとりあげるだけでも必ずしも不十分とはいえない」というくだりにも見られるようにマキャベリの語録の中にフィレンツェ共和国の興亡の要因を見出そうとする野心的な「語録」。「ある人物が、懸命で思慮に富む人物であることを実証する材料の一つは、たとえ言葉だけであっても他者を脅迫したり侮辱したりしないことであるといってよい。なぜならこの二つの行為とも、相手に害を与えるのに何の役にも立たないからである。脅迫は相手の要心をめざめさせるだけだし、侮辱はこれまで以上の敵意をかき立たせるだけである。その結果、相手はそれまでは考えもしなかった強い執念をもって、あなたを破滅させようと決意するに違いない。」。「マキャベリスト」とは、少なくとも現実から導き出された経験則であり、しかも歴史は「経験主義」の積み重ねだったのだ…とあたりまえのようにあらためて想う。

「幸せ脳」をつくる50の習慣

著者名 ;久恒辰博 発行年(西暦);2004  出版社;PHP
 神経細胞の再生などの見地から「脳に良いのでは?」と思われる50の習慣を紹介。理系の研究者らしく、「かもしれない」などと科学的データにもとづかない仮定などには慎重な言い回しで習慣を検証。音読効果についても一種のメリットをみとめ、歩くことで脳のホルモンバランスを変化させてみては…といった「習慣」の根拠をデータではなく著者の経験知として紹介するなど内容は面白い(BDNFという特殊な蛋白質が脳内で運動により増加することなどは別のページで紹介)。ゆっくり食べること、睡眠(特に昼寝)といった日常生活に即した「脳」によいことがコンパクトにまとめられている。

グローバリゼーションとは何か~液状化する世界を読み解く~

著者名 ;伊豫谷登士翁 発行年(西暦);2002 出版社;平凡社新書
 近代ってなに…かというと物的な豊かさを追い求め、さらに「われわれ」と「他者」とを明確に区別し、統合化と差異化が繰り返された時代と総括される。このあたりは感覚的にわからなくもない。「インディアン」という呼称が「ネイティブ・アメリカン」となったような経緯に相当するように思える。一つの価値観(あるいはイデオロギーといったものが侵食していく様子を独特の切り口で展開。いろいろな参考文献が並んでいるが主に社会学系統の専門書が中心のようだ。データがないあたりが個人的には不満で種々の分析の根拠を問うた場合にそれに応える数値データが歴史には少ないというのもあるのかもしれない。間接賃金の切り下げや公的介入の不備が発展途上国の賃金の切り下げになったというストーリーにはうなずける部分もあるのだがではどの程度どのように影響を受けたのだろう…という疑問もわく。強烈に進行する均質化のなかで差異化が進行しさまざまな暴力や紛争が多発する…というくだりには一種予言じみたものまで感じないわけでもない…。いろいろなものの見方があるなあとふと考え込みたくなるときにはいい本かもしれないが…。

こころの格差社会

著者名;海原純子 発行年(西暦);2006 出版社;角川書店
 満足感覚を得られない日本でまずその原因を「環境に対するなれ」と表現する。かなり劣悪な経営状態であっても、その状態になれ、さらにかなり経済的に恵まれている状態でも勝ったという意識がしない…。近代主義でいうと物質が増加するにつれ、また権力が拡大するにつれて一種の社会的満足は上昇するがその次に自尊欲求など新たな別のレベルの「勝ち負け」に挑む滑稽さをまず展開。そうした中で高い権力を持つ人間とソウでない人間との間では、コミュニケーション不全がおきやすいということになる。
 そこで筆者が提唱しているのは自分だけの「場」の作成、あとは読者個人のそれぞれのメディテーション(深い思考)にゆだねられることになるわけだが。
 権力を握った人間がさらに上昇志向を保つその「理由」がなんとなく垣間見える「各社社会」分析論だ。

上機嫌の作法

著者名;斉藤孝 発行年(西暦);2005 出版社;角川書店
 上機嫌と不機嫌とでは単なる正反対の言葉ではないように想う。不機嫌ではあるが上機嫌でもあるということは日常生活には良く見られていることで、自分をまず一定評価したうえで、さらに自分を客観的に見ることもできる能力。それが上機嫌ということになる。現実に種々発生するトラブルについての著者の段取りはきわめて明確だ。
「一つは冷静に現状認識をし、物事を断定することでケリを付けていく遣り方。「これはこういうことなんだ」と現実をはっきり認めて、事柄に対して終結宣言をし、確定、肯定し、次に行く。たとえば「自分は不幸なんじゃないかしら?」ではなく、「自分は不幸である」と置かれている状況に対してきちっとした客観的意識を持つこと。不安は形が見えないときほど大きく襲い掛かってくるものです。正体を見定めてしまえば、頭を切り替えて次へのスタートがきり易くなる。いわば断言力を持つことです」という著者のセリフが熱い。そう「然り、ならばもう一度」という現状認識をふまえた肯定的な生き方をめざす。抽象的ではあるけれども十分なっとできる論理構造である。
 「然り、ならばもう一度」という発想を再び仕事の中でもう一度思えるかどうか。それがビジネスパーソンの次への仕事のジャンプ前の助走に似ているような気がする

財務会計第6版

著者名;広瀬義州 発行年(西暦);2006 出版社;中央経済社
 会社法・会社計算規則に肉薄した改訂バージョン。かなり出版を急いだようで、差し入れ有価証券などの担保は金融商品会計基準にて注記事項になっているはずだが前のままだったり、一部に商法施行規則がそのまま残っていたりと今回の改訂作業の大変さを知る。ただ非常に面白い内容ではあるので、854ページの大作ではあるが一気に通読。いわゆる「新井会計学」の後継者の中ではいまやもっともわかりやすい入門書といえるのかもしれない。仕訳の例示もかなり豊富で、会計学でもあると同時に複式簿記の入門書でもあると想う。

人生後半を面白く働くための本

著者名;小川俊一 発行年(西暦);2002 出版社;日本経済新聞社
 自分の内部を掘り下げる、自分のリズムを大事にする…というのはあちこちでいわれていることだが具体的にはどうずればいいのかは案外わからない。最近、脳関係の自然科学畑の人の本が売れているのは各種の実験などによる具体的データがあることではないかと想う。蛍光ペンや付箋の持ち歩きなどは具体的で参考になる。また前頭葉は人間だけのものであるので(人間と蛇のイラストが併記されている)、「相手の気持ちをくむことが大切」などというアドバイスも。う~ん…。

聴いておきたいベスト・クラシック100

著者名;横堀朱美ほか 発行年(西暦);1990 出版社;西東社
 古今東西のCDを中心としたベスト・クラシック本。バロック・交響曲・管弦組曲・協奏曲・室内楽・器楽曲・声楽曲・オペラの各編に分類して100曲がセレクトされており、当時の名盤とされていた録音がジャケット付で紹介されている。だいたいほとんど全部聴いてはいるが、それでもまだ入手していない名盤や聞いたことがない録音が満載。こういうガイドブックはやはり自分自身がまだ知らない録音でしかも他の方がお勧めされているものをチェックできるというのがメリットだと想う。ブックオフや地方の古本屋で思わぬときに欲しかった名盤が100円で売られていることもあるのでやはり読んでおくと色々楽しい。
 「ニュルンベルグのマイスタージンガー」(カール・ベーム指揮ウィーン・フィル・ハーモニー)
 「ベルガマスク組曲」(パスカル・ロジェ)
 「シシリエンヌ」(フォーレ作曲クリスチャン・ラルデ、マリー・クレール・ジャメ)といったあたりがこの本でチェックした録音だが、どこかできっと入手できるのではないかと思っている。これからまた古本屋さんをあさるのがまた楽しみだ。

お金と時間の投資学

著者名;和田秀樹 発行年(西暦);2005 出版社;PHP研究所
 実用度がきわめて高い内容の本。人生への投資という観点で「自分の才能や夢をいちはやく見限ってしまう人が多い」「これほどもったいないことはない」。という著者の立場からいったんだめだと思っても遣り方を工夫してみてもう一度チャレンジする精神が必要だとする。勝てそうな分野で勝負するとともに、夢に対する欲望をすてないで合理的な努力を続けることといったノウハウはやはり優れた考え方ではないかと想う。具体的なスキルなどが紹介された方法ではないが、認知科学の論理を素直に日常生活に活用させようとした名作の文庫版。

夢をつかむイチロー262のメッセージ

著者名 ;「夢をつかむイチロー262のメッセージ」編集委員会 発行年(西暦);2005  
出版社;ぴあ株式会社
 イチローの鋭い一言を262にまとめた言語禄。言葉の背景や時代なども解説が入っている。「スーパースターであるとかいう評価があったとしてもそういうものは動くのです」といったセリフに常人離れした客観視しているもう一人の自分を、このスーパースターは抱えているような気がする。イチロー関係の書籍の中ではこの262のメッセージをそれぞれ一言に1ページを割りふてて構成したこの本のコンセプトが非常にいいと想う。読みやすい上に、さらに何度でも読んで新たな感想をそのたびごとに抱くこともできる新書版サイズ。

野火

著者名 ;大岡昇平 発行年(西暦);1981 出版社;角川書店
 高校時代には教科書は現代国語では用いず、大岡昇平の「野火」をテキストとする研究授業がメインだった。当時にはかなり違和感があったが、今になっておもうと非常に幸福な授業を受けることができたのかもしれない。当時の書き込みや感想を記した文庫本が今もなお本棚の中にあり、しかもそれをこうして読み返している。
 当時はわかっていなかったであろう、フィリピンにおける米国の威嚇射撃と敗残兵の行方。そして、倫理と生存本能の格闘。ラストでは東京のある建物で当時を懐古するという形式だが、月の光や水などのアイテムの用い方はまさしくポエティックなイメージで、読んでいるうちに、田村一等兵とともに、あてもなく島の中を歩くこととなる。
 何を訴えたいのか、ではなく何を感じるのかといった高度な授業が今こうして自分のイメージをさらに拡大させてくれるのは、日本文学の名作中の名作だからかもしれない。

長期停滞

著者名;金子勝  発行年(西暦);2002 出版社;筑摩書房
 2002年当時の構造改革や市場原理主義導入に反対していた経済学者の本。現在ではデフレ傾向は一応脱したとされてはいるが、貯蓄過剰、マネーサプライ過剰といった論点はまだ残っており、これからはインフレ懸念と戦うのが中央銀行の仕事となる。インフレターゲット論はもはや陰をひそめたようだし、こうした長期停滞を心配する声もかなり小さくはなった。不良債権という問題がかたづきつつあり、不動産価格がおそらく上昇していることも無関係ではないだろう。ただ、構造改革路線がさらに進むとなると市場原理がさらに透徹されていくわけで、まだ国全体の消費や投資がどの水準に落ち着くのかは決定されたわけではない。「あたる」「あたらない」ではなく、どうしてそうなったのか、どうしてそういう予測がなされたのかといった理由に着目すべきだろう。
 新書ではあるがマクロ経済の基本的なテキスト程度の知識は必要な本でけっして読みやすいというわけではない。また国際会計基準についても筆者は批判しているが、ある程度批判の対象となっている国際会計基準について理解してからでないと、「国際会計基準を知らない」が、「いけないこと」という妙な「偏見」が植え付けられる可能性も。やや独断に走りすぎた感がないでもないが、それでも独特の着眼点と論理構成は呼んでいて面白い。

スルメを見てイカがわかるか!

著者名;養老孟司・茂木健一郎  発行年(西暦);2003 出版社;角川書店
 停止したもののとしての情報(スルメ)から生身の常に変化していくシステム(イカ)を理解できるか、といった問題提起の本。サヴァン能力、カプグラの妄想、プラトンのイデア論、ピラミッド(土建文化)がヒエログラフ(文字文明)に移り、都市社会の増殖を招くといった文明論、さらに「手入れ」という作業の重要さ。「考えてみれば、世界のほとんどのことは思いのままにならない。ならないからとって投げ出してしまうわけにもいかない。丹念に手入れをしつつ、あとは自然のプロセスの中から何がでてくるのかを楽しみに待つ。そうるすることが、結局、一番ストレスが少ないし、また創造的な態度なのかもしれないですね」という筆者の言葉がこの本のテーマになるのだと想う。面白い。

あなたの脳を元気にする本

著者名;米山公啓 発行年(西暦);2006 出版社;成美堂出版
 会話をすることなどを含めてコミュニケーションすることで、脳神経細胞が活性化するなど、具体的な例示が多くてしかも分かりやすい本。「人間というのは自分のことを自分でわかっているかのように思ってしまいますが、わかっていないことのほうが多いですし、それが普通のことなのです」といった割り切りも好ましい。また怒りなどストレスに直結するものをいかに発散していくかなどお医者さんらしい具体的な例示が多いのも好印象。「相手に対する怒りは別な行動に置き換えたほうが、長い人生ではメリットは大きい」といった何気ない一言がかなり有益な文庫本。

トイレ面白百科

著者名;アダム・ハート=デーヴィス 発行年(西暦);1998 出版社;文藝春秋
 トイレと下水関係の過去のエピソードをAからZまで百科全集のようにまとめたエピソード集。飛行機開発、潜水艦、鉄道といった乗り物関係から軍隊関係のマニュアル、聖書の中にでてくるスポンジの本来の意味など読んでいて非常に楽しい。また映画の中ではあまり出てこない英国の城壁からいかに汚物を捨てるか(ガードローブ・シュローブ)など歴史の裏側を見るのにも最適な本。ナポレオン展を見に行ったときにナポレオン愛用のクロース・ツールが展示されていたのを思い出すが、ナポレオンが皇帝を自称するようになってからのクロース・ツールとルイ14世のクロース・ツールの違いなどにも思いが及ぶ。英国ではやはりヴィクトリア王朝の時代に水洗トイレが普及しはじめたようだし、日本ではすでに藤原京の時代にトイレがあったことなど、日本についても思わぬエピソードが拾える面白い歴史本。さすが文藝春秋、単なる「面白本」にしないあたりがさすがだ。

数学物語

著者名;矢野健太郎 発行年(西暦);1940 出版社;角川書店
 執筆されたのが第二次世界大戦前の1936年というかなりの古典の部類。今からすると表現などにかなり「問題」がある部分も散見されるし、歴史的にみて「どうかな」という部分も混じって入るのだが、やはり面白い。数の概念やエジプト、バビロニアの時代の数学、ギリシア人の数学、パスカル、デカルト、ニュートン、オイラーの数学といったテーマを当時の定価90円で見事に紹介。矢野健太郎先生のはじめての著作物でもあったりする。やわらかい感じの語り口調と豊富な図版が好ましい。ただもう今では一般の書店では入手は不可能かもしれない。

2007年10月13日土曜日

図解頭のよい「超」記憶術

著者名;多胡輝  発行年(西暦);2006 出版社;ゴマブックス株式会社
「反復演習」の効果は前々からうすうす察してはいたのだが、心理学では復習を10回やると記憶の定着がほぼ確実になるらしい。1つのことから芋づる式に知識を拡充していうといったアドバイスや「日常生活を味方につける」「外からの情報が適切に分類されて記憶されるとより長く正確に記憶が定着する」(関係枠・フレーム・オブ・レファレンス)といったアドバイスは確かに有用かもしれない。フレームをしっかり構築すると実際に日常生活での応用範囲も広がることはほぼ確実ではあるし。

不勉強が身にしみる

著者名 ;長山靖生 発行年(西暦);2005 出版社;光文社
 ガシュトン・バシュラールや夏目漱石などを引用しつつ、近代と現代の「はざま」を学力あるいは社会性といった観点から柔軟に読み解く。「本来の自分」とは「もっと理想的な自分を夢見る状態」と切り捨てる一方で、自分が努力する一方で「他人もまた努力している」という事実を突きつけ、とにかく読んでいる一方で読者は常に著者から挑戦を突きつけられる形になっているかなりの名著。
 「社会人である大人が好きなこと、という場合、それは自分が完成させる仕事の結果に向かっての努力や途中の過程で生ずる軋轢やさまざまな調整の苦労は、自明のこととしている。何かを成し遂げたことがある人にとってそれは説明するまでもないことなのだ」(229ページ)という一節に非常に感銘を受ける。

わかる技術

著者名;畑村洋太郎  発行年(西暦);2005 出版社;講談社現代新書
 「わかること」とは頭の中にあるテンプレートと実際をあてはめること、という理系的な説明が感覚的によくわかる本。今やっている仕事の「課題」を意識化しつつ、仮説をたてたうえでそれを逆演算していくという方式や理解するためにさらに「上位」の概念に接近していくというアプローチが魅力的である。自分の仕事でいえば、直接データベースの設計にたずさわることはないが、データベースの仕組みを理解することでより情報を組織化して編集し、「知識」を「商品化」していくという作業を円滑に進めることができる。ネットワークやデータベース設計というのは情報処理技術者のみならず知にたずさわる人間ならば多少は知っておいて損はない分野ではないか、とこの本を読んで思った。

人は見た目が9割

著者名;竹内一郎 発行年(西暦);2005 出版社;新潮社
 2005年10月に発売した新書が入手した版では、2006年6月30日で34刷。すさまじい勢いの売れ行きだが内容が非常に面白いので納得。「ひげは劣等感のあらわれ」と解釈する著者の独断性とその理由がかなり具体的で面白い。ノンバーバル・コミュニケーションの観点で、言葉が参考にされるケースは7パーセントで残りはすべてイメージで解釈されるというその解釈の仕方にオリジナリティと「使える知識」が満載されているとみるべきなのだろう。「勘のいい女性」が勘がいい理由なども相当に過激ではあるが正しいように思われる。680円で1時間半は読書を楽しむことができるかなり面白い新書だ。

数の悪魔~算数・数学が楽しくなる12夜~

著者名 ;エンツェンス・ベルガー 発行年(西暦);1998 出版社;晶文社
 童話に数学を説明させたベストセラー。昔、一度読んだことがあるのだがもう一度読み返し。循環小数やパスカルの三角形などかなり高度な数の面白さをエピソードで紹介。そして順列の箇所ではかなり個人的にもいろいろな再発見ができる喜びが味わえた。必ずしも易しい内容ではないが、何度も読み返して数学のイメージを強化するにはやはり格好の童話なのかもしれない。エピソードが豊富で数学の面白さが楽しめる単行本だが最近廉価版の本も出版されたようだ。

僕は人生についてこんな風に考えている

著者名 ;浅田次郎 発行年(西暦);2003 出版社;海竜社
 「地下鉄に乗って」という文庫本を最初に読んだのが浅田次郎という作家を知る一番最初だった。その後「きんぴか」や「蒼穹の昴」といった作品を立て続けに読み、2003年度時点ではほとんどすべての作品を読んだのではなかろうか。「鉄道員」で直木賞を受賞する前のことだったのではないかと思う。その後ふとした拍子から浅田次郎作品からだんだん自分は離れていったもののこの「僕は人生についてこんな風に考えている」だけは処分できずにいた。楽観的というのでもなく悲観的というのでもなく淡々とした語り口で元極道だった著者がある種達観めいたことを書き連ねているのだがその語り口にほれ込んでしまったのかもしれない。「埋もれてしまう才能とか、報われぬ努力とか、武運つたなき敗戦とかいう現象は人生にままある。だがていてい、努力の利く人間はなんとかなるものだ」といった淡々として、それでいて前向きな姿勢を感じさせるアンソロジーがやはり読み返してみてもしみじみ良い。

ビジュアル愛蔵版ダ・ヴィンチ・コード

著者名 ;ダン・ブラウン 発行年(西暦);2005  出版社; 角川書店
 文庫本でなはなく約140種類の写真や図版も一緒に収録されたビジュアル愛蔵版の「ダヴィンチコード」を読む。図版クレジットや解説も含めると合計で621ページにもなる大型版だがジャン・フーケやアルブレヒト・デューラーなどの図版を適宜掲載されており、小説の世界がさらに深く楽しめるようになっている。粗筋自体ももちろん面白いミステリーなのだが、「岩窟の聖母」の絵画なども192ページにナショナル・ギャラリー版とルーヴル版の両方が比較できるように収められたり、サン・シェルプス教会の外観や内部などの写真が掲載され、具体的なイメージを頭の中に思い描きながらストーリーをおうことができる。「ヴィーナスの誕生」(ボティチェリ)も掲載され、ダビデの星やイシュタールとの関係などがすぐわかる編集上の「仕掛け」がしてある。ラストシーンもこの写真があればこそ、さらに深い意味が理解できるというものだ。美術ミステリーともいうべき推理小説だが、読んでいて歴史や美術、象徴などについてもいろいろな「理論」を教えてくれるベストセラーになるべくしてベストセラーになった作品であることを実感。価格4,500円はむしろ安いくらいであろう。

ラクして成果が上がる理系的仕事術

著者名 ;鎌田浩毅 発行年(西暦);2006 出版社;PHP新書
 ノウハウ本やハウツー本などは山ほどあり、私自身は結構そういうハウツーをわりとよく読むほうなのだが、実は実現不可能なハウツー本が大体8割、実現可能ではあるけれど非常に面倒なハウツーが1割と実は実際に日常生活で試すことができるハウツーは非常に少ないのが一般的。しかしこの本はひさかたぶりの大ヒット名作といえるほど優れた内容のオンパレード。斉藤孝の「会議革命、渡辺昇一氏の「知的生活の方法」、立花隆氏の「知のソフトウェア」など既存の名作を踏まえた上でデジタル製品がそろっている現在にクリエイティブな活動をするための実践例がやまほど紹介されている。書くことについては3つ、9つ、27と3のレベルで文章を構成していく方法や、資料整理の大切さやラベル化、概観化といった重要なテーマについても述べられており、今すぐにでもそうしたラベル化作業を進めたくなるほど使える知識のオンパレード。個人的には情報の収集に加えて情報の整理加工をするプロセスが重要で、整理加工することで理解がさらに深まる面もあるとはうすうす思っていたが、それを肯定してくれる優れた理系的仕事のノウハウが新書サイズでこうして出版されるというのは本当にうれしい。ひさかたぶりの実用本の名作の誕生だと思う。

7つの自立力

著者名;多胡輝 発行年(西暦);2000 出版社;角川書店
 「自立」って案外難しい。そもそも自立というのがどういう状態なのか定義するのが難しい。一定程度の年齢なのに仕事をしていないとかあるいは世間的に見てまずい状態は誰もが見て「ああ、自立していない」と思うわけだが、通常、他人をみて「あの人は自立している」などと評価する場面というのはほとんどない。おそらく「自立している」「していない」というのは本人の心の問題なのかもしれない。
 そこで多胡氏は著作物の中で自立という概念を7つの要素に分解する。
①知の自立力
②情の自立力(情報)
③気の自立力(チャレンジ精神)
④体の自立力(健康)
⑤頭の自立力
⑥愛の自立力(家族愛や恋愛など)
⑦金の自立力
 実際に社会的に見て問題が出てくるのは金(経済的自立)になるケースが多いのかもしれない。ただ「知識」や「情報」の自立というのは確かに難しいと思う。「ギブ・ギブ・アンド・テイク」で2倍のギブで1つのテイクが当たり前と著者はいうが貴重な情報は確かにいくらがんばってもなかなか入手できるというものでもない。戸籍年齢と機能年齢を分別して考えるなどいろいろなノウハウが紹介されてはいるのだが、どうもいまひとつ著者の言い分がわかるようでわからない。自立しない便利さと自立する楽しさを比較してどっちがいいか、という視点はなさそうだが、すべてについて「自立」しているとそのうちストレスが増加していくと思う。やはりある程度他人にいろいろ依存しつつ、こちらも依存されつつ、といった関係性こそが社会のあるべき姿のような気がする。

成功術 時間の戦略

著者名 ;鎌田浩毅  発行年(西暦);2005 出版社;文藝春秋
 この著者の別の「ラクして成果があがる理系的仕事術」が非常によくできたノウハウ本だったのでこの本も期待して読み始めるが…う~ん…。ちょっと抽象的すぎて、わかりにくい面もあり…。活きた時間とは時の流れをはっきりと自覚できるような時間などといった文章が逆にしらっとしてくる面も。スペシャリストについての定義はある程度参考にはなる。スペシャリストの3要件は以下の3つということになるらしい。
①とりあえず何かの専門家になる。
②どこでも通用する専門家になる。
③オンリーワンになる。
 確かにそれだけ「技」を磨くことができればスペシャリストと名乗ることはできようが…。

IDEA HACKS!

著者名;原尻淳一・小山龍介 発行年度;2006年 出版社;東洋経済新報社
 ちょっとした仕事上のコツのようなものを紹介してくれる優れもののスキル本。携帯のストラップにペンをつけるとかノートは時間で管理するとかいう方法はさっそく導入。メモとかノートはどうしてもジャンル別にしたがりたくなるものだがそれは本当に不便。ラベルで使用順序で、管理しておいたほうが確かにわかりやすい。またマインドマップの利点も紹介されている。「ドラゴン桜」の中でもメモリー・ツリーという形で紹介されているのだが、学習効果やアイデア発想などにも確かに使えるアイテムのようだ。最初は「得体」が知れない感じのノートだったが…。仕事用に自分専門の「辞書」を作るという発想も重要。自分だけのオリジナルスキルやナリッジを集積するのであれば、新聞雑誌の縮小コピーなどで構成された自分だけのオリジナル辞書をもっていてもとうぜんよい。ブランドの定義についても「普遍の価値を持つと同時に常に時代を感じさせるという矛盾を解決すること」と明確な定義がなされているのがまたかなりいい。

2007年10月12日金曜日

使う力

著者名;御立尚資 発行年(西暦);2006 出版社;PHPビジネス新書
 ビジネスパーソンの基本的な資質として①人間力②経営知識③使う力④業界・社内常識の4つが上げられている。人間力については一定程度個人の資質という制約があるし、一定の業界で生きていくためには当然業界全体の流れや社内常識にも通じていることは必要だ。経営知識というのもある意味当然で原価意識や利益獲得といった財務的スキルがなければビジネスには当然ならない。そこでもうひとつは使う力である。
 インプットは大量に集めていても実際に他人とコミュニケーションをとる場合にはインプットを駆使してコミュニケーションをとらなければならない。使う力とは「一種の」課題設定能力とその課題にむけての戦略的道筋のことを具体的にはさすものと思われる。究極のビジネスとはできるだけ正しい情報を集めて適切な意思決定をし、さまざまな情報を加工・統合してから人と組織を動かすといったことになる。その具体的な方策としてあげられるのが①ロジカルシンキング②図解の技術③モデル構築④定量化⑤グラフ思想⑥クリエイティブシンキングということになる。けっして楽な内容が述べられてるわけではないが面白くて最後まで読んでしまった。課題と過大にいたる正しい努力の積み重ねをいかに積み上げていくかはかなり重要なスキルでもある。ともすればロジカルシンキングとpowerpointのスキルをばらばらに習得してしまいがちだが、「共通理解を組織内で確立」するという目標さえしっかりしていればpowerpointなどを利用したプレゼンも相当にわかりやすい内容になっていくはずだ。そうした「作りこみ」思想をいかに今の自分の仕事に打ち込めて行くかが、今後の自分の課題と実践の「課題」になるのだろう。

超高速整理術

著者名 ;壷阪龍哉 発行年(西暦);2005 出版社;成美堂出版
 どうしたって書類も書籍も増えていくし、一年に一度捨てると決めてはいてもやはり書類はキャビネットからあふれメモの類は収集がつかなくなるくらいあまりだす。とはいって情報自体の重要性は認識しているのでメモの類をとらないわけにもいかない。
 パソコンとこうしたメモの類の関係をうまく使うことや書籍とパソコンの関係というのは結構悩ましい。というのも、書籍にはやはりパソコンには移植不可能な情報の一覧性や貯蔵性といった性質があるためでいろいろな人の整理方法などは一応読むことは読むがすべてがそのまま自分の役に立つわけでもない。この本でもB6のメモをあちこちで利用するといったアイデアは試してみようかな、とは思ったが、やはり情報の入手方法や活用形態が違う以上どうしても本の内容をそのまま実行に移すというわけにもいかず…。パソコンもハードディスクが壊れると○○ギガものデータが一気に使えなくなるという怖さがある…。

京都白情

著者名;荒木経惟 発行年(西暦);1996 出版社;新潮社
 もう発刊されて10年目になる天才アラーキーの京都を舞台にした写真集。けっして綺麗ではないが、しかし迫力がある女性たちの写真集であり、日本の「古都」京都の町並みや普通の生活風景が撮影されている写真集。これはもはや才能というか感性のレベルなのだろうが普通の人間が撮影して編集した場合にはおそらく見られたものではない書籍になるはずがなぜかトータルにまとまっていてしかも見ているうちに感動するというのが天才の天才たる所以なのかもしれない。
 だれもない加茂川の春の風景に赤の文字でアラーキーの京都所感が述べられそれがこの写真集の始まりだ。祇園のビアホールに舞妓さんたちの何気ない表情。お祭りの風景にただライトにてらされた人間の顔の連続。カラオケで手を打ち鳴らすホステス。かしこまるバーテン…。そして京都の町並みを闊歩する「鮎子」…。ただ単に着物をきて京都の春にたたずむ女性がこれだけほどに感動的なまでに存在感をみせるのは、なぜか。

 ただこの写真集は古本屋で入手してしかもイメージは頭の中に刻み込んだのだが、手元にはもはや置いておかないほうがいいのかもしれない。京都のアラーキーのイメージがあまりにも強烈過ぎてこれから出張したときにみる実際の京都との落差には耐えられないではないか。

天使と悪魔(上)

著者名;ダン・ブラウン 発行年(西暦);2003 出版社;角川書店
 「ダヴィンチコード」の前作に当たる作品。象徴学を専攻しているハーバード大学教授のラングトン。スイスからの突然の連絡を受け現場に向かう。そこにはすでに消滅したはずの科学を尊重し、逆にバチカンに敵意を燃やすある団体の記号が記されていた。
 その団体はアサシン(殺人者)を雇い、反バチカンといった立場からイスラムやフリーメーソンといったほかの団体との強く結びつき、ガリレオ・ガリレイもその名前を連ねていたという…。歴史的建造物や美術品の象徴を読み解き殺人事件の謎に迫る手法はダビンチコードとほぼ同じ。ただダビンチコードがキリスト教のシステムや歴史について最新の学説を紹介したものであることと対比するとややパワーダウンか。それでも面白いラングドン教授シリーズ。上巻と下巻の2巻セットでダビンチファンならばついでみすぐ読みたくなってくる作品だろう。

勝負強さを鍛える本

著者名;ジョン・マックスウェル 発行年(西暦);2006 出版社;三笠書房
 あの斉藤孝氏の翻訳。ノウハウ本なのだが斉藤氏がひごろとなえている「技」とか「息」といった概念と非常に通じる内容がある。人生はフェアではない…といった前提から話がはじまるわけだが、フェアではない土壌の中でいかに自分のスタイルを確立していくかといった技を紹介。ある程度生きてくると人生はアンフェアなことだらけであることに気がつくが、そのアンフェアな土壌の中でいかに個を確立していくかという問題になるのかもしれない。責任逃れはたやすいが結果からは逃れられないといったまぎれもない事実を目の前につきつけ、その上でどうしたらよいかを考えさせてくれるという内容。タイトルは奇抜だが、内容的にはしっかりした書籍ではないかと思う。

仕事の選び方・人生の選び方

著者名 ;安田佳生 発行年(西暦);2003 出版社;サンマーク出版
 人生を安定させるのは貯蓄ではなく能力の貯蓄…というフレーズが魅力的。たしかに貯蓄はインフレなどがあれば値崩れしてしまうものだが能力の値崩れというのはインフレ以上に起こりにくい。働く方法には会社以外にも数百通りの働き方があるなど内容的には大学生向けの内容だが、社会人にとってもこれからどういう方面でのスキルアップをはかるべきかというアドバイスがもらえる内容になっている。変化を重視するとともに変化するためにまず自分の客観的認識をすることなどあたりまえのことではあるが、そのあたりまえのことができていないケースがこの世には案外多いことにも気がつかせてくれる本。

天使と悪魔(下)

著者名;ダン・ブラウン 発行年(西暦);2005 出版社;角川書店
 「ダヴィンチコード」の後に発売された美術ミステリーだがこちらもかなりの売れ行きのようだ。下巻の初刷りが発売されたのは、2003年10月30日で入手したのは2005年5月15日22刷り。とんでもない売れ行きだが、内容的にはやはりいまひとつ。四大元素を手がかりにイタリア、ローマあるいはバチカン市国の中を走り回るラングトン。さらには宗教と科学の二大対立をテーマに、最後の秘密が明らかにされるとき「ヤヌス」のもうひとつの顔が明らかとなる…。システィナ礼拝堂と最新の化学兵器との対比がそのままタイトルの「天使と悪魔」になるわけだが…。ただ面白いことは面白いので上巻から下巻まで読み通すのはあっという間だ。語り口のうまさはやはりさすがのもの。

変わる社会、変わる会計

著者名;石川純治 発行年(西暦);2006 出版社;日本評論社
 日常の新聞記事から会計を取り巻く社会情勢や会計基準の動向を解説した本で非常に面白い。ライブドアショックやカネボウの粉飾決算などはもちろんエンロン事件から始まるFASBの会計基準見直しなど直近の会計に関する事件を題材にして、新会社法についてもストックオプション会計、退職給付債務などいろいろなテーマをコラム形式で切り取る。いきなり割引現在価値などの用語がでてくる本よりもおそらく実践的な内容になっているのではないかと思われる。また日本版概念フレームワークの動向など今後を見据えた意見も収録されており非常に興味深い。お値段は270ページ前後で1900円とちょっと割高感があることはあるが、実際にかかった値段よりも確実に内容の充実度がまさるいい本だと思う。

お金とツキが転がり込む習慣術

著者名;和田秀樹 発行年(西暦);2005 出版社;祥伝社
 運・不運というのはもちろん非科学的なものだが「結果」からある程度原因を把握していこう、あるいは結果を出すことを最優先するという認知科学の立場からするときわめて合理的な考え方ともなる。つまり運がいいように自己認識してしまい、あとは合理的な努力を積み重ねるという作業が後にくる考え方である。
 人間はどうしても悪い記憶のほうが残りやすいようにできているため余計な悩み事がでてきたりもするわけだが、そうした癖を認識しつつ、「悪い記憶は残っているけれども自分は運がいいので一定の結果をだすことができる」といった割り切りが大事になってくるのだろう。そして最後は一種のアウトプットの重要性で「行動」の重要性ということにもつながる。なにかしらの結果を出すためにはとりあえず行動しなければならないというあたりまえのこと。このあたりまえのことをどれだけ認識できるかが、おそらく日常生活の潤いというか生活のハリみたいなものを作り出すのではないかと思う。

知らないと恥ずかしい大人の作法

著者名 ;ライフ・エキスパート 発行年(西暦);2004 出版社;河出書房新社
 どうしても最近はお中元を出すよりももらうことのほうが多くなってきている。そんなときにやはり困るのはご返礼を申し上げるときなのだが、やはり最初はなるべく早くお手紙でご挨拶を申し上げるということで、いかに早くお手紙を出すことができるかがポイントになりそうだ。筆者は手紙・切手などは常に持ち歩くことを提唱しているが、私も最近郵便切手のストックや手紙セットなどはある程度机の周りにおくようにしている。やはり、電子メールでは通じない心配りといったものが手書きの手紙やはがきにはあるように思える。
 またネクタイの選び方についても非常に参考になる。どうしても柄の派手なものを選びたくなるがこの本によればネクタイにおける基本的作法は「見た目に目立たないこと」ということになる。むしろ「彼のネクタイはこうだったな」などと連想されるほうが失礼にあたるようだ。無地のネクタイが一番だが、英国紳士の間ではネクタイに用いる色は3色以下というのが基本らしい。特に黒のシルク・ニット・タイなどは汎用性のあるネクタイということになるらしい。ネクタイだけが目立つことなく品格があり、なおかつ粋を感じさせる…といった領域までネクタイ選びを考えるにはやはり映画などを見て感性を磨くことが最大のトレーニングになるようだ。

2007年10月11日木曜日

1日4分割の仕事革命

著者名;野村正樹 発行年(西暦);2005 出版社;日本経済新聞社
 時間術の極意は「整理と管理」と定義して一日を4分割にして考える。4つというのは縦軸に「仕事の時間」「自分の時間」、横軸に「一人の時間」「集団の時間」とマトリックスにして、それぞれ4つの時間にふさわしいすごし方を考えるというもの。確かにこうすると一日の過ごし方はたとえば以下のように分類できるかもしれない。
①一人の時間・仕事の時間…作業・業務
②集団の時間・仕事の時間…会議など
③一人の時間・自分の時間…読書・映画・パソコン
④集団の時間・自分の時間…家族とすごす時間
ということになる。資格取得などのスキルについても以下の3つのプロセスが提唱されており興味深い。
①役立つ資格を見極める
②勉強時間を一年に500時間確保、一週間に10時間確保
③平日1時間、休日5時間の勉強時間確保
 確かに大まかな計画をたててから小さな計画にブレイクダウンしていうと一週間あたりの時間数に到達する。
 さらに整理をするためには「こまめに捨てる」というのと分類の単純化(だいたい5分類ぐらいか))。

夢を実現する戦略ノート

著者名 ;マクスウェル 発行年(西暦);2005 出版社;三笠書房
 斉藤孝氏による翻訳と解説付き。前作の「その他大勢から抜け出す成功法則」はかなりの大ヒットとなったがこの本ではさらに目標設定と目標設定に至る課題をいかにこなすかということを説明してくれている。
 自分自身の場合の最終的な目標というのは古今東西の簿記会計処理などについて網羅的かつわかりややすく構成した参考書や問題集を作成することだが、そのためにはまず自分自身が最新の会計基準や法令などにはもちろん、受験スキルや受験テクニックなどにも通じている必要性がある。何をどこまで学習するかは人それぞれ違うとは思うが読書もスキルもこの最終目標を達成するための客観的条件ということになる。
 いったん目標設定をしてからその目標を見失うことなく4年間でも5年間でも地道に努力や工夫を重ねることをまたこの本であらためて再確認できる。読みやすくて値段は1400.翻訳者がいうように本から「もとをとる」というこよさえできれば大成功ということになるが、まさしく私個人にとっては大成功の本である。

東大式絶対情報学

著者名 ;伊東乾 発行年(西暦);2006 出版社;講談社
 一般ビジネスパーソンあるいは東大駒場の「情報」のサブテキストを目的として出版された本だが非常に読んでいて、著者の厳しい自己規律と倫理観を感じた。それが辛い部分もあることにはあるのだが、マインド・コントロールを絶対にさせないというその倫理観の根拠は書籍の後半でとあるエピソードで明らかにされる。何単位を想定された授業かは不明だが、学生にとってはおそらくかなり厳しい授業ではあるだろう。ただし一生懸命履修すればおそらくかなりの実力となって将来の自分にかえってくる内容であることは確かだ。変わる情報リテラシーとして知的反射神経の育成について語られ、手と目と脳の活用方法。さらにメールの書き方、マジックナンバー7による認知、予防公衆情報衛生、ネットワーク・コラボレーション、オリジナリティの3つのルーツ、知識情報のコア・コンピータンスの順序で語られる。
 7月の持込不可の期末問題は合計3問で、クロード・シャノンの情報量の定義を対数関数で著述させたり、卒論型レポートの進行を線形計画法、オペレーション・リサーチで立案させるといった経営工学のスキルまで要求するというきわめて高度な内容を1500円でこうして本にしてしまう講談社という会社もすごすぎるが、それをまた実際に書籍として具体化・現実化してしまうのも凄すぎる。優秀者の名前と文章も掲載しているが、そのうちの一人はマイクロソフトの当時CEOのビル・ゲイツと実際にあったことがありそれをまた授業で発表しているという凄さだ。「知識の洪水に流されない本質を捉える知」というものへ到達することの困難とすばらしさを思い知らせてくれる名著といっていいだろう。

50歳からの活力人生

著者名 和田 秀樹 発行年(西暦);2003 出版社;講談社
 50歳からの感情の老化や健康の老化などの対策について語られている書籍。ヤング・オールドの今後の日本経済に与える重要度と感情の老化が50歳から急速に高まる点を医者の視点から指摘。もちろんその50代を念頭において30代、40代のうちから準備を進めておくのがベストだが、著者は50代になってからさらにその後の10年、20年といったスパンを考えてできることをやっておけという警告を発する。確かにほうっておいたらそのままだが、思い立ったとそのときからメンテナンスをすれば状況はかなり改善される。学習することや行動することのメリットを説く実学的な好著。

何かを心配しているときそっと開く本

著者名 ;アン・ウィルソン・シェイフ 発行年(西暦);1998 出版社;KKベストセラーズ
 う~ん…。なんというか売れ損ねた「小さなことにくよくよしない」シリーズの精神科医フェミニストバージョンといったところだろうか。悩みや心配をとにかくするな、というのが基本的趣旨のようだが、心配することのメリットというものについては一行たりともかかれておらずここまで徹底できる信念には逆に感服するしかないのかもしれないが…。
 新書サイズ189ページで定価がなんと1105円という価格設定にもやや首をひねる…。「試験に出る英単語」のような濃密な内容であればこそ一定の価格でも需要は見込めると思われるがそうでないケースで強気の価格設定は相当に読者にとっては大きなハードルになるのではないかとも考えられる。タイトルだけではすごく刺激的ではあるのだが…。内容面と価格面とのバランスが必要な書籍商品だったともいえるかもしれない。

ビジネスの心理法則

著者名 ;多胡輝 発行年(西暦);1996 出版社;ごま書房
 これまでに出版された「深層心理術」「言葉の心理作戦」「心理トリック」「人間心理の落とし穴」といった4つの書籍のうちビジネス関連の内容をまとめて新刊として出版したもの。編集の着目点がいいのだと思う。特に営業職などには有用なスキルが紹介されているのかもしれない。ただしいわゆる「一般化」の度合いがやはり激しい内容なので、ある程度まで読んだ後は、現実の世界で「鍛錬」したほうがむしろビジネスを進めやすい場面が増えてくるのではないかとも思われる。まあ、いわゆる「心理学ネタ」として楽しむのが一番の本だろうか。フロイトなども引用されているのだが…う~ん…。ちょっと…時代が進化しすぎたのかもしれない…。

大人のマナー~コツのコツ~

著者名 ;本間匠 発行年(西暦);2000 出版社;KKベストセラーズ
 案外忘れているのが、食事の際のマナーや冠婚葬祭のときのマナー。お祝いの仕方なども含めてタイミングや相場といったことにも注意が必要だと思われる。まめにこうした書籍に目を通しておくと突然の会食ということになってもおそらくあわてる必要性はそんなにないだろうと思われる。軽く読んで役に立ちそうな部分を取り込んでいくにはちょうど良い本。いざというときのためにこうしたマナー関係の書籍についてはやはり普段から辞書代わりに持っておいたほうが良いということも再認識した。

こうすれば論文はできあがる

著者名 ;花井等 発行年(西暦);1988 出版社;ネスコ
 やはりカードからアイデアを導き出すというKJ方式をベースにした論文作成のスキルを紹介。カードは確かに便利でいろいろなアイデアを寄せ集めたりするのにはパソコンとは違うメリットがあるように思える。考え方が視覚化できるので、機械的に作業しているつもりが自分でも思っても見なかった結論がでてくるのもメリットだが、しかし、カードは手書きが基本なので非常に時間がかかるのが難点。とはいえ論文は頭だけで考えていてもいいものができないので、多少手間が必要でもカードにしておくのはいいことなのかも。ただあくまでこれは学者のように研究室など一定のスペースが確保できている場合にはいつもつかえる手法だがはたして一般人のように場所も時間も少ないケースでいつも使えるスキルばかりではないように思える。

黒い経済人   カテゴリー 経済学        

著者名 ;有森隆 発行年(西暦);2003 出版社;講談社
 フリーのジャーナリストがよくぞここまで取材して、しかも発表できたものだという感慨を覚える。かなりリスキーなお仕事ではなかっただろうか。特定の何某巨大組織と「闇金融」のつながりでは年間数千億円の収益(貸付金額のことではないかと推定される)をあげたその実態に迫る。多重債務者をめぐる名簿データのやりとりや、顧客情報を管理するソフトシステムなどについても紹介。裏社会に表社会のフランチャイズシステムを持ち込んだ冷徹な経営者の様相を取材。さらにK-1関係の事件やゼネコンがらみの裏金融とのつながり。青木建設が倒産した当時の状況などがレポートされる。
 そして個人的に一番圧巻だったのは、あおぞら銀行の初代社長の自殺をめぐるレポートだ。自殺をされたのは日本銀行出身の「元エリート」。三社共同所有となった当時の状況がいくつかの仮説をまじえて語られるのだが、こうした「仮説」を土台にしているとはいえ身近な当事者から取材を綿密に重ねて言った様子がうかがえる。金融債背委員会のレポートなども著述されているが、今から見ても信じられないような経営状況にあったようだし、ストレスもかなりのものだったのだろう。さらに他のシステム金融や紀州をめぐる金融事件などとオーバーラップさせて読者には、うすうす真相とはいえないまでも、ある程度の「推察」ができるように書籍では編集されているように思える。
 ラストにはエンロン事件などアメリカの状況を含めて一冊の本にまとめあげ、2006年現在の時点で今後を予測する意味でも貴重な資料となりうる本だと思う。すごいジャーナリストではないだろうか。

「すぐれた考え方」入門~「考える力」をつけるための心理学~

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2006  出版社;三笠書房
 日経アソシエに連載されていたコラムを1冊にまとめた書籍。和田秀樹先生のいわゆる「推論」「メタ認知」といった用語の紹介から経済や政治をグレーゾーンでみる方法を学ぶ1冊。グレーゾーンで物事を考えていくといったときに筆者が用いている「分散」の使用方法がユニークではないかと思う。分散は確率統計の用語で「データ」と「平均値」の差を2乗してさらにそれを全部足して(総和)、さらにデータ数で割ったもの。一般に分散が大きいほど結果がぶれることを意味するが、ここからさらに「分散の値が大きくなればなるほど人間の関心を喚起する」と和田氏は指摘する。
 たとえば宝くじやギャンブルなどは分散値がかなり大きいがゆえに結果はぶれるが、結果がぶれるがゆえに人間の好奇心を呼ぶ。また自動車事故に実際に遭遇する確率も分散値がきわめて大きい現象だが、巨額の賠償金が発生するのでドライバーは自動車保険に入る…というものの見方だ。分散という無味乾燥な値をこういう形で応用できる姿勢はすばらしいのではなかろうか。

2007年10月9日火曜日

経営実践講座教わらなかった会計

著者名 ;金児昭  発行年(西暦);2002 出版社;日本経済新聞社
 著者はかなりの苦労人だ。大学に入学するときに二浪してその後信越化学工業株式会社へ。さらに連結子会社に出向となって営業業務などを経験してそれから経理部に配属されている。税務調査そのほかを繰り広げていった経験値がその後実を結んだようだが、そのソフトな語り口で会計学を実務家の視点から解き明かしてくれる。連結会計制度が主になったころの本なので、まだ税効果会計などが導入されたばかり、連結納税制度はまだ導入前という時点の本だが、インパクト・ローンはもともと開発融資に用いられていた言葉だが今では外国から借り入れてくる借入金のことをさすとかLABOR1・5パーセントを「いっかにぶんのいち」と読むとか実務家なりの合理主義を見るようなエッセンスにふれる気がする。複式簿記の理解があれば理解は深まるだろうが、タイトルとは裏腹に入門者には厳しい内容かもしれない。退職給付会計についてもわかりやすい説明がされているがこれもまた複式簿記で一定程度年金の数理計算上の差異などを算出していないと何がわかりやすいのかもわからないままになる可能性も。資材購買と経理・財務の関係や為替予約の実際の流れなど堅実経営を死守した経理実務家のエッセンスをこの本では学ぶことができる。特に1980年代前半の円高不況のころのエピソードなどは読んでいてちょっと辛くなる場面も。会計学は人間を幸せにしなくてはならないという信念がひしひしと伝わる本。

きょうのシネマは~シネ・スポット三百六十五夜~

著者名 ;山田宏一 発行年(西暦);1988 出版社;平凡社
 う~ん、この方の映画論というのがいまひとつわからない…。「わからない」というよりもなぜプロの映画評論家なのに推薦されている映画に感情移入できないのかがわからない。わかろうとしても無駄なことにはエネルギーはつぎこめないが、何をどうしたいのかもわからないままこの1988年の映画評論の書籍を広げてさらに「不可解さ」が増す。人によって何が「いい」のか「悪い」のかはもちろん変わってくるのはもちろんだが、素人とプロの差異というのがあるとすれば、素人の印象批判や象徴批判に対してプロのそれなりの「機軸」といったものが示されてしかるべきだが、映画評論でそうしたプロの領域に達しているのはお亡くなりになった淀川さんと蓮見重彦先生くらいなのかもしれず…。冒頭の映画だけでもいくつか疑問点が…「フレンチコネクション2」…う~ん…「勝利への脱出」…むむ…「ロング・グッドバイ」あ、これは良かった…「スティング」むむむ…もっともこうした「あれこれ談義」がまた映画の楽しさなのかもしれないという謙虚さはもちろん持ち合わせているのだが…。

石の花①~侵攻編~

著者名 ;坂口尚 発行年(西暦);1996 出版社;講談社漫画文庫
 読んでいて非常に辛くなる漫画なのだが、それでもやはり夏のこの時期には…。巻頭の言葉として「いろどる千の葉が夏をおりなすこの星にて」と始まるこの漫画は、1941年スロベニア地方のとある農村から話が始まる。すでにドイツ、イタリア、日本が三国軍事同盟を結び、ポーランド、デンマーク、ノルウェー、オランダ、ベルギーが陥落。ブルガリア、ルーマニア、ハンガリーは三国軍事同盟に参加していたという状況だった。14歳のクリロとフィーは平和な中学生生活を満喫していたが。、ある日突然ドイツ軍の急襲を受け、ユーゴスラビアはナチス・ドイツ、イタリアなどの占領下に置かれる。5つの民族と4つの言語、3つの宗教と2つの文字が混在する寄り合い所帯のユーゴスラビアでは、どうしても一致団結して戦うという雰囲気がなく、セルビア人偏重だった旧体制に不満だったクロアチア人の多くはナチスドイツの組んでウスタシとよばれる独自の特殊部隊で反ナチス分子を弾圧・摘発しはじめる…。そんな中チトーがパルチザン部隊の組織化を始める…。
 終始暗いトーンの中でクリロ(翼)は「現実をのみこむ」ことをせずに終始疑問をナチスにもユーゴスラビアにもなげつける。天才坂口尚は、ユーゴのゲリラ部隊の中の女性蔑視やユダヤ人蔑視などのエピソードを取り入れ、「力」の論理を徹底的にこの第1巻で描写していく…。

石の花②~抵抗編~

著者名 ;坂口尚 発行年(西暦);1996 出版社;講談社漫画文庫
 ユーゴスラビアに侵攻していたナチスドイツは独ソ不可侵条約を破棄してソビエト方面に部隊を投入。ユーゴには4個師団のみが残留するが、独ソ開戦とともにユーゴスラビア共産党はパルチザン部隊を結成。共産主義に対して一種の「うさんくささ」を感じていた山岳下ゲリラも祖国防衛のために共産党のパルチザンと合流する…。その一方でドイツ軍との商談を開始するスロベニア人なども暗躍。民族意識や国家意識といったものを超えた人間模様がさらに展開されてきて読んでいて圧倒されるような人間絵巻がぞくぞくと…。すでにラストは知っていて歴史の経過も明らかではあるが、それでもなお、再度よみかえして気づく坂口尚の描いた人間模様はとてつもなく暗くそして暖かいまなざしのようだ。クロアチア人のウスタシなどその後のユーゴ紛争の火種になる種々の出来事についても綿密に描写されているすさまじい第2巻。

石の花③~内乱編~

著者名 ;坂口尚  発行年(西暦);1996 出版社;講談社漫画文庫
 セルビア人を中心とするチュトニクとパルチザンとの間での内乱が続く一方、もともと民族の寄せ集めとされていたその「くさび」をナチス・ドイツはひたすら利用していく。そんなさなか、パルチザンは志願兵をつのり、ユーゴスラビアを一体化してナチスと戦おうとする。ただクリロはそんな「力」と「力」の戦いにも限界を感じ、さらに敵はナチスだけではないことにもうすうす気がつき始めていた。
 少年兵の組織化やもともと価値観がフリーだったジャーナリストが共産主義化していく様子なども細密に描写。人間模様の複雑さが増していく一方で、やりきれないほど残酷なシーンをこれでもかこれでもかと凝縮して書き続ける坂口尚のとてつもない執念を感じる第3巻だ。

文系のための「Web2・0」入門

著者名;小川浩 発行年(西暦);2006 出版社;青春出版社
 入門と銘打ってある新書にしてはかなり難しい内容ではないかと思う。具体的な「2・0」の定義は示されないが、それは漠然としたウェブの使い勝手のよさのすべてを総称していることと、おそらくOSに依存しない形でのウェブが主流になっていくことを著者は主張する。また売り上げ構成におけるパレートの法則がだんだん成立しなくなっていくとともに、ロングテール(消費者層の裾野の広がり)などについても解説。次の時代のビジネスモデルも提示していく。特に今後グーグルベースというビジネスモデルの進化に興味をもっている理由も著述。
 ネット販売などが始まったころには予測がつかなかったビジネスモデルは、無料でコンテンツを提供して、その代わりにアフィリエイトなどの広告料で収益を拡大していくというもの。こうしたビジネスモデルでは、いかなるコンテンツで消費者を誘引して、さらにはいかなる広告を掲載することで収益を拡大していくか、といった方向性にビジネスモデルが変化していく。そうなるとウェブ配信などでの株価情報や教育情報といったものよりも、いかにたくさんの「クリック」を喚起できるかというのがビジネスの主眼になっていく。いずれは世界中の情報をウェブ配信できるようにするという世界のデジタル化までグーグルは想定しているのではないかという仮説が興味深い。

石の花⑤~解放編~

著者名 ;坂口 発行年(西暦);2006  出版社;講談社
 シシリー島は連合軍にうばわれ、イタリアローマも連合軍の襲撃を受けた。連合軍のイタリア上陸を阻止できなかった場合、ユーゴスラリア在沖のドイツ軍司令官に責任が呼ぶのは必定と思われた。チトーはたくみにパルチザンをまとめあげ、その独特の哲学が必ずしも社会主義に対しては好ましくなかったゲリラ部隊にも一定の未来が約束されてきたように思える。スロベニア出身のフィーはユーゴのユダヤ人収容所内の劣悪な環境下からそれでも逃れようとせず毎日のナチスの重労働を請け負っていた。そして二重スパイだったイヴァンはかつても恋人ミリカの前で銃殺される…。

 そして革命が樹立。ナチスドイツの脅威をはねのけたパルチザンは服務規律をたかめ新たな国家の創造を今度は共産主義に託す…。すべてが暗く地味に進行していく状況にあって、それでも生き残ったものたちにまたたび現れる「石の花」…本当の数パーセントであっても「善」の意識が蓄積されていけば見事な結晶体が作り上げることが出来ることを地獄を経験してきた最後に残った二人は知る…

上流に昇れる人、下流に落ちる人

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;幻冬舎
 非常にまた面白い企画本だがこれまでの認知科学を基礎としたビジネス書籍と希望格差時代を組み合わせた一冊。仕事とプライベートをきっちり分ける人は「下流」などわりと常識的な範囲内での見解が目立つ。多少不義理をする人などについての点数が甘いのが気になるが、お中元やお歳暮などはやはりまめにチェックしてお送り申し上げたり、あるいは年賀状や残暑お見舞いなども丁寧に出す人のほうが個人的には好ましいのだが…。
 63タイプについての著述で、そのうち8割ぐらいは日常生活に取り込めそうなアイデアが掲載されている。

時間とムダの科学

著者名;大前研一ほか 発行年(西暦);2005 出版社;プレジデント社
 「なぜあなたは企画倒れに終わるのか」といったテーマが面白い。目標がしっかり確立されていないから企画倒れになるというのが解答だが、きちんとした目標設定は明確な言葉で第三者に伝達することができる、というのもビジネスの経験者の貴重な「知恵」の表れであろう。人・モノ・時間の3つの制約条件をしっかり考慮して立案した目標があれば、確かに企画倒れということにはなりそうにもない。
 前向きの努力していることに加えて目標に向かって正しい努力をする、というのがおそらく正しい努力の現われではないかと思う。いくら努力を積み重ねても見当違いの努力では目標には達成できない。いかに目標までの道筋を合理的に構築できるかできないかがポイントになるのだと思う。

12歳までに身につけたいお金の基礎教育

著者名 ;横田濱夫 発行年(西暦);2004 出版社;講談社
 他人と比較することの無意味さや消費者金融の怖さ、予算の重要性などをいかに子供に認識させるかといった視点の本。「おごる」「おごられる」といった関係の中でも、「組織をつくり統率していくには親分肌がもとめられる」という点ではそうした「おごり」「おごられ」の関係があってもいいが、「人からひっぱってもらうのに向いている人」までもがおごるというのは不幸な結果を生むことがおおいといった日常から生み出されたお金の教育ケーススタディ。「一度断ったにもかかわらず相手が何度もすすめてくる商品にはろくなものはない」といったずばっとした切り口がやはり魅力か。

2007年10月8日月曜日

ウェブ進化論

著者名;梅田望夫 発行年(西暦);2006 出版社;筑摩書房
 話題のベストセラーだが内容はそれほど易しくはない。ただインターネットが「学習の高速化」を招く一方で一定レベルでの「大渋滞」をまきおこすことや、オープンソース現象やブログと総表現社会など今巷にある問題とこれからまきおこるであろう「玉石混交」の時代から「情報の玉」だけが選別される社会などいわゆるウェブ2・0の時代を見事に解明。ビジネスモデルについてはインターネット初期のころからは大きく変化したことをうかがわせる内容の濃い新書だ。

連想活用術

著者名;海保博之 発行年(西暦);1999 出版社;中央公論新社
 「連想」のもつ洞察機能・癒しの機能・活性化機能・創造機能のうち、特に活性化機能と創造機能の著述に非常に興味をひかれる。知識のネットワークを構築するのには実際のLANと同様にノードとノードにリンクをはって命題ネットワークのようなものを構築すればよいとされる。それをさらに視覚的に表現したものがネットワーク表現だがこのネットワークを活性化させること=知識をすぐ使える状態にしておくことに連想が役に立つという趣旨だ。全体を意識した学習や深い意味づけ、実際に知識を外に出してみる、といった方法が有用と著者は指摘するのだがこの「視覚化」というのは「図」にすることではないかと思う。さらに創造性を発揮していくためには自発的に新たな知識と知識のリンクをはっていく…という作業になるわけだが現在のインターネットの発達と平行して考えてみると著者の指摘はすぐさまいろいろな日常生活に応用可能ではないかと思う。新書タイプだがそれほど易しい内容ではなくかなり難しい用語も記述されているのだが、それでもかなり「使える」新書であると思う。

極道放浪記

著者名 ;浅田次郎 発行年(西暦);1997  出版社;ワニブックス
 直木賞作家浅田次郎氏の「悪い時代」の物語。かなり前にこの本を読んだときにはまだ著者は直木賞を受賞される前であったが、この時期の浅田次郎は本当に面白かった。当時出版されていた小説やエッセイの類はすべて購入して読み、今でもなお保有しているのは「地下鉄に乗って」とこの「極道放浪記」シリーズだ。「そもそもカネというのは、苦労して作った本人だけしかその重要性はわからない」といった何気ない一文が非常に胸にしみる。

斉藤孝の勉強のチカラ!

著者名 ;斉藤孝  発行年(西暦);2005 出版社;宝島社
 いわゆる「受験勉強」入門のような書籍だが、社会人が「この忙しいのになぜにさらに勉強などしなくてはならないのか」などと自問自答したくなったときにも有効な本ではないかと思う。勉強することと社会生活には大きな関係があるということを前提にして、知識や理論を獲得することで「いかに自由になるか」というテーマを追求。教養は好きだけれども勉強は嫌いという風潮も著者にかかってはばっさり。一種のトレーニングと解釈すれば数学も物理も役に立つという主張はわりと個人的にも納得できる主張。「多くの知識があることこそ勉強における自由」という主張にもまた感じるところが非常に…。いかに自分に知的興奮をまきおこせるか、というテクニックを紹介してくれているわけだが、こういう内容の書籍がもっと社会人にも読まれていいように思う。参考書籍としてあげられていた「ローマの歴史」(モンタネッリ著)もすごく読みたくなるし「暗記にも習熟がある」などといった勇気がでる言葉のオンパレード。

極道放浪記②

著者名;浅田次郎 発行年(西暦);1995 出版社;ワニブックス
 思えば10年前に購入したこの本は自分のバイブルのようなものでもあるようだ。当時「企業舎弟」だった直木賞受賞作家浅田次郎氏の際どい生活が笑いをまじえて紹介されているわけだが、「刑法」の「起訴便宜主義」の解釈などは刑法の専門書籍を読むよりも実践的だ。さらに当時の警察署留置場見取り図なども収録されており(今では大分改善されたとの話もあるが)、詐欺の手口から整理屋(サルベージ)の手口まで本当に細かいところまでよく考えられた「生活」だ。
 とはいえ別の書籍で明らかにされているように筆者はその「悪行」の生活のさなかにも机の前に座って小説の練習を怠りなく重ねていたようだ。座っていた場所がくぼんでいたというから、名作の筆写も含めて相当に文章の練習をされたらしい。すべてが綿密な努力と鍛錬による、というゆるぎない自信がこの本にはあふれているが、苦労と忍耐の中で蓄積された生活の知恵と才能を感じ取ることができる。「自由の中の自己管理こそが真の束縛」といった明確な定義づけも筆者の「自己管理」の厳しさを想像せしむる一節ではなかろうか。

場の空気が読める人読めない人

著者名 ;福田健 発行年(西暦);2006  出版社;PHP新書
「独りよがりな思いやり」「ほめたつもりで相手の気を悪くさせる」「自慢話で場の空気をしらけさせる」「自己弁護に終始」「場違いな状況で正論」「愚痴だけこぼす人」「業績が悪いとどんどん悲観的になる人」…と巷でよく見かける人のタイプを類型化。気まずさ解消のコミュニケーションの術を紹介する本だが、これは一種のマニュアルなのではたしてどこまで現実に応用可能かどうかは疑問な点も。

食いしん坊な脳 うつになる脳

著者名 ;スティーブン・ファーン著・石浦章一訳 発行年(西暦);2001 出版社;中経出版
 無菌状態の脳、脳の色、脳の感触、一芸に秀でる脳(サヴァン症候群)、水銀に侵された脳、縮む脳、犯罪を犯してしまう脳といった魅力的なテーマで特集された「脳」の本。果たしてどこまで科学的なのかは別として、犯罪者の脳の中に「犯罪を犯すことによってクリミナルハイとよばれる状態が出現する」などといったハードウェア重視の分析は(目新しいものではないが)もっと探求されてもよいテーマであることは事実。もしハードウェアのなにかしらの問題点が実際の行動に影響を及ぼすのであれば、もう少し裁判所なり刑法なりといった制度のあり方も変わらざるをえなくなってくるだろう。ただいずれもエッセイ風の著述であり、科学的根拠がいまひとつ乏しいのは難点か。面白いことは面白いが実生活に役立つ部分は294ページもあるわりにはあんまりないのかも。著者のスティーブン・ファーンはオーストラリア在住の人類学者だとか。

ハゲ、インポテンス、アルツハイマーの薬

著者名 ;宮田親平 発行年(西暦);2001 出版社;文藝春秋
 東京大学医学部薬学科卒業後、文藝春秋社に入社されたというやや変わった経歴の宮田氏による薬品レポート。薬の吸収メカニズム(小腸でほとんと吸収される)や、薬品の開発状況などについての詳細なレポートだが、やはり深刻なのはアルツハイマー関係の薬品の開発で、アセチルコリンの欠乏によってアルツハイマーが発症するという仮説にたつとするとどうすればよいか…といった視点からの著述も。脳の可塑性(適切に脳が使用されれば樹状突起が再生するなど)といった観点からも薬品について著述がされており、内容的には結構ハードな新書かもしれない。

文学部唯野教授

著者名 ;筒井康隆 発行年(西暦);1990 出版社;岩波書店
 やっぱり面白い。物語の伏線になっているエピソードはいずれもあの大学のあれ、この大学のこれといったいろいろ類推が利くものなのだが、あれからもう10年以上たってみると肝心の文学部そのものが解体しはじめている。現在の大学のほとんどでは文学部ではなく人間総合科学部やらなんやらと名称を変更しており、地道な英文学や国文学などの基礎研究をしている大学はかなり少数になってきたといえる。テリー・イーグルトンの「文学とは何か」を基礎とした印象批評・新批評(ニュークリティシズム)・ロシアフォルマリズム・現象学・解釈学・受容理論・記号論・構造主義・ポスト構造主義といった文学批評の基礎的な分野がすべて網羅されているのがまた楽しい。結局この本がかなり当時売れていたのはまだ文学というものに対して世間がある種の「夢」をみていたからかもしれない。

天皇と東大(上)

著者名;立花隆 発行年(西暦);2005  出版社;文藝春秋
 上巻だけで800ページ近いボリュームの大作だが、それでも一気に読み通さざるをえないほどの著者のエネルギーが伝わってくる力作だ。上巻では勝海舟や伊藤博文の時代に洋学中心の教育機関を作らんとして東京大学が設立され、さらに日清戦争、日露戦争をへて、3・15事件で共産党関係者が逮捕されるまでを描く。そのはざまで大逆事件や大正デモクラシーといった明治・大正・昭和初期のおもだった事件や時代の風潮も描写されており、タイトルとは裏腹に日本という国家が明治初期から昭和初期まで必ずしも思想的あるいは経済的なイデオロギーや統一的な思想のみでは動いていなかったことが示される。そして巻末ではいわゆる国家改造主義などの台頭を描いて終了するのだが、もはやこれは日本の近代というものの一断面を鋭く描いた歴史であり、タイトルに限定されるような内容ではない。そして著者がこの時期にやはりここまでこだわらざるをえなかったのはやはり「学問」がもつ「危うさ」といったものへの警鐘ではなかろうか。実際著者が膨大な資料から描き出した時代の流れの中ではこの東京大学あるいは東京帝国大学といった存在は必ずしも中立普遍でもなければ、常に正しい「学問のありかた」を示していたわけでもない。近代日本の中で時には、大きくその進路を時には「左」ときには「右」にとダッチロールを繰り返していたことが明瞭に著述されている。

2007年10月7日日曜日

天皇と東大(下)

著者名 ;立花隆 発行年(西暦);2005 出版社;文藝春秋
 上巻と同様に約800ページの大作。上巻では3・15事件や血盟団事件のころまでが著述されていたが、下巻ではさらに佳境に入って、滝川事件、美濃部達吉の天皇機関説問題、統帥権干犯問題、ゾルゲ事件、満州事変、2・26事件、神宮H氏と人間魚雷「回天」、矢内原忠雄追放劇、東京帝国大学経済学部三国志など「大日本帝国」から「日本」へ至る歴史が「東京帝国大学」を舞台に描写される。この下巻は1945年8月15日で終結するのだが、学問というもの、大学というもの、学者というものを豊富な文書とデータをもとに著述される。歴史に対して、これほどまでのアプローチができるとは実はこの本を読むまで思っていなかった。時代の雰囲気こそがまさに「軍国主義調」の時代だったからこそ園中でオリジナリティを貫きとおした学者ももちろんいたわけだが、経済学部の歴史がその後マルクス経済学に特化して近代経済学には遅れをとった理由も下巻では明らかにされる。
 巻末の参考文献一覧は今後の日本史の中でもおそらくかなりの重要書籍リストとして機能するのではないかと思うほどの充実ぶり。707ページから740ページまでに展開されている資料はすごい。さらに索引もまた担当編集者の意地がかいまみせるほどの充実度で、トータル34ページの索引は上巻と下巻をさらに項目別に検索可能にしてくれる優れもの。天才ジャーナリスト立花隆氏の渾身の傑作歴史ルポタージュであると思う。

アーレントとハイデガー

著者名;エルジビェータ・エティンガー 発行年(西暦);1996  出版社;みすず書房
 1924年.ユダヤ系哲学者のハンナ・アーレントは実存主義哲学者マルティン・ハイデガーのもとで哲学の授業を受講する。そしてこの二人はその後、片方は「黒い哲学者」としてナチス党員となり、片方はアメリカに亡命して全体主義に対して抗議の声をあげる。この二人はその後距離をへだてながらも第二次世界大戦をへて1975年までお互いの関係を続ける。ヤスパースなど他の哲学者との交流も描写されるが、基本的に年齢も離れたこの二人の関係はまさしく成熟した恋愛関係であり、しかもお互いの思想的距離は果てしなく遠いという…。二人の間でかわされた書簡をもとにナチズム、第二次世界大戦、そして60年代、70年代と時代の流れを描写していく。まさしく圧巻としかいいようがない「人生」の交差点。「現存在」って結局は、こうした「想い」から由来するものだったのか、とふと思う。

理解する技術~情報の本質が分かる~

著者名;藤沢晃治 発行年(西暦);2005  出版社;PHP新書
 かなり使える内容でしかもある程度効果が期待できる「経験則」をずらっとチャートにしてくれた便利な新書だ。アウトプットを前提としてインプット作業をする。したがって情報の本質を理解しておくことが重要だ、ときわめてわかりやすい前提からスタートしてくれて、しかも「アウトプットを前提にした情報収集をしなくてはならない」(したがってpowerpointによるプレゼンなどは相当に情報の本質を理解するのに有用だ、という結論となる)。頭の中で「分かりにくい文章」を「分かりやすくする」作業、情報の大きさを分析してなるべく小さくしていく、情報の構造を分析する、論理性を追及する、なるべく情報をグループ分けして共通点を探していく…といった使えるスキルが満載。特に情報を80対20の構造で分析して、ウェイトの高い重要なキーワードを20パーセント抑えておく、といったスキルやなるべく図のたくさん入った入門書を選ぶといたテクニックも紹介。さらに比較の表や図式化のメリットなども。720円は割安な感じのする新書。ただ図式化が重要といいながら、肝心のこの本にはわりと「図が少ないのではないか」といった疑問はやはり残るのではあるが…。

わが家の夕めし

著者名 ;アサヒグラフ編 発行年(西暦);1986 出版社;朝日新聞社
 昭和61年発行の文庫本で、おそらく今は絶版となり一般の書店では入手不可能な文庫本ではなかろうか。とにかく登場人物がすごい。田村高廣、岡潔、沢村貞子、遠藤周作、林家三平、湯川秀樹、壇一雄、松本清張、小田実、井上ひさし…といった方々が家族と一緒に晩御飯を食べているところを写真にうつし、それにエッセイを書き加えるというもの。貴乃花満さんの家族写真では奥さんと一緒だし、作家の壇一雄さんの横には小さな壇ふみさんが、そして井上ひさしさんも奥さんと一緒に移っているし、唐十郎さんの晩御飯の風景には大鶴義丹さんの幼きころが一緒に撮影されていたりとちょっとした昭和の歴史モニュメント。市川房枝さんの質素な晩御飯は往年の故人の生き方の質素さをしのばせるものもあり…。こういう文庫本が現在古本屋さんでしか入手できないのは非常に残念。現在タレントさんの貴重な昔の写真などはかなりインターネットにアップロードされているが、この手の写真はさすがにインターネットでも入手は難しいと思われる。すごい。

書類&情報整理術

著者名 ;日経ビジネス 発行年(西暦);2006 出版社;日経BP
 目標をたてるとその後は情報と時間の効率的配分の問題と位置づけ、「欲しい情報」「必要な情報」をすぐに取り出せるようにするテクニックを紹介。クリアファイルで情報管理するのは私もやっているが、なるほどクリアホルダに一か月分の情報やプロジェクトごとの情報を全部放り込むというのもひとつのテクニックではあるなあ…。手帳一冊に全部をまとめてしまうという方法や、カバンの持ち方などにもこだわり、モバイルパソコンを効果的に使っている人のやり方も参考になる。基本的にはアナログの情報をいかにパソコンのデジタル情報に落とし込んで、しかも上手に整理していくかというのがテーマだから、メモやノートからデジタル情報、さらに加工、整理といった具合に進行していくテクニックは非常に参考になる。

奇跡の快眠法

著者名;ジェームス・ワース 発行年(西暦);2002 出版社; 三笠書房
 人間の脳の中の2つのひっぱりあい(眠らせようとする力と起こし続けようとする力)というのが興味深い。睡眠衝動と時刻依存性覚醒作用ということになるがこのバランスをうまくとるのが「快適睡眠法」ということになるようだ。ただいろいろなスキルが紹介されてはいるものの、結局は寝る時間と起きる時間を各自で設定してなるべく規則正しい生活を送る…ということにつきるようだが…。

グーグル~Google既存のビジネスを破壊する

著者名;佐々木俊尚 発行年(西暦);2006  出版社;文藝春秋
ウェブ2・0という現象に対して解説をした本の中では一番具体例にとんでいて分かりやすい。破壊戦略、サーチエコノミー、キーワード広告、ロングテール、アテンションなどを空港そばの駐車場の広告展開やメッキ工場の営業データベースなどの工夫の具体例をとりあげて展開していく。個人のウェブの場合、広告というのはさほど問題にはならないが、広告に営業効果を期待する企業にとってはグーグル検索でヒットするかしないかは、かなりの問題だ(今では企業のウェブページにそのままアクセスするケースはむしろ少ないだろうから)。特にロングテール現象は品揃えから販売手法までを根底から変える現象だということがよくわかる。

人生後半戦のポートフォリオ

著者名;水木楊  発行年(西暦);2004 出版社;文藝春秋
 時間とモノ(商品)、カネはトレードオフの関係にあるという前提で、ポートフォリオを後半戦にたててみるという本。個人的に「会社時間」を自分時間に組み込むという発想が好き。また勤務時間の6割を「面白い」と感じているのであれば…というわりと実行可能性があるのもいい本だと思う。さらに「どんなつまらないことでも将来への投資という視点を入れるとなんらかのプラスは発見できる」というアドバイスも魅力的。自分なりに何か付け加えるものがあるのであれば、自分への投資という発想や自分への投資は無形資産の蓄積といった割り切りが好ましい。

46億年の100大ニュース②

著者名 ;渡邊健一  発行年(西暦);1997  出版社;扶桑社
 東インド会社設立、コーヒー文化、ロイズの誕生、喫煙習慣の流行、パンフレットの流行、チャールズ二世が残したネクタイと三時のお茶、ペローの童話、ルイ14世とハイヒール、ワット商会…といった魅力的なテーマを31、第2巻で紹介。ハリウッドの黄金時代と出雲阿国を重ね合わせるなど筆者の歴史を楽しもうという姿勢がうかがえる1冊。さらにラストはダーウィンとスペンサーの社会進化論を重ねて論じるなど編集の技の見事さにも感服。

初等ヤクザの犯罪学教室

著者名 ;浅田次郎 発行年(西暦);1993 出版社;ワニブックス
 善良な市民が陥る「犯罪」の落とし穴として飲酒運転と大麻が紹介されている。どちらも「うっかり」ではすまないほど執行される刑が重い、という意味だが、特に飲酒運転については先日何某地方団体の職員が懲戒免職になっており社会的な問題としてまた脚光をあびつつある状況だ(関連して朝日新聞社の記者も飲酒運転で懲戒解雇となっている)。いろいろなエピソードが紹介されているが一番印象ぶかいのは整理屋とよばれる会社が倒産したときにあらわれる「債権者」の仕事のやり方。確かにこれができれば犯罪者としてはかなりの知能犯に属するのだろうが情報や金融の「表」と「裏」の両方の知識が必要、というくだりにプロの真髄をみる。もっとも著者はすでに小説家として表の世界では文化人に属する世界にいってしまってはいるのだが…。

2007年10月6日土曜日

暮らしてわかった!年収100万円生活術

著者名 ;横田濱夫 発行年(西暦);2004  出版社;講談社
 元有名地方銀行の行員だった筆者が文筆業に入ってからの年収100万円で暮らす「術」を紹介。年収300万円よりもさらに3分の1に圧縮した生活ということだが、かなり面白いし実はいろいろな形で実生活に応用が利くので一種の「金銭感覚」を磨くにはいい1冊だと思う。
「人間として一番恥ずかしいのは、自信過剰や思い上がり、そして思想や哲学の欠如でしょう。お金のあるなしなど、たいして問題ではありません」というスタンスにはh上に好ましい感じを覚える。

EQマネージャー

著者名;デビッド・カルーソ、ピーター・サロベイ 発行年(西暦);2004 出版社;東洋経済新報社  
 感情の識別、感情の利用、感情の理解、感情の調整・管理の4つのスキルについて分析を加えた本。「計画をたててやらせる」ということだけでは組織が活性化しないのはもちろんだが、「やる気」をいかに引き出すか、愛着の深い事業からいかにやる気をなくさせずに撤退するかといった現実的なテーマで論述されている一種のビジネス本。やる気ひとつにとっても感情の調整・管理が必要という視点だ。ただエピソードが豊富なわりには具体的な対処方法などが示されていないケースが多く、読んでもそのまま日常生活に応用できるかどうはきわめて疑問ではある。

頭がいい人、悪い人の仕事術

著者名 ;ブライアン・トレーシー 発行年(西暦);2005 出版社;アスコム
 失敗の原因追及よりも問題解決を…というのはやや違うような気がする。一応失敗したならそれについて原因や対策を講じていったほうが将来的に大きなミスを防止することが出来るように思うのだが…。ケアレスミスは小さなうちにはそれほどの問題ではないが、大きな失敗になると再起不能に近くなってくる。ただ情報入手のリストは結構役に立つかも。本を読むこと、自分に投資すること、専門分野の雑誌や業界紙読むこと、一日の最初の1時間を自分に投資すること、というのは結構自分で実践してみても効果が大きい「技」ではないかと思う。
 160ページたらずの本だが価格は1000円。う~ん、この価格設定自体がやや「失敗」ではないかな、とちょっと思ったりもする…。

よくわかる債券先物オプション

著者名;住友信託銀行ほか 発行年(西暦);1991 出版社;経済法令研究会
 債券先物オプションが利用されはじめたころの一種の商品紹介書籍だが、現在よりも金融商品の構図がシンプルなので非常にわかりやすいと思う。取引代金の授受や差金決済などもおそらく今から金融商品を勉強しはじめるよりも当初の原始的な形態のほうがおそらく頭に入りやすい。シンセティックや損益曲線などページの片隅に重要用語の解説が掲載されているのも非常に便利。

脳内リフレッシュ

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦) ;2006 出版社;新講社
 主に50代の読者を想定した内容で、しかも定年以後の生活にいろいろなアドバイスをおくっている。とはいえ、一種の「備え」や覚悟を今から身につけておくのは大事なことだとは思う。実際、人によって老化のスピードやあり方はかなりばらばらであるし、いずれにせよ自分自身も身体的・精神的老化をいかにして折り合いをつけていくのかというのは課題でもある。
 組織内の「硬直した前頭葉の取替え」という発想は厳しい言い方ではあるが、なるほどという気持ちもした。確かに、共感する能力などは、衰えていく可能性があるし、そうなると社内・社外との摩擦も相当に増えていくことになる。ではどうすればいいのか、というと一種の「快体験」を大事にする…という著者の主張になるわけだが…。

権威主義の正体

著者名 ;岡本浩一  発行年(西暦);2005 出版社;PHP新書
 認知科学の方式で「権威主義」を分析しているが、これが非常に面白い。形式主義や自己自賛など権威主義が陥りやすい現象を箇条書きで説明してくれるのもわかりやすくてよい。「謝りが正しにくくなる」などといった会社の風土や時には国全体の風土などへの警鐘にもなる本といえるだろうか。権威主義というのは別に国家だけの問題ではなく組合組織やすべての政党組織など、枠組みにしばられない集団組織には、共通する問題点ではないかと思う。特に昨今権威主義的な言論が非常に増えてきた印象があるので、もっと多くの方に読んで欲しい新書だと思う。

脳の力こぶ

著者名 ;川島隆太・藤原智美 発行年(西暦);2006 出版社;集英社
科学と文学とで「脳」のあり方、教育のあり方について討論された本。川島隆太氏の「何をすれば前頭前野が活性化するかはわかっても、それで脳機能が向上するかどうかまではわからない」といった慎重なスタンスが好ましい。読書の重要性など基本学力についての言及も参考になる。

周りがチャンスをくれる人はこんな人

著者名;和田秀樹  発行年(西暦);2006  出版社;新講社
 チャンスがもらえる人の真似をして自分もチャンスをつかむようにすることが大事、というのが筆者の意見。確かに呆然とチャンスをつかむことはできないのだから、チャンスのめぐり合わせのいい人の「真似」をするのが一番効果が高い方法かもしれない。
進むべき課題を設定したうえでいろいろなコミュニケーション活動を拡大していくというやり方はこれまでにもいろいろな異業種交流会などで展開されてきたが、いまひとつそうした研究会で実りのある実績というのはでてきていないような気がする。抽象論としてはきわめてこの本のいうとおり。だが具体的にはどうすればいいのか、という視点がやや著述不足かもしれない。

46億光年の100大ニュース①

著者名;渡邊健一  発行年(西暦);1993  出版社;扶桑社
 地球の誕生、生命の誕生、地球最初の環境破壊、人はなぜ化粧するのか、西暦の誕生といったテーマで世界史を横断的に解説。ヴィスコンティの時計というコラムでは時計による時間の支配の始まりを解説。ただ単にエピソードの紹介に終わっているのではなく、現在の生活にも密接に関係をもつ歴史あるいは文化を紹介。3分冊構成の書籍だが非常に面白い。

46億光年の100大ニュース③

著者名 ;渡邊健一 発行年(西暦);1997 出版社;扶桑社
 ニヒリズム、デパート(消費社会の誕生)、「無意識」の意識、西洋の没落、テレビの登場、コンピュータの登場、DNAの正体、ミニスカートの考察といった近代に入ってからの100大ニュースの特集第3弾。やはり面白い。ビートルズの形式的平等性が隠れた人気の秘密とする分析やディズニーランドの歴史からディズニーの幼年期の思い出の分析をするなど、巻末の豊富な参考文献に裏付けられたエピソードの紹介がたまらなく魅力的。またミニスカートと長髪についての考察はおそらく現在のゴスロリなどの分析にも通じるものがあると思う。

2007年10月5日金曜日

試験勉強の技術

著者名 ;柴田孝之 発行年(西暦);2001 出版社;ダイヤモンド社
 82個のヒントから構成されている現役専門学校の名物講師の試験対策技術。スクールを過信することなく、自分自身で勉強していくこと、スランプの乗り切り方など具体策が提示されており、非常にわかりやすい。もちろんそのすべてを実践できるわけではないが、少なくともスクールや教材選びなどのテクニックも含めていろいろな形で応用して自分自身に取り込める。

驚異の時間革命77のヒント

著者名;黒川康正 発行年(西暦);2002 出版社;成美堂出版
 時間のすごし方を商品の在庫や時間給で考えるという手法はおそらくこの黒川氏が第一人者ということになるのだろう。ややアナログ機器に偏りはあるものの今でもその手法を各人で応用することはできるはず。音声関係のものは現在ではIPODということになるし、電話関係では携帯電話に置き換えていけばよい。ただ毎日毎日時間に追われているとおそらくパニックになってしまうので、ほどほどのところで時間管理もやめてノンビリするほうがいいケースもあるかもしれない。
 メモやスケジュールなどは「等しくルーズリーフ形式で」という提案にはなるほどとも思う。使い捨てのメモやアドレス帳よりもやはり「取替え」が利くケースのほうが後々楽なことは楽だ。

知らず知らずのうちに「朝型人間」になれる法

著者名;税所 弘 発行年(西暦) ;1997 出版社;講談社
 うーん、確かに朝に強いと一日がかなり活性化することは間違いない。で、朝型になるには夜早く寝る…。シンプルにいえばたぶんそういうことなのだろうと思う。夜型で体調を崩すケースはだいたいやはり夜には面白いことがたくさんあるため、眠る時間がかなり減少する、ということで他にさしたる理由もないような・
 ただ昼寝の効果だけは確かに相当大きいと思うことは事実。

誰でもできる危機管理

著者名;金井祐一 発行年(西暦);2001 出版社;東急エージェンシー
 元SPの筆者は日常生活を基点として危機管理の法則を紹介してくれる。実際のたたき上げの警察官らしい「厳しい」自己管理、危機管理の法則が説かれるが、本で紹介されているいくつかの事例を読む限り、危機管理をある程度想定した行動をしていないとかなり痛手をこうむることがわかる。「異常」「変化」を早めに見極めるとともにそもそも「トラブル」が発生しやすい場所には近づかないといった具体例がわかりやすい。
 実務能力の育成など人材育成などにも言及された一種の組織論みたいな内容もあり非常に実用性の高い本ではないかと思う。

本の森の狩人

著者名 ;筒井康隆 発行年(西暦);1993 出版社;岩波書店
 ほとんどが文芸時評ということでやや難解な文学理論が飛び交うが、それでもやはり異才筒井康隆の文芸評論は面白い。サバテールの「物語作家の技法」や小西嘉幸の「テクストと表象」、デビッド・ロッジの「素敵な仕事」など評論を扱っている作品そのものをさらに評論してしまう新書って面白い。発売は今から10年以上も前になるが内容的には今読み返してみても新鮮。

女子大生会計士の事件簿DX2  

著者名 ;山田真哉 発行年(西暦);2003 出版社;角川書店
 現役の公認会計士による会計的なミステリー娯楽小説といったところだろうか。会計学が題材なだけに結構地味な総勘定元帳や売価還元法といった用語もとびかうのだがそれぞれのエピソードのあとにはちゃんと用語集がついている。無味乾燥な簿記用語もミステリー仕立てで見事なエンターテイメントになるという不可思議な小説。でも確かに面白いわけで。
 資金管理、偽造された伝票、売上原価が上昇する理由など実務色にあふれた題材8つが収録されている。ラストには読者からの質問コーナーなども設置。

ぢん・ぢん・ぢん

著者名;花村萬月 発行年(西暦);1998 出版社;祥伝社
 最初から最後までヴァイオレンスで、しかもラストには、美しいエンディングとは対極のそれこそ「終わり」といった設定が用意されている。ヒモとして活きようとするイクオは美少年で通じる20歳で新宿にでてきていろいろな大人からあちこちを紹介されてうろつきまわるという一種のビルディングスロマンともいえる青春物語。かつてはこの本をバイブルのようにして持ち歩いていた自分も「文学」「編集」「彷徨」といったところからずいぶんきてしまったなあ、などとふと我に立ち返る効果も。こういう効果でおそらく「電子ブック」じゃ無理なんだよなあ。最初から最後まで哲学的な会話でいろどられている異色の長編A5版664ページ。エンターテイメントとしても十分すぎるほどの迫力で読ませてもらえる力作。

1分間ですべてが決まる!

著者名 ;吉田たかよし 発行年(西暦);2004 出版社;サンマーク出版
 目標を小刻みに設定して陣取り合戦のように自分のスコアを拡大していくとともに、さらに電信柱を1分間ごとに目標として設定して駆け抜けていく…といった方法が紹介される。長時間の仕事も1分間のブロック思考で固めていくというちょっと真似がしにくい方法ではあるのだが…。記憶方法も1分間で集中しそのためにシステム手帳を利用すると言う発想はちょっと面白い。新聞記事からコピーからすべてシステム手帳に張り込んでしまっているのだが、こういう貼りこみそのものは個人的にも結構好きな方法ではある。

仕事で差がつく手帳の技術

著者名 ;長崎快宏 発行年(西暦);2005 出版社;ぱる出版
 主にシステム手帳の使い方についてフリーのジャーナリストの観点から解説。もちろんビジネスパーソンとジャーナリストとでは情報の扱い方は相当に異なると考えるべきではあるが、手帳についてはまず試行錯誤をすすめて自分の使いやすいようにどんどんリフィルをいえれかえることと、パンチ機器などでオリジナルのリフィルを作成することなどが参考になる。さらに、リフィルをこまめにいれかえて、分類法でカードのようにリフィルを再整理しておくとそれなりの情報のデータベースができあがる(専門のバインダーなどもる)という手法も紹介。9割のメモは捨てていくことになると著者は述べているのでおそらく一般人としては95パーセントはまず捨てることを覚悟でメモをしていくことになるだろう。イラストメモの効用やリフィルの再整理といった発想はこういう手帳関係の書籍を読むと非常に活用がきいてよい。

「超」手帳術

著者名 ;野口悠紀夫 発行年(西暦);2006 出版社;講談社
 個人的には「超整理法」を実践しているわけではないのだが、筆者の言っている趣旨はわかるし、その主張に応じて各個人が実生活にあわせて応用していけばいいのだと思う。「超整理手帳」についても店頭で一応見ることは見たのだが、自分個人はこれからシステム手帳を使うことにした。パソコンからA4サイズのファイルをプリントアウトしたとしても最近の6穴サイズのシステム手帳には見開きでA4サイズの書類を見開きでみれるようなリフィルもある。実際、すでに作成していたA3サイズのアドレス一覧は、縮小コピーしてリフィルに閉じこんでしまった。いわゆる「TO DO LIST」もリフィルに書き込んで蛍光ペンで消去していく方式が個人的になじんでおり、後はスケジュール管理の問題だけとなるが、これも一年、一ヶ月、一週間といった単位でリフィルで管理することができる。あとは住所録などであるが、これはよほどの非常事態でないかぎり携帯電話で対応可能で、しかもデジタルで保存するよりも手書きのメモや年賀状などで管理していたほうが実はデータ保存が物理的に安全だ。目標をたてて順序良くプロセスをこなしていく…といったのが理想的ではあるが人間だれしも「ものぐさ」なもの。そうした自分自身の「ものぐささ」や突然のトラブルなども記録しておくと案外数年先に自分自身で再び経験やデータの再利用も可能んあると思う。

2007年10月4日木曜日

100の悩みに100のデザイン

著者名 ;南雲治嘉  発行年(西暦);2006  出版社;光文社新書
 新しいことをはじめるときには「赤」、笑いが欲しいときには「黄色」、辛いときには「緑」と色彩心理学の説明から始まるこの新書は、部屋の整理や仕事の片付け方など日常的な悩み事を「デザイン」という観点から整理統合した生活用新書といえるだろうか。色を絞ったりアクセントカラーをつけたりといった工夫を日常生活にいかに練りこんでいくか、テンプレートを100ほど示してくれた便利な本。必要な情報をゲットしてそれを活用するのもデザイン理論で部屋の整理もデザインとなるとかなり悩み事は整理されちゃうわけだが、それならそれでまた新たな問題点が発生してくるわけで…。

ダ・ヴィンチ・コードの「真実」

著者名 ;ダン・バーンスタイン 発行年(西暦);2006 出版社;竹書房
 「本格的解説版」とうたっているだけあって、おそらく西洋史などの専門家ではないのかもしれないが著者のダン・バーンスタインが、端正に学説を整理してくれる。そしてある意味好奇心を誘うテーマほど慎重な学者の立場の学説も紹介しているのには好感が持てる。パリ、ロンドンの地図やガリラヤ湖湖畔の地図や地中海沿岸の地図、さらに章立てはダン・ブラウンのインタビューに始まり、第1章「秘密結社」(シオン修道会、オプス・デイなど)、第2章レオナルド・ダヴィンチとその秘密 第3章失われた福音書(ナグ・ハマディ文書やグノーシス主義など)、第4章初期キリスト教、第5章マグダラのマリア、第6章聖杯と「聖なる女性」、さらにダビンチコードの人名録もついて価格は648円。ニケーア公会議やコンスタンティヌス帝など世界史の知識の整理にも役立つのではないかと思う。

ユング~地下の大王~

著者名 ;コリン・ウィルソン 発行年(西暦);1988  出版社;河出書房新社
 フロイトが学生時代かなり分かりやすい反面、かなり抵抗感を覚えたのも事実。そしてユングについては何やらオカルトめいたものも感じたりして(特に共時性や集合的無意識といったような概念)結局心理学についてはまともに履修しないまま卒業。そして幾多の経験をつんで分かってきたことは、フロイトの象徴理論や夢分析といったものはある意味知識や理論を受容するだけの立場だと非常にわかりやすい。しかしユングのいわば能動的想像とか、第1パーソナリティ(現実的な自分)と第2パーソナリティ(根源的な無意識)と曼荼羅に代表される4つの分類、そして現実に対する働きかけを重視していく立場はフロイトの無意識理論があまりにも19世紀に与える影響が大きかったがために逆にアードラーなどと並んでこの19~20世紀には必要な理論だったのではないか、というようなことを感じる。ただおそらくこうした感想は学生時代にはいだけなかっただろうから、ある程度、自分なりに試行錯誤してみて「能動的想像」といった言葉にも一定の理解が示せるようになるのかもしれない。呪術やグノーシス主義といったいわば「ダヴィンチコード」の応用編としても読める心理学の書籍だ。河出書房新社はこんないい本を1980年代には出版していたのだなあ、などとふと感慨も。

歴史の中で語られてこなかったこと

著者名 ;網野義彦・宮田登 発行年(西暦);2001 出版社;洋泉社
 新書サイズであの網野義彦先生と宮田登先生の対談が読める幸せ。しかも洋泉社さんは歴史の専門出版社ではないはずなのに、「歴史」にこだわる新書が結構出ているという幸せ。映画「もののけ姫」を題材に語られる第1章で「たたら」など製鉄と「農業」と「養蚕」などの関係性について概論。さらに農業中心史観がもたらした「女性の役割」についての両先生の考察。そして織物の歴史、老人の歴史と現在の「談合」、地図から分析する「日本」という「国家」の2つの路線、そして話は「自由主義史観」についての「考察」へと現代的なテーマに移り、読者の「固定観念」をたくみにゆさぶる。そしてそのスタンスはやはり学問的な土台と両先生のアイデアのせめぎあう、とてつもなく豊かな歴史学への「入り口」を開いてくれる。

 単行本で発行されたものが新書サイズで再刊されたもので、このとき宮田先生はすでにお亡くなりになっており、そして先日お亡くなりになられた網野先生が「あとがき」を書いていらっしゃる。お具合がすでに相当悪かった様子が「あとがき」からうかがわれ、そして同時にそれでも歴史学についての「こだわり」「熱情」が感じ取られ、本を読んでいると非常に一語一語にこめられた熱い想いにうたれる。今このとき、この時代だからこそ網野先生の本はさらに拝読していきたいと思う。

社会人&学生のための大学・大学院選び

著者名 ;竹内弘高、田坂広志、堀義人ほか 発行年(西暦);2006 出版社;リクルート
 580円にしてこのボリューム。77人の実際の社会人学生が実名と略歴、そして大学院に進学した動機などを語ってくれている。実際の入学情報などはウェブなどでも入手できるが、この77人の特集がやはりすごい。司法試験や公認会計士などの難関資格を取得しようとしている法科大学院生や会計大学院生のインタビューとその社会人学生の燐とした気迫のようなものが伝わる写真入り紙面。もちろん出版社側も大学院側も「どうでもいい学生」などはあえて選別して大学院を代表させようとは思っていないわけで、顔つきも動機も77人の77通りの意気込みが伝わる特集で、これだけでも購入する価値は十分あると思う。各種スキルアップに取り組む自分にとっても刺激になる題材だし、ましてやこれから社会人学生になろうとする方々にとってはさらに有効利用できるムックとなるだろう(私自身はもともと大学院志望ではなかったが、あまりのハード・スケジュールにさらに恐れおののいてしまった。ただ日常の自分にとってはいい刺激剤だ)。
 製作した編集サイドなどの方々も実名(一部ニックネーム)、顔写真と取材後のコメントを巻末に掲載しているのは、やはりそれだけこの77人の取材については準備とチェックが必要だったのだ、ということだと思う。やはりある程度プライベートなことに踏み込む部分もある以上、製作する側の意気込みも…といった感じが漂い、非常に好感がもてる紙面。

金融工学の悪魔

著者名 ;吉本佳生  発行年(西暦);1999 出版社;日本評論社
 オプション取引、スワップ取引そして「ヘッジファンド」などについて分かりやすく解説してくれた本。タイトルはややおどろおどろしいが内容的にはマクロ経済学入門といってもよい分かりやすい解説だ。

頭の整理がヘタな人、うまい人

著者名 ;樋口裕一  発行年(西暦);2006  出版社;大和書房
 予備校などで小論文のテクニックを教えつつ翻訳そしてエッセイなどが好評な筆者。「論理」をいかにして組み立ててそれを表現していくか、といったところにスペースが割かれている文庫本。「話のとっかかり」「ゆとり教育」といった文章の題材の選び方などはやはり小論文の指導者らしくうまい。

若者はなぜ3年で辞めるのか

著者名 ;城繁 幸  発行年(西暦);2006 出版社;光文社
 旧システム時代に入社した上の年代層にはさしたる特技も目標意識もないにもかかわらず、ここ数年の22歳もしくは23歳には成果主義など厳しいノルマが課される一方で、実は「雑用ばかり」で年功序列のいびつな形が今の企業にあふれている。労働組合もはじめ、若手には発言のチャンスやポストもろくになく、すべてが50代以上の特定の年代層に有利なシステムが構築されており、それに気がついた若手が3年で辞めている…おそらくこうした趣旨の本だと思う。で、感覚的には著者の指摘は相当に正しい。すでに役員に就任している人間には成果主義などは適用されないし、部長レベルでもおそらく適用はされない。一番厳しい成果主義にさらされるのは若手で、しかもその評価は旧世代である「先輩」がくだすというわけで、ゲームのルールとしては著しく不公平だ。必ずしも成果主義が成功した企業がその後も躍進を続けているという話もきかず、年功序列型の組織がここにきてわりと円滑に機能している本当の理由を知る。
 市場経済であれば市場が冷徹な評価をくだす。一流企業を3年でやめる若者の中には得体の知れない日本企業内部の評価よりも市場全体の厳しい評価のほうをむしろ満足と考えるのかもしれない。

法律の使い方

著者名;柴田孝之  発行年(西暦);2005 出版社;勁草書房
 法律のもっとも的確な入門書。民法や憲法などの事例問題の解説とともに「問題解決をいかにはかるか」「現実的妥当性をいかにふまえるか」といった視点から法律の専門家のあるべき姿をさぐる。論文式試験の解答の書き方の参考にもなるが、法律の隣接諸科学の理解にも有用。特に「世界史の学習は法律に役立つ」という指摘にははるほど、と思うところも。

反社会学講座

著者名 ;パオロ・マッツァリーノ 発行年(西暦);2004  出版社;イースト・プレス
 ええーと実際にこの本を読んでみるまでは筆者は本当にイタリア人かと思っていたが、内容的にはまったく生粋の日本人。しかもおそらく講師か助教授クラスの新進気鋭の若手学者ではないかと推測される。適当な結論にそれらしき数値データを入れればなんでも社会学になるという恐るべき書き出しから始まるきわめて社会学的な犯罪率の分析などは現実をさらに深く客観的にみていくのに有用。しかも結構乱暴な結論の割には読み終わった後に日本の未来が明るくみえてくるという不可思議な副作用もあり。

2007年10月3日水曜日

脳を活かす!必勝の時間攻略法

著者名;吉田たかよし 発行年(西暦);2003 出版社;講談社現代新書
論述問題の「48手」という技(48種類分の論文の構成やネタをあらかじめ用意しておく)や5分間を単純記憶の時間に費やすといった個々のスキルには、それなりに納得するものがないわけではないが、全体として「散漫」な印象を受けるのはなぜだろう…。時間活用術といいながら、実際には勉強方法や試験対策的な内容も盛り込まれているのでそれが散漫な印象になるのかもしれない。「諦めない」ということが一つの人間の「技」にもなりうる…というのは著者の複雑なキャリア形成をみていて感じる点でもある…。このキャリアを華麗とみるか、あるいはそれも「散漫」とみるか…

人は感情から老化する

著者名 ;和田秀樹  発行年(西暦);2006 出版社;祥伝社
 前頭葉機能から老化していくというのは和田氏のかねてからの持論。40代からの老化予防の重要性を説き、さらに対策の中身について検討する。自分の感情を刺激するものを探索したり、人間関係の構築の重要性などについても言及。「いくつになっても何でも楽しめる人」になるのにはどうしたらよいか、という重たい問題提起も。自分が実際に40,50になってから対策を講じるよりもあらかじめ今後の10年、20年のライフプランを構築していくことの重要性をあらためて痛感。そして仕事をいきがい、ありは勉強をいきがいにしていくのだとしても、さらに広範囲なジャンルから新たな趣味をみつけていくことの重要性も痛感。

悩む技術

著者名;漆田公一  発行年(西暦);2001 出版社;ぶんか社
「最悪の事態を想定して問題解決にあたる」「前向きな考え方だけでは乗り切れないこともある」「登場人物などを紙に書いて問題を分析してみる」「現実に問題を対処するのはやはり自分」…もともとかなり複数の雑誌の人生相談のゴーストライターをしていたという筆者だけあって中身はかなりしっかりしたもの。雑誌の人生相談の書き方のパターンも習得できる上にさらに一段上からの問題解決も可能にしてくれるノウハウ本。誰でもかけそうで実は書きにくい人生相談マニュアルともいえるだろう。面白い。

世渡り作法術

著者名 ;酒井順子 発行年(西暦);2001 出版社;集英社文庫  
 友達との海外旅行、お稽古事での先生との付き合い方、携帯電話の新しいマナー、友達の子供が不細工だったときの作法、カラオケの作法…といった大人の「世渡り作法」を毒を交えて紹介。今でもかなり通じるものがあって、時に苦笑させられる。ただやっぱりこれから10年後にはこうした「世渡り作法」もまた変化するのだろうけれど、プロの文章家の視点はやはり、一般人とは違うなあ、などと感心。です、ます調の文体で軽やかに長文を読ませる技術もさすがのもの。

40歳からのサバイバル心理学

著者名;和田秀樹 発行年(西暦);2003 出版社;講談社
 3年前にこの本を読んだときには一種衝撃を受けたものだった。いずれは自分にも到来するであろう40代の身体的・精神的な課題設定をかなりわかりやすく教えてくれたのがこの本だった。一種の試行錯誤と、「諦めない姿勢」や老化進行のあたえる「鈍感さ」なども初めてこの本で知った。結論からすると自分自身でまず諦めないことと、なるべく自分の感情が老化しないように種々の手段を自分なりに講じるということになるが、どれだけ実践できているのか、2006年末の現在も、そして来年以降も繰り返してこの本を読んで再確認していくことになると思う。同じ媒体を一種の「メモ」や進捗管理に役立てることができるというのも書籍のもつメリットといえるだろうか。

下流喰い~消費者金融の実態

著者名 ;須田慎一郎  発行年(西暦);2006 出版社;筑摩書房
 街のいたるところに無人の消費者金融のATMが設置され、注意してみているとやはりそれなりに利用者がいるようだ。利率についてはもともと敏感なほうだったが、世の中にはイメージに惑わされて複利計算と単利の違いなどには無関心なまま気軽に利用できるサービスを利用して、その結果元本が減らないまま利息ばかり払い続けている人も大勢いるのだろう。グレーゾーンとよばれる利息制限法と出資法の「境目」についても今後撤廃されていく方向だが、かなりの犠牲者を出した末の制度改変だ。
 この書籍では多重債務者の数をおよそ356万人と見積もり、消費者金融から免許を受けていないいわゆる「ヤミ金融」に流れていくプロセスを紹介。ア○フルの中間決算報告会(2004年)で代表取締役が「銀行を買収したい」といった発言を紹介。その債権取立ての方法や苛酷なノルマなどが紹介される。2006年の連結経常利益が約757億円というから相当な収益をあげていたことがわかる。また不動産担保ローンのシステムなども紹介されるが、その状態をみていた金融庁が2005年ごろから動き出す様子も紹介されている。
 さらに新宿付近のレディースローンや「おんな市」といった裏の世界の情報までカバー。陰惨な実話が並ぶが、経済新聞などではまず紹介されない話が満載(ちなみにこの売買の相場は借金総額+50万円とのこと)。消費者金融の利用者の71・8パーセントが男性で40歳未満が67パーセントと若年男性が主役のこの業界も2008年度は新たな局面をむかえそうだ。そしておそらく著者が懸念しているような中小規模の金融業者の「ヤミ金融化」現象もかなりの確率で的を射ていると思った。セイフティ機能が未解決のままの「市場主義」が持ち込まれたことへの著者の怒りが伝わるノンフィクションの名作だと思う。

しのびよるネオ階級社会~イギリス化する日本の格差

著者名;林信吾 発行年(西暦);2005 出版社;平凡社
 一風変わった「ネオ階級社会」論。英国に住んでいた頃の階級社会の様子と現在の日本を比較して、資産の有無で階級社会化がもたらされるリスクを指摘する。ロンドンのバスの運転手はワーキングクラスで、タクシーの運転手はロウアー・ミドルクラスとされている理由や、パブの中がサルーンとバーに分かれていることなど、この本を読んで初めてしったことも多い。英国の公教育におけるプライマリー・スクール、グラマー・スクール、テクニカル・スクール、ステート・スクールの紹介や義務教育終了後、公立学校の生徒の7割近くが社会に出ていたといった1970年代の労働党政権時代までのエピソードや、三分割されていた中等学校をコンプリヘンシブ・スクールに改革したエピソードなど労働党と保守党の二大政党制の裏側の分析も楽しい。

自意識過剰!

著者名 ;酒井順子 発行年(西暦);1997 出版社;新潮社
 才能あるなあ、と思う文章と着眼点。原稿料をもらってコラムを書くという仕事は、このネット時代では相当に競争相手が多いきつい職業だと思うのだが、この時代にあっても人並みより優れた「自意識過剰!」というタイトルで書籍を出版してしまうのがすごいといえばすごい。
 「挨拶の技術」というコラムには特に感心。「挨拶」をするタイミングや距離って結構戸惑うものだが、これもまた自分の自意識のなせるワザ。基本的なマナーこそ他人を判断するうえで重要なポイントとなり、だからこそ、自分自身を他人の目で検証してしまうという怖さ。ある程度将来をみこした小さな生活設計などちょっと想像もつかない微妙な世界をたくみに描いたエッセイ。面白い。

斉藤孝の天才伝6 シャネル

著者名;斉藤孝 発行年(西暦);2006 出版社;大和書房
 1883年のガブリエル・シャネルの誕生から、孤児院、修道院寄宿学校、そしてパリに帽子屋を開店して、シャネルの5番のビッグヒットや戦後のカンバックまでを取り扱う一種の評伝。華麗な人間関係の中からにじみでる孤独と強さ。そして黒にこだわった服作りなど、読んでいて天才の「技」を感じる。著者の斉藤孝がうまく人生の断面を切り取って写真やイラストなどもまじえて紹介。人生を強くいきるための「孤独力」という副題も。
 ただ128ページで定価1,400円はちょっと高すぎるような印象。もう少し薄くして700円ぐらいだと買いやすいのだが…。書籍の「質感」と値段がミスマッチな印象。

勉強なんてカンタンだ

著者名 ;斉藤孝 発行年(西暦);2004 出版社;PHP
 斉藤孝さんが子供向けにかいた絵本風のエッセイ。「勉強のコツは練習のコツ」、「やり方の工夫」、自分にあった得意な作戦を考える、「勉強の極意は結局は量」、薄い問題集を選んで解く、時間を区切って勉強する、予定表を書く、ほかのだれかに期待されていて、その期待にこたえる、先輩の技をみて盗む、そして呼吸法といった斉藤孝さんの持論がコンパクトに展開されている。

2007年10月1日月曜日

脳はなにかと言い訳する

著者名;池谷裕二 発行年(西暦);2006  出版社;祥伝社
 快楽よりも恐怖や不安を感じるのはなぜか、といった問いから始まる脳に関するエッセイ集。ゆっくり復習して知識を確認していくというプロセスの重要性も確認。睡眠をとってアイデアがひらめくレミニセンス効果など、科学に裏づけされた「脳」に関するエッセイ集が満載。非常に楽しく脳について学習できるがわりと専門的な用語もでてきていきなりこの本から池谷ワールドに入るよりも「記憶力を高める」などの講談社ブルーバックスから入るのもありか。

著者名;花村萬月 発行年(西暦);1997  出版社;双葉社
 今から9年前にこの本を読んだとき、とてつもない衝撃を受けた。粗筋というのはありそうで実はなく、東京は武蔵野方面に展開される人間模様というか想像力の世界というが花村独自の倫理観が展開される物語の最後は「ベッド」を買うシーンで唐突に終了する。なぜに当時そこまで花村ワールドに入れ込んだのかは不可思議。現在では「じん・じん・じん」と「風転」のほかにこの「欝」だけは花村萬月の書籍として本棚に残っている(一時期は本棚の全部が花村の本だった)。たぶん残る3冊のうち最後まで穂見返すのはこの「欝」だろう。ページ数の制約を無視したという双葉社の編集者とその後芥川賞を受賞した花村萬月氏の想像力の展開と文字の飛躍ぶりにあらためて感動する。

職場ストレスが消えるノート

著者名 ;和田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;新講社
 特定の筆者の著作物はなるべく全部読む主義。昔は花村萬月だったり浅田次郎だったりしたのだが、最近はもうこの和田秀樹さんの本は新刊がでれば必ずかって何度も読むほど自分の生活に取り込んでいる。で、職場ストレスがない職場はない、という現実的な立場から、自分自身もストレスを与えることがある上に、メンタルダウンややる気の喪失が起きたときの対処方法などが紹介されている。職場はあくまで人生の一部と割り切ることの必要性みたいなものが説明されており、最近では「勉強法」で注目されている著者だが、精神科医としての本業に回帰したような内容の本。働く人にはぜひお勧めの一冊。

苦手意識を捨てられる

著者名 ;梅本和比古  発行年(西暦);2006 出版社;中経出版
 NLP(神経言語プログラミング)を使用して、忘れたいことなどをなるべく意識の外において、良い記憶のみをアンカーとして心にとどめおこうとするトレーニングの本。プロ野球の選手などにもこういうNLPはおそらく使われているのではなかろうか。組織だって考える、注意深く考えるというのは頭でわかっていてもなかなか体にはしみこんでいかないので、こういう本も出てくるのではないかと思う。理屈としては確かに正しそうだが、はて。実践となるとどうなるだろう…。

危ないお仕事!

著者名;北尾トロ 発行年(西暦);2006  出版社;新潮社
 万引き監視つまり万引きバスター、超能力開発セミナーへの体験入学、ダッチワイフ製造者、新聞販売員と主に5つの職業について体験した内容を紹介。超能力開発セミナーのエピソードが一番面白かったが、集団心理をうまくあやつる人というか犯罪ってそれなりに手が込んでいると思った。新聞販売についてはやはり営業トークの有無が相当にものをいうほか、やはり服装などもかなりきっちりしていないと信用してもらえないとか。なんだかこういうあたりは通常の営業とも非常に良く似ているものを感じる…。

書斎の造りかた

著者名 ;林 望  発行年(西暦);2000 出版社;光文社
 日本には時間投資という考え方が少なすぎるという視点と、2年でも3年でも少しづつ自分に投資しながら、ある程度のめどがたった時点でジャンプ(飛躍)するという視点が気に入る。もちろんその土台としての書斎ということになるのだが、所蔵書籍が1万冊を超えてそのためにマンション購入とかになるとちょっとついていけない世界になる。プロのエッセイストもしくは学者と民間人との違いは書斎とはいっても、そこまで書籍が所蔵できないのが民間人の辛さ…。ただプロとして生きていくには1万時間の時間投資が必要になるとか、文章は削りに削って品格を醸し出す、「一番いい投資は自己投資」でお金は良く考えてからおもいきって使う、何事も基礎が大事、そして書斎のOA危機にはおもいきり投資、といった個別のアドバイスはかなり有用。人生を書斎などを通じて2重3重に生きていくという発想は、ビジネスにも通じる奥深いアドバイスではないかと思う。さらにノートやメモはまめにとり、クリップボードなどでアイデアを展開、新聞などはコピーしてファイリングし、メジャーな印刷物よりもマイナーな印刷物のほうを重視して記録・保存しておくなどといった細かなアドバイスがかなり有用。

SEの処世術

著者名;岩脇一喜 発行年(西暦);2004  出版社;洋泉社
 SEと編集は似ているという指摘にちょっとぎくっとする。ある程度時間が経過するとソフトウェアの開発よりも管理的側面の仕事が増えてくるが筆者は個人の技術を磨くための姿勢や努力を怠ってはならないと説く。基本的技術に加えて新技術のマスターも必要なスキルと主張し、管理職になっても平社員当時の業務は手放さないにして一種のプレイングマネジャーになるべきと主張。一種のヤクルトの古田監督や楽天の野村監督のような存在をめざすべきだということになる。これは技術的優位性を保ちつつ、知識の裏づけをしっかりあとづけて会社の弱点というか足りない部分を補う存在になることで優位性が保たれるという発想だ。また職人としてのSEは問題の拡大を防止するとともに、得意分野を職人芸として徐々に確率していくべきとする。そして自己の成果に対してあくなく執着する職人気質を読者にもとめる。

 SEという職業ではあるものの打算と計算だけでは組織が成立しないことを説明して、部下が上司を選ぶという姿勢が組織を活性化していくという論理をロードモジュールとソースコードの不一致の確認作業で説明してくれる。バージョン管理ツールが発達してもなお長時間労働が要求される地味な仕事だが、そうした仕事を引き受けることで打算と計算を超えた評価が確立されていくという意味のようだ。さらに厳しい自己管理能力、つまりはモチベーションを維持していく能力とあえて厳しい道を選ぶことでその後獲得できるものはたくさんあると説く。職業とは人の存在意義を示す重要な要素で、なんのために働くかといえば「(尊敬できる上司などの)人のために働く」ことだと目標を設定。極端な出世欲のあるものが重大な問題を引き起こしたり、する例も引きながら、①文章力(ビジネス文書)②交渉力③要約能力④人脈⑤危機管理能力(観察能力)といったものも必要不可欠とする。そのほか会議では最低一言は発言する、制約の中に自由をみつけだして最高の品質をだせるかどうかにこだわる、中世哲学から近世哲学にうつってまだ400年。400年で確立できていない分野があるのにSEのジャンルがしっかり確立・定義できるわけがないといった文章に筆者の教養を感じる。

女子大生会計士の事件簿DX3

著者名 ;山田真哉 発行年(西暦);2005  出版社;角川書店
 女子大生会計士シリーズ文庫化3弾目。固定資産の除却、部門別会計と利益、減損会計と上場企業、直接原価計算を利用した稼働率の上昇、システム監査、固定資産管理といったテーマでカッキー君と女子大生会計士が大活躍。ゲームセンターのゲームのほとんどがリース調達で資産の入れ替えや減価償却費やリース処理が大変といったエピソードが満載。つまらないとおもわれがちな会計の世界を見事にエンターテイメントにしたてた筆者の実力に感服。

ローズガーデン

著者名;桐野夏生  発行年(西暦);2003 出版社;講談社
 どうしても気になる作家…となると日本の場合、この桐野夏生氏。現実にありそうでなさそうな微妙な陰影を掬い取るのがやはりうまい作家だと思う。終始たちこめている暗いイメージとこのタイトルのミスマッチが面白い。
 探偵ミロの高校生時代を描いた「ローズガーデン」、悪意に満ちたマンションを描く「漂う魂」、奇妙な中国人ホステスと家庭をもつ男性の愛を描く「独りにしないで」、突然死した女子大生の暗い別の顔「愛のトンネル」。いずれもミステリーというにはやや結末が淡白なのだが、裏読みすれば別の粗筋がうかびあがるという構造。文脈を探ってみると実はラストの表の文章とは別のラストを読者が想像できるように仕組まれたミステリー。「あっけなさ」と「不気味さ」が混在するこの桐野ワールド…やっぱり魅力的だ。

経済学の名言100

著者名 ;佐和隆光 発行年(西暦);1999 出版社;ダイヤモンド社
 ウィリアム・ペティ、ケネーといったあたりからラビ・バトラまで100の経済学の名言を紹介。解説は佐和隆光。経済学の入門としても適切な内容だし、経済学史のまとめのテキストとてしても利用可能。値段が1600円というのがやや難点ではあるが…。個人的には非常に面白い経済学の総覧みたいな書籍。

仕事にいかすメモの技術

著者名;雨宮利治 発行年(西暦);2002 出版社;日本能率協会マネジメントセンター  
 メモはとることはとるのだが、そのあとの「整理」が本当に大変だ。データは整理して初めて有効となる…というのはだんだん実体験として理解できてきたのだが、どうやって整理していくのかがまだいろいろと試行錯誤の段階。筆者はパレートの法則にもとづいて、8割がたのメモは捨ててしまうという発想らしいのだがそれもちょっともったいない話ではあるし。
 データを最終的にグラフ、チャート、図表などに統合できれば最高なのだが、そこまでもっていくには膨大なメモを一定の基準で整理統合して、さらに目の前の問題解決に役立てるようにしなくてはならない。携帯電話でメモをとってもパソコンにとりこんでからの整理がそれほど便利というわけでもないし。スケジュールの一元管理というのもそれほど楽でもない。媒体は紙でもカードでもなんでもいいのだろうが、どこかに一元管理するとなるとやはりパソコンか…。
①ノート
②レポート用紙
③ルーズリーフ
④システム手帳
とあった場合、個人的には会議録などはシステム手帳、学習関係はルーズリーフといった使い分け。瞬間的におもいついたことはメモ帳ということになる。記録メモ(商談・会議)にはやはりシステム手帳が一番適しているが膨大な書類が配布された場合にはルーズリーフの導入も検討せざるをえない。こういう類のメモ関係の書籍はいろいろあるが、いまひとつベストフィットですぐ導入できるアイデアが紹介されている書籍はやはり今のところそれほどない…

日本語トーク術

著者名 ;斉藤孝・古舘伊知郎 発行年(西暦);2005 出版社;小学館
 一種の「会話」や作品などをこれから「創造」していこうとする場合のヒントが凝縮された対話集。本来あるべきものを一定の個性でずらしていくとオリジナルのものができあがったり、そこに一貫性があるとスタイルがうまれてくるというのは日々実感しているところ。さらにその「ずらし」の基礎に普遍的な常識が横たわる(たとえば言葉でいえば近代文学を作った夏目漱石など)ので一定の常識を学習していく必要性があるという二人の意見にも賛成。斉藤孝氏はこれまで「技」「身体性」というキーワードを多用してきた人だがここで「考えなくても即座に技がでるようにすることが身体性」という明確な定義を下してくれているのも嬉しい。個性を獲得するのであれば、自分自身にないものをどんどん取り入れて自我を拡張していくべきという方向性にも賛成。
 さらに話は一種のコミュニケーション論にも展開して、スタイルをはずすことによる「調和」、コミュニケーションととるまえに江戸前のお寿司みたいに一度仕事をしてからネタを出す、コミュニケーションは脳を混ぜ合わせる快感、練るというしつこい作業、集団とコミュニケーションの中で1つのものを作っていく快感、他者を言葉と言う形で自分の中に受け入れることが「読書」といった「脳みそ」をまぜあわせるコミュニケーション論もいろいろはっとする指摘がいっぱい。「ずらし」でいえば、「モノマネといえば洗練されればされるほど似なくなってくる」という指摘も何かを創造するときの重要なヒントになる。

 忙しすぎるという場合には「追い込まれて時間がないか考える間がないときにいい仕事ができる」という台詞が重い。物まねからまねる、盗むという工程をへて自分のスタイルを作り出していくという流れは何かを「作る」ときにすごくいい指摘だと思う。まねる対象も1つだけでなく3つにしろ、とか短編をたくさん作って長編にする、ロングセラーは密度が高くないともたない、知識と体験は両立可能など知識と体験の日々を送る二人が贈る一種の仕事の「ワザ」の紹介といえるだろうか。内容はかなり濃いと思う。