2007年10月8日月曜日

天皇と東大(上)

著者名;立花隆 発行年(西暦);2005  出版社;文藝春秋
 上巻だけで800ページ近いボリュームの大作だが、それでも一気に読み通さざるをえないほどの著者のエネルギーが伝わってくる力作だ。上巻では勝海舟や伊藤博文の時代に洋学中心の教育機関を作らんとして東京大学が設立され、さらに日清戦争、日露戦争をへて、3・15事件で共産党関係者が逮捕されるまでを描く。そのはざまで大逆事件や大正デモクラシーといった明治・大正・昭和初期のおもだった事件や時代の風潮も描写されており、タイトルとは裏腹に日本という国家が明治初期から昭和初期まで必ずしも思想的あるいは経済的なイデオロギーや統一的な思想のみでは動いていなかったことが示される。そして巻末ではいわゆる国家改造主義などの台頭を描いて終了するのだが、もはやこれは日本の近代というものの一断面を鋭く描いた歴史であり、タイトルに限定されるような内容ではない。そして著者がこの時期にやはりここまでこだわらざるをえなかったのはやはり「学問」がもつ「危うさ」といったものへの警鐘ではなかろうか。実際著者が膨大な資料から描き出した時代の流れの中ではこの東京大学あるいは東京帝国大学といった存在は必ずしも中立普遍でもなければ、常に正しい「学問のありかた」を示していたわけでもない。近代日本の中で時には、大きくその進路を時には「左」ときには「右」にとダッチロールを繰り返していたことが明瞭に著述されている。

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