2007年10月27日土曜日

自分の中に歴史を読む

著者名;阿部謹也 発行年(西暦);1988 出版社;筑摩書房
 東京商科大学(現在の一橋大学)でゼミナールに入るために、上原専禄教授のご自宅に訪れるところから本は始まる。「どんな問題をやるにせよ、それをやらなければ生きていけないというテーマを探すのですね」というかなりハイレベルな指導をあおぎつつ、著者は大学院に進み、ドイツ騎士修道会研究を進める。「ヨーロッパが分かるとはどういうことか」という自問自答を繰り返しつつ、「ハーメルンの笛吹き男」の伝説にドイツでたどり着いた著者は12~13世紀ごろの時間軸や空間軸が18世紀とは異なるものがあり、「大宇宙」と「小宇宙」の二元構造の中で未知なるものへのおそれがあることを解明していく。キリスト教は世界を一元化していこうとするが、そうした中でも大宇宙へのおそれがあらゆるところに残存しており、それはメルヘンや伝説の中にもあらわれることを指摘。そしてその分析視点は日本の内側にも向いていく。
 研究者の役割や「わかる」とはどういうことか、といったことをおしつめて研究していった結果の研究はたとえばシンフォニーの構造などにも向けられ、現在がけっして「現在」という言葉で一言に総括できるものではない重層的な構図であることを示す。
 中世のヨーロッパと日本を結びつけるとともに一人の学者の精神の軌跡を描くスリリングな歴史本。名著ではないだろうか。

0 件のコメント: