2009年11月29日日曜日

なぜ、いいことを考えると「いいことが起こる」のか(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2008年
 勉強法や自己管理ノウハウの本はあまたあれど、やはり和田秀樹先生の著作物に回帰してくるのが、やはりこの著者と私の相性がいいからだろう。「いい予感」があるといいことが起こるというのを、オカルト的な説明ではなくて、日常生活に即してその理由を説明してくれる。「いいこと」「悪いこと」が一日の中で同居しているケースが多いものの、それを最初から「前向き」に考えられている人は、一日全体をいい一日でとして総括できる。明るく物事を考えられるほうが、仕事も人間関係もうまくいきやすいという理屈ももっともだ。暗くて後ろ向きの発想では、やはり周囲もそんな感じでしたとられることができないわけで…。

2009年11月28日土曜日

小倉昌男 経営学(日経BP社)

著者:小倉昌男 出版社:日経BP 発行年:1999年 評価:☆☆☆☆☆
 宅配便(宅急便)の創始者として名高い小倉昌男氏の名著。現在では信じがたいことだが小口運送はあまりビジネスとして成功する余地はなく、大手百貨店やメーカーの宅配もしくは小口運送をするのがもっとも安定したビジネスだと信じられている時期があった。それを大手百貨店やメーカーとの取引も解消して、小口運送のネットワーク作りをふまえた上で小口運送向けのシステムを作り出し、社会的倫理や責任についてすでに独自の哲学をヤマト運輸にしみこませていった。今でも宅配便サービスを提供している会社は数社あるが、もっとも安定して信頼できるのはヤマト運輸ではないかと思う。
 「経営の真髄は需要を作り出すことにある」という言葉が非常に役に立つ。すでに潜在的に消費者ニーズは昔から存在していたものの実際にそれを商社に呈示でいたのはヤマトだけだった。
 そうした物流活動の原点がこの本で明らかにされていく。

2009年11月23日月曜日

ビジネスシンク(日本経済新聞出版社)

著者:デイブ・マーカム、スティーブ・スミス、マハン・カルサー 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 単行本が出版されたのが2002年だがそれから7年後に文庫化されたものを読了。自己啓発の書籍なのだとは思うが、問題解決の本とも思える。8つのスキルというか枠組みをチェックしていくことで、本当の問題点の「解決」あるいは「問題点の放置」がテーマということになる。チェックテストがついているが、やはり後ろのほうに行けばいくほどテストの評価は低くなる。「原因を見つけろ」というのはいわば「なぜ」を繰り返していくことだが、これってどこかデザイナーの佐藤可知士さんの「問診」に非常に類似しているような気がする。イメージやポリシーを掘り起こしていくために物理的世界をまず整理整頓してから、知性的世界を整理して、最後には独特のデザインをひとつのソリューションとして生み出す。このビジネス・シンクを暗黙のうちに実行していたのはビジネスパーソンではなく、高名なデザイナーであったのかもしれない。波及効果やインパクトも重視しなくてはならない理由が本文では例示とともに著述されているが、ロゴの製作などはまさにこの波及効果やインパクト。佐藤可知士さんの書籍とこの本を組み合わせて読むとその類似点が浮かび上がるとともに、ともすれば抽象的な内容になりがちなこの本を具体的な世界で理解することができるだろう。内容的にはかなり高度なスキルを求めているが、「ソリューション」というのはおそらくこの本が示しているように「その場しのぎの言い訳」とはまた違ったトータルなものではなくてはならないことを自覚。

レジ待ちの行列、進むのが早いのはどちらか(幻冬舎)

著者:内藤誼人 出版社:幻冬舎 発行年:2009年 評価:☆う~ん、待ち行列の話かと思ったらイラストから「情報」を読み取る心理学の本だった…。しかも「どうっかなー????」という疑問も少々というか多々あり…。日常生活の観察がこういう本でバイアスがかかっていると本来読み取るべき情報を間違えて解釈することにもなりかねないのが怖い。だって人間は人それぞれなので、しぐさや服装だけで判断できることにはどうしても限界がある。まあ、タトゥーを入れている人はおそらく自傷性に近いものがあるの「かも」しれないという推測はできるが、それとて断言できることではない。変身願望の現われとか自己顕示欲のあらわれとか分析はできるがそれを証明できるエヴィデンスは皆無に等しい。だからまあ退屈しのぎに読む分には読者の勝手ということになるのだろう…

2009年11月22日日曜日

刑法入門(岩波書店)


著者:山口厚 出版社:岩波書店 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
最初は手にとりにくいかもしれないが、いったん読み始めると一気に読み通してしまいたくなるほど面白い刑法入門となっている。巻末には著者自身の推薦による刑法関連の推薦図書もあげられている。犯罪とは何か、法律とは何か、法治国家としてあるべき刑事のあり方や哲学は何かといったかなり込み入った話を順序立てて整理して著述してあり、法律が苦手な人にも一読をお勧めしたい良書。「わいせつ物犯罪罪」(刑法175条)などを例にあげて犯罪の本質を「利益侵害」と考えるべきなのか「倫理規範に違反する」と考えるべきなのかといった根底についてまで考える材料を提供してくれている。こうしたウェブ時代にはもっともトピカルなテーマになりそうだが、法の趣旨をいかに解釈すれば近代法治国家にふさわしい適用になるのかがよくわかる。そして課題は課題として設定されているので、裁判員制度のあり方も含めて「判例」との整合性や時代の整合性、そして「市民感覚」だけでは司法制度はやはり運用はできなさそうだとの印象を読後にいだく。228ページの充実の新書。

新型インフルエンザの基礎知識(マガジンハウス)

著者:池上彰 出版社:マガジンハウス 発行年:2009年
 この池上彰氏の45分でわかるシリーズは非常にわかりやすくていい本ばかりだと思うが、A5判で96ページで定価840円というのはちょっと高いというのが印象。しかも4ページの倍数にできなかったためか、87ページ目シロ、88~89ページは相談窓口の案内、90ページと91ページは奥付、92~94ページは広告で95ページと96ページは再びシロ。要するに内容著述は、6ページ目から86ページ目までの81ページ分のみ。もう少し広告のページを別のデータ提供にあてるとか、あるいはシロのページを減らすとかいった本作りはできなかったものか。日本で長崎から始まったといわれているインフルエンザなど歴史的な話もでてくるし、Hで細胞に入ってNで出るといった面白い話もあるので、年表を掲載するとか写真を載せるとかなんというか…。ただこうしたやや「割高感」がある本であっても、内容面は非常に面白くRNAだとDNAにはない訂正機能が働かずにコピーミスが発生するといったわかりやすい説明はやはりこの著者一流の「わかりやすさ」。ただ購買意欲をさらに消費者に訴えるためには、「45分でわかる」というサブタイトル以外に情報提供機能ももっと充実させるべきだっただだろう。これは編集サイドの問題ではないかと思う。
 いたずらに「新型インフルエンザ」を恐れているだけでなく、感染ルートやその発生の理由までさかのぼってみると、おそらく当初の「印象」よりはおそれるに足らない、ただし対策はやはり必要という事実を知ることができる。11月からさらに来年2月までは気温が下がる時期。こうした本で知識を身につけておくのも必要ではないかと思う。

2009年11月18日水曜日

異業種競争戦略(日本経済新聞出版社)

著者:内田和成 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 ボストン・コンサルティング・グループのシニア・アドバイザーをへて早稲田大学の教授でもある著者。工学部出身や文学部出身など多様な才能をぶつけあうというBCGの出身らしい研ぎ澄まされた事業連鎖の分析が美しい。図がただ左から右に並んでいるだけなのに、それぞれが統合されていく様子がよくわかる。そしてなぜゆえに統合されていったのか、統合していく必要条件は何かといった事柄がページをめくるごとに明らかになっていく。百貨店のアンチテーゼから生まれたスーパーマーケット、スーパーマーケットからスピンアウトしたコンビニエンストアと流通の歴史がさっとわかる副産物もある。すべては消費者ニーズのためといってしまえば簡単すぎるが、その消費者ニーズを満たすために事業構造や事業連鎖を変化させていった企業はやはり強い。事業構造が違えばコスト構造も異なるのでマイクロソフトとgoogleの競争というのは、同じ市場競争という原理だけでは語れないという理由も説明される。
個人的には高速道路の収益構造で離れた場所にサービスエリアを設定して周辺にビジネスを拡大していくというenlagementという手法に注目。だれもが高速道路の主軸で利益をあげようとするが、その逆に高速道路の周辺で商売をするという考え方も当然ありだ。パソコンの時代だからといってパソコンを作ることだけが利益をあげる手段ではあるまい。もしかするとエレコムやサンワサプライといったパソコン周辺機器のメーカーのほうが利益率が高い可能性だってある。これをたとえば出版業で考えてみると…。おそらくビジネス書籍などが売れているのだからそのenlargementは何か、といったような応用もできるはず。読んでいて読者のフレームワークや想像力も刺激してくれる「ビジネス書籍」というよりも「触発」を招く競争戦略の書。

すごい!整理術(PHP研究所)

著者:坂戸健司 出版社:PHP研究所 発行年:2008年
 元デザイナーという著者。クリエイティブな仕事ではあるが、整理にこだわるところは佐藤知可士さんと共通するものがある。機能性を大事にしていくと「整理」にこだわることになっていくのかもしれない。自分自身でも本棚を整理したり、書類を整理したりを繰り返しているだけでなんとなく「こんな感じかな」というようなコンセプトがでてくることがあるから、整理ってやはりクリエイティブな作業に通じるものがあるのだろう。著者は「メモ」や「書くこと」で頭の中を整理することを提唱しているが、これも「書いているうちに悩み事が目に見えてくる」という効果が期待できるので、部屋の整理と頭の中の整理はあまり変わらないということがわかってくる。整理グッズに投資するべきとかどんどん本の中は具体的になっていくのだが、個人的には前半の「抽象的な部分」のほうが応用がきくような気がする。本棚や手帳を買うのはけっこう隙なのだけれど細かなスキル論は結局個人個人でいろいろやり方が異なるので一番自分自身にあう方法があればそれをとにかく継続するのが一番だ。革の手帳を購入しても中身がまっしろではあまり意味がないし。
 

2009年11月15日日曜日

イヌネコにしか心を開けない人たち(幻冬舎)

著者:香山リカ 出版社:幻冬舎 発行年:2008年 評価:☆☆☆
 最初はホノボノとした出だしとなっているが、ドルフィン・セラピーの紹介あたりから、著者独自の「批判精神」が発揮されはじめ、ラストにくると何某団体や何某団体から猛抗議を受けかねない内容になっているような…。いや、つまり環境問題や動物愛護問題について私自身も考えるにやぶさかではないのだが、「地域猫」をめぐる住民紛争や、2002年に移民制限を提唱した極右政治家ピム・フォルタイン氏の暗殺事件などだんだん運動が過激化していく一方で、一般社会(この場合には多数の人々という意味で)との交流がうまくいかなくなっている事象について著者独自の分析が加えられている。
 イヌは大好きだし、ネコもあの冷たさを除けばまあ好きなほうではあるが、かといって人間の快適な居住空間が侵害された場合の裁判所の判断は最初から決まっている。にもかかわらず動物愛護が先鋭化していく根底には、最大多数の最大幸福の「分母」のなかに自分のペットは…という個別的な愛情がプライオリティを持ちすぎている現実がある。このプライオリティ、個人の空間の中ではまったく個人の問題だが、社会問題として先鋭化すると、社会的摩擦が起きる。これってまるで「逆じゃあない…」ということになるわけだが…。著者自身もイヌとネコを飼う動物愛護の精神の持ち主ではあるが、それでもペット関連市場の伸びとこのバブル崩壊後の最大の不況の中で、何か「ヘン」という気持ちが代弁されているような気がする。あ、けっしてイヌやネコが嫌いなわけではなくて私も大好きなんですからそのあたりは誤読なきように…エコバッグもちゃんと持っていますし…。

ハイ・コンセプト(三笠書房)

著者:ダニエル・ピンク 出版社:三笠書房 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 う~ん、一番最初に手にとったときには「右脳」「左脳」のところで挫折してしまい、今日あらためて全部読み終えた。左脳が論理性で右脳がユーモアも含む感性の機能…というわかりやすいが、しかし可塑性に満ちた脳ではそう簡単にも二分割で議論できないだろう…という戸惑い。で、最初のこの2分割志向さえ乗り切れば、案外、最後までするっと読むことができる。論理や知識はデジタルになじむが、「デザイン」「物語」「調和」「共感」「遊び」(笑い)「生きがい」といったテーマは確かにデジタルの分野では扱いにくくアナログ的な要素が強くなる。著者は芸術なども包含したアナログ的な要素、トータルに物事が見れる要素や「物語」の全体像が見える要素を重視する。いわば代替がきかないジャンルで、たとえばこれからは「看護師」のような職業でハイ・コンセプトな機能が求められるようになるだろうと予測する。コンピュータで代替できない要素というとやはりまず最初に介護関係、医療関係などが思いつくが、ダニエル・ピンクは英米の病院であっても電子カルテなどを送信すればインドで診察する時代も到来しつつあるといっている。つまり生身の人間を実際に取り扱う医療介護関係こそがハイ・コンセプトな要素で、電子カルテで代替できるジャンルの医療は「ロー・コンセプト」ということになる。
 「夜と霧」など人文関係の書籍が引用されているのも興味深い。結局、デジタルで扱える部分での変動にはもちろん対応をしていかなくてはならないが、代替不可能な部分は芸術やアナログ関係、さらに共感能力など感情面になってしまうという課題設定だ。トレーニングの方法やスキルが紹介されているわけではないから、これは自己啓発というよりもむしろこれからの時代を描写したビジネス書籍という枠内になるのだろう。実際にはダニエル・ゴールドマンなどが提唱する「EQ」などがほぼ「ハイ・コンセプト」に相当するスキルになると思われるが、ダニエル・ピンクは「ハイ・コンセプト」(ハイ・タッチ)を、EQやセリグマンの楽観主義などよりも広い概念で使っているようだ。目的やこれからの方向性をつかむのには面白い一冊。巻末にはダニエル・ピンクから6つの書籍が参考書籍として紹介されているが、「夜と霧」は「生きがい」に関連する書籍として大絶賛されているのも印象的。

思考停止社会(講談社)

著者:郷原信郎 出版社:講談社 発行年:2009年
 「法令順守」と「社会規範」が異なるという事例を食品の偽装表示事件、構造設計偽造事件、経済司法の判例、市民参加、厚生年金記録の「改ざん」、などを事例にとって分析する。法律ではよく「形式」と「実質」という二元分析がよく使われるが、その「形式面」(法令遵守)と「実質面」(社会的な規範など)が乖離しるぎているのではないか、法令の細部の文言に縛られてその段階で思考が停止しているのではないか、という著者の問題提起である。
 個人的にはやはり「経済司法」の判例分析(第3章)が興味深かった。村上ファンドのインサイダー取引による刑事事件が分析されているが、この判決の「投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす事実」というのが具体的にはどの段階を指すのかという微妙な判断によるところが指摘されており、むしろこの事件は金融商品取引法の157条(包摂規定)で起訴するべきだったのではないか、という提案は興味深い。インサイダー取引の禁止規定の拡大していくにつれて、「法令順守」を考える投資家は「ある程度ここまで知っているから株式投資はもうできない…」と投資を見送るだろう。その結果、グレーゾーンに存在する投資家は株式市場から離れてしまう。その分需要が減るから、株式の市場価格も下落傾向に陥るという論法だ。むしろ確信犯的なインサイダー取引に相当する投資のほうが増加する可能性もあるわけで、これこそ経済学でいう「レモンの原理」で法令順守を考える投資家が市場から撤退し、悪質な投資家だけが証券市場に残存するという逆選択の状態になってしまう。証券市場の公正さについて検察庁が理解していない、あるいは法廷で説明できないというのはちょっと過激すぎる主張だが、一連のインサイダー疑惑をめぐる司法判断や検察庁の立件の中には、明らかに投資家の投資意欲を阻害するような主張がみられ、それは個人的にも懸念していた(ただし司法判断がすべてに優越するというのは、近代国家の大前提なので、いったんでた判例については、今後かなり大きな影響を持ち続けることになる。方向転換は容易ではないだろう)。ほかにも買収事件をめぐる司法判断も分析されているのだが、個別具体的な案件については一応妥当性はありそうだが、長期にわたる司法判断の一貫性や、市場の安定という観点からすると、判決の趣旨にはちょっと問題点が残ると考えざるを得ない。著者の主張にもかなりの「実質的な正当性」があると思われるし、事実この法令順守の形で日本の制度が運用されるのであれば、善良な投資家が投資しにくい状況はかなり続く。また会社法をかなり柔軟な機関設計ができるように大改正したのに、大型合併や買収がしにくい状況やそれにともなう資金調達にも齟齬が生じかねない問題点も内在している。
 社会的規範をもっと活用する…というのはおそらくそう簡単なことではなく、当面はこの形式的な司法判断や法律の文言どおりに運用していくのが第一段階とすると、最終段階は道徳規範的なものや経済学的に考えられうる判決の「後」のことまで考慮した司法判断というものが「あたりまえ」になる時代となるのだろう。まだ日本は法令順守そのものが始動した段階なので著者の指摘にはかなりの妥当性があるものの、やや制度運用者には厳しすぎる面があることも否めない。ただし「今のまま」では「形式」と「実質」に大きな乖離がさらに生じて、「社会制度」そのものの存在意義が問われる場面がくるだろう。山口県光市の事件をめぐる弁護団と市民の感覚のずれも「形式」と「実質」の大きな「差」の一場面ではないかと考える。

2009年11月13日金曜日

グッド・ラック(ポプラ社)

著者:アレックス・ロビラ、フェルナンド・トリアス・デ・ベス 出版社:ポプラ社
発行年:2004年
 発行された当時の5年前にもこの本を読んだ記憶がある。当時はなんていうことのない「大人の童話」だと思っていた。しかしふと読み直してみると「もしかしてこれは知恵と工夫の物語か」と再認識。二人の騎士がでてきて、アーサー王物語のもう一人の主役マリーンの「お告げ」をもとに、「森」にでかけて「幸運のクローバー」を見つけ出すという宝探しの物語。当然のことながら、態度が悪くて傲岸な騎士には他者はそれなりの対応をし、謙虚に相手の都合を聞いてから物事を聞き出すホワイトナイトは、情報を得る。これってある意味当然で、傲岸な人間にはだれも何も教えようとも思わないが、人の話をいろいろ聞いて参考にしようという姿勢の人にはあれこれ教えたくなる。石やら木やら「無口っぽいキャラ」があれこれしゃべりだすのだが、そこから聞いた情報を活用していった騎士と、額面どおりに受け取った騎士とでは発想がまるで正反対の方向に向かう。一応教訓めいた言葉で「下準備が大事」とかいっているが、下準備そのものはこの二人の騎士の間にそれほどの差があったとは思えない。むしろ「やる気」は両方ともあったし、準備そのものも予備知識もあったが知りえた情報や知りうる情報の範囲に大きな差があった、ということなのだろう。その意味ではこれは「運」ではなくて「情報活用能力」の「物語」なのだと再認識する。どうってことない日常生活もひとつの情報をどういうふうに解釈するか(前向きに解釈するか後ろ向きに解釈するか)でぜんぜん違う結果を招く。「俺様」という考え方よりも「私の考えはまずさておき」という情報収集と分析能力の差がラストの差になってあらわれたのだろう。

2009年11月11日水曜日

ノートは表だけ使いなさい(フォレスト出版)

著者:石川悟司 出版社:フォレスト出版 発行年:2009年
 マルマンで名作「ニーモシネ」を開発した著者。私自身もニーモシネのA4判サイズをマインドマップ作成用ノートして使用してるが取り外しがきくうえに、ちょっとした知識や情報の整理にちょうどいい大きさ、かなり考えて作られたノートであることをユーザーとして実感している。で、この本ではまず情報を整理してノートに書いたときにあとで切ったり貼ったりする可能性があるから「表だけ」使うようにする…という切り出しから、なるべく「見える化」して情報整理や加工に便利なようにしておくという著者の工夫が開示される。人によっていろいろなやり方は確かにあるが、情報伝達としてのメモ(電話の取次ぎなど)については丁寧に書くというような心遣いは確かに必要と実感。とにかく最初はとれるだけメモをとってあとで整理するという必要性も実感している。最終的にはマインドマップで概念や知識を整理するのが一番構造理解には適していると個人的には思っているが、三段階にわけて情報を整理する著者と実際にはさほど変わらない思考方法をとっているのかもしれない。自分で何かの工夫を展開しようとするとき、既存の知識や情報を整理しておくことは大事なことではないかと思う。方法論ではあるけれど、これを各読者がいかに自分自身のやり方に転用・応用できるかがポイントだろう。

弱者の兵法(アスペクト)

著者:野村克也 出版社:アスペクト 発行年:2009年
 実践で役立つデータ収集をこれだけ「地」で活用した野球の指導者は、やはり日本のプロ野球の中では唯一の存在といっていいだろう。もちろん現在ではノートパソコンやデジタルムービーを活用するのはプロの選手では当たり前のことだと思うが、アナログの時代からピッチャーの配球を色分けして分析していたのはやはり野村克也氏がはじめての存在だ。持てる力をすべて出し切るという意味で「野球を楽しむ」というのはいいが、ただ単に面白がるのではだめだ…というかなり厳しい内容になっているのが本書の特徴。「限界」と「未熟」は違うという指摘に首が縮まる…。この厳しさは読者に対してというよりも現役のプロの選手に向けた内容かもしれない。この老指揮官は夏の発行時点ですでに「引退」をある程度は覚悟していたのだろう。「高校野球がなぜあんなに人気があるのか考えてみろ」という問いかけは、ひたすらただ単に働くだけの社会人にとっても答えるのに窮する質問かもしれない。技術的なことではなく「ひたむきさ」という要素だけを取り出してみれば、はたして自分自身が「ひたむきさ」「熱意」だけで人を惹きつけることができているのか…というプロフェッショナルの自覚の問題へとつながるからだ。

2009年11月9日月曜日

戦略の本質(日本経済新聞社)

著者 :野中郁次郎、戸部良一、鎌田伸一、寺本義也、杉之尾宜生、村井友秀
出版社:日本経済新聞社 発行年:2005年 評価:☆☆☆☆☆
 戦略論の古典でもありロング&ベストセラーでもある。これも文庫本になっているがやはり単行本での読書を進めたい。かなりの分量にのぼるため文庫本では厚さと重さで読書が途中で中途半端に終わる可能性も。戦略論の系譜をまず第1章に置いてから、毛沢東、ドイツ空軍と英国防空戦力、スターリングラードの戦い、朝鮮戦争(特に仁川上陸作戦)、第四次中東戦争、ベトナム戦争を検討して最後に10の命題が打ち立てられる。もちろん反論可能な形での命題の提出で、最後はなんと「賢慮」である。アリストテレスの「フロネシス」を「賢慮」としたわけだが、これはおそらく目に見えない無形の力やノウハウといったものすべてを総合した概念になるだろう。きわめてあいまいでしかも膨大な概念を包摂しているが、実際にリアルな戦場と抽象的な机の上の作戦図とのバランスをとりうるのはそうした「暗黙知」もしくは「賢慮」という概念にならざるをえないのかもしれない。経営戦略の本としても読めるが近現代史の歴史の本としても興味深い。現在のエジプトや中国がいかなるプロセスで現在に至ったかを考察していくのには、こうした具体的事例で近現代を振り返ってくれる本書のような書籍が必要だ(ネットではやはり散発的な事象しか掲載されないし、またできない)。毛沢東がいかにして包囲討伐作戦を乗り切っていったかというくだりはちょっとしたスリリングな歴史小説の趣もある。文学や哲学の概念も援用しながら最後まで読者をひきつけてやまないこの構成。理論書でありながらも「読者」というコミュニケーションの相手側の存在も「戦略的に」考慮して作成された書籍といえるだろう。

アイデアのつくり方(TBSブリタニカ)

著者:ジェームス・W・ヤング 出版社:TBSブリタニカ 発行年:1988年 評価:☆☆☆☆☆
 いわゆる古典的名著とされているこの本。実はブックオフで400円で入手できたのだがさっそくセロテープで補強して、耐久性を高め、これから何度も読み返す本として位置づけた。既存の要素をいかに組み合わせるか、そしてその関連性をどう見抜いていくべきかといった方法論が具体的に述べられており、その手法としてカード索引法が紹介されている。一つの事柄を一つのカードにまとめて、最終的には一つのファイルボックスになっていくというこのやり方は、梅沢忠夫氏の「発想法」やKJ法にも通じるものがあるが、資料集めのあとに「関係」を見抜く方法そして音楽や映画で発想をいったん別の方向に転じてみることなど、天才であれば必要ないであろうが凡人であればきっと必要になるノウハウがぎゅっと凝縮されている。世界を組みなおしてみてみるという作業はオリジナリティがもともとある人にとってはきわめて手続き論的な作業かもしれないが、実は90パーセント近くの凡人にとってはそれだけで世界が新しく見える効果もある。わずか102ページの本ながら中身はきわめて実践可能性と示唆に富んだ名著。

未来経済入門(ビジネス社)

著者:小宮一慶 出版社:ビジネス社 発行年:2009年
 貯蓄率が最近大幅に低下している。学生時代の近代経済学では日本の貯蓄性向は20パーセントと教わったのだが、最近では2~3パーセント。消費性向が増大したという見方もあるだろうが、実際には貯蓄に回せるだけの可処分所得がいきとどかなくなったということだろう。こうした疑問にも答えてくれる本書だが、特にこの本ではノルウェーなど北欧型資本主義に解説がさかれているのが興味深い。また中国による供給過剰状態と資源インフレの問題、経済ブロック化の問題、改正食品リサイクル法とバイオエナジー、「水」問題、バイオエタノールのけん引役とされるブラジル、財政再建と特別会計の問題、事業拡大におけるグリーンフィールドなど「今」を知るキーワードと世界の情勢がコンパクトにまとめられている。いわゆる著者独自の理論というものはあまり表に出ていないが、その分、この本から種々の世界経済の本を読み進めていくこともできるだろう。

一流になる力(講談社)

著者:小宮一慶 出版社:講談社 発行年:2009年
 「考え方」おそらくは野村克也氏がその著作で述べている「無形の力」とほぼ同義だろう。形に見える数字ではなく、むしろ形に見えない考え方や論理の方向性などが人生の一つの形を作っていくという発想。まずこの部分が「根」となり、そしてその「考え方」をささえるのが「ワザ」。野球でいえば一つ一つのプレーであり、ビジネスでいえば手紙の書き方やパソコンスキルといった「ワザ」ということになる。112ページ以降が特に個人的には有用で、これからの重点項目として①自分の領域②会社法などの法律分野③マクロ経済学といった3つのジャンルが上げられており、これにはほぼ同感。わずかな差をスコシヅツつけていって、仮説と検証を積み重ねていくという方法。地味だがこれほど確実にフローが資産化できる方法もない。
 巻末には日本経済新聞の月曜日「景気指標」の読み方も解説されており、「考え方」の構築から「ワザ」の一つ(日本経済新聞の読み方)までを一通りマスターできる実践経営入門の本。

社長のためのマキャベリズム(中央公論新社)

著者:鹿島茂 出版社:中央公論新社 発行年:2003年
 経営戦略では菊澤研宗、ビジネス・経営では小島一慶、そしてフランス文学その他ではこの鹿島茂氏の著作物を購入すればまずはずれがない、というのが現在の私の本の買い方だ。新刊本ではなく中古本屋あるいは古本屋でしか入手できないケースもあるのだが、やはりこれらの著者のルーツとなる著作物なので、見つけたときにはなるべくその場で購入して家に持ち帰るようにしている。
 で、この「社長のためのマキャベリズム」。いろいろな意味で自分自身の周囲の実際の人間と対比していくと非常に面白い。合併においては「人はささいな侮辱には仕返ししようとするが、大いなる侮辱には報復しえない」のであるから、徹底的に「大いなる侮辱」で合併してしまえ…さらには同族経営の会社を買収すれば統治はきわめて簡単…ということで東南アジアの市場を狙うSントリーグループと○リングループの経営統合が彷彿としてくる。また社員を味方につけなくては社長は存続しえない、ストックオプション、間接金融などが論じられる。また「恩義の担保よりも恐怖心の担保のほうが効率はいい」といったくだりには「う~ん」とうなってしまう。「慎重であるよりは果敢であるほうがよい」という最後の結論に至るまでフィレンツェ共和国にあてはめられるべきであった君主論が株式会社の社長にも適合されていく。この手腕は独自のフランス文学論や風俗史を書き連ねてきた鹿島茂氏の才能が全開といったところ。まだ文庫化はされていないようだが、2003年発売のこの本、2009年もしくは2010年の社長にも読んで損するところなしといった感。

あたりまえのことをバカになってちゃんとやる(サンマーク出版)

著者:小宮一慶 出版社:サンマーク出版 2009年 評価:☆☆☆☆☆
 経営・ビジネス関連書籍はやまほど出版されており、そのすべてを読むことは当然できない。が、著者で選択するということであればまずこの小宮一慶氏の一連の著作物はまず「買い」だ。日本経済新聞の読み方や一つの事象の観察から多くを類推するという手法は職種がなんであれ有効な方法ではないかと考えるからだし、なによりも著者自身が癌を克服したばかりで「死」を見据えながらビジネスを考えているという真摯な態度で執筆に臨まれているからだ。「死」を前にしてなすべきこと…をビジネスの場面で考えるとこうなるのか、という働き盛りのビジネスパーソンには参考になる著述が多いことだろう。
 運やチャンスだけではなくそれを捕まえる準備をしておくべき、あるいは、小さなことを徹底して大きなことを徹底していくという基本の中の基本。ただし一定の年齢を過ぎると、人間はだれしも小さなことをおろそかにしていく傾向がどうしても出てくる。初心に帰っていくためにはやはりこうした「あたりまえのこと」が何でそれをちゃんとやるというのはどういうことなのか、といった生活の基本部分に立ち返る必要性があるだろう。ちなみに自分勝手な人は失敗するというのはきわめて明快に説明されており、「そんな人は皆から嫌われるから」。考えてみれば当たり前で、自己中心的な人にいつまでも他人はつきあってくれないのは、小学校時代から常にあてはまる人間関係の真実。ことさらに難しく考えるべきではなく、素直に考えれば居丈高な態度や感情が不安定な人には他者に与えるメリットがないのだからいずれ他者から見捨てられていくという当然の結論に…。

精神障害者をどう裁くか(光文社)

著者:岩波明 出版社:光文社 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 精神医学の立場から刑法39条とその運用実態を検証した新書。新書サイズでここまで広く深く刑法39条とその運用実態の問題点を指摘しているのは、著者の筆の力と編集者の編集力がかなり優れているからだろう。刑法39条では精神障害者の責任能力について定めており、心神喪失者の行為は罰せず、もしくは刑を減刑する旨が規定されている。収容と保護の歴史と治療の対立する論理がでてくる。古代ギリシア・ローマから精神障害者への減刑は脈々と現在まで受け継がれてきたが、日本の奈良時代にもその痕跡がみてとれる。現在ではヴィクトリア期のマクノートンルールが一つの基準になっているが、日本ではそれが精神保健福祉法と医療観察法の2つの法律で処理されることになる。いわゆる触法精神障害者についてはこの精神保健福祉法の解釈で運用されており、措置入院制度もこの法律の立法趣旨で運営されてきた。ただしデータが本書で示されており措置入院患者のかなりの部分が早期退院か一般入院に切り替えられている。人権についてのかなりきめ細かい規定が特徴とされているが、医療による強制入院には人権問題がからんでくるというのがややこしい。あのI小学校の事件を境にして制定された医療観察法では指定医療機関による医療が法文に明記されたが、設備がまだ不十分であることを著者は指摘する。つまり精神保健福祉法や医療観察法でも治療体制が整備されているとはいえないわけだ。著者の主張は「人権に配慮しつつも」治療体制を確たるシステムとしてさらに拡充していく必要性を述べているわけだが、ここには予算の問題が次にからんでくる。またアスペルガー症候群といった境界線上の症例の場合にはどうするのか、責任能力はあるのかといった問題が…。多様化する精神疾患と法律上の「責任能力」のすり合わせにはかなりの時間がかかるうえ、刑務所に入れればそれでいいといった発想では問題は解決せず、かといって治療を強制するにはどうすればいいのか、それが人権無視につながらないためにはどうすればいいのかといった種々のサブシステムがさらに構築されていく必要性。さらに予算配分をどの程度増やしてどこの省庁で扱うべきか、行政が担当する場合に裁判所や検察庁との関係はどうなるのか…といった問題点がどんどん膨らんでみえてくる構図となる。問題の提起と一定の解決策も示されているが、一種の「警告」の本としても読むことができるだろう。

組織の不条理(ダイヤモンド社)

著者:菊澤研宗 出版社:ファイヤモンド社 発行年:2000年 評価:☆☆☆☆☆
 この著者の代表作といえばおそらくこの「組織の不条理」。タイトルを変更して日本経済新聞社から文庫本で発刊されたが、内容がかなり凝縮されているので文庫本よりも単行本のほうが読みやすいと思う。本の「判形」は、価格の高い安い以上にreadbilityに関係してくる要素が強いと思う。文庫本だとなかなかメモ書きもできないが、この本だと他の菊澤先生の著作物とリンクさせてページを記入したり、他の経営戦略論や行動経済学の書籍とリンクもできる。別にリンクはウェブだけの特権ではなく、他の書籍の作品名とページ数を相互に関係させるたけでリンクできちゃったりするが、それには書籍にメモをはりつけたり書き込んだりしなくてはならない。単行本のほうがそうした作業には向いているし、単に本を読んだというだけでは発展がないが、それをいかに日常生活に取り込むかは読者の本の活用次第。市場経済では統制しにくい問題を内部化してしまう所有権理論など新しい経済理論はこうやって活用するのか…といった事例がわかりやすく著述されており、経営戦略や経営組織論として読むだけではなく、日常生活のちょっとしたHACKSとしても活用できる著述が多々みられる。名作といってよいだろう。

「命令違反」が組織を伸ばす(光文社)

著者;菊澤研宗 出版社:光文社 発行年:2007年 評価:☆☆☆☆☆
 タイトルだけからすると「キワモノ」に見えてしまうが、中身は新制度経済学派にもとづく「合理的に行動した結果の不合理」をわかりやすく説明してくれる正統派の経営学。人間は限定合理的な存在だからその「枠内」でしか合理的に考えることができない。だからこそ議論風発の組織を作り上げていかなければならない…という流れになるが、理想の組織論がどうあるべきかについては今後の著作物で明らかになっていくだろう。第二次世界大戦中の数々の軍事史を取引コストやエージェンシー理論で読み解き、これまで「非合理」とされてきた戦略が実はそれなりに合理性をもっていたことを明らかにする。プロスペクト理論などは自分自身の日常生活においても「このまま失敗するよりかはダメモトでやってみよう」的な発想でトキに出現する考え方でもある。
 「やってみなきゃわからない」の前に、さらに合理性を高めていく努力があればインパール作戦で多くの兵士が犠牲になることもなかったわけだが、これまで特定の将校の人格的な問題に帰着していた結論がこの本でひっくりかえされる。「なぜ失敗したのか」「非合理だったから」ではその先に議論が展開していかない。ジャワ軍政など成功した事例との対比も見事。760円でこの内容はかなりのお買い得。