2009年11月15日日曜日

ハイ・コンセプト(三笠書房)

著者:ダニエル・ピンク 出版社:三笠書房 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 う~ん、一番最初に手にとったときには「右脳」「左脳」のところで挫折してしまい、今日あらためて全部読み終えた。左脳が論理性で右脳がユーモアも含む感性の機能…というわかりやすいが、しかし可塑性に満ちた脳ではそう簡単にも二分割で議論できないだろう…という戸惑い。で、最初のこの2分割志向さえ乗り切れば、案外、最後までするっと読むことができる。論理や知識はデジタルになじむが、「デザイン」「物語」「調和」「共感」「遊び」(笑い)「生きがい」といったテーマは確かにデジタルの分野では扱いにくくアナログ的な要素が強くなる。著者は芸術なども包含したアナログ的な要素、トータルに物事が見れる要素や「物語」の全体像が見える要素を重視する。いわば代替がきかないジャンルで、たとえばこれからは「看護師」のような職業でハイ・コンセプトな機能が求められるようになるだろうと予測する。コンピュータで代替できない要素というとやはりまず最初に介護関係、医療関係などが思いつくが、ダニエル・ピンクは英米の病院であっても電子カルテなどを送信すればインドで診察する時代も到来しつつあるといっている。つまり生身の人間を実際に取り扱う医療介護関係こそがハイ・コンセプトな要素で、電子カルテで代替できるジャンルの医療は「ロー・コンセプト」ということになる。
 「夜と霧」など人文関係の書籍が引用されているのも興味深い。結局、デジタルで扱える部分での変動にはもちろん対応をしていかなくてはならないが、代替不可能な部分は芸術やアナログ関係、さらに共感能力など感情面になってしまうという課題設定だ。トレーニングの方法やスキルが紹介されているわけではないから、これは自己啓発というよりもむしろこれからの時代を描写したビジネス書籍という枠内になるのだろう。実際にはダニエル・ゴールドマンなどが提唱する「EQ」などがほぼ「ハイ・コンセプト」に相当するスキルになると思われるが、ダニエル・ピンクは「ハイ・コンセプト」(ハイ・タッチ)を、EQやセリグマンの楽観主義などよりも広い概念で使っているようだ。目的やこれからの方向性をつかむのには面白い一冊。巻末にはダニエル・ピンクから6つの書籍が参考書籍として紹介されているが、「夜と霧」は「生きがい」に関連する書籍として大絶賛されているのも印象的。

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