2008年4月29日火曜日

精神科医は信用できるか(祥伝社)

著者名:和田秀樹 出版社:祥伝社 発行年:2008年
 生物学的分析や研究を重視する医学の分野とカウンセリング重視の臨床心理士の違いを説明。年間自殺者3万人時代を招いた構造改革(といえるかどうかは個人的には疑問だが)を批判し、安部元内閣総理大臣についても一種の提言を行っている。15ページには日本の自殺者の推移がグラフとなって掲載されており、平成18年の32,155人という数字はやはり重い。アメリカ型市場主義の社会にするのであれば、医療制度もアメリカ型に、と筆者は提言し、経営者をサポートする精神科医やカウンセラーの導入を提言。急性状態の患者を入院させるベッド数の少なさなども指摘し、125ページではカウンセリングの機能などを一覧に。図や表が新書サイズなのにコンパクトにまとめられており、非常に読みやすく、「現実問題の解決」重視の視点は、生活者にとっても読んでいて非常に役に立つ著述が多い。「社会適応さえうまくいくのであればさまざまな方法がありうる」という結果重視のスタンスが好ましいともいえる。巻末には16ページを超える一種の「カタログ図鑑」が掲載されており、定価740円の新書としては内容が非常に充実。新書はやはり実用性重視の書籍がかなり多いが、その中でもこうした医学関係の新書はもっと出版されてよいだろう。認知療法の説明などはビジネスの現場にもかなり応用がきくものだと思われる。

2008年4月26日土曜日

やんごとなき姫君たちの結婚(角川書店)

筆者:桐生操 出版社:角川書店 発行年:2005年
 週刊新潮や女性セブンなど雑誌に筆者が書いた記事をもとにして書籍としてまとめたもの。モナコ王妃になったグレース・ケリーとその子供たちやダイアナ妃など歴史に限定されない「今」の結婚に秘められた政治的な思惑や駆け引きを紹介。モナコが古代ローマ帝国から現在のグリマルディ家の領土になるまでの歴史や、さらに王位継承者がでてこない場合にはフランスに統治されることになっているなど、「へええ」というようなエピソードが紹介されている。王侯貴族のハイライフスタイルの紹介としてオートクチュールの世界やオリエント急行の歴史、シャネルの5番の由来なども掲載。シャネルが自然の色を大事にした逸話として公園で拾った枯葉や木の実と同じ色を作ろうとしたというエピソードは興味深い。さらにシャネル・スーツの由来も…。ハッピーなお話よりは、正直、よんでいてほろにがいお話のほうが多い印象ではあるけれど、午後の暇な時間に王侯貴族の生活をかいまみることができる文庫本としては手軽に読める一冊。表紙のイラストがまたお洒落で、白を基調にして青で縁取りしているのが非常に個人的には好み。カバーイラストは「朝倉めぐみ」さんという方だが、文庫本の内容をこの表紙に凝縮したような優れたカバーだと思う。

2008年4月20日日曜日

日本の10大新宗教(幻冬舎)


著者名:島田裕己 出版社:幻冬舎 発行年:2007年
 宗教学科というとどこの学部に所属すべきなのかよくわからなかった。「昔」というか、革新主義と保守主義が二大対立をしていた時代には、どちらにも幻滅していたがなにかしらの世界観を求めている若い世代は新興宗教もしくは新宗教といった世界に「救済」を求めている人、結構多かったと思う。この本ではいろいろな理由で「掲載不可」となり10のジャンルに選別されていない反社会性の強い宗教にもかなり頭脳明晰な理系の人間が入信したりした。大学では文学部に宗教学科が設置されていたが、考えてみれば「宗教」は社会の一部なので社会学科や営利団体的な側面をみれば経営学科などでも取り扱うべきテーマだったかもしれない。あるいは物理学科などの学生が、履修してもおかしくはないジャンルだったのではないかと思う。元早稲田大学の大槻先生などは物理的側面からオカルト的要素を批判していたが、「宗教」というテーマを扱う場合には批判的な見方から肯定的な見方まで含めてもっと理系の学者や他の学科の学者からの発言があってもいいのかもしれない。そしてこの本では「いまひとつ歴史的経緯がわかりにくい」「教義の由来がわかりにくい」(しかし)「その名前はよく聞く…」という10の新宗教について取り扱われている。天理教、大本、生長の家、天照皇大神宮教、立正佼成会、霊友会、創価学会、世界救世教、PL教団、真如苑、GLAといった宗教団体だが、憲法の信仰の自由や政教分離の問題、そもそも客観的に社会科学や自然科学などのジャンルでどう取り扱うべきか非常に難しいテーマに挑む新書になっている。学者の立場とすると特定の宗教にのめりこむわけにもいかず、かといって「のめりこまない」とある程度理解できない部分もあるだろうし、非常に描きにくい問題だろう…というのは著者の島田氏の研究活動を昔から見ていて認識していた部分だが、おそらくどこの団体からもそれなりの抗議と批判を受けるのを覚悟で出版する「勇気」がすごい。2007年11月発売で2月5日の版にしてすでに第10刷。隠れたベストセラーではないかと思う。

2008年4月13日日曜日

シンプルに使うパソコン術(講談社)


著者名:鐸木能光 出版社:講談社 発行年:2007年
 フリーソフトを活用してなるべく簡単にパソコンを使っていこうという趣旨のブルーバックス。正直VISTAはあまりにも重くて1・5Gのメモリでもちょっと辛い、ましてやモバイルではさらに辛い…という感想でいっぱいだったのだが余計な視覚効果をぜんぶカットして、さらに「高速VISTA」というソフトをインストール。これでだいぶ軽くなったが、さらにフリーソフトを使い始めるともっと使い勝手がよくなり、この本を読むとさらに便利なソフトが紹介されている…といった次第。wordもそれほど悪いソフトだとは思わないけれど2007は明らかに重装備すぎて、テキストエディタで軽く流したいと思うときにはこの本で紹介されているcoolmintやmkeditorなどが最適。動画や音声ソフトなども紹介されており、「使い勝手」重視のパソコン使用者には、痒いところに手が届く内容。必要以上に高機能でしかも高価なOSやアプリケーションに振り回される時代も早く終わりにしてほしいが、今しばらくは、まだMi○○○softの新商品発売ついていかなければならないのかもしれない。ただ「フリーソフトをうまく使えばもっと快適な動作環境を実現できる」という方向を示してくれた新書として本書はお勧め。電子メールのトラブル防止や簡単なゲームソフトなども紹介されているので堅苦しくなく全部読めるのが嬉しい。

「自由な時代」の「不安な自分」(昌文社)


著者名:三浦展 出版社:昌文社 発行年:2006年
 「下流社会」のベストセラーで一躍その名前を世間に広めた三浦展氏の単行本書籍。筆者が一橋大学社会学部時代の3年生のときに執筆したという論文なども収録されている。「自分探し」の不安定さから、「消費中毒」「永遠志向」「自己改造志向」という3つのキーワードを導出し、「消費も仕事にする時代」という分析を行う。ただあまりにも高度に発達した消費社会では、「消費」だけでは「自分」を語ることが出来なくなってきている…という刺激的な論調だ。マーケティング雑誌などの編集者もかつてはつとめていたと同時にオーソドックスな社会学の研究もしていた著者。大学の社会学者でも市場のマーケッターでもない独自のスタンスで、「社会」を語る姿勢が面白い。インターネット世界で「一種の社会の縮小」が起きていることを指摘するなど、新書サイズの「下流社会」とはまた異なる「過激」な内容をこの単行本で展開。何某新興宗教と○○制度を比較、論じるなど「道徳」のあり方も含めて目のさめるような分析が満載。そう、確かに「道徳」を精神的支柱にするには一定の高度経済成長がなければ無理なことだったし、「道徳」が必須と考えられる時代は裏返せば食欲も含めた物質的なもの、商品的なものが消費しきれないほど満ち溢れていることの裏返しでもあったのだ…。

あぁ、阪神タイガース(角川書店)

著者名:野村克也 出版社:角川書店 発行年:2008年
 今年のプロ野球開幕前に電撃的に出版された野村克也・東北楽天ゴールデンイーグルス監督の「阪神タイガース論」。すでに巨人軍についての分析した書籍があるが、リーグが違うとはいえ、開幕前に別の球団の戦力分析や勝因・敗因などを分析した本を出版できるのは、やはり野村克也氏ぐらいしかいない。「相手の弱点をつく」「知力・体力・気力のバランス」などすでにヤクルトスワローズや昨年の楽天で実績をあげた持論に加えて岡田監督の采配などについても言及している。中心なき組織に中心(エースや4番打者)をすえつけ、さらに適材適所で配置を決めていく野村監督の野球理論はやはり秀逸。現在、楽天でも元阪神の高波という足の速い選手が出場しているが、これは「足の速さ」を重視した適材適所の具体例だろう。中日をお払い箱になった山崎選手が打者として復活し、チームを牽引しているのも適材適所の一例だと思う。シーズン前に阪神タイガース論を展開し、楽天の昨年を振り返るのは、おそらく野球ファンへのサービス精神というよりも、むしろ現在の楽天の選手に「意識改革」を促すためかもしれない。現在のプロ野球の制度であれば楽天と阪神がともにAクラスに入れば日本シリーズを両者で争うこともできる。シーズン末の「エンターテイメント」をシーズン前に用意してくれたファンサービスの一種とも考えられるが、いずれにせよ「弱者」でも「強者」に勝てるケースがありうるという例は、この本に限らず実際の野球の試合で野村監督がみせてくれたとおり。野球理論の正確さが「実証」されるのは、今後の楽天の成績の「伸び」が証明することになるのだろう。野球理論のケーススタディであると同時に、組織の管理原則や指揮官の役割などについても考察している新書本。

プロフェッショナル仕事の流儀3(NHK出版)

茂木健一郎&NHK「プロフェッショナル」製作班=編 2006年発行
 人気番組の書籍化。「プロジェクトX」で取り上げられていた方々も素晴らしい業績を残されてきたが、どちらかというと高度経済成長の時代や大規模プロジェクトに関係する案件などが多く、「偉業」を遠くから見ている…といった印象も個人的にはあった。この「プロフェッショナル仕事の流儀」では、プロジェクトというよりも、目立たずどちらかといえば地味な仕事に取り組む職人肌の人間にその「流儀」を聞くといった面が強く、それぞれの仕事の「流儀」から自分なりにいろいろ汲みとめる部分が多くなっているように思う。この「3」では感染爆発を防ぐために働いているWHOメディカルオフィサー、天然の土にこだわる左官職人、寺子屋スタイルで英語を教える予備校の先生の3人がインタビューに答えている。「要求に応える」のではなく「要求を超える」ための左官のこだわり、「いったん好きになれば自分で走り出す」と自らの失敗を糧にしてさらに寺子屋授業を展開・発展させていく予備校の先生、個人的な過去のエピソードもまじえながらそれぞれ3人の「こだわり」が自分の日常生活とオーバーラップする。
「知識なんて全部なくなるんですよ。ただ、掃除をしたという事実は残るんです」という予備校の先生の言葉が重い。

日本人はなぜ嘘つきになったのか(青春出版社)


著者名:和田秀樹 出版社:青春出版社 発行年:2008年
 人が嘘をつく6パターンを分析し、「振り込め詐欺」「捏造番組」「嘘がエスカレートする理由」などを探索していく。結論としては、ウェブなどの発達で日本人の嘘は減少しているのではないかという仮説にたどりつくのだが、その分、「嘘が巧妙」になってくるケースが予想され、これからさらに「疑う能力」「真贋を見極める能力」が必要になると訴える。
 食品偽装問題にしても欠陥商品にしてもインターネットが発達していない頃の商品情報は一部の新聞もしくは出版社の取材と印刷物に頼らざるをえなかった。企業の広報部は、大手マスコミ関係者の動向さえ管理できていればだいたいの企業イメージの操作もできる時代だったと思うが、ウェブ上の「クチコミ」まではさすがに管理不可能だ。管理不能部分についてはなんの影響力ももてない以上、管理できる部分の生産工程や省資源、環境対策といった面のコントロールを重視していく時代に。結果的に「嘘」が少ない時代に変貌していくのだろう。「正直であるがゆえにかえって信用を増す」という例示として、30代のグラビアアイドル、ほしのあきさんなどが例示されているのだが、ほしのさんの場合も年齢を詐称してグラビアにでるよりも三十代のグラビアアイドルということを材料にしてむしろ人気に火がついた面がある。「年齢をごまかさない戦術」あるいは「自分の欠点をむしろ武器に変えていく戦術」という新しい製品プロモーションや広報戦略などもこれからいくつも実現してくる時代がくるかもしれない。
 

佐藤可士和の超整理術(日本経済新聞社)


著者名:佐藤可士和 出版社:日本経済新聞社 発行年:2007年
 「整理法」関係の本としてはベストセラー街道を現在も驀進中。シンプルな白の装丁が逆に書店では目立つほどのシンプルな構成と読みやすい文字。そして視覚に訴える写真の挿入のバランスが見事な本。整理することで対象の本質をきちんと形にして生産性をあげる…という筆者の思想がそのまま本の造形に表現されているようだ。常にビジョンを目指すといったクリエイターの発想は、クリエイティビティがあまり要求されないように一見見える普通の業務などにもかなりの応用がきく考え方だと思われる。物事を俯瞰的にみつめ、「外側」から作品を見つめなおすという発想もまた業務への応用がかなりきく発想だし、「離見の見」といった過去の日本人の知恵とも相通ずるものが多分にあるように思う。情報をならべて視覚化して整理する。そうしたシンプルな方法で、物事の本質にせまる…という非常に難しいが理屈自体がシンプルにとぎすまされている点も、この本が多くの読者に支持された理由の一つに違いない。「整理」関係の本としては、最近読んだ本の中でもっとも「使える本」。

2008年4月8日火曜日

やんごとなき姫君たちの饗宴(角川書店)


著者名;桐生操 出版社:角川書店 発行年:2005年
ヨーロッパの北部、特にイタリアの商人は地中海を舞台にして香辛料や宝石、絹織物などのあまりかさばらない奢侈品を貿易していたのに対して、北欧は木材、小麦、ビールなど重くてかさばる生活必需品を貿易していた…という指摘が24ページにあり、なるほどと思う。とりわけ香辛料の高価さは…というソロモン王のエピソードを紹介するくだりに書かれている指摘だが、アラブ人が貿易を独占したいため、シナモンなどが非常に入手しにくい状態だったようだ。食物に関するエピソードを集めた文庫本ということで、ルイ16世が処刑される当日に食べたメニューも紹介されている。カツレツ5枚、ローストチキン1切れ、葡萄酒3杯というものだったらしいが、国王にふさわしい最後の様子がつとに有名なルイ16世。処刑の日によく食欲がでたものだ…。さらに英国のティータイムの紹介やティータイムに「小さな花」を食卓においてみるといった提案なども紹介。グルメのみならず日常の食事も楽しくなるようなエピソードがいっぱい。巻末の参考文献一覧も見ていて楽しい。
 

アメリカ黒人の歴史 新版(岩波書店)


著者名;本田創造著 出版社:岩波書店 発行年:1991年
 新版が執筆されてからもう20年近くが経過しようとしている。1990年代はまだ60年代の公民権運動などの余波が残っていた時代かもしれない。まさかその後、現在のようなヒップホップそのほかアフリカ系アメリカ人の独自の文化が世界を席捲する時代がくるとは予想もできなかったし、民主党の大統領候補にオバマ氏が名前を連ねることも考えられなかった。この本では植民地時代から独立戦争、南北戦争、そして近代黒人解放運動に至るまでの歴史を概観。「アウトロー」や「グローリー」などで描写された南北戦争や「ミシシッピー・バーニング」で描写された公民権運動、複雑で広大なこのアメリカという国家が幾多の犠牲とはらいながらも一つの「国」として成立していく様子がうかがえる。データや地図なども適宜挿入され、巻末には1607年から1990年までのアメリカ黒人史略年表が付録として掲載されている。この年表がまた非常に簡潔でわかりやすい。