2017年10月29日日曜日

「弱者の戦略」(新潮社)



著者:稲垣栄洋 出版社:新潮社 発行年:2014年 本体価格:1100円
 タイトルだけからすると「自己啓発系」の書籍にも見えるが,実際は「生物の本」。弱肉強食の自然界にあって,「弱者」(著者の定義ではナンバー1になれない生物はすべて弱者)がなぜ滅びないのかをわかりやすく解説してくれている。弱者には弱者の生存戦略がある,というとこれもまた自己啓発ぽくなるが,著者の分析は「そもそも弱者とは何か」といった深いところまで及ぶ。鋭い牙や爪をもつ生物が必ずしも「強者」というわけではないという指摘も興味深い。
 最初の100ページはイワシが群れる理由や蝶のように舞う戦略などが紹介されている。ただ一番実生活に応用可能なのは88ページから99ページに記述されている「中程度攪乱仮説」を紹介した部分だろう。経営戦略と同様に生物もニッチに資源を集中させると強者に勝つことが可能になる。しかしそれだけではなく,「一定の変化」が新しい環境を生み,その新しい環境に適合させる過程で多くの「弱者」がチャンスをつかむことを説明した部分である。生物学の知見をそのまま人間にあてはめるのはもちろんリスキーな話ではあるが,「雨模様の球場でおこなったCSで横浜ベイスターズ」が阪神タイガースを破った理由や,長引くデフレ不況のもとでIT企業が多数躍進した理由などは,この「中程度攪乱仮説」できわめてクリアに説明することができる。前提条件を読者が自分なりに斟酌したうえで,分析の道具として用いるのには有用な知見が多数述べられている。