2009年2月27日金曜日

著者:池谷裕二 出版社:ライオン社 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆☆
 隠れたロングかつベストセラー。そして脳の仕組みから効率的な勉強法を考えていく本としては定価714円のこの本がベストといえるだろう。これまで色々な脳関係の本を読んでいたが、この本にエッセンスが詰まっているため一部の書籍を除いて処分することにした。それぐらい短くて、しかも内容が濃い本である。脳の長期増強を図るには「繰り返し」しかないという断定が好ましい。つまり復習を何度もすることが最大の学習効果を得る手段ということになる。「耳の記憶は目の記憶よりも強い」といった実践的な方法が本書にはいろいろ書いてある。これを読みながら自分自身のスキルアップに役立てれば言い訳で、和田秀樹氏の「大人のための勉強法」を読んで依頼の「目からうろこ」のリーフレット。池谷氏の書籍はこのほかにも多数読んだが、なぜか一般人の入手するような棚ではなく高校生向けの学習参考書の棚においてあったが、これは社会人にも非常に有用な内容なのでぜひともお勧め。

株マフィアの闇~巨悪欲望の暗闘史~(大和書房)

著者:有森隆+グループK 出版社:大和書房 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 三部作の第3巻だが、テーマは現在から明治時代までさかのぼり、東京証券取引所や大阪証券取引所の黎明期からの「株式取引」の有名人をたどる。「義侠の相場師」という今では考えられない存在のような岩本栄之助氏が鮮烈だ。「カラ売り」とはいわば手元にはない株式を他人から借りるなどして「売る」。そうすると市場に株式があふれでて株価は下がるが、株価が下がったところで買い戻して持ち主に株式を返却、自分はリザヤを稼ぐという方式だ。岩本氏は義侠の相場をはっていたが、このカラ売りを1916年の大戦相場にも貫いた。買い手の側は野村徳七商店。ページをめくるごとに息を呑むような展開だが、歴史が示すように勝者はすでに決定している。野村徳七は野村財閥の基礎を固め、現在のりそな銀行、野村ホールディングスにつながるグループ構築を進めていく…。現在の話も多少まじっているが、歴史的に取引所の取引や相場師を特集するというのは非常に面白い。経済の本というよりもむしろ生きた人間の姿を描いた歴史本といった感じだろうか。

2009年2月26日木曜日

あぁ監督~名将・奇将・珍将~(角川書店)

著者:野村克也 出版社:角川書店 発行年:2009年
 この本を読んで意外に思ったのは、楽天の野村監督が想像以上に中日の落合監督を高く評価していることだった。もともと捕手出身の野村監督と打者出身の落合監督で共通点がどれだけあるのか不可思議だったが、お二人で野球談義をされることもあったらしい。選手・オーナー・ファンの3つの敵を想定してチーム作りを進めるというノムラ・スタイルは、最近の著書になればなるほど色濃くにじみ出てきている。「ここまで書いていいのだろうか」と首をひねりたくなるほどの直言が並ぶが、三原監督や水原監督など歴史的な名監督とその影響を受けた次世代の監督を比較するなど、こうした歴史的な時間軸で監督論を展開できるのはやはり野村克也氏ぐらいになってしまったのだろう。また「監督は言葉をもて」というフレーズが非常に心に残る。見えない、語りにくい経験談をいかに「面白く言い換えていくか」に苦労した人ならではの名言だ。野球はそもそもスポーツなのだからそれを言語化するのは難しい。しかしその難しさにあえて挑戦して選手に「理解」「納得」させていくのにはやはり「言語」が不可欠なのだ。
 一つの分野をきわめた男は他の分野にも秀でたものを持つという。おそらく中小企業の社長や経営者にとって野村氏の語る内容がかなり実践的に聞こえるというのはやはり限定された人材の中でいかに生産効率をあげていくべきか…といった発想と通じる面があるからだろう。

2009年2月25日水曜日

頭がいい人、悪い人のパソコンの使い方(三笠書房)

著者:メディアアルタ 出版社:三笠書房 発行年:2005年
 よくあるショートカットの使い方などがコンパクトにまとまっている文庫本だが、だいたい7割ぐらいはすでに自分で実行していても3割はやはり知らなかったテクが掲載されている。「ネットの使い方」で差がつく…という指摘は2005年からかなりネット環境が変化した現在でも通じる法則ではないかと思う。特にマイクロソフトの25GBサイズのスカイドライブというサービスはかなり注目すべきで(当然この本には掲載されていないけれども)、サーバが天下のマイクロソフトだけに余計なバックアップ機能でさらに保存すべきデータ容量が増加するよりもスカイドライブにアップロードしてしまったファイルはむしろ削除してパソコンからなくしてしまうということもできる。おそらくよほどプライバシーに重要なデータ以外はウェブやネットのフォルダにあげてしまい、必要なときだけダウンロードするという方法がこれから主流になるのではなかろうか。物理的に何百GBのHDDがあっても壊れたらそれまでだが、サーバに記録されているデータはミラーリングそのほかで相当厳重に保管されているはず。個別のパソコンの能力に期待するよりも、ネットワークのサービスを信頼するほうがよほど効率的な時代に入ってきたと思う。エッセンスは今なお通じる貴重な法則が掲載されているのは嬉しい文庫本。

平成ジャングル探検(講談社)

著者:鹿島茂 出版社:講談社 発行年:2007年 評価:☆☆☆☆☆
 表紙にうつる怪しいサングラスの強面の男…この方がれっきとしたフランス文学者であり大学教授でもある鹿島茂氏。大学教授という制約もあってデータマンや編集者とともに探検隊を組織して大都会の12の闇を探検していく。坂口安吾の「東京ジャングル探検」の平成バージョンだが文庫本のあとがきに著者自身が書いておられるようにすでに「古書」「資料」という扱いにならざるをえない部分もある。しかし上野駅周辺についての分析はかなり鋭い。「なんとなくクリスタル」の主人公がそのまま生きていれば「43歳」(2009年現在であれば50歳)。かつての価値体系や教養体系が崩壊した今…という設定で上野という街を分析するのだが、「柏在住ブランド主婦」という切り口で上野という町をきりとるその「技」が素晴らしい。「年齢はへてもアーベインな生活志向」ということでそれが上野という街に結びつく…というわけだが、一つの街の歴史をこれだけ多角的に分析できる著者の力量はすさまじい。そのほかに赤坂、新宿、錦糸町、浅草、吉祥寺などが題材としてとりあげられている。面白い。

2009年2月24日火曜日

サラ金嬢の内緒話(講談社)

著者:小田若菜 出版社:講談社 発行年:2006年
 いわゆる消費者金融の「営業」の場合、新規開拓は本当にティッシュ配りだけなのだろうか…と常々疑問に思っていたが、この本を読んで謎が解消。追加融資に再利用のお勧めという営業開発戦略がメインで、さらにティッシュ配りも場所の地図や電話番号を咄嗟に利用者に知らせる役目があることを知る。あまり消費者金融のティッシュなどは個人的には受け取りたくないのだがその苦労話も書いてあり、同情できる部分も…。予想以上に店舗の面積は狭いのだが、ブラック情報やホワイト情報など情報管理についてはやはり厳しい。個人情報保護法が施行される前から「消費者金融では情報管理が命」と著者は書いており、ライバル会社との競争戦略に個人情報がかかせないことをうかがわせる。団体信用保険や「融資禁止の職種」など入社したての「若手」が書いたとは思えないほどの業界入門の書籍。健康保険証のどこをチェックするのかなど融資のチェックポイントも教えてくれる。おしむらくは2006年の発行なので最近の貸金業規正法改正には対応していないことだがエッセンスは今でも十分通じるものだろう。

「みんなの意見」は案外正しい(角川書店)

著者:ジェームズ・スロウィッキー 出版社:角川書店 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆☆
 スペースシャトルが墜落したとき、いかなるまだ検証もされていないうちに何某企業の株価が下落しはじめた…。そんな実話から始まる「みんなの意見」の正しさと危うさについて語られる書籍。集合知をいかに活用させるか、そしてその前提は何かについて細かく検証し、一人の専門家よりも多様な素人の検証のほうが的確なケースがある場合が多いことを紹介。専門家ではなく大衆の集合知でだいたいの真実をつかみとることの重要性を本書は説く。そしてそれは民主主義制度がいかに機能していくか…というテーマにも発展していくのだが非常に面白い書籍だ。
 274ページでは景気の問題について争点となっている選挙でも選挙民は自己の利益よりもイデオロギーを優先させるという投票行動を分析。議会制民主主義についても「正しい意思決定を下せる人間を選べるかどうか」ということを重視すべき、ということでビジネス書としても心理学としても、また社会学の書籍としてとらえることもできるだろう。定価1,600円でこの内容は「買い」である。

新試験を完全攻略!ITパスポート予想問題集(技術評論社)

著者:五十嵐聡 出版社:技術評論社 発行年:2008年12月
 巻等に試験制度の紹介、そして模擬問題が3回分ついている。解いている途中で電車の中に1冊おき忘れ、もう一度買いなおしたという「いわく」付の問題集だが自分の代わりにテキストが落ちてくれたと考えれば…。解説もそこそこ掲載されているほか、問題の下にすぐ解答が掲載されているので、電車の中など移動中に勉強するのには適している模擬問題集。やや財務会計分野の出題が多いように思ったが今後試験制度が実施されてくれば内容もおそらく改善されるだろう。初級シスアドよりも明らかに易しい試験なので万が一にも落ちるわけにはいかないが…。開発系と利用系との2分をやめてレベル1~3と段階的な形式になる情報処理技術者試験制度。やはりレベル1は確実に合格してせめてレベル2には達成しておきたいものだが…。SAASやホスティングサービスなど新規の用語にももう少し対応しておく必要性を実感。定価1780円はやや高いという印象。1000円ぐらいの価格設定でなんとかならないものか…。

2009年2月23日月曜日

「仕組み」整理術(ダイヤモンド社)

著者:泉正人 出版社:ダイヤモンド社 発行年:2008年
 「整理整頓」が大事ということは実は最近わかってきたのだけれど、いくら綺麗になっていても情報整理や情報活用ができないと個人的には非常に困る環境にある。必然的に書籍もCDもDVDも増えていくばかりだが、それをどうにかして減少させていくとともに、必要なものは手元に残しておきたい…。「統一化」「一元化」「自動化」が著者のいう整理なのだが、なんでもかんでも捨てるわけにもいかず、なにがなんでも保存しておくわけにもいかない。かといって毎回パソコンに入力してメモを作成するというのは非効率的だ。というわけで、この本の中では収納物がどこにあるのかを把握するような部屋マップを作る…というアイデアを得たのみに終了。掃除のルールや「月末のルール」など自動化していくシステム作りは確かに重要なのだが、それは「大掃除よりも気がついたときに小さく掃除したほうが効果的」という日常生活の知恵以上のものでもなんでもないのが残念。「仕組」というとなにやら有難くも思えるのだが…。なにか部屋が物理的に狭いがソフトウェアだけはおそらくトンクラスのケースの「整理方法」というのを考え付いてはもらえないだろうか…。毎年200冊から300冊以上の本を捨てているがそれでもだめだしなあ…。

名画で読み解くハプスブルグ家12の物語(光文社)

著者:中野京子 出版社:光文社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 新書には珍しく絵画を4色で印刷してエピソードを著者が記すというスタイルで、かなりコストがかかっていると思われるが内容がまた面白く…。序章でルドルフ1世を取り上げハプスブルグ家の歴史の始まりを、そしてマクシミリアン1世、ファナとフィリップ、カール5世(カルロス1世)、フェリペ2世、フェリペ4世、カルロス2世、ルドルフ2世、マリア・テレジア、マリー・アントワネット、フランツ2世、エリザベート…錚々たる顔ぶれに画家のほうもデューラー、プラディーリャ、ティツアーノ、エル・グレコ、ベラスケス、マネと錚々たるメンバー。そして神聖ローマ帝国の始まりから崩壊までを一気にこの新書サイズで読み通せてしまう構成になっているのだから面白いのは当然だ。仇敵のフリードリヒ大王やナポレオンの肖像なども掲載されており、これまでハプスブルグ関係の書籍を色々読んだ中でもビジュアルと文章のバランスが最も優れている書籍の中のひとつ。絵画「狂女ファナ」は見開き2ページで鑑賞できるようにもなっており、一読、再読の価値ある優れた新書。

2009年2月22日日曜日

ハリウッドの懲りない面々(講談社)

著者:マックス桐島 出版社:講談社 発行年:2005年
 刊行から3年とちょっと。この本は書き下ろしだがだいぶん情報としては古いものも含まれているがそれでも面白い。ハリウッド・プロデューサーの著者が著名人の行動を紹介してくれているのだが、トレーラーの割付そのほか製作者の苦労がかいまみえて興味深い。特異なキャラクターで目立つ存在となっているヴィン・ディーゼルが、ディズニーでのピッチ・ミーティングでスタジオ重役の目の前で独特のピッチをしたのが紹介されているが、やはりその後「ワイルド・スピード」で街角のアンちゃん役で主役に抜擢。さらにクリント・イーストウッドの指定席がレストランで空席のままになっているなど、細かいネタが非常に面白い。またハリウッドから姿を消したデブラ・ウインガーについての著述も興味深い。「アーバン・カウボーイ」は中学生の頃見て独特のテンポに子供ながらスクリーンに引き込まれた記憶があり、デボラのイメージはやはり強烈だった。あれもこれも…といろいろみていくと、この本が出版されてから、新しいセレブが誕生しつつあるとともに、この本でセレブとされていた俳優が早くも「ワンヒット・ワンダー」になっているケースもあり…。改訂版が出れば嬉しいが、昨今、著作権や肖像権などうるさいので書き手がいないかもしれない…。

感情の整理が上手い人下手な人(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2007年 評価:☆☆☆☆
 感情コントロールを重視する精神科医でもある著者が、日常生活で感情コントロールをいかに調整するのかその具体的なスキルを紹介。ほどほどの自己愛を持ちつつ、「嫌われたくない気持ち」や「他人が察してくれる」という「甘え」が不機嫌を作り出し、「さっさと謝る」「忘れ上手になる」といった具体例を紹介。確かにあれこれだれにでも八方美人だとどうしても割りに合わないことが増えるのでかえって不機嫌になったり、説明がうまくできないために「キレ」ちゃう人、いる。また過去の思い出したくないことをいつまでもひきずって逆に感情コントロールが抑制できないケースも当然でてくるだろう。こういうときにフロイトやユングといった「古典」を読むよりは和田秀樹氏の著書を読むほうがよっぽど即効性があってしかも問題解決にも役立つ。ビジネス書籍にも色々な種類があるがいわゆる「即効性の薬局のお薬」も必要なケースもあれば、薬剤師さんの調合が必要な特殊な専門薬もどちらも必要だが、日常生活を送る場合には、専門薬よりもジェネリック薬のような一般的な薬の役割を果たす本書のような存在が貴重となる。「過去の経験や情報はたかがしれている」というおもいきった提言の数々。こういうのがいいんだなあ…。

特上カバチ第7巻~第10巻(講談社)

原作:田島隆 漫画:東風孝広 出版社:講談社 発行年:2007年
 主人公が行政書士に合格してからを描く「カバチタレ2」としての「特上カバチ!!」シリーズ。第7巻からは遺産分割協議と取得時効がからむ法律問題に取り組む。平成2年の遺産分割協議の最高裁判例など受験生にとってもミニ知識として役立ちそうなエピソードが描写されているが、やはり「ナニワ金融道」の元スタッフだけに「きれいごと」だけでは済まさないリアルな描写が見事。当然弁護士のアドバイスをクライアントがあおぐ場面も出てくるのだが、あまり細かい案件になると弁護士は動かないか、着手金が高額になるケースがあるため、あえて広島を舞台に設置したこの漫画の醍醐味で合法的に行政書士が遺産分割協議書をめぐって対立、さらにクライアントの解決に動く。さらに第8巻からは離婚調停。これもかなりリアルに描写されており、家庭裁判所の調停申立書を提出するまでの細かな設定がさすがに見事。漫画でここまで具体的に描写されていると家庭裁判所に万が一いくことになっても調停申立書を書いて提出するまではなんとか行政書士に依頼しなくても読者には書けるようになるだろう。それにしてもこのシリーズ、法律や判例の改正も取り込んでなかなか見事なパート2シリーズになってきている。一般的に漫画のパート2はこけるといわれているが、「新ナニワ金融道」といい「特上カバチタレ!!」といい、見事な味わいのパート2シリーズになっていると思う。

2009年2月16日月曜日

フィンチの嘴(早川書房)

著者:ジョナサン・ワイナー 出版社:早川書房 発行年:1995年 評価:☆☆☆☆☆
 1995年にピュリツァー賞を受賞したこのノンフィクション。のっけからフィンチの嘴の計測に数十年をかけた生物学者の夫婦の様子が紹介され、その世界にひきこまれる。そして、自然選択や進化といった現象はけっして長期にわたる観測不可能なものではなく日常的に常に発生していることも徐々にこの本を読み進めるにつれて理解できるようになっている。生物学を知らなくても著者が非常にわかりやすく、かつ詳細なコメントをつけてくれているので読みやすい。しかも面白い。ガラパゴス諸島での実験データをもとにコンピュータで解析していくプリンストン大学の学者夫婦の生活の描写もまた面白く、フィンチの種類や生活の様子も可愛い。そして、生物の種の分裂と融合のダイナミズムに魅せられる。観測・計測に始まりそしてその実験データを解析する…その科学的方法のプロセスは、数十年にわたる野外観測の苦労の賜物だった。データの収集の大変さと分析の大変さ、そしてさらに専門分野の論文やそれ以外の書籍の読書の重要さを認識させてくれる素晴らしい本だ。「伝説の進化」ではなく日常的な「進化」に意識を向けさせてくれるこの本は生物学のみならず人間の日常生活そのものを見直す一つの契機にもなりうるだろう。

2009年2月11日水曜日

深夜食堂第1巻(小学館)

著者:阿倍夜郎 出版社:小学館 発行年:2007年 評価:☆☆☆☆
 営業時間は深夜0時から朝7時までの食堂。人はそれを「深夜食堂」とよぶ。メニューは豚汁定食、ビール、お酒、焼酎のみ。後は客のリクエストで「できるものは作る」。それが深夜食堂。常連もまじえての甘い卵焼きにタコ型ウインナー、一晩寝かせたカレー。常連客の人間模様と出会い、そして別れ。顔に傷もつ主人の日常お惣菜への思いいれと客の心のふれあいが泣かせる。どうやらこのお店、新宿にお店があるという設定らしいが、新宿2丁目から3丁目まで、けっこうこんな雰囲気のお店はまだまだ残っている(らしい)。ちなみに一晩寝かせた冷たいトンカツもなかなか美味しい。いつか登場するのではないかと密かに楽しみにしている。

為替がわかれば世界がわかる(文藝春秋)

著者:榊原英資 出版社:文藝春秋 発行年:2005年 評価:☆☆☆☆☆
 単行本での出版は2002年だから、この手の書籍としてはかなり古い出版ということになるが内容はいささかも古びていない。文庫本発刊は2005年でそして2009年現在の為替動向すらも著者は見通していたかのような鋭い分析が展開される。鋭いだけでなく、扱っている材料も非常に面白い。
 「リ・オリエント」という単語が繰り返し著述されるが具体的には中国とインド。もともとはA.G.フランクの言葉だが、21世紀を迎えてさらに中国とインドの経済的台頭がめざましい。アメリカの支配力が弱まるという長期的展望は現在のドル安がそれを示している。1987年2月のルーブル合意以降はドルと円は一種の「レンジ相場」に入ったという見方も円高の現在、一定のレンジ内で動いているわけだから長期的には正しい分析なわけだ。
 書籍の中ではソロスの生の姿も紹介され、ハンガリーのブタペスト生まれでロンドン大学でカール・ポパーに教わり、そしてポパーの「オープン・ソサエティ」という概念に大きく影響されていることなどが紹介される。そしてソロス自身が誤謬性と相互作用性というきわめて柔軟な考え方の持ち主であることも。為替当局の官僚だった著者が、ヘッジファンドの大物と実際に会い、そこで会話することでさらに研ぎ澄まされた感覚を養っていくプロセスもまた本書で明らかになる。そしてローレンス・サマーズの生の姿も紹介され、ポール・サミュエルソンとケネス・アローの両方が血縁にいることをはじめてこの本で知る。官僚的で金融引き締めの政策をおしつけるIMFには地域コミュニティのアドバイザーをめざすべきと進言し、外交的にはバイラテラルな関係からマルチラテラルな関係を提案。そして、教育的には知識の量と想像力は正の相関関係にあることを指摘。タイトルだけからすると為替中心の本のようだが、実際には、情報の重要性や信用経済の「信用度」の重要性、そしてフィジカル・コンタクトの重要性などビジネス社会全般に通じる深くて応用の利くテーマが目白押し。文庫本でこの内容の充実度は素晴らしい。

ナンバー2が会社をダメにする(PHP新書)

著者:岡本浩一 出版社:PHP研究所 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 サブタイトルが「組織風土の変革」なのだが、メインタイトルよりもサブタイトルのほうが本書の本質を現していると思う。組織の不祥事はたまたま起こるのではなく組織風土から必然的に発生するというメカニズムの解説が行われており、JCO事故や金融不祥事などが具体例として取り上げられている。会議のあるべき姿や権威主義の暴走など、他の不祥事にも通じる解説が展開されており、会社などに勤めるビジネスパーソンで、「ああ、これはあれと関係がある」とすぐに身近な例に思い当たることが多いのではないか。権威主義的な人間を見抜き、なるべくその特性に合わせて社内で対応し、企業不祥事を防止する。非常に実用的な内容で、しかも実例が取り上げられているから応用が利きやすい。また数値など間接的指標を利用するといった著述も非常に納得がいく。巻末には著者の過去の著作物のリストも掲載されており、興味のある分野をレファランスすることも可能。

2009年2月10日火曜日

ヤバい経済学(東洋経済新報社)

著者:スティーブン・D・レヴィット、スティーブン・J・ダブナー 出版社:東洋経済新報社 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 何気なく手にとっているうちに、データから理論を読み解いていくと、思いもかけない結論に達する…しかもそれにはちゃんとした合理性がある…というこの本の世界にひきこまれる。「あらゆるものの裏側」をデータを中心にみていこうとする二人の経済学者は、罰金が必ずしも遅刻を減少させない理由をインセンティブから解き明かし、ニューヨークで犯罪率が減少した理由を各種の統計から明らかにしていく。KKK団と不動産屋さんの共通点を探り、アメリカの教師と日本の相撲取りの共通点をあぶりだす。特に「完璧な子育て」についての章は意義深く、結局、親自身のこれまでの人生がそのまま子供に反映されるのであって名前がどうあろうとあまり関係ない…という結論に至るまでの論証が圧巻。巻末の索引や翻訳者による解説も充実しており、情報の非対象性や回帰分析はこういう風に使うとこんなことがわかるのか…と天才たちの仕事ぶりや頭の働かせ方を覗き込むのにも役にたつ。軽いエッセイの感じでも読めるが、逆に深く読み込もうと思えばさらに深く読み込むことも可能な経済学の本。

2009年2月8日日曜日

管理会計の卵(税務経理教会)

編者:小田正佳 著者:小西憲明 出版社:税務経理教会 発行年:1988年
 「卵」ということで入門書の前の入門書という位置づけだが、けっこう内容は濃い。管理会計がメインではあるものの、原価計算の役割から、製品原価計算、個別原価計算もしっかり学習した上でCVP分析や標準原価計算、業務的意思決定、長期投資の意思決定までカバーしている。管理会計というと本来は標準原価計算ぐらいから戦略的意思決定までがだいたい入門書のレベルだろうが、本当の初心者のためには原価計算や工業簿記の意味づけも当然説明しなくてはならない。そこで本書のような構成になったのだと思うが、手にとって読み始めて最後まで読破できる読者はおそらくある程度原価計算の全体像が理解できている人だけだろう。とはいえ、コストフローの流れから戦略的意思決定までかなり丁寧に説明されており、入門書の入門書としてよりも「全体像の理解」というか「まとめ」として活用するのには優れている本だと思う。著者は米国公認会計士で、日本語のメリハリがきいていて読みやすい文章。

2009年2月2日月曜日

食がわかれば世界経済がわかる(文藝春秋)

著者;榊原英資 出版社;文藝春秋社 発行年;2008年 評価:☆☆☆☆
 「産業革命」の前提として農業革命で生産効率が著しく上昇した結果、工場労働者が農村から供給される地盤が整備されていたことを知る人は案外少ない。しかし元大蔵省の「為替」を知り尽くしたエリートはいとも簡単に農業革命をさらっと説明してしまい、しかも単一商品栽培によるコストの低下と大英帝国の繁栄を数行で適確に表現してしまう。
 映画「エリザベス~ゴールデンエイジ~」では弱小の大英帝国艦隊が無敵艦隊を迎え撃つシーンがやや悲壮に描写されていたが、著者の視線は局所的な海戦ではなく、スペインやポルトガルの収奪的な植民地経営と英国とオランダの産業育成的な植民地経営を比較して長期的視点で大英帝国の繁栄をとらえなおす。
 アメリカ北部においても農業や牧畜を中心とする産業を育成し、戦略的な植民地支配を行った。マレーシアにおけるゴムなどは特殊な例(またはインドにおける綿花など)だがあとはほとんど農産物。つまり「食」に関することだ。世界経済の「食」の市場を制圧することで大英帝国の覇権が確立されていったことがまず論証もしくは紹介される。
 その後アメリカは米英戦争を経て独立。ヨーロッパとの貿易がとだえたことから国内の工業生産が発達するとともに、農業も小麦を中心に飛躍的に生産能力を向上させていき、ポスト大英帝国の土台を築いていく。大量生産・大量消費のまるで工業的な農業生産方法によって。さらに本書は食文化が栄えた絶対王政の時期のフランス・ブルボン王朝に嫁いできたイタリアのメディチ家の二人(カトリーヌ、マリー)、さらにルイ13世が迎えたフェリペ3世の娘、ルイ14世が迎えたフェリペ4世の娘、さらにオーストリアの王妃マリー・アントワネット、ルイ15世の迎えたポーランドのマリー・レクチンスキーとフランスにもたらされたイタリア、スペイン、オーストリア、ポーランドの食文化の輸入を指摘し、ワインからシャンパンが生まれた歴史を解説してくれる。
 そしてフランス革命が貴族の料理を一般市民に拡大して現在にいたるわけだ。ガストロノミー(美食学)の始まりである。さらに中国の食文化、オスマン帝国、インド、東南アジアと解説され、テーマは食の文化では歴史が古いアジアがなぜヨーロッパに侵略されたのかに移っていく。イスラム国家は商人のための国家というこれまで知らなかった解説をこの本で知り、ユダヤ商人やレバノン商人などもイスラム商人と行動をともにし、それを十字軍が破壊していったという見方を知る。そして東方貿易によってトマト、トウガラシなどがアメリカ大陸からヨーロッパに輸入されていく。ジャガイモもアンデス山脈からヨーロッパに輸入され現在の食文化を構築していく…。
 わづかに200ページちょっとの文庫本だが内容は極めて濃く、しかもそのいずれもが経済に結び付いていくという構成が魅力的だ。著者の博学さと世界史の流れが一望できる点で素晴らしい一冊といえる。歴史的資料などをかなり参照して執筆されたことは巻末の参考資料の多さが物語る。グルメではなくとも読んでいて思わず内容に引き込まれていく文庫本の中の名作