2009年2月16日月曜日

フィンチの嘴(早川書房)

著者:ジョナサン・ワイナー 出版社:早川書房 発行年:1995年 評価:☆☆☆☆☆
 1995年にピュリツァー賞を受賞したこのノンフィクション。のっけからフィンチの嘴の計測に数十年をかけた生物学者の夫婦の様子が紹介され、その世界にひきこまれる。そして、自然選択や進化といった現象はけっして長期にわたる観測不可能なものではなく日常的に常に発生していることも徐々にこの本を読み進めるにつれて理解できるようになっている。生物学を知らなくても著者が非常にわかりやすく、かつ詳細なコメントをつけてくれているので読みやすい。しかも面白い。ガラパゴス諸島での実験データをもとにコンピュータで解析していくプリンストン大学の学者夫婦の生活の描写もまた面白く、フィンチの種類や生活の様子も可愛い。そして、生物の種の分裂と融合のダイナミズムに魅せられる。観測・計測に始まりそしてその実験データを解析する…その科学的方法のプロセスは、数十年にわたる野外観測の苦労の賜物だった。データの収集の大変さと分析の大変さ、そしてさらに専門分野の論文やそれ以外の書籍の読書の重要さを認識させてくれる素晴らしい本だ。「伝説の進化」ではなく日常的な「進化」に意識を向けさせてくれるこの本は生物学のみならず人間の日常生活そのものを見直す一つの契機にもなりうるだろう。

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