2009年2月11日水曜日

為替がわかれば世界がわかる(文藝春秋)

著者:榊原英資 出版社:文藝春秋 発行年:2005年 評価:☆☆☆☆☆
 単行本での出版は2002年だから、この手の書籍としてはかなり古い出版ということになるが内容はいささかも古びていない。文庫本発刊は2005年でそして2009年現在の為替動向すらも著者は見通していたかのような鋭い分析が展開される。鋭いだけでなく、扱っている材料も非常に面白い。
 「リ・オリエント」という単語が繰り返し著述されるが具体的には中国とインド。もともとはA.G.フランクの言葉だが、21世紀を迎えてさらに中国とインドの経済的台頭がめざましい。アメリカの支配力が弱まるという長期的展望は現在のドル安がそれを示している。1987年2月のルーブル合意以降はドルと円は一種の「レンジ相場」に入ったという見方も円高の現在、一定のレンジ内で動いているわけだから長期的には正しい分析なわけだ。
 書籍の中ではソロスの生の姿も紹介され、ハンガリーのブタペスト生まれでロンドン大学でカール・ポパーに教わり、そしてポパーの「オープン・ソサエティ」という概念に大きく影響されていることなどが紹介される。そしてソロス自身が誤謬性と相互作用性というきわめて柔軟な考え方の持ち主であることも。為替当局の官僚だった著者が、ヘッジファンドの大物と実際に会い、そこで会話することでさらに研ぎ澄まされた感覚を養っていくプロセスもまた本書で明らかになる。そしてローレンス・サマーズの生の姿も紹介され、ポール・サミュエルソンとケネス・アローの両方が血縁にいることをはじめてこの本で知る。官僚的で金融引き締めの政策をおしつけるIMFには地域コミュニティのアドバイザーをめざすべきと進言し、外交的にはバイラテラルな関係からマルチラテラルな関係を提案。そして、教育的には知識の量と想像力は正の相関関係にあることを指摘。タイトルだけからすると為替中心の本のようだが、実際には、情報の重要性や信用経済の「信用度」の重要性、そしてフィジカル・コンタクトの重要性などビジネス社会全般に通じる深くて応用の利くテーマが目白押し。文庫本でこの内容の充実度は素晴らしい。

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