2009年12月31日木曜日

犬の力 下巻(角川書店)

著者:ドン・ウィンズロウ 出版社:角川書店 発行年:2009年 本体価格:952円 評価:☆☆☆☆
 淡々と続く描写のはてに突然始まる残虐なシーン。この「突然の流れ」がまたこの本を面白くしている。かなりの長編だが、読者の「飽きがくるかな」というところで「勃発する暴力」。間の取り方がうまく現実に発生したメキシコ大地震やコントラ事件、NAFTAの結成などがうまく架空の物語と直結。途中から「物流ミステリー」と個人的に名づけたが、メキシコ連邦警察、CIA、FBI、DEAなどの各種捜査機関の目をくぐっての麻薬の輸出と金の受け渡し。究極のロジスティクスを構築しようとするメキシコのマフィアとそれを壊滅させようとするケラー捜査官。物語は30数年の両者の戦いをへて最後には…。物語が始まったころには10代後半だったノーラとカランも最後にはもういい大人になっている。そしてケラー捜査官も「老いぼれ捜査官」に位置づけられることに。このひとつの物語の中に登場する人物群はまさしく人間模様。白い麻薬と赤い流血で染まった地獄のような物語の中で「犬の力」(=悪)から逃れだそうとするアート・ケラー捜査官のラストが心にしみる。

2009年12月30日水曜日

犬の力 上巻(角川書店)

著者:ドン・ウィンズロウ 出版社:角川書店 発行年:2009年 本体価格:952円 評価:☆☆☆☆☆
 ドン・ウィンズロウの作品を読むのは久しぶり。ちょっと東洋哲学的な方向に走り始めてからは手にとっていなかったが、メキシコを舞台にしたDEAと麻薬密輸業者との戦いを描くこの作品、国境線をこえてアメリカからお金、メキシコからは麻薬という物流ミステリーの様相を呈している。人間関係はもちろん複雑でしかも時代は1975年から21世紀にまで約30年に及ぶ。「善」であるはずのDEA捜査官と「悪」であるはずの密輸業者の闘争。そしてバチカンからは「解放神学」(異端)とみなされているメキシコのカソリック司祭。舞台設定も見事なら時代設定も見事。「このミス」などで1位、2位を占めた理由もわかる。そしてめまぐるしく変わる政治状況。NAFTAがメキシコの「裏社会」や「表社会」に与えた影響の大きさも実感として伝わってくる。
 上巻では、1975年から1992年までの麻薬戦争が描写され、メキシコ・マグダレナ川が凄惨な殺人現場となる場面で終わる。「人間は変わる」「人間は年をとる」といった当たり前の事実がこのミステリーでは悲しいストーリーでつづられていく。

2009年12月27日日曜日

なぜ社員はやる気をなくしているのか(日本経済新聞出版社)

著者:柴田昌治 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2007年 価格:1,500円 評価:☆☆☆
 株式会社スコラ・コンサルトの代表取締役による社員の「内発的動機」の促進についての本。教育学部のご出身だが、おそらく教育心理学をビジネスの現場に応用した成果をコンサルティングに活用しているのではないだろうか。マネジメントにおける対話が重視され、一方的な上意下達では「知恵」や「各論をつくりこむこと」などは難しいとしている。会社の多くはピラミッド型でそれぞれが上司に不平をいいつつ、命令一元化の原則のもとに「対話」がないままに業務が進行するという形をとる。こうした対話がない場所で、制度を成果制度に変更しても終身雇用制度に変更しても何も機能せず内発的動機を高める効果は薄いとされる。著者は「対話」とは「(解答を)一緒につくっていく能力」としているが、上司の一元的な「解答」があらゆる要素を考慮した問題解決のベストアンサーではありえないのだからそこに「対話」が必要となる。また想定外の状況に陥ったときに「対話」がなければタコツボ状況の専門家がバラバラに勤務している状態では、ベスト・アンサーを得ることはできないだろう。「対話」の次に重視されるのが「情報の共有」でこれは対話のベースとなるシステム化だ。こうした理論ベースの応用編として不満分子の隠れたやる気を引き出すスキルなども紹介されてくるのが、最大のキーワードはやはり「対話」と「情報の共有」であろう(サブタイトルにもなっているスポンサーシップはリーダーシップの変形ともいえるが、要は対話や情報の共有を懐深く受け入れる許容性のことだと個人的には解釈している)。
 コーチングやリーダーシップ論の本はやまほどでてきているが、「場」を作り上げるという観点での著作は非常に珍しい。個人的資質の向上だけでなく、チーム全体での活性化を考えたときに、「情報の共有化」をいかなる形で具体化していくべきか、あるいは「対話」をいかなる形で現場に落とし込んでいくべきかといった応用がそれぞれの会社で可能になるだろう。タイトルはやや「キワモノ」的だが、汎用性の高いコンサルティングの現場から生み出された経験則がふんだんに紹介されているマネジメント系統の書籍。

私という病(新潮社)

著者:中村うさぎ 出版社:新潮社 発行年:2006年 価格:1,200円(単行本) 評価:☆☆☆☆☆
 ホストクラブ、ブランド依存などを実地に体験して、自分の心で感じたことを経験をふまえて掘り下げていく中村うさぎ。そのルポは、読者にとっては痛々しくもあるが、読み始めるとやはり最後まで読み通してしまう「力」を持っている。広いジャンルわけでいくと「フェミニズム」の本というジャンルになるのだろうが、ここで中村うさぎは狭義の「フェミニズム」に対しては拒否感めいたものを文中で示しつつ、男性の「暴力性」「差別性」がぐっさり浮き彫りにされていく。これを単なるデリバリーヘルスの物語とか体験ルポという位置づけで終わらせてしまうのは、むしろ「逃避」だろう。女性読者が多いといわれているが、むしろ読むべきなのは、家庭をもつ男、独身の男、まだ何もしらない男子学生といった「男全般」であるかもしれない。女性を神のようにあがめるのも、逆にDVの対象にするのも「普通の人間」として位置づけることができない男性の問題。さらには妻に「母性」を見出すのも、男性の手前勝手な「妄想」であることが明らかにされていく。
 当時47歳の中村うさぎが31歳と偽って面接を受けに行くコミカルな場面から、次第に「物語」は中村うさぎ本人のモノローグへ、そして男性全般に向けたメッセージへと転化していく。これ、男性は年齢を問わず必読の名著ではないか。

2009年12月26日土曜日

「できる人」の時間の使い方(フォレスト出版)

著者:箱田忠昭 出版社:フォレスト出版 発行年:2005年 本体価格:1,300円 評価:☆☆☆
 時間管理についてはいろいろな本がでているがこの本はその中でも「使える度」が高い。「目標を書いておけ」というのは「根性論」だと決め付けていたが、「書いておかないと明確にならない」という可視化の観点で説明されるとなるほどと思う。著者自身がかなりの苦労をされた人らしく結婚から仕事までかなり細密に目標を設定してそこまでのプロセスを立案、さらに修正というオーソドックスな作業を繰り返しているがこうしたPDSサイクルこそが実は目標達成の基本。書いてある内容はほかの本でも書いてあることとほぼ同じなのだが、おそらく説明がうまいので読みやすく使いやすいということになるのだろう。仕事・自己啓発・経済・健康・家庭・そのほかと6ジャンルでそれぞれ目標を設定するという方法も使える。全体展望から優先順位を決めて具体的課題に落とし込んでいくというオーソドックスでしかも特殊なツールを必要としない内容。それこそ仕事・自己啓発・経済・健康・家庭などそれぞれの分野で応用可能な内容といえるだろう。この手の自己啓発本としては出色のでき具合でしかも本の価格も安い。

2009年12月23日水曜日

小宮一慶の「深掘り」政経塾(プレジデント社)

著者:小宮一慶 出版社:プレジデント社 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆
 いわゆる経済評論家のなかでも「まめ」に購入して読んでいるのがこの小宮氏の書かれた一連の書籍。「貯蓄から投資へ」という推奨のなかで、「デフレのもとでは定期預金が一番」という個人的な考え方と一致する点が多いというのがまずその理由のひとつ。ふたつめは、かなり重い病気を克服されて「残りの時間」をいかにすごすかといった哲学的な要素が感じられることが挙げられる。
 この本の中でも安易な投資を批判し、実質利子率は定期預金のほうが上という考え方で「よほどの自信」がないかぎりは投資をするべきではないという理論を展開。JALとダイエーの共通点から最低賃金法、国際関係まで「深い見方」を展開してくれる。
 基本はやはりオーソドックスなマクロ経済学とミクロ経済学だが、その理論と現在の事実を「つなげて考える」手法が本書の見所。人間には忍耐や向上心がある以上は「理論どおりにいかない」という人間的な見方で理論を修正し、近代経済学の「限界利益ゼロ」の状態であっても市場から退出しない企業が多いことを説明してくれる。オーソドックスな理論がベースにあるからこその現実の深い分析力に説得力が加わる。国連気候変動枠組み条約会議についてもアメリカとロシアの覇権をめぐる動きとからめて非常に説得力のある見方を示してくれている。

2009年12月19日土曜日

出社が楽しい経済学2(NHK出版)

著者:吉本 佳生 出版社;NHK出版 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 ロックイン、コミットメント、ヴェヴレン効果、「心の会計」、スクリーニング、勝者の呪い(オークション)、レントシーキング、規模の経済性といったテーマが扱われた新しい観点からみた経済学入門。これまで「経済学入門」といった場合には、マクロ経済学的な書籍が多かったのだがこの本では、ミクロ経済学とゲーム理論が重複する「行動経済学」で扱われるテーマを中心にわかりやすく解説されている。「レント」についても非常に難しい用語だが、「官僚などへの接待のようなもの」という非常に的確なイメージで理解を促進してくれる。「価格」のもつ合理性については伝統的なミクロ経済学が得意としてきたが、必ずしも現実の人間はその「合理的」な結論にしばられない「非合理性」をもつ。ただし著者はその点についてもミクロ経済学の理論からすれば「非合理的」だがそれ以上の価値観を持ち込むべきではないとして、「合理性」の枠を限定して著述を進めている。そこがさらに好感がもてる。どうしてもゲーム理論など「現実妥当性」に準拠したくなるが、ミクロ経済学の伝統的理論の学習に加えて、本書が扱うような「非合理性」や「人間心理」の問題も理解していくべきだろう。変形サイズの書籍なのでやや持ち運びしにくいが、その分ページ数が圧縮してあり、カバンにいれて通勤・通学の途中で読むには問題ない。価格も1260円と良心的な設定。

2009年12月14日月曜日

3つの原理(ダイヤモンド社)

著者:ローレンス・ストーヴ 出版社:ダイヤモンド社 発行年:2007年
 「big picture」というか歴史の流れを社会階層や性差、年齢の3つの軸で分析し、さらに将来を予測していく。ヒンズー教の「ユガ」などを題材にして、戦士の世界、商人の世界、労働者の世界、宗教・精神の世界へと世界の軸が変化していく様子を描写。必ずしも納得できるテーマではないのだが、ただ「戦士→商人→労働者」という価値観の移り変わりにはなるほどと思う。日本の場合には武士から財閥、そして現在の「労働」の時代に至るわけだが、現在の日本の首相がとやかくいわれているのも、労働組合から支持をえておきながら、9億円の「贈与」(もしくは借り入れ)を母親から受けることができるという一点に尽きるのではないかと思う。だってそんなの労働者じゃないもの。
 こうした労働者の世界では経済のブロック化が始まるというのもわかるような気がする。マルクス主義者の中でも国際主義者の方たちは「万人の労働者の連帯」をいうのかもしれないが、実際には「地域的な連帯」が軸となり、ほかの地域との経済競争が激化するという予測のほうが真実味がある。それはEUやNAFTAといったブロック経済の高まりが実際に発生している現実もその理論を裏付けている。ただそういうブロック化の中で「儒教文化圏」という枠組みは「?」という感じ。そもそも儒教は宗教ではないし、日本、中国、韓国の地域ブロックというのはEU以上に歴史的な溝が大きいからでもある。アジアでブロック経済圏ができれば確かにEUに対抗しうる将来の「軸」として考えられるが、それぞれの国の民族主義的な気風は、21世紀になってからますます高まっている印象。実際にブロック経済の重要性を認識しつつも、感情的な面で経済的な連携は難しいのではないかと思う。とはいえこういう「big picture」を語るビジネス書籍。最近では珍しいうえに、個々のニュースを関連づけて分析していく上でも有用な内容ではないかと思う。評価は☆☆☆。

2009年12月12日土曜日

ストロベリーナイト(光文社)

著者:誉田哲也 出版社:光文社 発行年:2008年
 60万冊突破という帯にひかれて購入。一気に読み終わる。う==ん。個性豊かな人物が多数登場して、それぞれがそれぞれに面白いのだが、警察モノだとやはり「震度0」みたいなリアリティが感じられず、どうしても「きれいごと」かも…。とふと思ってしまうような場面も。最終的には「みんな、それぞれいい人」というあたりに納得いかない気も。ノンキャリアでたたき上げの女性警部補が猟奇殺人事件の捜査をめぐって走り回るという設定もなんだかなー。この手の捜査で所轄の警察署だけで捜査を担当ということはおそらくないだろうし。捜査本部のIT能力ももっと実際は高いはず。また経歴についての洗い出しはこの小説ほど甘いものではないだろう…という気もする。が、60万冊も売れているということは、「ありそうで実はないだろう」という設定が微妙に読者の購買意欲をそそるのかもしれない。ラストの「落ち」については、途中ですでに個人的に「こういうラストかな?」と想像がついた部分も…。

2009年12月5日土曜日

人を助けるとはどういうことか(英治出版)

著者:エドガー・H・シャイン 出版社:英治出版 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆
 この1週間、出勤途中に読んでいたのはこの本。緑のカバーが非常にきれいでブックカバー好きの私もこの本は、ブックカバーをつけずに持ち歩く。「ヘルピング」という言葉が冠した書籍が増えたが、経営組織学の中の人間に関する部分を取り扱った内容。正直タイトルのわりには内容は難しく、巻末の金井嘉宏氏の解説35ページが非常に役に立つ。エッセンスは解説で要約してくれているが、解説を読んでからもう一度本文を読むぐらいの感覚でないと内容の把握は正直難しいかもしれない。平易でわかりやすい文章だが、だからといって内容がわかりやすいとは限らない。おそらく翻訳者もそのあたりを配慮して、原本の注記のほかに翻訳者による専門用語の注記や解説も付されており、特に学者志望や経営組織の専攻でなくても用語に戸惑いを覚えることが少ないように構成されている。編集者による編集方針もおそらくあったと思うが、装丁も内容もかなりきちんと編集されているので、安心して読み進めることができるほか、書棚に保存しておいて損する可能性はきわめて少ない良書のひとつといえるだろう。296ページのページをフルに使い切った丹精でしかも作り手の意気込みが伝わってくる翻訳書。価格も定価1,900円と良心的な設定である。

重力ピエロ(新潮社)

著者:伊坂幸太郎 出版社:新潮社 発行年:2006年
 伊坂幸太郎といえば現代日本の売れっ子作家の最前線。しかし実は読むのはこの本が個人的には初めて。独自の倫理観を貫く少年というスタイルは花村萬月の大ファンである私にとってはありふれた設定だが、擬似家族でもなく「本物の」家族で、しかも家族という集合体が結成されてから、ここのユニットに分解されつつある状態がこの小説に。「家族」から「親子」「兄弟」というユニットで、最終的には、「親子」というユニットも物理的には解消されて「兄弟」だけが残存する。恋人関係を通じた新たなユニットがでてこないシステムが興味深く、この「兄弟」の関係はどんどん絆を固めていく。そして最終的には地元の「世間」とか社会関係といったものも、「相対化」されてしまうのが面白い。普通であれば「世間体が…」「社会的な見地では…」といった見方をしてしまうような場面でも、彼ら独自の論理でそうした「重力」から解放されたまま自分たちの物語を作り上げていく。ある意味、「軽い」し、おそらく社会をここまで切断してしまうと普通のサラリーマンなどはつとまらないはずだが、だからこそ「ピエロ」ということになるのだろう。芥川龍之介や太宰治といった古典作家への思い入れも随所にちりばめられつつ、「集団」から「個人」」へ極限まで「解放」されてしまう物語。こういう設定の物語が多くに支持されるという現象も興味深い。

2009年12月1日火曜日

ステーショナリーハックス(マガジンハウス)

著者:小山龍介 土橋正 出版社:マガジンハウス 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 文房具へのこだわりが結晶化した一冊。汎用性がどこまであるのかは疑問だが、文房具への愛着が伝わってくる内容となっており、カタログのようにみえてさにあらず。いろいろな文房具を使い倒して「これは便利だ」と思ったものを著者が主観もまじえて紹介してくれている。この本にとらわれる必要性はないが、このすべてを120パーセント活用すればアイデアもわくし、やる気もでてくるだろう。いずれにせよ機能がそなわった文房具には機能美もある。ありきたりのメモではなくてなにか付加価値がついているものを利用したほうが、日常生活にも楽しみが増えるというもの。私自身も文房具にはある程度こだわりはもっているが、ここまでのこだわりは実はもっていない。かといってこの本を読むとすごく楽しく時間が過ごせるので、ちょっとしたウインドウショッピングを楽しんだ気分になる。今の時代、「これがいい」と思ったらパソコンを開いてすぐネットで買い込むこともできるので、もちろんそうした通販にも利用できる。アルティザン&アーティストのPM-091というカバンが非常に気に入ってしまったのだが、何かを持ち運ぶにもなにをするにも非常に便利そう…。

貧困ビジネス(幻冬舎)

著者:門倉貴史 出版社:幻冬舎 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 リーマン・ブラザース不況がさらに日常生活のあちこちになげかける暗い影。それが著者がなづける「貧困ビジネス」である。貧困者を相手にさらに利益を搾取しようとするビジネスを総称するが、多重債務者に養子縁組をさせてさらに借りさせるビジネスや臓器売買、偽装結婚、二重派遣、食品偽装、そして貧困対応型セックスビジネスなど、「知恵」のまわる悪人たちが考え出した貧困ビジネスは行政の想定外の行動で営利を搾り取る。さらに行政の改正割賦販売法が施工された場合(2010年)、クレジット業者が登録制になるほかクレジット会社には個人消費者の与信能力の調査義務が課される。つまり与信能力がないとみなされた消費者はクレジットカードが使えなくなるわけだが…。これが民間消費を冷え込ませることになりはしないか、という著者の疑問は「もっとも」な懸念である。改正貸金業法も2010年6月より貸出上限金利が20・0パーセント、さらに貸し付け金額も収入の3分の1以下までとされる。これで問題がすべて解決すればいいのだが、おそらく著者が想定しているように、ヤミ金融からの借り入れをする消費者が急増するというリスクは高い。新書サイズではあるが内容は非常に濃く、しかも2009年末現在の世相をかなり克明にうつしとっている描写が多い。いくつかの事例は著者自身が取材にあたって価格の相場などを調べたものと思われるが、一読して「景気の余波」について考えてみるには絶好の書籍といえるだろう。また10年後、20年後に経済史の参考文献として利用できる内容でもある。

図解超勉強法(講談社)

野口悠紀雄監修 出版社:講談社 発行年:2009年
 いわゆる8割学習法が提唱されているが個人的には巻末の超整理手帳の利用方法に興味津々。自分自身もホワイトコックスの革の手帳にリフィルを入れているが、ほかの職種の方々がどんなふうに活用しているのかに興味がある。資料やデータをA4サイズで管理するほか図書館などで資料集めをするときにはこの超整理手帳は抜群の使いやすさ。ただし勉強の進捗管理などはむしろ「綴じ込み」の手帳のほうが利用しやすいのではないか…などとも思っていたので、勉強法で超整理手帳がどのように使われているのかに関心があった。が、あまり勉強法とは関係なくスケジューリングや忘れ物チェックといった方向での利用が多く、まだまだ勉強の進捗管理というハードルはこの手のリフィルでは難しそう。
 ただ、持ち運びのしやすさや、A5サイズとのリンケージ、さらに超整理手帳のさらなる母艦としてA4サイズの2穴ホルダーを利用すると、さらにこの手帳の威力は発揮される。突然の会議であっても、この手帳さえもっていけばまず問題はない、というところまで仕事に特化さえしていれば、名刺やペンなど最低限とじこむべきものも確定してくる。実際お客様などがいらっしゃったときに名刺の持ち合わせがない…というのは少々気恥ずかしい感じがするもの。ある程度、手帳にはさみこめるビジネス上の必需品は持ち備えていたいものだ。その意味では整理手帳、勉強の進捗管理以外でも利用価値は十分といえる。

古代ローマ帝国の栄光(小学館)

「NHK世界遺産100」から新たに世界遺産100として編集しなおした映像と説明書がついたDVD付ムック。約70分のDVD映像と説明が楽しめる。価格は1,490円とまあまあの価格だが、さすがにシリーズ全部を見るのは不可能としても自分に興味がある文化遺産についてこうしたブックレットを入手するのはけっこう面白いだろうと思う。全50巻だが、おそらくこれから購入するとしても3巻か4巻程度か…。それを割り引いてもけっこうな面白さである。一応説明もあるのだが、やはり目でみて耳できいて理解できることも多いことを実感。