2009年12月30日水曜日

犬の力 上巻(角川書店)

著者:ドン・ウィンズロウ 出版社:角川書店 発行年:2009年 本体価格:952円 評価:☆☆☆☆☆
 ドン・ウィンズロウの作品を読むのは久しぶり。ちょっと東洋哲学的な方向に走り始めてからは手にとっていなかったが、メキシコを舞台にしたDEAと麻薬密輸業者との戦いを描くこの作品、国境線をこえてアメリカからお金、メキシコからは麻薬という物流ミステリーの様相を呈している。人間関係はもちろん複雑でしかも時代は1975年から21世紀にまで約30年に及ぶ。「善」であるはずのDEA捜査官と「悪」であるはずの密輸業者の闘争。そしてバチカンからは「解放神学」(異端)とみなされているメキシコのカソリック司祭。舞台設定も見事なら時代設定も見事。「このミス」などで1位、2位を占めた理由もわかる。そしてめまぐるしく変わる政治状況。NAFTAがメキシコの「裏社会」や「表社会」に与えた影響の大きさも実感として伝わってくる。
 上巻では、1975年から1992年までの麻薬戦争が描写され、メキシコ・マグダレナ川が凄惨な殺人現場となる場面で終わる。「人間は変わる」「人間は年をとる」といった当たり前の事実がこのミステリーでは悲しいストーリーでつづられていく。

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