2012年3月20日火曜日

アホ大学のバカ学生(光文社)

著者:石渡嶺司 山内太地 出版社:光文社 発行年:2012年 本体価格:820円
 日本語では一般に重要なことがら後ろにくる。ということでタイトルだけからすると「バカ学生」に重点が置かれているように見えるが、実際には「アホ大学の」という限定条件がある。つまり「アホ大学」でない「バカ学生」については論じていないことになる。で、その「アホ大学」というのは端的に要約するとマーケティングができていない「頭でっかち」の大学ということになりそうだ。単に偏差値が高いとか低いとかいうことではない。マスコミを活用するのではなく「避ける」という体質では広報の役割を果たしていないし、入学させた学生が加減乗除ができないのであれば、もう一度加減乗除からやり直すのがむしろ求められている教育なのにそれをしない、というような大学が「アホ大学」ということになる。ちょっと唖然とするような教育機関もないわけではないが、こういう大学の「設立」を認可した監督省庁も監督省庁で、理念がいくら立派でも現実妥当性がない理念は「空想」であるという認識が足らなかったようだ。経営難に陥る大学が続出しているというのは、安易な設立認可を乱発しすぎたせいではないか、と思う。とまれ、そうしたFランであっても「キャンプ」を通じてマナーを教える大学や、少人数教育で実績を上げた秋田県の大学などの例も挙げられている。努力と工夫で入学希望者数を増加させ、就職実績もあげている国際教養大学や武庫川女子大学といった教育機関は「頭脳」を駆使して努力を積み重ねた教育機関といえるだろう。教育機関であってもマーケティングやQCが必要な時代となっている。経済学部が設置されているのであれば、もう少し営利主義のメリットを教育機関に取り込んでもいい時代になっていると思うのだが。

2012年3月19日月曜日

日本の1/2革命(集英社)

著者:池上彰 佐藤賢一 出版社:集英社 発行年:2011年 本体価格:760円 評価:☆☆☆☆☆
 佐藤賢一がまずフランス革命を前半と後半にわけ、前半は人権宣言など一種の「公約」を起草し、着地点としても立憲王制度などマイルドな着地点が目指されていたのに対して、1792年以後から王制打倒といった過激な「革命」が進行していったと指摘する。これがタイトルにもなっているわけだ。2分の1とはたとえばそうした将軍の死刑などは絶対におこなわなかった明治維新や自由民主党から民主党への政権移動など、微温的に進行していく日本の「革新」のことをさす。それがいい悪いというよりも少なくともフランス人がフランス革命に対してもつ「うしろめたさ」みたいなものは背負わなくても住むようになったという指摘は大きい。フランス革命については一部は日本国憲法など日米に流れ、もう片方の「粛清」的な暗い部分はソビエト連邦など東欧や北朝鮮などに流れていった。功罪両方含む近代の大事件だからこそ「ベルサイユのばら」も含め、さまざまなテーマでたびたび取り上げられるのだろう。ひと昔まえにはフランス革命バンザイというトーンだったが、1792年以降の粛清政治の歴史からすると現時点では必ずしもフランス革命のすべてが肯定されているわけではないことがわかる。そして巻末に池上彰が書いているが、歴史を学ぶことによって人間を学ぶことができるという指摘も大きい。すでに起こってしまったことだからこそ、また同じような環境になれば再び人間は同じような行動をとる可能性がある。チュニジアなど北アフリカ(その多くはフランスの旧植民地)でもまず旧政権を倒したあとに、ロベスピエールのような独裁政治がしかれないかどうかが懸念される。今またフランス革命の暗い歴史をフィルターにして現在の世界政治を読み解くこともできる。歴史の意義あるいはもっといえば「功利」みたいなことについても教えてくれる新書の名著。

2012年3月18日日曜日

ジェノサイド(角川書店)

著者:高野和明 出版社:角川書店 発行年:2011年 本体価格:1800円
 書店で買うにはなかなか手にとりにくいハードカバー。しかも600ページ近い厚さだが、それが気にならないほどの面白さ。時間的・物理的制約条件が明示されたうえで「いかにミッションを達成するか」という「物語」が展開。アメリカ、ワシントン。イラク、バグダット。そして日本の東京。最初はぜんぜん違う地点で始まる物語がその後舞台をコンゴ民主共和国に移して時間が経過していくたびに結びつきを増していく。達成すべき「ミッション」そのものが最初は「謎」とされているが、ストーリーにはさまれる「公開鍵暗証方式」など、数学や薬学にまつわる現時点での「予備知識」が次第にミッションを明らかにしてくれる。ルワンダも副次的に物語に登場するが、フツ族とツチ族との間で抗争が始まり、ツチ族やそのシンパが虐殺された時間は、現代史に記録され、しかもかたちを変えて継続中。アドベンチャー小説というのにとどまらず、現代の国際紛争も物語に取り込んでおり、ベストセラーになるのもうなづける。これずっと読んでいると「イエス・キリストの現代への再来?」というようにも感じる。今から2000年前にパレスチナにあらわれたイエス・キリストは当時の歴史文化からすると「辺境」。この物語のアフリカは紛争中の「辺境」。そして同時代の人間には理解しえない概念を駆使するところや一部の人間が「保護」にたちがるあたりもイエス・キリストの再臨といったイメージがわく。いったん手にとってこの世界にはまったら、ちょっと眠れない。この本、映画化するにも適したストーリーだと思うが、これ日本映画でなくてハリウッドで見たい。主役はトム・ベレンジャーあたりで。

2012年3月15日木曜日

13階段(講談社)

著者:高野和明 出版社:講談社 発行年:2004年 本体価格:648円
 「グレイブディッガー」が面白く、さらに遡って本作品。ページをめくっていきなり小説の世界に引き込まれる。犯行時刻の記憶をなくした死刑囚と死刑に反対する刑務官。そして傷害致死で服役していた青年。保護司というあまり知られていない聖職のありようや刑務官の世界も垣間見ることができる。恩赦という制度についても理解できるなどのメリットも。「グレイブディッガー」と同じく後ろめたい過去や社会に対する引け目を負う男が、見知らぬ人を救おうとして限定された時間を駆け抜ける。やはり超人的な体力も資力もない主人公だが、「知恵」と「根性」だけはあるという設定。やはり小説の主役には「影」のある主人公がいいなあ。この本設定がまあ純和風で世界的なストーリーではないのかもしれないが、その分、日本家屋的な怖さがぷんぷん。社会の「湿った空気」みたいなものがあちこちから漂っていてそれが良い。著者の主義主張からか、「そんなの聞いていなかった」というような設定はない。読者のほうで注意深く読んでいれば、何が切迫していて切り抜ける条件としては何がそろっているのかはフェアに物語に呈示されている。

2012年3月13日火曜日

グレイヴディッガー(角川書店)

著者:高野和明 出版社:角川書店 発行年:2012年(文庫版) 本体価格:667円
 「ジェノサイド」がすさまじい勢いで売れているなか、単行本でヒットを飛ばした作品が文庫本で登場。主人公は、チンケな犯罪歴をもつ八神。しかし骨髄ドナーとなって名前もしらない「誰か」を救うためにとある病院をめざそうとしていた。そこで知り合いが思いもかけない死をとげる。そして別の事件をおいかける監察係の剣崎と古寺巡査長。
 超人的な身体能力をもつわけでもなく、またとてつもない知性をもっているわけでもない。パソコンの操作もできない犯罪者が、ただひたすら骨髄を提供するべく逃げ回る。そしてじりじりと目的地に近づこうとする様が面白い。映画「ザ・ロック」(ニコラス・ケイジ主演)もFBIの化学捜査班研究員でアクションはまるでダメ…というのがかえってサスペンスをあおっていたが、この小説もまるでダメダメだが動物的本能で危機を回避していくというリアリティのある様が面白い。夜中に読み始めて途中でやめるつもりが一気にラストまで読み終わってしまう。娯楽作品ではあるのだけれど、「観察力」と瞬時の判断。そして「根性」がサバイバルには大事なのだなとしみじみ納得。で、この3つの能力、普通の人間でも集中力さえあればけっして無理なことではないというのが味噌。

2012年3月12日月曜日

論文をどう書くか(講談社)

著者:佐藤忠男 出版社:講談社 発行年:1980年 本体価格:480円
ポストモダンの映画評論が一世風靡をきわめるなか、佐藤忠男さんの濃色騒然とした映画評論はいまひとつ80年代では人気がなかった。個人的には好きだったが。映画雑誌の投稿欄から評論を書き始め、その後編集者をへて映画評論家にいたる。競争が激しい映画評論でプロとして生き抜いた著者の「文章論」。かなり参考になる。最初は自分自身の「経験」から始まり、その後経験だけでは「行き詰まり」を感じ始め、さてどこにネタをみつけていくべきか…というのが興味深い。近代バンザイから始まった映画評論がそのうち「泣き顔」の回数やらちょっとした疑問点やらから着想を得るにいたる。「なんでもないこと」が実は「宝の山」だと看破するあたりがやはりプロ。また「模倣」から始まる…ということで先輩たちの文章論を研究したあたりがプロ。さらにはモンきりがたの「結論ありき」では論文を書かなかったのもプロのなかのプロ。さらにはさらには短い文章だけではなく結果として駄作であっても「長い文章を書く事」に挑戦したのがそのあとの著者の成功を約束したのだろう。いまはやりの箇条書き式やチャート式の「論文の書き方」ではないものの、「論文」へのヒントはあちこちに散りばめられている。数多の文章論の本に加えていまや絶版になってしまったこの本、amazonでは十分入手可能である。少なくとも2012年3月時点では。

IFRSの会計(光文社)

著者:深見浩一郎 出版社:光文社 発行年:2012年 本体価格:820円
 元銀行員で現役の公認会計士による国際財務報告基準/国際会計基準の解説書。逐条解説の本というよりも、2011年内に発生した日米欧の経済事象を軸にして、60年来の国際会計基準の歴史も追う。現在進行形のIFRSであるため、実際には「最新」とか「網羅」することは不可能。よく書店に出回っている「最新」「逐条」というのはIFRSに関するかぎりは誇大宣伝にあたる。この本ではそうした「誇大宣伝」に陥ることなく、「2011年末」時点で将来を予測するというアプローチと「将来あるべき」モデルを示す。資産負債アプローチについては文言は出てくるが、その説明はまったくない。会計理論を追う本ではないのでそれは妥当な取捨選択だろう。これまでIASBは各国の会計基準設定主体は政府組織や企業の肝いりではなく、純粋な民間団体であることを求めていると考えていたが、この本を読むとフランスの会計基準設定団体は経済財務省の一部となっており、日本の企業会計審議会よりも一歩政府に近く踏み込んだ組織であることがわかった(79ページ)。また、1999年頃のレジェンド問題についても、日本の会計基準がローカル化していたから…という程度の理解にとどまっていたが、実際には1997年のアジア通貨危機で監査法人のビッグファイブにG7が厳しい要求を突きつけた結果であることも初めて知る(73ページ)。FASBの沿革なども詳細に著述されており、アメリカの財務報告基準については会計学の書籍ではいきなり「FASB」という言葉がでてくるだけに、専門書を読むときにもレファランスとしてこの本は役に立つだろう。
 疑問点もないわけではない。122ページから後入先出法はIFRSでは排除されているが、日本基準では「○」という著述がある。日本でもすでに棚卸資産会計基準により後入先出法は排除されているため、この点ではIFRSと日本基準とで齟齬があるわけではない。ただまあ、そうした個別論点についても理論や計算は専門書で学習するとして、実際に会計基準設定諸団体の沿革や日米欧の政策などを学ぶうえでは値段といい分量といい、ちょうど手頃な本ではないかと思う。