2008年9月30日火曜日

「婚活」時代(株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン)

著者:山田昌弘・白河桃子 出版社:株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 発行年:2008年 評価:☆☆☆
 近代社会になっていろいろな「規制」がうまれ、その「規制」があるがゆえに選択に悩む必要性がなかった…。しかしその後規制緩和がなされ、かえって選択に悩む時代になった…という指摘からこの本は始まるのだが、非常に面白い。就職協定があるがゆえに就職に悩むことなく、学歴社会があるがゆえに官僚になることに迷いがなく…という時代から、官僚になってもそれが最適解ではない時代に現在は突入している。結婚も恋愛もおそらく50年前と比較すると目に見えない規制はほとんど消滅しているはずだ。もちろん「家」と「家」との問題というのも存在すると思うがかつての家父長制の時代と比較すれば今の「イエ」というのは解体寸前といえるだろう。統計から1975年を境目に「結婚年齢のバラツキ」が始まったことの指摘や、男性の「諦め組」が増加してきたことから主に女性の読者向けに「婚活」を進める…という論調だ。そんな中、ショッキングなデータがいろいろと出てくるのだが、未婚女性の40パーセントが年収600万円以上の人と結婚したいという結果と未婚男性のうち年収600万円以上の層は3・5%という事実。そうした数値のバランスから結婚は「生活必需品」ではなく「嗜好品」であると喝破する。さらに1980年代以降の出会いの機会の「格差問題」も指摘する。経済的不安の問題やライフスタイルの多様化が必ずしも結婚生活の安定を招かないという実情も紹介。規制緩和があるがゆえの「不安定さ」という指摘。なんだか経済問題や財政政策などにも見られる問題と根底が同じような気がする。さらに追い討ちをかけるようなタイトルが「もともと魅力的な男性は一定数しかいない」という65ページのタイトル。これをみてこの本を購入したのだが、「なるほどなあ」と思ってしまった。それは山田先生の指摘でより具体化すると「経済力とコミュニケーション力の格差」ということにブレイクダウンされてしまうのだが、やや概括的なまとめ方ではあるが1975年、80年代、そして2008年現在の状況をすべて重ねてならべてみると本書のイイタイコト、的を射ていると思う。2分割思考は良くないが、そこを乱暴にまとめてしまうと「幻想をいだくコミュニケーション能力不足の男性」と「現実に立脚したコミュニケーション能力の高い女性」とでは、需要と供給のバランスは確かに崩れている。「量」ではなくて「質」の点で…。
 表紙がキンキラでしかも定価が1,000円と若干高目の新書ではあるが、一度目を通しておいても損はしない本だと思う。読みながら奈落の底に落ちたり納得したりしながらも、最後はそれなりのオリエンテーションもしてくれている本なので絶望的になることはないだろう。ただおそらく出版社は女性読者を主なターゲットにしているのだと思うが、これはむしろ男性読者が読んだほうがおそらく社会的にも大きなメリットになるに違いない。「流される勇気を持たない男性へのメッセージ」がこめられているのだが、ちょっとこのラメの表紙では男性読者がレジに持っていくにはやや「敷居」が高いかもしれない。いずれにせよ、この本からマーケティングなど他のジャンルへの応用も利きそうなフレーズがたくさん学べるのは間違いなし。
 

2008年9月28日日曜日

直撃!裏ビジネス最前線(ぶんか社)

編:バビロン 出版社:ぶんか社 発行年:2005年 評価:☆
 地域通貨発行人、闇のNPO法人、先物取引悪徳業者、地下銀行などの裏ビジネスについてインタビューと取材で構成。地域通貨発行人については類似の「円天」がすでに表の世界で話題になったが、NPO法人についてはまだ課題も多いことは想像がつく。標準課税される金額も株式会社よりは低く、「これから設立するのであればNPO法人」といった発言もこの本で紹介されている。ただやはりデータが古くなってきている印象は否めない。先物取引についてもヘッジ専門でちゃんとした会社もあるのだろうが、電話営業などについては一時かなり強引な勧誘電話が目立った。今はおそらく先物取引を個人でやろうという人は相当レアになってきたのではないか。また両建てのリスクや「向かい玉」といったカラ取引をされたら、先物取引の損失はさらにふくらみ、何処へ流れるかもわからないお金を差金決済で支払うことにもなる。あれこれ手口は公開されているがすでにもう周知になっている部分もあり、おそらく「賢い人」はこの本に書かれている手口とは別個の分野で新しい手法を闇で展開しているのだろう。だがしかし、万が一、「裏ビジネス」の手口を知らない方には一読しておくことを進めたい。きわめてシンプルな図式で利幅の大きい仕事が裏ビジネス。その手口や裏ビジネス展開の「考え方」を知っておくことは生活防衛のためにも必要なことだ。

2008年9月15日月曜日

空中ブランコ(文藝春秋)

著者:奥田英朗 出版社:文藝春秋 発行年:2008年(文庫版) 評価:☆☆☆☆
 単行本の発行が2004年で文庫本は今年の1月にでたばかり。「イン・ザ・プール」の続編にして,第131回直木賞受賞作品。「お笑い」タッチの短編集だが,内容としては前作以上に笑える。明らかに主人公の伊良部自体が「病人」なのだが,その様子を患者がみて自分自身の新たな生きがいにしているようなそんなたくましい情景が5つ。特に大学病院を舞台にした「義父のヅラ」は読んでいて転げるほど笑った。明らかにヅラとわかっている学部長でもある義父のヅラを「はがしてみたい」という衝動にかられる精神科医。ラストはついに…という展開なのだが,こういう瞬間,けっこう実際にあるものなんだよなあ…。「ホットコーナー」では,プロ野球選手を題材に「コントロール」について考えさせられる。笑いと「泣き」のこの見事な調和と「最悪」にみえる「暗さ」との対比が見事な作品集。なにかこの作風の落差もまた一つの魅力かも。

どこまでやったらクビになるか(新潮社)

著者:大内伸哉 出版社:新潮社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 この手の法律本はこれまでもけっこう出版されていたのだが,実は読んでみると民法が主体の著述でしかも特殊なケースが多くて実際に労働生活をおくる上では「使える知識」が少なかった。しかし労働法が専門の大学教授が軽妙な文体でご執筆ということだけあって,労働法関連の条文を中心に現代で起こりうる種々のケースについて,補講もまじえて丁寧に解説。わかりやすい上に面白く,しかも判例と著者御自身の見解をはっきり分けて書いてくれているので,実際に現在労働争議や労働問題に巻き込まれている人にも役立つ部分は多いだろう。どうしても理念(というか労働者の利益保護ばかりが目に向くが,あくまで企業の利益と労働者の保護の相互調和という観点の著述なのでポジションが偏っていない分だけ信頼度が高い著述といえる)先走りのビラとか「偏向」気味の著述が多いが,この新書はそうした非社会科学的な著述とはまったく別物。たとえば判例について「会社は,社員の私的自由にかかわることがらであっても,企業の円滑な運営のためには必要かつ合理的な範囲内であれば制約することができる」という考え方を裁判所がとっているとしながら,「必要かつ合理的な範囲内」かどうかは会社側に厳しい制約を求めているのが司法判断の潮流であるなど,判例などの紹介もコンパクトで分かりやすい。過労自殺の損倍賠償責任についても高裁と最高裁での判例(過失相殺など)についてコンパクトに紹介してくれており,軽妙な文体でありながら実際にはかなり高度な考え方がすんなり頭に入ってくる構図になっている。行政書士受験時代に労働法は過去問題の出題範囲のみ勉強したが,当時,勉強した労働法よりもこの本を読んだほうが現実の企業生活にとって有益な内容が多く含まれている。法律の知識がない人にもわかりやすくかかれて入るので,特に中小規模の株式会社にお勤めの方にお勧め。2008年8月20日発行の新書だが,これからさらに売れ行きが伸びそうな予感がする。

イン・ザ・プール〈文藝春秋)

著者:奥田英朗 出版社:文藝春秋 発行年:文庫版2006年 評価:☆☆☆
 奥田英朗というと「邪魔」「最悪」のデビューしたてのころ,その作風が話題となり,さっそく購入。その後実は「奥田ワールド」から遠ざかっていたのだが久方ぶりに手にとってみればずいぶん「邪魔」や「最悪」とは違う作風に…。文庫本が2006年3月10日発行で入手したのは2008年3月1日13刷というもの。単行本でも話題になった書籍だと思われるが,大病院の神経科を舞台にしたミステリーというよりもコメディタッチの人間模様。謎の精神科医「伊良部」がプール依存症の編集者,持続勃起症の営業マンなど現代の職種のさまざまな職業の人間を「独自の治療法」で「治療」(?)。大人気のなさと図々しさ,さらに「親の七光り」を武器にして看護師マユミとタッグを組んで,あざやかに治療をこなしていく短編集。「フレンズ」と題した作品がやや不気味。一日に何百通もの携帯メールを発信する男が主人公だが,こんな人,実際の電車の中にもけっこうな「数」いそうな…。

2008年9月13日土曜日

ブルー・オーシャン戦略~競争のない世界を創造する~(ランダムハウス講談社)

著者:W.チャン・キム レネ・モボルニュ 出版社:ランダムハウス講談社 発行年:2005年 評価:☆☆☆☆☆
 2005年に発行されたマーケティングの書籍だがすでに古典的名著にもなろうかという高い評価を受けている一冊。遅ればせながら,2008年4月22日第20刷発行を購入。「競争のない世界を創造する」という副タイトルがついているが,昔のマーケティングの系譜からするといかに他の企業が追随できない差別化をするか,という手法を説明してくれている。市場競争が激しい古典的な市場をレッド・オーシャンとするならば,参入障壁を伴う独自の市場を確保してしまえば,価格の値引きなどの血を流す競争ではなく,独自のスタイルで利益を追求することができる。これがブルー・オーシャンだ。「理屈としてはそうでも実際にはどうすればいいのか」がポイントとなるが,「市場の境界線をみなおす」「細かい数字よりも市場全体を大きくみる」「新たな需要を掘り起こす」「正しい順序で戦略を策定する」「実行をみすえて戦略をたてる」といった具体的な手順がさらに詳細に説明されており,読者は自らが所属する企業の立場にたって,この書籍の「手順」をいかに具体化していくかを考えれば良い内容となっている。一冊でいろいろな市場に応用がきく考え方を紹介している点では,やはり「原点」に帰って物事を考えるのに非常にいい一冊であると同時に,具体的な問題点を解決するときに解決策を打ち出すフレームワークを提供してくれる一冊でもある。サウスウエスト航空の戦略キャンバスやituneの発展の分析など,「高い独自性」といった抽象的な文言を具体的な図やグラフにブレイクダウンしているところが素晴らしい。「プロセスがお粗末では戦略の実行はできない」といった細かい生活極面に応用できる文言も随所に折りこまれており,この内容で価格1,900円は御買い得だ。おそらく大学や大学院のゼミナールなどでもすでにいろいろな形で引用されたりあるいは指定読書文献になっていると想定されるが,ビジネスにかかわる一般社会人が読むと新たな視点が与えられること間違いなしの名著である。

2008年9月8日月曜日

投信バブルは崩壊する!(KKベストセラーズ)

著者名:須田慎一郎 出版社:KKベストセラーズ 発行年:2007年 評価:☆☆
 もうだいぶ沈静化してきたかと思うが,投資信託や外貨建預金などのブーム。そのブームに警鐘を鳴らした書籍や雑誌はかなりあったが,その中でも非常にわかりやすく金融機関のフィービジネスについて警告している一冊。投資信託の時価というか購入価格のようなものが基準価格で,本来はこの基準価格が上昇することが最大の投資信託のメリットということになるが,実際には分配金といった副次的なものにつられて投資信託を購入することへの注意。また銀行や郵便局の金融商品についてもリスクがともなうものであることへの注意など,商品知識やマーケットの仕組みを知らずに投資信託を購入することのリスクをわかりやすく説明。REITについても毎月安定的な分配金を出せる商品かどうかについては「そうではない」と説明。金融商品の説明だけでなく「長期金利」の見方についてもさりげなく説明されており,金利が長期的に上昇するかどうかプロがどうみているのかを判断する指標が長期金利ということで,日本経済新聞の統計を見るにも役に立つ著述が満載。またみずほ銀行の豊洲支店の狙いなど支店の店舗展開から銀行の経営戦略を推察する著述も面白い。ただし2007年からわずか1年たたない間に,経済環境がまた変わってきている。一部,本書で指摘されている状況とは違う局面も今後予想されるが,(たとえば公共事業費の3パーセントカットという骨太の方針など),その場合には本書の著述とは逆にREITの魅力が多少は上昇する可能性があると読み替えて行けばいい。国際分散投資の手数料二重取りの構図など読んでいて勉強になることが非常に多い書籍。

この一冊で実行力と勉強力が面白いほど身につく!(青春出版社)

著者:知的生活追跡班 出版社:青春出版社 発行年:2008年
評価:評価しない
 本体価格476円で税込みだと500円という「単行本」。カバーをはずして紙の質を落とし,図版などをなるべく掲載しないようにしてこうした書籍が完成した…ということになるのだと思うが,内容はすべて巻末に掲載されている参考書籍からの引用・要約というお手軽本。入門とか参考書籍のリストを利用するぐらいの感覚がいいのかもしれない。メモリーマップというメモリーツリーもしくはマインドマップに似た概念も紹介されているのだが,実例が図式化されていないので,500円とはいえもう少し内容に加工なり工夫なりをすることができなかったものかと残念に思う。問題解決法も「まずは動く」といったし抽象的な方法になっているが,行動主義で説明するならば参考書籍をそれぞれのテーマに掲載して,読者の便宜に資するという方法もあったのではないかと思う。定価が低いからといって最低限できることまで省略するのはいかがなものだろうか…。

感情暴走社会(祥伝社)

著者:和田秀樹 出版社:祥伝社 発行年:2008年 評価:☆☆
 感情をコントロールする…というのは事実上不可能に近いという前提から始まる。確かによほどの修行を積んでいないかぎり,自分自身の感情を冷静に保ったままというのは非常に難しい技術であることは確か。そこで著者は感情を直接コントロールすることはできないが,行動はコントロールすることができると指摘。何かできることを着実にこなす(たとえば記録など)をして,自分のコントロールを制御していこう…という実学的な内容になっている。環境や形から入るという外面からのコントロールを重視し,内面的なことはその次の段階で,ということになるのだろう。またモノの見方(認知)を飼えることのほうが感情をコントロールするえで重要とも指摘。事実関係をいろいろな見方で考えて,認知を変えていくことで冷静な判断を導出していこうという趣旨である。高度な修行は一般人には無理だが行動や習慣,そして「モノの見方」〈認知)を変えていく努力はわりと平凡な人間でもできそう。タイトルとはちょっと内容はちがっていて,実際には,どうすれば冷静な判断や複眼的なものの見方ができるのかといった指南書のような構成になっている。

「自分の値段」をどう高めるか(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2008年 評価:☆
 「需要の少ないところにいかに供給するか」という非常にわかりやすい解説がポイントの本。特に欠点を改善するよりも長所を伸ばすほうに重点を移せとか能力だけにとどまらず「信頼」や「一貫性」がいかに重要かということなども解説・スキルアップの本というよりも,いかに「能力」や「技能」を磨きつつ,さらにそのほか社会人として重要なスキルを身につけることが大事なのか,ということがかかれている。ただ残念なのは,やはりそうした「一貫性」や「信頼性」というものをどうやって日々構築していくかについてはあまりページがさかれていない。それはやはりアナログな部分だけになかなかデジタルにわりきったスキルアップの方法などがないためだろう。エピソードとしてあげられているコピー機の「紙おくり」については日本は最大規模の技術があるが,デジタル面では他の韓国などの国も負けてはいないものの高温多湿の東アジアで,「紙おくり」というアナログ技術についてはまだまだ最先端のポジションに日本はあるという指摘。なにもかもがデジタルにはできないというが,アナログだからといってスキルを過小評価することはないという一例。こういう豆知識がけっこう面白い。

海の都の物語~ヴェネツィア共和国の一千年~(中央公論社)

著者:塩野七生 出版社:中央公論社 発行年:1980年 
評価:☆☆☆☆☆
 最近では新潮社からルネサンスシリーズとして新たな装丁で発刊されそれがまた人気をよんでいるという塩野七生の名作。文庫本は中央公論新社からも出版。ただし,書籍の装丁や巻末の地図などは,1980年に初版が発行されたこのバージョンが一番ではないかと個人的には考えている。ヴェネチア共和国がナポレオンによって崩壊されるまでの物語を描写したものだが,この書籍ではジェノヴァとヴェネツィアの競合関係で次第にジェノヴァが勢いをなくしていく15世紀までが描かれている。歴史の物語とはいっても,ベネチアの誕生から海洋国家として隆盛していく様子またその要因,さらに第四次十字軍やベニスの商人,政治の技術,そして女性の衣装に至るまで生活史から戦争の描写まで克明な調査にもとづく小説だ。特に複式簿記についての言及もあるのだが,会計学の知識がないはずの塩野氏の文章は会計史を取り扱っているどの本よりも克明で,しかも読んでいて面白い。おそらく商取引の原典を調査していくうちに複式簿記についてもこの書籍で言及されたのだと思うが,「商業契約」というものについて才気ある,しかも平易な日本語でばっさり説明してしまうから読者は「理解せざるをえない」(というよりも長い学問的な説明よりも実地調査から得た簡明な説明のほうがわかりやすいということがよくわかる〉。小説が総合芸術もしくは総合科学であることをもまた証明してしまう力作で続編がまた楽しみだ。この出版されてから約30年間にわたり読み告がれてきたベスト&ロングセラー。(読む人の職業や年齢にかかわらず)その特異な地理的ポジションを逆に「強み」にかえて,さらに海洋商業国家として地中海を制したベネチアの歴史は日本の「これから」を考える意味でも役に立つ部分が多いだろう。そしてもちろんそうした「価値観」などにはとらわれることなく,ただ文章と地図を並行して読んで行くだけでもいつのまにか時間が経過して読み終わってしまう面白さだ。文庫本でも単行本でも,新装本でも古本でも入手できる時代だが,特にこの1980年発行(昭和55年発行)の古本バージョンをお勧めしたい。
 

2008年9月4日木曜日

通勤時間「超」活用術(三笠書房)

著者名:久恒啓一 出版社:三笠書房 発行年:2008年 評価:☆☆
 ブログを自分のデータベースとして使え,という指摘にはっとする思いがする。おそらく無意識のうちに自分自身でgoogleのブログは自分のデータベースにしてしまい,派生的にアクセスしてくれる人が少しでもいれば…という発想で現在,映画や読書,勉強日誌などを展開しているが,これはすべてデータベースを自分流に構築しているに過ぎない。手帳で全体を把握して,デジタルツールでさらに細かい状態を把握するという使い分けも無意識にしていたことだが,あらためて書籍で指摘されるとかなり確信的に実行できる。実際,手帳にはおおまかな予定しか書き込んでいないわけだが,デジタルツールにはより詳細なデータを記録している。ツールをそろえる資金は「投資」と考えるべきという指摘も正しい。メモパッドやノートパッドはかなり高価なものが多いが,確かにアシュホードのメモパッド1万8000円を購入して使うと,その威力と便利さ,頑丈さは安いメモパッドをしのぐ強い効果をもたらす。電子辞書やIPODなどにも同じことがいえるだろう。少しでも強力な知的財産武装をするための投資,しかも通勤電車の中でも利用可能なツールの投資はかなり重要だ。タイトルは「通勤時間」となっているが,実際には「スキマ時間」をいかに効率的に利用していくべきかといった指南書籍になっている。ハンディサイズで内容は即日利用可能な文庫本だ。

本は10冊同時に読め!(三笠書房)

著者名:成毛眞 出版社:三笠書房 発行年:2008年 評価:☆☆
 マイクロソフトの日本支部のトップだった方が意外にも文学や経済など幅広い分野の書籍の読書を推奨。「他の人が意識していない分野」にこそ新しいアイデアの素が隠れているという持論が,こうした幅広いジャンルの書籍の読書につながっていくのだろう。本は最後まで読む必要はないというのも,「調べ学習」的な読書では必須の読書術。要は知りたいことがあれば,その部分だけを読めばいいわけで,そうした合理的な読書の推奨も好ましい。テレビ番組の裏を読み通すように,書籍も懐疑的に読みつつ自分の知識や理論構築に貪欲に取り込んでいこうとする姿勢や大型書店に行く事を推奨するなど,読書家にとっては嬉しいコメントの連続。特に書籍は総合芸術なのだと喝破するあたりが,この本の肝ともいうべき箇所だろう。量産するよりも丹念な本作りを,と提唱する著者の姿勢は本作りに携わる人間にとって耳は痛いがしかし真実でもある。ウェブでは入手不可能な情報をいかに網羅的に構築していくか,情報テクノロジーの最先端をいく書籍はいかにして作成していくべきかなど,書籍の読者も作り手にとっても読むべき価値が大の文庫本である。

2008年9月3日水曜日

資本主義2.0(講談社)

著者:島田裕己 水野和夫 出版社:講談社 発行年:2008年
評価:☆
 経済学者と宗教学者との対談集。やはりエコノミスト的な分析が最初は強く,水野和夫氏の発言が最初は多いが後半になってきてから島田氏の発言も増えてくる。企画はいいのだが,いまひとつかみ合わない部分もあり,新しい市場主義が始まったということは理解できてもそれと宗教学との分析がうまく理解できない。これは編集作業の未熟さがあると思う。もう少し丁寧に編集して,さらに必要があればポイントをついた編集部の補正質問,さらに専門用語の解説などがあってもいい。これではテープをそのまま起こして書籍にしたのと変わらず,ちょっと残念だ。丁寧に作れば丁寧な理解と共感がよせられた本かもしれないのに。結論はポランニーから「相互扶助」といったところまで話がいってしまうのだが,なんだか地に足がつかない感じだ。ただ一点,長期金利が2パーセントをここ数年超えていないという指摘が個人的には役に立ったが…。