2008年9月15日月曜日

どこまでやったらクビになるか(新潮社)

著者:大内伸哉 出版社:新潮社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 この手の法律本はこれまでもけっこう出版されていたのだが,実は読んでみると民法が主体の著述でしかも特殊なケースが多くて実際に労働生活をおくる上では「使える知識」が少なかった。しかし労働法が専門の大学教授が軽妙な文体でご執筆ということだけあって,労働法関連の条文を中心に現代で起こりうる種々のケースについて,補講もまじえて丁寧に解説。わかりやすい上に面白く,しかも判例と著者御自身の見解をはっきり分けて書いてくれているので,実際に現在労働争議や労働問題に巻き込まれている人にも役立つ部分は多いだろう。どうしても理念(というか労働者の利益保護ばかりが目に向くが,あくまで企業の利益と労働者の保護の相互調和という観点の著述なのでポジションが偏っていない分だけ信頼度が高い著述といえる)先走りのビラとか「偏向」気味の著述が多いが,この新書はそうした非社会科学的な著述とはまったく別物。たとえば判例について「会社は,社員の私的自由にかかわることがらであっても,企業の円滑な運営のためには必要かつ合理的な範囲内であれば制約することができる」という考え方を裁判所がとっているとしながら,「必要かつ合理的な範囲内」かどうかは会社側に厳しい制約を求めているのが司法判断の潮流であるなど,判例などの紹介もコンパクトで分かりやすい。過労自殺の損倍賠償責任についても高裁と最高裁での判例(過失相殺など)についてコンパクトに紹介してくれており,軽妙な文体でありながら実際にはかなり高度な考え方がすんなり頭に入ってくる構図になっている。行政書士受験時代に労働法は過去問題の出題範囲のみ勉強したが,当時,勉強した労働法よりもこの本を読んだほうが現実の企業生活にとって有益な内容が多く含まれている。法律の知識がない人にもわかりやすくかかれて入るので,特に中小規模の株式会社にお勤めの方にお勧め。2008年8月20日発行の新書だが,これからさらに売れ行きが伸びそうな予感がする。

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