2008年9月8日月曜日

海の都の物語~ヴェネツィア共和国の一千年~(中央公論社)

著者:塩野七生 出版社:中央公論社 発行年:1980年 
評価:☆☆☆☆☆
 最近では新潮社からルネサンスシリーズとして新たな装丁で発刊されそれがまた人気をよんでいるという塩野七生の名作。文庫本は中央公論新社からも出版。ただし,書籍の装丁や巻末の地図などは,1980年に初版が発行されたこのバージョンが一番ではないかと個人的には考えている。ヴェネチア共和国がナポレオンによって崩壊されるまでの物語を描写したものだが,この書籍ではジェノヴァとヴェネツィアの競合関係で次第にジェノヴァが勢いをなくしていく15世紀までが描かれている。歴史の物語とはいっても,ベネチアの誕生から海洋国家として隆盛していく様子またその要因,さらに第四次十字軍やベニスの商人,政治の技術,そして女性の衣装に至るまで生活史から戦争の描写まで克明な調査にもとづく小説だ。特に複式簿記についての言及もあるのだが,会計学の知識がないはずの塩野氏の文章は会計史を取り扱っているどの本よりも克明で,しかも読んでいて面白い。おそらく商取引の原典を調査していくうちに複式簿記についてもこの書籍で言及されたのだと思うが,「商業契約」というものについて才気ある,しかも平易な日本語でばっさり説明してしまうから読者は「理解せざるをえない」(というよりも長い学問的な説明よりも実地調査から得た簡明な説明のほうがわかりやすいということがよくわかる〉。小説が総合芸術もしくは総合科学であることをもまた証明してしまう力作で続編がまた楽しみだ。この出版されてから約30年間にわたり読み告がれてきたベスト&ロングセラー。(読む人の職業や年齢にかかわらず)その特異な地理的ポジションを逆に「強み」にかえて,さらに海洋商業国家として地中海を制したベネチアの歴史は日本の「これから」を考える意味でも役に立つ部分が多いだろう。そしてもちろんそうした「価値観」などにはとらわれることなく,ただ文章と地図を並行して読んで行くだけでもいつのまにか時間が経過して読み終わってしまう面白さだ。文庫本でも単行本でも,新装本でも古本でも入手できる時代だが,特にこの1980年発行(昭和55年発行)の古本バージョンをお勧めしたい。
 

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