2008年11月30日日曜日

クチコミはこうしてつくられる(日本経済新聞出版社)

著者:エマニュエル・ローゼン 翻訳:濱岡豊 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2002年 評価:☆☆☆☆
 商品もしくは製品に関する消費者のクチコミなどの情報を総称してbuzzといい、このbuzzを利用したバズ・マーケティングをいかに構築していくか、といった視点でわかりやすく説明がされている。このバズ・マーケティングに向いている製品は「会話型製品」でしかももとの製品の品質は当然よくなくてはならないという前提はある。悪い製品であれば悪いバズが構築され売上はさらに落ちるということも述べられているので、必ずしもすべての商品にすべからくあてはまる方法論ではない。「友達紹介制度」や「情報を徐々に公開」といった方法はすべてこのバズマーケティングの観点からみると合理的に説明できるし、特にハリウッドの映画宣伝などはこのクチコミ効果を相当意識した方法をとっているようだ。「弱い結びつきは驚くほど強い」など、思いもかけぬ指摘が新鮮だし、ネットワークがこれだけ発達してくると、「感情的な反応」「希少性」といった概念がさらに重要になってくる。あくまで原理論なのですでにケーススタディとしてはふさわしくない事例も含まれているが、それでもなお、非常に面白い内容だ。

2008年11月25日火曜日

崩れる(集英社)

著者:貫井徳郎 出版社:集英社 発行年:2000年
 「結婚にまつわる八つの風景」とあるが、結婚生活というより家庭生活そのもの、もしくは日常生活にひそむ「怖さ」を「生活臭」や「音」などの題材を用いて表現した8つのアンソロジー。表題の「崩れる」はもちろん家庭の崩壊と「再生する希望」の両極端が同居している不可思議な短編集だが、読後、なぜかソーメンを夏場に作る苦労って大変なんだよな、と独白したくなる。個人的に一番気持ち悪かったのはやはり「憑かれる」。「男をダメにする女」の同級生の新婚をめぐる話だが、これがリアリティあって怖い。ミステリーというよりも怪奇小説、あるいは学生時代の罪悪感がそのまま現実に表出してきた悪夢小説といった感じだろうか。読み始めると最初の一話から八話まであっという間に読み終わり、さらに桐野夏生氏のまた素晴らしい解説で
本書の魅力にあらためて浸れるという趣向の文庫本。ブルーの表紙もお洒落なこの1冊、計算しつくされた構成が巧い。

急に売れ始めるにはワケがある(ソフトバンク文庫)

著者:マルコム・グラッドウェル 翻訳:高橋啓 出版社:ソフトバンク クリエイティブ株式会社 発行年:2007年 評価:☆☆☆☆
 文庫本で手軽に読めそうな感じにみえるが実は相当に難解な本。書いてある内容はきわめて興味深く、なぜゆえに一部のアーリーアダプタだけが使用していた商品がある瞬間に、爆発的に売れるようになるのかを考察した本だ。もちろん商品そのものの性能や品質には問題はないどころかいずれも素晴らしい商品だがそれは一次的な商品特性としてあたりまえかもしれない。二次的な商品の意味づけがかなり時代やクチコミによって変化し、それが商品の売れ行きを左右しているという見方もできる。「背景の力」というのは自分なりに解釈すると商品を通じてイメージされる二次的な商品特性が特定のタレントなり知人なりによって意味が変化したせいではないかと思う。他人を通じて記憶を蓄えるという概念もいわばキーパーソンがいて(バズを持っている人)、その人が特定分野の商品の二次的特性を変化させる力があるということだろう。ネットワークとはいわば、そうしたクチコミ(バズなど)の相互交流の場であり、そのネットワークで一定の二次的商品特性を与えられた優れた商品のみが、売れていく…と考えられる。こうした分析はある意味ではアナログで、特に商品特性を一次的・二次的に分けて考えるのはちょっと古い分類かもしれない。しかし、商品特性といった場合、いきなりこうしたネットワーク理論をからめた商品分析の本に入るよりもまず商品特性の古典的な分類を下地にひいてから読み始めたほうが、この本の内容を理解するのには便利ではないかと思う。文庫本ではあるがきわめて硬派で、しかもかみくだいて理解していけばきっと役に立つこと間違いなしの本。

空気の読み方(小学館)

著者:神足裕司 出版社:小学館 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 コラムニストとよばれる職業の中でも一級の取材力と文章力を誇るのがこの神足氏ではないかと個人的には思っている。週刊アスキーに連載をもつが、どの文章も練り上げられた名文章と思いもかけない着眼点。「空気の読み方」というタイトルで取材力について神足氏に本を書かせた編集者もまた凄腕の編集者といえるのではないか。取材力をただ書籍などを作るスキルと限定せずに、「美人」がもつ悩みや限界などを理解してあげようとする努力などにも取材力が必要だとする神足氏の洞察力の深さに頭が下がる。「自分などなにものでもない」という自覚、自分がしゃべるのではなく相手をもって事実をしゃべらせる努力。それは自己愛を抑制して相手を理解しようとする努力から生まれてくる技だ。名刺の渡し方・受け取り方といった細かい作法から、ハナシの「誘い水」の向け方、マニュアルの背後にある理由の洞察など深い話が満載だ。文章に関係のある職業のみならず営業などの販売関係や企画部などのマーケティング担当者などが読んでも得るところが多い書籍だろう。メモも単なる事実の羅列ではなく発言したときの「印象」や「表情」などについても記入するというアドバイスにも感服した。「人というのは自分のことさえ勘違いする動物」という名言がちりばめられたこの新書。定価720円は明らかにお買い得の名著だろう。

2008年11月24日月曜日

裏モノの神様(幻冬舎)

著者:唐沢俊一 出版社:幻冬舎 発行年:2005年
 唐沢俊一さんの本はとても好きで…。とにかく自分が知らない「裏もの」や知っていても新しい視点からみた「裏もの」の楽しみ方などを紹介してくれる。この本でも個人的には大注目している「死霊の盆踊り」について(映画なんだけれど…)ほんの数行だけ著述されていたが、もう少し掘り下げてくれると非常に有難かった。「裏」と「表」は相対的なもの…という著者の発言どおり、この本の一部はすでに「表」化しているような気もする。「生殖こそ男の唯一の必要性」という断定もなかなか鋭い。確かにそれ以外に男性の存在価値ってないしなあ…。アレキサンダー大王やヒトラーの女性恐怖症のエピソードなども興味深いし、日本神話にでてくるサルタノヒコなどの異形の者の話なども面白い(手塚治虫の「火の鳥」にも通じる薀蓄が語られている)。また日本人の興味は外側ではなくて内側に向いたときにオリジナリティが発揮されるという指摘も興味深い。グローバル化しても日本のオリジナリティって結局海外では「内向き」の話のほうが受けるのは間違いなく…。若者言葉辞典の造り方の難しさなど、一過性の用語や用法の違いなどについても考察が深められ、もともとこの本の初出はパソコン雑誌の老舗「週刊アスキー」だった…というのはどことなくうなづけるような雰囲気も。現在は弟さんの唐沢なをきさんが独自の世界を「週刊アスキー」で連載中だが、その流れの源を見るような気がする。いかがわしいけれど、すでにもう立派な表の世界の一部を構築してしまっているレアな話題の数々。好きな人にはたまらない世界が展開。

さあ才能に目覚めよう(日本経済新聞出版社)

著者:マーカス・バッキンガム&ドナルド・O・クリフトン 翻訳:田口俊樹 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2001年 評価:☆☆☆
 2001年発行から入手した2008年版まではなんと23刷。ストレングス・ファインダーという独特のウェブコンテンツへのアクセスもこの本を購入すると可能になる。人間の才能はそれぞれ個人によって異なるので異なる才能に応じて戦略を立てて強みに特化した方向でライフストラテジーを組み立てていく方策を提唱。資源を効率よく運用していくのには弱点よりも「強み」に特化していくべきというのがこの本のスタイルで、さらに人間の「強み」をいくつかのパターンに分類。それぞれのパターンの「運用方法」について示唆を与えてくれている。強みを確立するシステマチックなプロセスとは何か…と経営学の立場から二人の学者が提案してくれており、自己評価で勝手に闇雲にライフストラテジを展開するよりも合理的な展開方法が可能になりそうだ。才能と知識と技術の組み合わせをより合理的にしていくのにはどうすればよいか…あだれもが悩む問題に一つのヒントを与えてくれる本かもしれない。ただ個人的にはあまりこうしたパフォーマンス管理といった手法は好きではなく、アカウントも与えられたがストレングスファインダーにはまだアクセスしていないまま。知識経済に生きていくのに弱点を気にしないでもいい…というわけにもいかないのではないかという考え方もあるだろうし、この本は人によって好き嫌いが分かれそうだ。ちなみに私はあまり「好きではない」という立場…

連合赤軍「あさま山荘」事件(文藝春秋)

著者:佐々淳行 出版社:文藝春秋 発行年:1999年
 警察庁のキャリア組から当時の後藤田正晴長官の命令を受けて「あさま山荘事件」に派遣された佐々淳行氏による事件の回想記録。もちろん一個人の回想録であるから、立場が違えば同じ事件であっても違う見解が存在するであろうことは想像できる。しかし、当時の捜査体制などが実名をあげて述べられており、その20年後、30年後にもいろいろな示唆を与えてくれる著書にはなっている。解説はもとフジテレビのアナウンサーの露木茂氏。現在国民新党を率いる亀井静香氏や狙撃された国松元長官も広報課長として登場。事件の大きさと当時のエース級の人材が投入されたことがわかる。連合赤軍の起こした事件の中でもこの「あさま山荘」事件と数々のリンチ事件を総称した「山岳ベース事件」は、その残虐さゆえに後の世代にも新左翼運動への拒否感を植え付ける事件になるとともに、なぜゆえに人間がそこまで教条的に「残酷になれるか」を考えさせる実録になっている。106発の銃弾を発砲し、3名の死亡者と多数の怪我人を出したこの事件は、21世紀になっても色あせる部分がない。分派主義なる「反執行部」的な言動をとるだけでリンチにあい、凍死させられたメンバーや、罪のない警官に銃撃を繰り返した当時の犯人たちはいずれも10代後半から20代。シンプルな革命理論でシンプルに行動主義に走った結果なのか、あるいは人間一般に状況によってはこうした残虐さを仲間内にも発揮するものなのか。被害者の方々にはまだ御存命の方も多く、この事件に関連した書籍もまだこれから多数出版される可能性はある。もちろんそれはこうした事件を繰り返さないように、ということだが、万が一同じような事件が発生した場合の問題解決方法をさらに練り直していく材料ともなる。実録「危機管理」という副題がついているが、著者もこの著作物の一部に「ベストの選択」ではなかったことを認めるようなニュアンスがラストにある。「次」が起こってはもちろんならないが、同様のアクシデントが万が一発生した場合の管理する側、組織として行動する側が材料にしてよんでいくのに豊富なデータを提供してくれる書籍である。

2008年11月23日日曜日

人間この信じやすきもの~迷信・誤信はどうして生まれるか~(新曜社)

著者:T.ギロビッチ 翻訳:守一雄・守秀子 出版社:新曜社 発行年:1993年 評価:☆☆☆☆☆
 「何もないところに何か見る」…月をみてそこにウサギの模様を見るなど人間がなんらかのパターン付けをしてしまい、間違った考えが補強されてしまうケースなどを考察。また自分に都合のいい情報だけを取り込んでさらに間違いを拡大していくケースなど、「落とし穴」的な人間の「考え方」「信念」のあやふやさを追求した本。翻訳もわかりやすく、「噂」や「超能力」「健康法」など、非科学的なものを信じやすくしてしまう「仕組み」を解読。広くみれば認知心理の本かもしれないが、ビジネス書籍としても学習のノウハウを学ぶ本としても利用することが可能。「信じたい」という思いを「信じた結果」や科学的合理性とはまた違うことをあらためてこの本で実感。また人間の思い込みの怖さなどがよくわかる。「何か」にマインドコントロールされてしまう前に、あらかじめ読んでおくときっと役に立つ場面がでてくるだろう。名著。

2008年11月16日日曜日

読書進化論(小学館)

著者:勝間和代 出版社:小学館 発行年:2008年
 公認会計士の有資格者ということで簿記会計や経済学、経営学などの教養に加えてコンサルタントとしての実績、外資系証券会社、外資系銀行などでも実務経験を積んでいる著者の読書方法ということで興味深々で読み始めた新書。仕事面だけでなく、家庭では二人のお子さんを育てながらの読書方法ということで時間がないビジネスパーソンや育児をしながら勉強している人にも有益な内容を多数含む。本書の内容をまず読み取ってから、自分なりにアレンジメントして活用・応用していくのが正しい利用方法だろう。神田昌典氏やマーカス・バッキンガム、スティーブン・コヴィーなどから受けた影響なども紹介されているが、こうした関連書籍の紹介も読者にとっては嬉しい話。興味のあるテーマがあればその書籍をさらに追加購入して独自の読書体験を構築することが可能となる。個人的には66ページの「ハーバード系の翻訳本」というキーワードに刺激を受ける(確かにハーバード系統の翻訳本ははずれが少ない)。また102ページの「理解、応用、分析、統合、評価のフェーズ」といったフレームワーク。こういったタイトル以外のフレーズからさらに新たな発見がでてくるのとマーカス・バッキンガムの本を実際に読んでみてそのあとにまたこの本に帰ってくるという方法もあるだろう。インターネットと本の比較から本の「物語」が始まるのも時代性を反映していて、本の内容面の構成が上手な造りになっているという印象。

史上最強の人生戦略マニュアル(きこ書房)

著者:フィリップ・マグロー 訳者:勝間和代 出版社:きこ書房 発行年:2008年
 おそらく一種の自己啓発本なのだが、内容的にはplan-do-seeをさらに厳密かつ緻密に煮詰めていくノウハウが紹介されている書籍ではないかという印象をもった。経営管理の原則に忠実にして、人間によくありがちな「自分に甘い部分」を排除すると、こうしたある意味手厳しい自己啓発本になるのだと思う。「すべての人は拒絶されることを恐れる」といった何気ない文章にどきっとする(拒絶されることを恐れない人というのはすでに社会性を一種捨てている人だけだろうから…)。自分のたっている地点と行くべき地点を緻密に緻密においかけて、さらにsee(統制)の部分を「表面」の理由だけでなく、これもまた緻密に緻密に分析していくと、ある意味別の厳しい理由や原因が浮かび上がってくる…。人生の法則が「10」に箇条書きされているのだが、特に7番目の「人生は管理するもの、癒すものではない」というのが手厳しい…。だがしかし、ある程度人生の見取り図がなければ確かに乗り切っていくのにはしんどいほどめまぐるしく変化する時代でもある。この本は今後さらに売れていくことだろう。

裁判官の人情お言葉集(幻冬舎)

著者:長嶺超輝 出版社:幻冬舎 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 これからの司法改革ではどうもA4数枚程度の判決文に短縮化・簡素化される可能性が高いようだ。司法については判決と判決にいたる理由を簡潔かつ明解にする方向なのかもしれないが、そうすると判決に関係ないこうした「人情お言葉集」なども少なくなっていく可能性はある。実際に裁判所で判決文を読み上げられるような経験はないのだが(また今後もあまり経験したくないが)、法治国家で犯罪もしくは権利の衝突が発生した場合には、やはり裁判所の判断が最終的な法律的解決の「結果」ということになる。システムとしてはそうなのだが、機械的に割り切っていくとどうしても割り切れない端数の部分がでてきて、その端数の部分を表現するのがこうした人情的なお言葉だったりするのかもしれないのだが。有名な財田川事件の判決文と再審請求による確定判決のひっくりかえしの難しさ、覚せい剤取締法0・03グラムのエピソード、仮釈放という言葉の定義と厳罰化の流れ、リフォーム詐欺師が子供を抱きかかえてなく場面、無理心中を図った青森地裁の事件…いずれも事件そのものがデジタルに処理するのが非常に難しく、かつ人生の転換点にある刑事事件の被告の今後の「改悛」「更正」といった観点からすると、判決文以外のこうした「お言葉」。実は読んでいる読者の心にも響くものが多数ある。

AV女優2(文藝春秋)

著者:永沢光雄 出版社:文藝春秋 発行年:2002年 評価:☆☆☆☆☆
 筆者の永沢光雄さんは、かなりフリーランスのライターとして活躍されるも、その文章が評価されたのはかなり遅咲きの30代後半ではなかったかと記憶している。このシリーズの第1弾「AV女優」の単行本の内容が発行当時に高い評価を受け、その後「風俗の人たち」など、独特のインタビュー構成と文章のトーンで急激に「売れ始めた」方だった。その後、喉頭がんでインタビュアーとしての大事な道具「声帯」を失い、さらに肝機能障害で2006年に47歳でお亡くなりになられている…。この「AV女優2」を読むのも実は辛く、買おうかどうしようか迷った末に購入。一気に読み通す。1996年から1999年にかけてアダルトビデオ界で活躍した女優36人のインタビュー集だが、永沢光雄さんは暖かいまなざし、かつ独特の視点から36の物語を紡ぎだす。途中で「眼球を涙が覆う」女優さんもでてくるのだが、家族の話でしかも父親と兄が暴力をふるう家族の話だった…。きれいごとだけでは済まない話を水平視点で静かに物語る筆者はインタビュー中もしきりにお酒を飲んでいる。あ、また飲んだ…そして書いてる…と思いつつページをめくるとまた筆者はお酒を飲んでいる…。肝機能障害でお酒を飲んだら肝臓が自然治癒することはありえず…。とにかく破滅的にお酒を飲み文章を書き、インタビューをしていた筆者の姿はなにやら鬼気迫るものすら感じる。「ビデオ・ザ・ワールド」「ビデオメイトDX」などに連載されていたこのインタビューはおそらく連載当時からかなり違和感を感じさせるものだったのかもしれないが、それでも連載が続いたのは、筆者がつづる物語の中に、当時の編集者や経営者がなんらかの希少性を見出したこともあるのだろう。そして遠からぬ将来におそらくなにか自滅的に消え去ってしまうのかもしれない危うさと…。1つの時代を切り取ったインタビューというよりも、おそらくこれから10年経過しても20年経過しても変わらない「人間」を描写した名作インタビュー集。文春文庫から定価771円。

2008年11月15日土曜日

超「超」整理法(講談社)

著者:野口悠紀雄 出版社:講談社 発行年:2008年
「分類するな、検索せよ」とテーマを打ち出したかつての名作「超整理法」の21世紀バージョンはgmailを利用したデータの保存と検索だ。画像などはすべてpdfファイルとして保存し、そのまま自分のアカウントに添付して送信するだけ。もちろん情報機密の問題点は残るが、利用価値の大きさと情報漏洩のリスクを比較してもメリットのほうが大きいとして野口先生の「検索重視」のデータ整理方法が述べられている。
 かつての「超整理法」によるA4サイズ標準の書類保存ともリンクさせればスキャナでそのまま保存してpdfファイルで送信すればすべての書類やメモなども保存されるので、パソコンにA4サイズpdfファイル変換機能がついたプリンタさえあれば、だれでも情報の蓄積・加工・保存が楽に設定できる。そのノウハウを公開するとともに、「問題設定」「仮説構築」「モデル活用」の重要性を説く。データの検索そのものがだれにでもできるようになれば、次の時代に重要性をもつのはこの3つの能力というわけだ。けっして超整理手帳の意味がなくなるということではなく、むしろ問題設定を書き残してgmailに送信する「問題」をいかにメモとして保存するか、活用するべきかというところに利用方法の力点が変化してきたといえるだろう。to doリストの重要性はパソコンよりも紙のほうが便利なので変わらず、メモの保存方法がさらに変化してきたということになる。メモは個人的には転記してさらに加工・整理して初めて価値がでてくると考えているが、加工・整理はまずgmailを利用して保存してからでもいいわけだ。さらにその後思わぬ形で知識と知識がgmailの中でリンクする可能性も否定できないわけで。mail機能はもちろんすでにデータ保存として利用している人間も多数表れてきた中、ますます紙媒体としてはA4サイズへの移動が始まるとともに、今度は使い勝手のいいスキャナをもっと探しにいかないと…

誘惑される意志~人はなぜ自滅的行動をするのか~(NTT出版)

著者:ジョージ・エインズリー 翻訳:山形浩生 出版社:NTT出版 発行年:2006年
 とにかく難解でしかもテーマが幅広い本。ページもぶあつくて本紙が384ページ分。価格は2,800円と割安で翻訳者の方の解説も巻末についている。双曲線割引によって遠くの合理的意思決定よりも目の前の「自滅的行動」(タバコなどの不摂生)の現在価値が実際以上に魅力的にみえてしまう…という人間の「不合理性」を丁寧に解説してくれている本。長期的には喫煙は健康に良くない上に、消費行動としても適切ではないが目の前にあるとそれが実際以上に効用が高いようにみえてしまう人間の不可思議さ。ミクロ経済学よりも小さいという意味でもともとの原題は「ピコ経済学」だったともいう。「やる気」や「根性」や「自信」といったものになぜゆえに意味があるのか、そしてそうした目の前の誘惑に対してはいかに克服していくべきか、などが解説されていく。ま、この克服方法こそが「意志」というものであり、しかもその「意志」は人間のそれぞれでいろいろな組み合わせを財として集合化し、たとえば「健康+お金」>「喫煙」といった組み合わせで自分の意思決定をコントロールしようとする。そのプロセスや葛藤こそが人間がもつ「意志」たるゆえんということになる。ただしその調整過程はミクロ経済学のようにすっぱりとは均衡せず、過去の失敗などがあれば短期の利益に負け、過去の成功事例が多ければ将来のメリットの期待値があがるなどさまざまな展開をみせる。そしてそのさまざまな展開の中でどんどん不合理性は排除されていっているがはたして社会全体からするとそれは本当に意味があるのかどうか…といったあたりの話になるが、おそらく禁煙したいとか運動したいとか目先のメリットにすぐつながるような本ではない。しかし読んでもけっして無駄になることはないだろう。正し持ち歩くのには重たい上に内容がとにかく難しい。巻末の25ページにもわたる英語の参考文献もやや気分を重くさせる。が、短期的メリット、目先の誘惑に負けてしまう人間の弱さと神のみぞ知るかもしれないその「合理性」(?)についてしばし考えてみるにはいい材料になるかも。