2009年10月31日土曜日

使える脳(日本文芸社)

著者:和田秀樹 出版社:日本文芸社 発行年:2009年
 日文新書という日本文芸社から刊行された新書。この日本文芸社という出版社は記憶ではポストモダンの映画論や社会評論の書籍からマアジャン漫画雑誌まで幅広いラインナップをそろえている神田にある出版社…というイメージだったが、どうも新書にも進出していたらしい。しかも和田秀樹先生の「脳」の使い方の新書の刊行。出版社の特徴というか個性が見えにくい出版だが、新書サイズで和田先生の新刊が読めるのは嬉しい。
 知識量を増やすとともに推論力(仮説構築力)も増やせ…という主張が新しい。これまでは知識を増やしてその「組み合わせ」を考えるというスタンスがさらに一歩進化して、推論も加わった。これはフェルミ推定や仮説構築力とほぼ同義と思われる。ベースにはもちろん知識があるわけでそれがなければ話にならないが、限定合理性しかない人間がすべての情報を入手するのは難しい。そこで手許にあるだけの知識と情報に加えて、正しい推論ができる力(仮説構築力)を磨いていこうというのがこの新書の新しい意味づけではないかと思う。観察して仮説を立案して結果を検証するというPDSサイクルの繰り返しがその仮説構築力のトレーニングになるというわけだが、これは仕事のみならず、ニュースやウェブの記事でも同じトレーニングは可能だろう。第一次情報に接する機会が少ないケースでは情報の信頼性そのものを確認することが難しい。ただ多面的な情報の考察で信頼性の程度を把握し、さらに信頼性の程度に応じて仮説をたてていくトレーニングはだれでもできる。
 本を読む場合に同じジャンルの本を固め読みするという方法もあるが、同じ著者の本をずっと読んでいくという方法もある。私の場合にはやはりこの和田秀樹氏の著作、ずっと読んでいって取り込める部分はどんどん日常生活に取り込んでいくつもりだ。

戦略「脳」を鍛える(東洋経済新報社)

著者:御立尚資 出版社:東洋経済新報社 発行年:2003年 評価:☆☆☆☆☆
 わりと浮き沈みの激しいビジネス書籍の中では2003年発行以来のロングセラーかつ名著とされている戦略学の本。文学部出身の著者らしい「脱構築」(デコンストラクション)という概念を競争戦略の中に持ち込んでいる部分が興味深い。理論だけだとどうしても読み手も文字をうわすべりに読んでしまうが実例や文学や歴史などのエピソードが織り込まれていると理解も早い。著者はこの本で「インサイト」(洞察力)という概念も提唱しているが、街のお弁当屋さんにしてもアイスクリーム屋さんにしてもはやっているお店とそうでないお店の両方がある。その違いをさらに自分の業界に転用できないかどうか…といったインサイトこそが重要な考え方だと主張しているように思える。
 ボストンコンサルティンググループの東京事務所には「多様性からの連帯」という言葉が飾ってあるというが文学部、工学部、経済学部とさまざまなジャンルの専門家が多種多様なインサイトをぶつけあってオリジナルのコンサルティングをおこない他のファームと差別化を図っているのだろう。名著といわれるのにふさわしく、一回だけでなく二回、三回と読み直し、さらに日常生活の中でいろいろな形でこの本のエッセンスを活用していきたくなる本だ。

一流の部下力(ソフトバンククリエイティブ)

著者:上村光弼 出版社:ソフトバンククリエイティブ 発行年:2009年
 リーダシップ論は経営学でもよくみるがフォロワーシップ論というのはまだ本が少ない。この本は上司としてではなく「部下」としてなにが最適な行動なのかといった一つの指針を与えてくれる。上司のいうことを100パーセント肯定して「ヨイショ」ばっかりというのでは組織全体をだめにするが、かといって反抗ばかりしていても生産性がない。結局チームワークをどれだけとれるかがポイントなのだから、一定の組織の風土の中で、どれだけ独自性を発揮しつつ、できうるかぎり多数の人間に快適に働いてもらえるかがポイントになるだろう。けっして表舞台の作業ではないが、かといって目に見える形で「反抗」「ヨイショ」するよりも前向きで建設的な姿勢ではないかと思う。感謝・謝罪・愛嬌というあたりが人格的なポイントでその次が「報告・連絡・相談」という実務レベルの話になるだろう。ここらあたりは仕事の基本だが、プラスアルファは、さらに「情報価値」の提供や「アイデアの提供」といった価値提供機能であると本書は説く。仕事は矛盾だらけで理想像はない、という前提を受け止めつつも改善点や価値提供をしていくことが部下の「力」と解釈すれば、酒場で愚痴いったり陰口たたいたりといった時間はだいたい99%がムダな時間だということが本書を通じて判明する。「やるべきこと」をやってから「やりたいこと」「やれること」を増やしていく。年齢をへればだれしもいずれはチームを率いていくことになるが、それはけっして「権力欲」ではなく、逆に情報家血を大多数に提供していくという提供義務範囲の拡大だ。そのためにも実は「部下」であっても「上司」であっても継続的な勉強が大事になってくる…という結論につながっていくのだと思う。新入社員には多分読んでもわからない内容かもしれないが、ある程度組織の中で働いてきた中堅のサラリーマンならばきっと共感できる部分が多数あるはず。

戦略学~立体的戦略の原理~(ダイヤモンド社)

著者:菊澤研宗 出版社:ダイヤモンド社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 カール・ポパーの多元的世界論を軸に、新書サイズの説明よりもより深く、しかもシステマチックに著者の戦略に対する考察がまとめられた本。ピカソのキュービズムの理論を戦略論に持ち込み、3つの視点で過去と現在の企業経営戦略を体系化する。クラウゼヴィッツとリデル・ハートの違い、そして心理的世界に属する行動経済学の論理、取引コストをはじめとする新制度経済学の理論を取り込んだ知性的世界の戦略などこれまでの過去の理論を一気に体系化できるというメリットもある。軍事戦略と経営戦略の相違点についても重要な示唆を与えてくれるだろう。また原価管理の新しい思想であるバランスド・スコア・カードについても、キュービック・グランド・ストラテジーの観点から考察が加えられており、最新の理論についてもこの本で知識と体系を得ることができる。価格は2,400円と標準的な単行本の価格だが中身は価格4,500円でも「買い」であろう。

2009年10月27日火曜日

「周りがチャンスをくれる人」はこんな人!(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2006年
 最近いろいろな事柄があり、「チャンス」とか「運」とかいう偶然的なものについて「じゃっかん」考える機会を得た。いろいろなめぐり合わせが確かにあってそれは偶然でもあるし、必然的にそうなったともいえるのだが、「何かやってみないか」と声をかけられたり、あれこれお世話をしていただけるということには、何か「原因」がありそうな気がする。偶然は確かにあるけれど、偶然に出会うための必然的なプロセスってなんだろう…というと、この本に書かれているような声をかけやすいか、かけにくいか。前向きなのか後ろ向きなのか…といった発想のポジションや「雰囲気」って重要だ。松下幸之介さんが「愛嬌は重要」といったとかいうエピソードがあるが、「人工的な愛嬌」はやや見苦しいが、たいして努力もしていないのに「愛嬌のある人」っている。羨ましいかぎりだが、自分自身たいして愛想もよくないし、明るくはないが、わりと「率直過ぎるほど率直に」あれこれいいやすい…という雰囲気があるのは、それなりに得している部分があるような気も。
 不幸の最中で、いろいろな人にお世話になることがあり、「あれこれ言われる」…というのは決してマイナス面だけではないと思った。陰口はちょっとイヤだが、面と向かって「あれこれ」いってもらえるというのは自分のかけがえのない「得する性格」かもしれない。
 今思えば特定の信条などにしばられない、権威主義に毒されない…といった「心がけ」が、そうした「いいやすい雰囲気」に寄与しているのかも。この本は別に難しいことを解いているわけではないのだけれど、「なるほどなあ」という生活レベルで、「チャンスにめぐり合う性格」をわかりやすく解説してくれている。考えてみると「あたりまえ」のことのようにも思えるのだが、でも実は「あたりまえ」のことを「さりげなく」こなせていける人っていうのも、「得な性格」の一つかもしれない。英雄ではなく、生活レベルで役にたつ生活の知恵が満載。タイトルはいまひとつだが、内容としてはすぐにでも実践できるノウハウが紹介されている点に好感が持てる。

2009年10月23日金曜日

見通す力(NHK出版)


見通す力(NHK出版)著者:池上彰 出版社:NHK出版 発行年:2009年 情報の収集と仮説の立案と検証。きわめてオーソドックスな方法だが、だれもがするこうした情報から仮説を構築する「技」というものを著者は具体例で示してくれる。スクラップはA4のコピーの裏を使って、ダンボールに放り込んでおくなど、きわめて情報の収集は乱雑なものの、おそらく世の中のランダムな流れの中から仮説を立案して、将来をある程度見通す「経験」あるいは「インサイト」(洞察力)といったものが継続しているうちに鍛錬されてきたのだろう。イリノイ州の地方議員だったオバマになぜゆえに著者が注目したのかは不明だが、その後の大統領選や、あるいは環境を重視する先進国と低価格を追及する発展途上国の自動車産業のはざまでどうするべきかなど、さらにこの本から発展して「将来のその先」を考える「種」が得られるのは大きい。

2009年10月22日木曜日

戦略の不条理(光文社)

著者:菊澤研宗 発行:光文社 発行年:2009年
 カール・ポパーの世界観をベースに、戦略とその環境を物理的世界・心理的世界・知性的世界に分類し、ロンメル、クラウゼヴィッツなどを論じていく。新書のせいか、おそらくキュービズムな戦略論がやや平板にも見えてしまうが、これは電車の中で本を読まざるを得ないサラリーマンに配慮した結果かもしれない。ただ、二次元的な物理的世界で戦略パワーを論じる本よりも「三次元」の世界に戦略論を持ち込むことでテイラーの科学的管理法やフェイヨールの管理論、フォーディズムまで経営史を一つの世界観でなぞってみせる手法は見事。また戦略資源に満ちた側より、やや弱小とみえる軍隊や企業がときに勝つことがある不可思議さも、この3つの対立軸のいずれかが環境と適合していない、という理由で説明できる汎用性も捨てがたい。
 いずれも事後的な分析には非常に役立つが、ただ事前的な戦略立案などにはまだまだ課題は残るように思える。「後付の理論」のような匂いがしないでもないが、それは読者へのサービスで、未来に役立つ理論展開(たとえば知性的世界にはブランドなどが入るらしいが、それではブランドや風評をどうすればいいのかなどといった理論)の枠組みを次回作で展開してほしい。

2009年10月18日日曜日

実録・闇サイト事件簿(幻冬舎)

著者:渋井哲也 出版社:幻冬舎 発行年:2009年
 いわゆるネットを媒介した犯罪をルポとして伝えながら、「現在の情報モラル」を考えていくという新書。「実態の把握が難しい」とされるのは、リンク、リンクでどんどん飛んでいかないとgoogleですぐ「見つけました」というわけにはいかないあたりが「闇サイト」ではないかと思う。通常、特定の事件についてブログを立ち上げても禁止ワードが混在してくるので、google以外の特殊な検索エンジンか、人海戦術で個別にウェブページをつぶしていくしかないのだろう。いわゆる「隠語」を使われても「実態」の把握には程遠くなるわけだし。
 情報を得るには非常に便利な時代で、通信も楽。そして新しい世界に向けて何かを始めるにも都合がいい時代だが、そうしたツールは「犯罪」にも適用可能。最初に始めた人間はおそらく「次の時代」を見据えて別のことを考えているのだろう。あまり内容が明るいとはいえないが、それでもしかし、読んでおかないと何かとパソコンで検索するのにも支障が生じる時代かもしれない。

医療保険なんていりません!(洋泉社)

著者:萩原博子 出版社:洋泉社 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 生命保険という金融商品には興味は多少あったものの個人的にはかなり「うさんくさい」システムというイメージがぬぐえず…。一般には職場にまわってきた生命保険の営業におしきられるというパターンが多いと思うが、私の場合にはそういう営業もあまり気にならず…。死亡保険は何か金銭的に困ることがありそうなときには入る必要性もあるかもしれないが、子供などが成人に達している場合などにはほとんど意味をなさないだろうし、養老保険など貯蓄性の生命保険よりもやはり銀行の定期預金のほうが安全でしかも利率も国債よりもちょっと下回る程度。今でも入る必要性はまったく感じない。
 しかし「医療保険」だけは関心があり、特に身近なところでいろいろな病気をわずらう方々がでてくると、治療はしないといけないし…とあれこれ考えているところにこの本に出会った。
 結論からすると著者は医療保険の必要性をぜんぜん認めていないわけだが、なぜゆえに認めていないのかを実際の生命保険の約款や利率、掛け金などでシミュレーションしてくれるほか、給付される要件についてもしっかり検証してくれている。「医療保険だけは入っておこうかな」という不安も公的負担医療制度の詳細をこの本で知るとあんまり意味ないのかも、と再考することに。
 こうした批判があってこその金融商品のサービスの高度化が図られる。生命保険会社はむしろ不払いやリストラなどのコストダウンよりも、生保の理念である相互扶助の精神に立ち返ってもらいたいもの。

ぼくらの頭脳の鍛え方(文藝春秋)

著者:立花隆 佐藤優 出版社:文藝春秋 発行年:2009年
 書店にいくといきなり三段の平積み状態。著者がこの二人だから内容にはずれがあるわけがない。立花隆さんの「ネコビル」などをかつて筑紫哲也さんが御存命のこと訪問するテレビ番組があったが、筑紫さんの羨ましそうな顔が印象的だった。よってたつ基盤が違うので、この本にあげられている400冊を全部読もうとは思わないし、ヨーロッパのカルチャー源などまでたどりつく自信も読む気もないが、少なくともこの二人がここまで書籍を読み込んでさらに考えを尽くして執筆にあたっているという気迫が、新書の中からたちのぼってくる感じがある。
 機関銃について二人が語る場面があるが、同時にクリント・イーストウッドの「アウトロー」の一場面を思い出す。この映画の冒頭でクリント・イーストウッドは南軍の残党として機関銃を使用するのだが、実践的に機関銃が投入されたのはやはり南北戦争だという指摘があり、なるほどと思う。機関銃をキーワードに日露戦争や旅順攻略などにも話がおよび、もう一つ「203高地」(あおい輝彦主演)も連想。乃木将軍に対する二人の考え方の違いも興味深い。
 

2009年10月17日土曜日

14歳からの世界金融危機(マガジンハウス)

著者:池上彰 出版社:マガジンハウス 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 サブプライムの信用危機からオバマ大統領就任までの経済の流れをわかりやすく解説。中学2年生以上の読者を想定しているという趣旨だと思うが、社会人が読んでも間違いなくわかりやすいし面白い。これまで自分の中では曖昧にしてきたアメリカの商業銀行と投資銀行の違いや自動車産業の裾野の広さ、そして日本の自動車産業が受けたダメージやサブプライムローンの波及のプロセスなどがさっとわかるように構成されている。
 複雑な事象を一本の筋立てで、しかも字数制限もあったであろうなかでこれだけコンパクトにわかりやすく説明できている本はめったにない。たいていどこかはしょられていたり、あるいは「たとえ話」でやや不正確ではあるけれど「イメージでわからせる」といった手法も用いずに正統派の解説書となっている。さすが元NHKの報道記者という感想。

容疑者Xの献身(文藝春秋)

著者:東野圭吾 出版社:文藝春秋 発行年:2008年
 映画のほうは見ていないが、このミステリー、最初から最後までやるせない。登場人物のだれもが哀愁を帯びているのが印象的。最初からどんよりした雰囲気で、しかも駅名が錦糸町駅などあの界隈を知っている人ならわかる「あの雰囲気」で小説の世界も構成されている。同じ大学のOBがそれぞれ学者・刑事・教師として社会人になってから再会したとき、公の立場と私的な思惑とがそれぞれトレード・オフの関係になっていく。最後は司法判断ではなく登場人物がそれぞれ選択した意思決定の結果となって終末を迎えることになるが…。合理的な意思決定をそれぞれが貫いたとすれば、おそらくは小説にはなりようがない。おそらく完全に合理的に行動しているのであれば発端となる殺人事件すら発生しなかったであろうから。アクシデントに巻き込まれて地獄の淵までなだらかに「転落」していく登場人物が最初から物憂げな様相なのは、「場所」の設定と、そしておそらくアパートの描写などからうかがえる「所得のつつましさ」などにもあるのかもしれない。捜査する側にも追われる側にも「理想的な家庭」「生活臭」がまったく漂わないのもまた「哀れさ」の裏返しかもしれない…。

2009年10月12日月曜日

さまよう刃(角川書店)

著者:東野圭吾 出版社:角川書店 発売年:2008年
 単行本での発行が2004年、文庫化されたのが昨年で今日入手したものが第20刷。少年法の立法趣旨と残虐な事件の対比は、実際に発生している未成年の残虐な事件とリンクしてしまう。被害者がもし自分の知人だったらどうだろうか。この主人公と連動した思考形態をとらざるをえないのではなかろうか。舞台設定が個人的にもなじみのある長野県で、特に小諸市という場所がクローズアップしてくるのが興味深い。「普通」「一般市民の感覚」「常識」っていうのがどこで人間に醸成されてくるのかはわからない。ただしここに出てくる犯人はすでに「常識」の部分が破壊されている。それをおう刑事も被害者も「常識」も法律の立法趣旨も理解しているまっとうな大人の社会人だ。形式的な理念だと、「やってはならないこと」がまるでウイルスのように伝播して最後は上野駅前でクライマックスを迎える。映画化されるようだが、このラストにつながるシーンには「雪」が必要ではないだろうか。市川雷蔵の映画では「悪者」はバッサバッサとシンプルに切られていくが、この映画で切り取られるのは、状況を追い続けてきた読者の心。「散り行く花」と「雪」の組み合わせが「さまよう刃」の最後の置き場所としてふさわしい。

2009年10月10日土曜日

ビジネスで失敗する人の10の法則(日本経済新聞出版社)

著者:ドナルド・キーオ 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2009年
 東部リーグ大学出身のエリートとは程遠い、海軍から転職してきた元コカコーラ社長の著書。ウォーレン・バフェットなどとの独特の人脈や人生観がつづられているが、10のシンプルな原則は他の書籍のエピソードや紹介も含めてきわめて含蓄が深い。成功する要因は探すのは難しいが失敗する要因は紹介できるということからこの内容になったらしい。「将来に楽観的になれば忍耐強くなれる」という文章はやはり海軍出身者らしい「辛さ」に対する我慢の方法だ。またブランドとの感情的なつながりを重視するとったアナログともいえる、しかし確実に人間には備わっている「モノ」と「ヒト」との関係をきっちり踏まえた文章が泣ける。
 いわゆる科学的管理方法とは無縁だが、実践経営から導き出された経験則にはやはり重い内容が凝縮されている。

2009年10月5日月曜日

サクッと受かる日商1級1巻~3巻(ネットスクール出版)

著者:福嶋三千代 出版社:ネットスクール出版 発行:2008年12月
2008年12月発売ということで2009年1月に公表された後入先出法の出題は2009年度はやめるという案は取り入れられていない。また部分時価評価法にもかなりページが割かれて入るが,ある程度,勉強を進めた人間が減損会計など新会計基準も含めてトータルに見直すにはいいテキストではないかと思う。逆に初心者がいきなり読むと,2級の復習に相当にページが割かれていることから,1級の出題範囲や本質を逆に見失ってしまう可能性もでてくるだろう。補助教材としては「財務会計講義第10版」が一番適切ではないかと思う。2010年4月以降から強制適用される棚卸資産会計基準からすると,個別法・先入先出法・平均原価法・売価還元法のみとなる。また,2010年4月からは親会社説を基本とする日本の連結財務諸表は部分時価評価法を廃止する〔経済的単一説にさらに近づいたことになる〕。ただ全面的時価評価法だと合併時の会計処理と整合性を持つので,そうした意味合いの制度改変はあるかもしれない。いずれにせよこれから会計処理方法はよりシンプルになっていくので現在はこの3分冊構成も2分冊程度で十分な時代がくるだろう。