2009年10月12日月曜日

さまよう刃(角川書店)

著者:東野圭吾 出版社:角川書店 発売年:2008年
 単行本での発行が2004年、文庫化されたのが昨年で今日入手したものが第20刷。少年法の立法趣旨と残虐な事件の対比は、実際に発生している未成年の残虐な事件とリンクしてしまう。被害者がもし自分の知人だったらどうだろうか。この主人公と連動した思考形態をとらざるをえないのではなかろうか。舞台設定が個人的にもなじみのある長野県で、特に小諸市という場所がクローズアップしてくるのが興味深い。「普通」「一般市民の感覚」「常識」っていうのがどこで人間に醸成されてくるのかはわからない。ただしここに出てくる犯人はすでに「常識」の部分が破壊されている。それをおう刑事も被害者も「常識」も法律の立法趣旨も理解しているまっとうな大人の社会人だ。形式的な理念だと、「やってはならないこと」がまるでウイルスのように伝播して最後は上野駅前でクライマックスを迎える。映画化されるようだが、このラストにつながるシーンには「雪」が必要ではないだろうか。市川雷蔵の映画では「悪者」はバッサバッサとシンプルに切られていくが、この映画で切り取られるのは、状況を追い続けてきた読者の心。「散り行く花」と「雪」の組み合わせが「さまよう刃」の最後の置き場所としてふさわしい。

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