2009年10月22日木曜日

戦略の不条理(光文社)

著者:菊澤研宗 発行:光文社 発行年:2009年
 カール・ポパーの世界観をベースに、戦略とその環境を物理的世界・心理的世界・知性的世界に分類し、ロンメル、クラウゼヴィッツなどを論じていく。新書のせいか、おそらくキュービズムな戦略論がやや平板にも見えてしまうが、これは電車の中で本を読まざるを得ないサラリーマンに配慮した結果かもしれない。ただ、二次元的な物理的世界で戦略パワーを論じる本よりも「三次元」の世界に戦略論を持ち込むことでテイラーの科学的管理法やフェイヨールの管理論、フォーディズムまで経営史を一つの世界観でなぞってみせる手法は見事。また戦略資源に満ちた側より、やや弱小とみえる軍隊や企業がときに勝つことがある不可思議さも、この3つの対立軸のいずれかが環境と適合していない、という理由で説明できる汎用性も捨てがたい。
 いずれも事後的な分析には非常に役立つが、ただ事前的な戦略立案などにはまだまだ課題は残るように思える。「後付の理論」のような匂いがしないでもないが、それは読者へのサービスで、未来に役立つ理論展開(たとえば知性的世界にはブランドなどが入るらしいが、それではブランドや風評をどうすればいいのかなどといった理論)の枠組みを次回作で展開してほしい。

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