2008年11月15日土曜日

誘惑される意志~人はなぜ自滅的行動をするのか~(NTT出版)

著者:ジョージ・エインズリー 翻訳:山形浩生 出版社:NTT出版 発行年:2006年
 とにかく難解でしかもテーマが幅広い本。ページもぶあつくて本紙が384ページ分。価格は2,800円と割安で翻訳者の方の解説も巻末についている。双曲線割引によって遠くの合理的意思決定よりも目の前の「自滅的行動」(タバコなどの不摂生)の現在価値が実際以上に魅力的にみえてしまう…という人間の「不合理性」を丁寧に解説してくれている本。長期的には喫煙は健康に良くない上に、消費行動としても適切ではないが目の前にあるとそれが実際以上に効用が高いようにみえてしまう人間の不可思議さ。ミクロ経済学よりも小さいという意味でもともとの原題は「ピコ経済学」だったともいう。「やる気」や「根性」や「自信」といったものになぜゆえに意味があるのか、そしてそうした目の前の誘惑に対してはいかに克服していくべきか、などが解説されていく。ま、この克服方法こそが「意志」というものであり、しかもその「意志」は人間のそれぞれでいろいろな組み合わせを財として集合化し、たとえば「健康+お金」>「喫煙」といった組み合わせで自分の意思決定をコントロールしようとする。そのプロセスや葛藤こそが人間がもつ「意志」たるゆえんということになる。ただしその調整過程はミクロ経済学のようにすっぱりとは均衡せず、過去の失敗などがあれば短期の利益に負け、過去の成功事例が多ければ将来のメリットの期待値があがるなどさまざまな展開をみせる。そしてそのさまざまな展開の中でどんどん不合理性は排除されていっているがはたして社会全体からするとそれは本当に意味があるのかどうか…といったあたりの話になるが、おそらく禁煙したいとか運動したいとか目先のメリットにすぐつながるような本ではない。しかし読んでもけっして無駄になることはないだろう。正し持ち歩くのには重たい上に内容がとにかく難しい。巻末の25ページにもわたる英語の参考文献もやや気分を重くさせる。が、短期的メリット、目先の誘惑に負けてしまう人間の弱さと神のみぞ知るかもしれないその「合理性」(?)についてしばし考えてみるにはいい材料になるかも。

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