2009年12月5日土曜日

重力ピエロ(新潮社)

著者:伊坂幸太郎 出版社:新潮社 発行年:2006年
 伊坂幸太郎といえば現代日本の売れっ子作家の最前線。しかし実は読むのはこの本が個人的には初めて。独自の倫理観を貫く少年というスタイルは花村萬月の大ファンである私にとってはありふれた設定だが、擬似家族でもなく「本物の」家族で、しかも家族という集合体が結成されてから、ここのユニットに分解されつつある状態がこの小説に。「家族」から「親子」「兄弟」というユニットで、最終的には、「親子」というユニットも物理的には解消されて「兄弟」だけが残存する。恋人関係を通じた新たなユニットがでてこないシステムが興味深く、この「兄弟」の関係はどんどん絆を固めていく。そして最終的には地元の「世間」とか社会関係といったものも、「相対化」されてしまうのが面白い。普通であれば「世間体が…」「社会的な見地では…」といった見方をしてしまうような場面でも、彼ら独自の論理でそうした「重力」から解放されたまま自分たちの物語を作り上げていく。ある意味、「軽い」し、おそらく社会をここまで切断してしまうと普通のサラリーマンなどはつとまらないはずだが、だからこそ「ピエロ」ということになるのだろう。芥川龍之介や太宰治といった古典作家への思い入れも随所にちりばめられつつ、「集団」から「個人」」へ極限まで「解放」されてしまう物語。こういう設定の物語が多くに支持されるという現象も興味深い。

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