2009年11月9日月曜日

戦略の本質(日本経済新聞社)

著者 :野中郁次郎、戸部良一、鎌田伸一、寺本義也、杉之尾宜生、村井友秀
出版社:日本経済新聞社 発行年:2005年 評価:☆☆☆☆☆
 戦略論の古典でもありロング&ベストセラーでもある。これも文庫本になっているがやはり単行本での読書を進めたい。かなりの分量にのぼるため文庫本では厚さと重さで読書が途中で中途半端に終わる可能性も。戦略論の系譜をまず第1章に置いてから、毛沢東、ドイツ空軍と英国防空戦力、スターリングラードの戦い、朝鮮戦争(特に仁川上陸作戦)、第四次中東戦争、ベトナム戦争を検討して最後に10の命題が打ち立てられる。もちろん反論可能な形での命題の提出で、最後はなんと「賢慮」である。アリストテレスの「フロネシス」を「賢慮」としたわけだが、これはおそらく目に見えない無形の力やノウハウといったものすべてを総合した概念になるだろう。きわめてあいまいでしかも膨大な概念を包摂しているが、実際にリアルな戦場と抽象的な机の上の作戦図とのバランスをとりうるのはそうした「暗黙知」もしくは「賢慮」という概念にならざるをえないのかもしれない。経営戦略の本としても読めるが近現代史の歴史の本としても興味深い。現在のエジプトや中国がいかなるプロセスで現在に至ったかを考察していくのには、こうした具体的事例で近現代を振り返ってくれる本書のような書籍が必要だ(ネットではやはり散発的な事象しか掲載されないし、またできない)。毛沢東がいかにして包囲討伐作戦を乗り切っていったかというくだりはちょっとしたスリリングな歴史小説の趣もある。文学や哲学の概念も援用しながら最後まで読者をひきつけてやまないこの構成。理論書でありながらも「読者」というコミュニケーションの相手側の存在も「戦略的に」考慮して作成された書籍といえるだろう。

0 件のコメント: