2007年10月15日月曜日

野火

著者名 ;大岡昇平 発行年(西暦);1981 出版社;角川書店
 高校時代には教科書は現代国語では用いず、大岡昇平の「野火」をテキストとする研究授業がメインだった。当時にはかなり違和感があったが、今になっておもうと非常に幸福な授業を受けることができたのかもしれない。当時の書き込みや感想を記した文庫本が今もなお本棚の中にあり、しかもそれをこうして読み返している。
 当時はわかっていなかったであろう、フィリピンにおける米国の威嚇射撃と敗残兵の行方。そして、倫理と生存本能の格闘。ラストでは東京のある建物で当時を懐古するという形式だが、月の光や水などのアイテムの用い方はまさしくポエティックなイメージで、読んでいるうちに、田村一等兵とともに、あてもなく島の中を歩くこととなる。
 何を訴えたいのか、ではなく何を感じるのかといった高度な授業が今こうして自分のイメージをさらに拡大させてくれるのは、日本文学の名作中の名作だからかもしれない。

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