2007年10月28日日曜日

凡庸さについてお話させていただきます

著者名;蓮實重彦 発行年(西暦);1983  出版社;中央公論新社
 「凡庸さ」という言葉がフランス第二帝政期に生まれた言葉と分析して、凡庸さと才能の有無を対比する現在の文化システムの「凡庸さ」を取り上げるという刺激的なエッセイの集大成。1980年代にあって、そして今の日本でもそうなのだが才能のあるなしと凡庸さとの裏表の構図などまずだれも考えようとしない。それを独特の文体で一冊の本にしてしまうのだから、この人、自分でいうほど凡庸な人ではやはりない。だれもが捨て去るイメージや文章ですら律儀にとりあげてはっとするような視点を与えるということ。凡庸さの中にダイナミズムを見出し、そしてまた新たなダイナミズムを生み出すこうした本への需要は…実はこれからますます減退していくのだろう。
 だれしもが凡庸でありながら凡庸さから逃れようとする状況は確かに不幸なのだが、不幸を幸福へと変換する装置というものは実は「教育」だ、とする。なんだかすごい話の展開なのだが成熟と凡庸という言葉についてここまで戯れる本というのは本当に貴重だ。

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