2007年10月15日月曜日

邪魔

著者名;奥田英明 発行年(西暦);2001 出版社;講談社
 単行本で新刊がでたときすぐ購入したミステリーだった。が、その暗い始まりにやや腰がひけてその後5年間にわたり本棚に置きっぱなしだった本。その前の奥田英明の名作「最悪」はすぐに読んでしまったのだが、高校2年生の「オヤジ狩り」のシーンから始まるわけだが、刑事の張り込みに遭遇した高校2年生と中退の3人組は返り討ちにあってしまう。ティーンエイジャーが大人に対して向ける憎しみというのはよくテーマになるが、7年前に妻を交通事故でなくし、さらには同僚の職務規律違反チェックのための張り込みをしている刑事九野という34歳の大人は逆に少年達に怒りをぶつける…。
 このミステリーにでてくる大人たちはみなある意味生活に疲れている。
「でも悩みが形を変えるだけなんだよね。ローンが終わるまでは病気もできないとか、夫がリストラされたらどうしようかとか。人間って
、足りなければ足りないことに悩んで、あればあるで、失ったらどうしようって悩むんだよ」という登場人物のセリフに生活の疲れが滲み出す。また普通の主婦恭子はスーパーのレジでアルバイトをしながら狭い人間生活に耐えながら、夫の不始末に耐えさらにはとてつもない「メタモルフォーゼ」を遂げる。750万円で自分のすべてを売り、さらには、孤独な自転車のペダルを踏み出し、陰の道を走り続ける。
 そして最後にまた高校生が登場するが、大人の裏の世界をみた3人は冒頭とは異なる成長を遂げている。後味はたしかによくないが、「それほど簡単に大人は生きているわけでもないし、子供考える反抗期など、暴力団や警察などが取り組んでいる課題に比べればどうってことない」ぐらいの薄暗い社会の裏側を描き出す。
 ミステリーというよりも一種の転落の物語といえるのかもしれない。こうした物語は実は結構好きなのだが、かすかな救いと社会の裏側に対する洞察を秘めたこの著者の類稀な才能に感動する。

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