2007年10月31日水曜日

沈まぬ太陽③御巣鷹山編

著者名;山崎豊子 発行年(西暦);2000 出版社;新潮社
 労働委員会、国会質問などをへて恩地は日本に復帰。そんな中、御巣鷹山に航空機約520人乗りが墜落する…。この当時の社会的衝撃はすさまじいものがあった。実際の事件だが、テレビのクルーが機材の搬入がなかなかできず、ラジオの深夜放送はすべて臨時放送に切り替えられ徹夜の報道が繰り広げられた。それまで「東都大学で共産党細胞をつとめ、治安維持法違反で逮捕後10ヶ月転向」した堂本はその地位に執着したあげく、その社長の座を追われる。この冷徹なリアリストはかつてフランスにいたフーシェを思わせる独特の戦術で生え抜きの社長の座に上り詰め、100万円のステレオでマーラーの第1番を聴くという設定。実在したのかどうかは不明だが、かなり屈折した人生観と冷徹な現状分析能力を兼ね備えていたのだろう。だがしかし、不慮の事故への対応までは想定の範囲外だったと思われる。たんなる勧善懲悪のストーリーではない。安全あるいは製品神話、ブランドの頂点にたつ人間は、ある意味ではいつでもその商品とともに葬られる可能性を秘めている。人間と営利というある意味両立不可能な目的を山崎豊子は描き、遺族の悲しみを徹底的に描き、損害賠償金額を値切る人間の姿も執拗に描ききる。人間の命を値切る姿は株式会社の姿勢としてはその延長戦にある行為だが、一つ、同じ人間という立場でみると異様な姿に目に映る。会社内部の視点と遺族の視点の両方の狭間に恩地は遺族交渉係として赴任して、テクニカルな交渉ではなく、人間同士の共感と理解をと訴えて冷笑される。第1巻から始まり、事故を通じて営利主義と人間、出世主義と報復人事の極端な対立を描写。読んでいてこれほど辛い物語はないが、ここまで引き込まれる物語も少ない。小説という姿を借りているがまさしくこれはあの会社のあの事件ではないか。

0 件のコメント: