2007年11月16日金曜日

オルフェウスの窓⑥

著者名;池田理代子 発行年(西暦);1995 出版社;集英社
 舞台はイザークがウィーンで苦悩し始めていたころにさかのぼり、ロシアへと移る。再び日露戦争で苦境に立つ極東政策の見直しと国内の労働者階級の反乱に手を焼くニコライ2世。そしてそのもとで怪奇な権力をふるう怪僧ラスプーチンの様子などが描かれ、クラウスが貴族出身ではあるが、メンシェビキに加入し、なぜにオーストリアにいっても追われる重要人物になったかも描かれる。くしくもその後をおったユリウスはロシア軍人のレオニードの家に「軟禁」される。
 1825年に貴族階級が起こしたデカブリストの乱で生き残った貴族たちの末裔がそのままメンシェビキに参加…そしてナロードニキ運動に発展していくのは、確かにありうる話かもしれない。ニコライ2世が即位した後、ある程度資本主義化を進めていこうとしたのは確かで工場なども設営されたが、漫画では工場経営者が女性をレイプする場面まで描かれる。その状態で社会民主労働党が結成され、クラウスはおそらくこの社会民主労働党に所属しつつ、ボルシェビキとメンシェビキとの対立や、レーニンやブレハーノフの亡命などを横目でみつつ南ドイツから再びロシアへ再侵入したものと想われるが、その一方で各地でロマノフ王朝に対する反乱、とりわけ軍部内部でも反乱が発生した様子なども描かれると同時に、皇帝に忠誠を尽くす将校までもがラスプーチンによって左遷されていく苦い状況も。時間軸としてはイザークとほぼ同時期ではあるが、ユダヤ人居住区への軍隊の粛清など、血なまぐささはウィーンのイザーク以上の展開。ピアノやバイオリンも小道具としては用いられるが、演奏されている場面はなく、ひたすらにゆれるロシアの中で生きる恋人たちの様子が描写。地域としてはオーストリアもロシアもさほど大きな違いがあるとは思えないが、まだある程度余力があったハプスブルグ王朝ともう後がないロマノフ王朝との差異が漫画の舞台の差として出てきているとも思える。

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