2007年11月23日金曜日

誰か故郷を想はざる  

著者名;寺山修司 発行年(西暦);1973 出版社;角川書店
 この場合の故郷というのは明らかに高度経済成長期の、しかも青森県から東京都まで数時間を要したころの話になるのだろう。今で言う故郷とは多分、指し示す内容がぜんぜん違うと思う。東北新幹線もないわけで。
 本当かどうかもまったくわからない静けさと故郷に対する思いつらみ。そして将来に対する漠然とした不安のようなものが書籍の中から伝わってくる。そしてまた政治的な発現も多少はあるのだが、それがほとんど個人の内面に向かうという印象を受ける。「コンピューターはロマネスクを狙撃する工学である」とした寺山は今のこの世に生きていたらなんていうのだろうか。当時「書を捨てよ、町へ出よ」といった寺山であればおのずとその発言の内容も想像できなくはない。本質的な問いというもののあり方そのものがまた変容してしまった今でも、寺山が読まれているというのは、時代と個人、場所と心の故郷といったテーマが不変のテーマであるからかもしれない。騒乱の中の静けさや真実の中の虚構といった錯綜した世界観は結局、人間が生きていくうえで必要な虚構という印象もうける。
「いかにも新しい時というものは 何はともあれ、厳しいものだ」(アルチュール・ランボー)

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