2007年11月24日土曜日

臨死体験(上)

著者名;立花隆 発行年(西暦);1994 出版社;文藝春秋
 オカルトめいたタイトルだが上巻を読み終わった感想ではむしろ筆者の立花隆氏はかなり心理体験については懐疑的だという印象をもった。ある意味不可思議な体験の多くが、脳内物質のエンドルフィンの増加で説明され、死にあたってはこのエンドルフィンが増加して一種の「ハイ」な状態になるのではないか。また脳内にある側頭葉を刺激すると一種の浮揚感がまきおこるという実験も紹介されており、脳内物質や脳器官の部位の研究がこれからさらにすすめば「科学的に」実証される部分が多いことも示唆されている。とはいえ一種の超常現象としてのオカルト説も一応紹介されてはいるが、だいたいの読者には、オカルト説は支持されないのではなかろうか。
 こうした死と人生のかかわりはギリシア哲学からキリスト教にいたるまでかなり研究されてきたテーマであり、この世界は一種のイデアであり死によって本来あるべき形をとるというテーマは各宗教によっても説かれてきたところではあるだろう。慎重なスタンスで各エピソードや研究成果を紹介する立場には好感がもてる。また、巻末のキューブラー・ロスのインタビュー記事は一種のスクープともいえないだろうか。二酸化炭素が増加すると幻覚症状が増えるという実験結果も面白い。
 さてキューブラー・ロスの「死の瞬間」というのは必読の名著とされているが、この中で描写されている死の宣告をうけたときの人間の感情は「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」といった5段階をへるとされる。だいたいの人間に起きる事象はこの5段階ではあるが、現在の物質生活や情報化社会を読み解く上でも結構立花氏の評論スタイルは参考になる部分が多い。特に脳内に関する電気回路と科学装置の解説は非常にわかりやすい。

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