2007年11月18日日曜日

エロイカ①~⑩  

著者名 :池田理代子 発行年(西暦);1987 出版社;中央公論新社
 壮大な歴史漫画で共和制の退廃から始まり第10巻まで皇帝となったナポレオンがプロイセン入城までを果たすところまで描く。昔、女子生徒は世界史が得意な人が非常に多かった記憶があるが、こういった歴史絵巻みたいな漫画を読んでいれば興味もわくし、近代立憲政治だのなんだのとややこしい歴史的事件も楽しみながら頭に入る。漫画の効用ここにみたりといった感じも。
 フランス革命が「成功」した後、共和党政府は王党派の残党と戦うことになる。すでにロベスピエールは死亡していたが、共和党政府首脳は退廃のきわみをつくしており、王党派の巻き返しに対しては、コルシカ島出身の下士官に全権をゆだねるしかなかった。ナポレオン・ボナポルトの登場シーン。さらにフィクションとしての新聞記者ベルナールとその家族、ジョセフ・フーシェ、アメリカ帰りのタレーランなどが華を添える。第4巻までにナポレオンがイタリア方面総司令官となり、サルディニア王国への進出、さらに和平条約を交わした後にローマ入城。そして、オーストリア軍との激烈な戦闘をへて和平を結び、パリに戻ってくるまでが描かれる。終始パリの共和党政府から圧力を受けつつも天才的な軍事能力と忍耐、そして背後の政治関係にも目を配る外交センスの卓越さが漫画を通して描かれる。地図なども豊富に挿入されており、フランス革命後にナポレオンが登場してくるまでの王党派と共和党政府の駆け引き、時代の精神といったものが、あくまで日本的な会話と人物像を中心としつつも展開されていく。稀代の戦略家がこの時代にうまれ、そして共和党政府が民主主義を保持するためにナポレオンという軍事勢力を利用しようとしていった背後関係が見事に描かれている。
 第5巻ではイギリス方面総司令官になったナポレオンが共和党政府の陰謀の裏側をかき、エジプトへの進出を開始する。フランス・ツーロン港からのブリテン・ネルソン提督がたどった航路とナポレオンが右左に航路を変えて撹乱していく航路の挿絵が見事。さらにタレーランはトルコ政府との和平条約を締結せず、エジプトでナポレオンはカイロに入城後、トルコの軍隊と対峙するとともに、アレキサンドリア港停泊中の船舶がネルソン提督に撃破される。それと同時にイタリア方面の独立運動が始まり再び共和党政府がゆれるところまでが描かれる。第6巻~第7巻では失意のうちにエジプト遠征から帰還したナポレオンが「合法的クーデター」により憲法改正、そして独裁者となり、共和党政府の総裁に就任する。ジャコバン党員と王党派をともに排除した形となり議会に軍人が足を踏み入れるという実質的には違憲状態でのクーデターだった様子も描かれる(ブリュメールの18日)。またロシアでエカテリーナが崩御し、アレクサンドロ2世がまだ王位についていない状態の様子が少し描かれている。さらに第8巻では軍事面のみならず教育制度、法典制度、裁判制度、レジオン・ドヌール勲章、商工会議所制度などを樹立し、国家のインフラを整えつつ、終身統領としてフランスに君臨するナポレオンが描かれる。第二次イタリア遠征やマレンゴの戦いも描かれるがこのあたりからナポレオンの描写がだんだん厳しくなり軍事面での成果についても筆の厳しさが増してきたような気がする。そしてロシアではパーヴェル1世が暗殺され、エカテリーナの孫アレクサンドルが即位する。第9巻ではついにナポレオンは共和党政府の皇帝となり、ロシアのアレクサンドル、ウィーンのフランツ2世、英国のビット首相の反応などが描かれる。さらに第10巻ではオーストリア-ロシア連合軍をアウステルリッツの戦いで撃破、英国のビット首相が急死し、フランスは英国との貿易を禁止するいわゆる大陸封鎖令が発令される。そしてフランス帝国の絶頂期に凱旋門が建立され、フランス軍はプロイセンに入城する。

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