2007年11月21日水曜日

ルートヴィッヒ2世①②

著者名;氷栗優 発行年(西暦);2000  出版社;角川書店
 ワーグナーをこよなく愛して、オーストリア帝国とプロイセンとの間ではオーストリアにシンパシーをもちつつも最終的には統一ドイツに参入されていったバイエルン公国。その王であるルートビッヒ2世が実は単なる耽美主義者ではなく、優柔不断によって戦争による被害を回避するとともに、中世の美学を再構築しようとしていたのではないか…との想定のもとにワーグナーや従姉妹にあたるオーストリア皇后エリザベートなどを登場させてヒトラー登場前のワーグナリアンのいささか倒錯あるいは少女趣味的な世界を描く。面白いといえば面白いが視点はなんとなく、特定の女性からみたやや偏向したバイエルン貴族の描き方で、もう少し考えてみるとこういうメンタリティは明らかに日本の若い世代からみたバイエルン貴族ということであって、非常に戸惑うことは戸惑う。でも地理的・歴史的に複雑なこの時代をよく描いているなあとは思うが。
(バイエルン公国・王国)
 もともとはエルベ川上流に存在していたゲルマン民族が現在のドイツのバイエルン地域に集結。8世紀ごろ、フランク王国の支配下でバイエルン公国となり、12世紀以後フリードリッヒ1世からヴィッテルバッハ家がこの地域の「選定候」となる。漫画の中でよく引用されるヴィッテルバッハとは、フリードリッヒ1世から代々伝承される由緒ある家系ということだ。1789年にフランス革命が発生し、フランスで国民国家としての意識がめばえはじまるが、同時期の「ドイツ」地域は、約300の「領邦」に群雄割拠状態だった。いわゆる爵位をもった貴族が支配する領土もあれば司教が支配する領土、さらに選定候が支配する領土と支配主は支配階級の多種多様にわたるものであったらしい。こうした状況下で1792年にナポレオンがドイツ地域に侵入し、これら約300の領邦は約30に再編成・統合される。そしてそのさらに13年後バイエルン地域はナポレオンによって、バイエルン王国となり初代国王にマクシミリアン1世が任じられる。マクシミリアン1世→ルートヴィヒ1世→マクシミリアン2世→ルートヴィヒ2世という順序で国王の代替わりがなされるが、このルートヴィッヒ2世は相当なワグネリアンで、「ローエングリーン」の上演をみてから熱狂的なファンになるとともに幼少時代にはゲルマン人の神話や中世叙事詩に相当に大きな影響を受けたようだ。漫画の中でもオーストリアとプロイセンにはさまれて、微妙な外交をせまられるバイエルン王国の情勢が描写されているが、意識的にか無意識にか、ルートヴィッヒはノイシュヴァンシュタイン城やバイロイト祝祭劇場の建設に熱意を注ぐ。そしてその後ルートヴィッヒは幽閉され、シュトランベルグ城の湖畔で死体で発見される。第2巻では、プロイセンに「統合」され、一種の「王国内王国としてビスマルクの支配下にバイエルンが下る場面がでてくるが、この「王国内王国」としての運命も第一次世界大戦の敗戦時にルートヴィッヒ3世が退位することによって消滅する。

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