2007年11月18日日曜日

年金会計とストックオプション

著者名;中央経済社 発行年(西暦);2004  出版社;伊藤 邦雄・徳賀 芳弘・中野 誠  
 退職給付会計の問題は実は解きやすいが、しかし問題を解くだけではこれだけの理解は得られない。退職年金資産という言葉からは信託銀行に信託している有価証券の運用をイメージし、実際の収益率については市場の変化により獲得されたキャピタルゲインをイメージすればよい。そしてその期待と実際の差額については数理計算上の差異として償却され、徐々に費用として処理されることになる。また簿記の問題などで用いられる退職給付債務は予測給付債務(projected benefit obligation)であって、昇給率など数々の予測数値を織り込んだもので、アメリカの会計基準がABO,つまり過去と現在の給与水準をベースに退職給付債務を見積もるのとは対照を描いている。だがこの本では本来PBOを用いるべき米国基準がABO(accumulated benefit obligation)を採用した政治的背景などにも言及しており、とにかく理解が深まる。
 企業の貸借対照表では年金資産に貸借対照表能力は認められないが、これは支払うべきキャッシュ・アウト・フローは、企業外部の信託銀行に生ずるからで、年金資産と退職給付債務を相殺する理由は年金資産の公正評価額だけ企業の「義務」(キャッシュ・アウト・フロー)が免除されたことを意味すると考えればよいのだろう。また過去勤務債務や数理計算上の差異などが遅延認識される理由として給与水準が高まれば労働意欲なども向上し、その効果が将来にわたって発現すると期待されるからと説明される(過去勤務債務の場合には確かにそうだろうが…)。数理計算上の差異は予測の差異であって、退職給付制度が長期にわたる制度であることから、基礎率の変化は翌期間以後の変化で相殺される可能性があるということで遅延認識される。図解も大量に行われておりいろいろと応用が利く内容。しかもストック・オプション会計についても言及されており、専門書籍としては異例のわかりやすさと面白さであると思う。

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