2007年11月24日土曜日

嫌われものほど美しい

著者名;ナタリー・アンジェ 発行年(西暦);1998 出版社;草思社
 「長年にわたる科学とのかかわりで私が学んだのは、見かけどおりのものは何もないということだ」という理念のもとに生物学もしくは進化論の視点から人間生活に別の視点からの考察をする。
「大勢の相手とセックスしたがるのはオスだけとか、メスはもっぱらひとりの好ましいオスを求める、といった陳腐な固定観念は正しくないことがわかる」「多数の相手と交尾するメスは、すぐれた遺伝子を子に伝えるというより、多様な遺伝子を確保して、少なくとも子供の何割かは確実に生き残るようにしているといえる」といった論旨から有性生殖がなぜおこなわれるかについて一つの仮説をたてる。本来ならば無性生殖のほうが単純で合理的なはずだが、生物の多くは有性生殖を進化の過程で獲得する。それはおそらく、有性生殖の方が多様な遺伝子を獲得できるとするものだ。こうした進化の過程の研究で寄生虫(パラサイト)の研究が注目されていることも紹介される。さらに動物がなぜじゃれたりかみ合ったりして「遊ぶ」のか、についても興味深い。遊ぶという行為には当然リスクがあるがなぜリスクがあるのに動物は遊ぶのか。一つには遊ぶことによって動物の頭の中にあるシナプス接合が活発化するから、という説が紹介される。また逆にシナプスを形成している時期にもっともよく動物は遊ぶ。さらに遊ぶことによって筋肉組織の発達にも役立つ。動物は遊ぶことによって将来必要な行動を獲得するというものだ。社会的動物の場合には、遊ぶことで固体を集団生活に溶け込ませる役割もはたす。さらに遊びを高度化するのにはコミュニケーション能力が必要になる。人間の場合にはさらに遊ぶことによって言語を獲得することもできる。
「多くの動物のメスはオスが寄生虫や病気に感染しているか否かを示す兆候に、もっとも関心をもつという」「動物がなぜある固体にひかれるのかを研究しているのかを研究している学者の多くは、美しい顔や姿が異性をひきつけるのは美的な理由からではなく、外観の美は中身の質をかなり正確に反映しているからだという」こうした遺伝子の多様性はたとえばマダガスカルのカタツムリでほんのわづかな遺伝子の差でまったく異なる食生活をおこなうことで生き延びた例などが紹介される。動物園のチーターなどの繁殖がうまくいかないのは個体間の遺伝子の差がさほどないからだという説もあわせて紹介される。女性の月経についても男性の精子が病気を媒介するのを防止する役割を果たすという説が商会される。
そしてさらにテーマは人間生活に密着していき、「肥満」というテーマでは、脂肪のメリット・デメリットについてとき、「喜び」については、エンドルフィンの分泌に有用だからではないかという説が紹介される。
そして最後の章では、いわゆる躁うつ病について、ハンガリーなどの遺伝子的データなどを紹介しつつ、もちろん仮説として、先史以前からおそらく人間にはこうした精神的な波のようなものがあり、そしてそれは進化の過程で必要だったからこそ現代でもなくならないのではないかという推測を提出する。
「もし躁うつ病やより軽い気分障害に悩む芸術家が、病気の発現期に目もくらむような想像力の大波に翻弄され、右舷と左舷の間を揺れ動くのだとしたら、港に帰りついたとき、彼らが苦しい経験を糧に美しいものを創造するのはなんら不思議ではない」
「この病気がなんらかの理由で淘汰されずに残って存在することを示唆している」
「先史時代にはこの特性を受け継いでいる人間のほうが有利だったと考えらえれる」
「…抑うつ感を感じたと報告しうたときには扁桃体、眼窩前前頭皮質、帯状回など大脳辺縁系の特定部位の活動が減少」‥といった進化論のプロセスで興味深い「仮説」が提出されている。もっともどこまで正しいかは本当に不明ではあるがとにもかくにもピュリツァー賞受賞の著者と名翻訳家相原真理子氏の絶妙のコンビで最後まで一気に読ませてくれるサイエンスノンフィクション。

0 件のコメント: