2007年11月18日日曜日

英国流立身出世と教育

著者名 ;小池 滋  発行年(西暦);1992 出版社;岩波書店
 教育学のスタンスに人間の生産能力を発展させるツールという視点がある。もっぱら経済学の手法によるが、これがまた結構数値的に処理できる部分が多いので利用しやすい。この本では主に批判的に立身出世主義をとらえつつも、まずは分析の一つとして階級社会である英国を「立身出世」という観点でとらえて、歴史的・文化的に考察を加える。最初は「セルフ・ヘルプ」からだがもともとプロテスタントの土壌であるから勤勉とか節約とかいった概念は土壌としてあったが、それが階級社会をのりこえて社会にダイナミズムを生み出すプロセスを分析している。スマイルズの論理はいたって明快で必要なのは勤勉努力とする点が当時の英国さらには翻訳されて日本でもうけた。抽象的な栄光とか理想だけにとらわれず、低迷・極悪趣味といった苦渋を味わうことで人生の本当の味をあじわうという筆者の姿勢はさらにその後、一般教養が貴族階級による勃興しつつあった庶民階級との差別化に役立ったこと(だからこそラテン語など貧乏な家庭では獲得できない言語に貴重性を見出したとする)、パブリックスクールの特権性などを明らかにしていく。英国の教育の歴史を概観しつつも、さらに日本の教育問題にも示唆をあたえる貴重な歴史の本だと思う。ディケンズやサッカレーなどの著作物に対する解釈もまた面白い。

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