2007年11月23日金曜日

死の民俗学

著者名 ;山折哲雄 発行年(西暦);1990 出版社;岩波書店  
 比較検討をする…といった場合、入学式・卒業式・結婚式など種々のお祝い事は多数あれど、葬式の比較検討ほど実は興味深いものはない。似たような黒一色でありながらそれでも故人をしのぶときに微妙な差異がかいまみえたりする。もちろん「ご不幸」なので楽しいというわけではないが、そうした微妙な差異に逆に人間らしさをかいまみたりもするのだが。遺骨や遺灰などの感覚がインド・日本・アメリカでぜんぜん異なることから始まり、沖縄の「遺骨を洗う風習」に対する柳田国男の「祖先との交流」という視点や折口信夫の「遺骨の処理は魂の復活を防止するため」など種々の学説が紹介される。生きる人間と死者を隔てる壁があり、こちらからは向こう側はみえない。ただ向こう側へ送り出すだけだ。この数千年にわたり日本民族がいかにして死者を送り出してきたかを研究することで逆に現代の日本の世相がうかびあがるという仕組みになっている本。そしてギリシアのアクロポリスとネクロポリスの幾何学的な都市構造は今の日本にもそのまま輸入されつつあることにきづく。都市国家の中心はアクアポリスだったが、城壁の外には共同墓地や埋葬地が区画整理されていたのだ。(エジプト人はナイル川を挟んで都市の領域と死者の領域を区画していたが、ナイル川は氾濫していたわけでナイル川の都市構造は日本にはあまり影響が感じられないという感想をいだく)。日本の古墳が王権の偉大さをしめすメルクマールとなり死と生を区分けする役割をはたしたであろうことも著者は指摘する。そして話は王権の伝授にまで及び遺骨という物理的な話から日本文化の中枢へとテーマがうつるという仕掛け。著者のページの後ろにかくした意図はともかく1冊の本として実に見事だと思う。

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