2007年11月17日土曜日

オルフェウスの窓①~③

著者名;池田理代子 発行年(西暦);1995 出版社;集英社文庫
 南ドイツの古都レーゲンスブルグの音楽学校に二人の転校生がやってくる。二人とも専攻はピアノで片方は苦学生、そしてもう一人はアーレンスマイヤ家という当主は元統一ドイツの陸軍情報部にいて、ビスマルクのもとで統一ドイツの実現化のために働いた人物だった。その音楽学校にはオルフェウスの窓とよばれる窓があり、ギリシア神話のオルフェウスとエウリディケの逸話(エウリディケは死に、黄泉の国から戻る途中、オルフェウスは振り向いてしまう。そしてその後オルフェウス自身も女性たちに惨殺されて川にながされてしまう)にならい、最初にその窓からみた女性と恋におちるが悲劇的な結果をむかえるというものだった。初めて読んだのが多分10年前。そのときはもう無茶苦茶に感動して、ベートーベンのピアノ協奏曲を聴きまくったものだが、今改めて読み返してみると、特段にまだベートーベンへのこだわりというよりもモーツアルトのソナタやリスト、それに「ニーベルンゲンの指輪」など他のクラシック音楽も題材に取り上げられている。よほど当時はベートーベンとこの漫画がだぶって印象づけられたのだろう。それにもともと連載されていたのはさらに現在よりも30年前という名作に属する作品の読み直し。1ページごとに、以前読んだページが手になじんでくるのを感じる。
 第一巻では、ロシア革命前の活動家クラウス、地元の有力商人キッペンブルグ家のモーリッツなどが主人公の二人のほかに描写され、イメージとしては南ドイツからずっと東の方向をみているような感じである。まだニーチェやマルクスが読書禁止とされていた時代でもあるし、ワーグナーのニーベルンゲンの指輪がお祭りで実施されたりもする。またドレフェス事件(フランスで発生したドイツのスパイ容疑事件)や日露戦争なども多少扱われている。陸軍将校のドレフェスがスパイ容疑で無実の罪で逮捕されるとともに、逆に右翼のブーランジェの革命などフランスもゆれていた時期だし、対ドイツに対する強行な意見もでていたころである。ドイツ帝国の成立は世界史の上では1871年。一応立憲君主制だったが実質的な権限はビスマルクが握っていた。この人、南ドイツのカトリック教徒の弾圧(文化闘争)や皇帝狙撃事件をきっかけにした社会主義者鎮圧法の制定(1878年)などいわゆる「ムチ」の政策と社会政策・外交政策をやって人気取りをしたりとしたたかな政治家だった。フランスの姿がみえない漫画だが、ビスマルクの外交政策はオーストリア・イタリア重視でフランス孤立化政策だったのでやはり視点が東に向くのは当然かもしれない。ロシアも当時は貴族がおこしたデカブリストの乱が失敗し、いわゆる農村などへでかける行動をとるが、ニヒリズムやテロリズムの発生が顕著にみられたという。クラウスは15歳にして、テロリズムに参加。ロシアの秘密警察に南ドイツまで追われてきた「大物」ということになるが、はたして当時のロシアにそこまでの余裕があったのかどうか…。1890年にビスマルクは辞職し、ウィルヘルム2世が就任。さらにドイツが大概進出もねらおうという機運もこの漫画の舞台となりうるだろうか。ただ当時レーニンはイギリスに亡命中で、しかもドイツ経由でロシアに再入国したケースも多かったというからクラウスのような存在も確かにレアケースとしては存在していたのかもしれない。愛用のバイオリンはなんとストラディバリウスなのだが、革命を目指す人間がそんな何億もする楽器をもって南ドイツの音楽学校になぜ潜伏していたのかは非常に不可解ではある。
 

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