2007年12月21日金曜日

ネット資本主義の企業戦略

著者名;フィリップ・エバンス  発行年(西暦);1999  出版社;ダイヤモンド社  
ネット資本主義が隆盛をきわめていた時代のアメリカ市場での見解である。予測にもとづいており,外れた部分もあるが学ぶべき点ももちろん多い。百科事典のセールスマンがCD-ROMに市場を奪われたエピソードから始まる。日本では平凡社の世界百科事典に相当するものであろう。ブリタニカは小売商のシアーズに買収された後にベントン財団に譲渡。しかし1995年にはベントン財団はブリタニカを売却しようとするがマイクロソフトは拒否し,金融業に帳簿価格の半分で吸収される。これは情報に関する新しい経済原理の教訓として紹介される。新たな技術が既存の産業をこなごなにうちくだく例でもある。エンカルタとブリタニカ。ブリタニカの経営陣が新技術に対しての将来像を描くことができなかったことはあくまで結果論ではあるが当時ではしょうがないことだったのかもしれない。競争優位の基本パターンが変化することはある意味ではチャンスでもある。また情報技術の発達は競争をゼロサムゲームからウィンウィンゲームに転換することもできる。ブリタニカは百科事典を販売していても情報産業である。本書ではすべての企業のマーケティングその他の企業も情報産業の一貫として認識して資本主義を分析している。経済活動における情報という経営資源の優位性は高まるばかりであるが,トヨタの優位性もまたコンカレントエンジニアリング,カンバン方式といった情報処理能力としている。ウィルマートもまたEDIによるロジスティクスとしている。ビジネスの領域を決定するのはすべて情報処理能力…(ここまでくるとやや疑わしい気持ちもあるが情報処理能力の優位性をここで強調しているのかもしれない)。物理的なモノは減価償却されるが,基本的に情報はコピーもありえれば収穫逓増の原理が働くケースもある。歴史をさかのぼれば,読み書きなどのリテラシーがない時代はゴシック様式の大聖堂のステンドグラスや彫刻が情報伝達メディアだったが印刷術の発達によって書籍(つまり資本集約度が低いメディア)で同じ情報を伝達できるようになる。そして物理的な情報伝達技術と隔離した情報メディアがデジタル産業ということになる。情報そのものが最終的に換金価値をもつケースは現在でも少ないが,物理的商品が生産される背後に情報メディアの発達があることは現代ではもはや常識だ。
 質の高い情報とその情報が伝達する範囲はトレードオフだったが現在ではそうでもない。セールスマンの販売訪問は極めて質の高い商品情報を提供するがそれは1対1の対面販売に限定される。こうした情報の質(リッチネス)と範囲(リーチ)のトレードオフは情報の非対称性という現象をうむ。個人や企業の交渉力に影響を与える互いの知識の差である。しかしデジタルネットワークは質の高い情報を相互に交換することができる。ムーアの法則で処理能力が向上し,インターネットプロトコルによる基盤整備が確立している現在,インターネット技術の発達はさらに拡大すると著者は予測する。こうした現象はまず新聞業界に大きな影響を与える。またリテールバンキングにも個人財務ソフトなどの発達もあり大きな影響を与えるであろう。金融機関の合併以外に情報技術の発達が金融機関の人員削減を増加させている。こうしたネット資本主義は競争優位の獲得へのスピードを増すと同時に競争を激化させる。古いビジネスモデルからいかに新しいビジネスモデルに転換していくかがポイントとなる。
 中間業者の排除はまたすべての業界に共通してでてくる現象だろう。シアーズがカタログ通販を19世紀後半に始めた頃,多くの雑貨・衣料品店が駆逐された。オンライン証券会社,デルコンピュータ…ビジネスモデルの勝者はデジタル社会でも一芸に秀でた企業となることが示唆されている。アフィリエーション(信頼性)の構築とデジタル産業の発達についてこの書籍は最終的に明確な解答は提示できていない。しかし思想や経営戦略の転換をもとめる一冊ではあろう。しかしセブンイレブンのように,「商売の基本」を重視することでこのネット資本主義をかちぬいている企業戦略もありうる。アナログとデジタル。この2つを相互に転換・昇華していくことこそがこれからの課題なのかもしれない。

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