2007年12月24日月曜日

困ります、ファインマンさん

著者名;ファインマン 大貫昌子訳  発行年(西暦);1988 出版社;岩波書店
ユダヤ人であり、戦時中は原爆開発にも携わった物理学者ファインマン氏のエッセイ集。当時原爆開発者が多くかかったといわれる腎臓のがんで死去されている。この本はもちろんユーモアあふれたエッセイ集なのだが、冒頭はやはり若くして死去した奥様との思い出につづられている。権威や権力といったものについて距離を置いていた著者だがやはり原爆という科学に携わった事実について、「すべての楽園に通ずる鍵は地獄にも通じる」といった言葉を残している。
 「偉大な進歩はおのれの無知を認めることから生まれ、思索の自由なくしては手に入れられないことを知らなければなりません。その上でこの自由の価値を鼓舞し懐疑や迷いは危惧するどころかむしろ歓迎され、大いに論じられるべきであることを教え、その自由を義務として次の世代にも求めていく、これこそ科学者たる私たちの責任であると考えます」という言葉で締めくくられるこの本はある種「痛み」すら感じさせる内容だ。だが物理学者であるにもかかわらず「人間愛」「ユーモア」といった事柄を重視した著者は、硬さを感じさせない筆で、「死」についても飄々と書き連ねる。夫人の死で涙を流した瞬間の描写はおそらく万国共通の涙だろう。

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