2007年12月24日月曜日

マルチメディアと教育

著者名;佐伯 胖 発行年(西暦);1999  出版社;太郎次郎社
 教育工学から認知科学へご専門を移した著者の「考え方」の遍歴と実際の教育現場との相関関係を把握するのには非常に役立つ書籍である。また昨今の情報科学のあり方にもすでに1999年から警鐘をならされていたのは著者の慧眼であろう。ある種の「証拠」「論拠」「方法論」「目的」を律儀に捕らえなおそうという姿勢には好感がもてる。ただしじっくり観察し、妥当な教育論を確立しようとする立場はやはり学者の立場で現場では「現在進行中」という事実はわきまえておく必要性があるのかもしれない。マルチメディアと教育の関係は確かに重要だが、現実にこの今、パソコンがある程度使えないと不利になる立場の人間もいる。長期的にはのぞましくないが、ある種の技術論に偏りがあるのはしょうがないことなのかもしれない。ただし、「ハイテク技術にふりまわされない」「頭を冷やした」教育活動を提唱する著者の立場は、現在貴重である。表現重視の教育も重要だがその反面実質への問いがなおざりにされるようでも困る。ビジネスでもやたら見栄えがいいプレゼンであっても、「だから何」といたくなるようなプレゼンがなくはない。キレイゴトや形式論理で世の中は割り切れない、という当たり前のことをあらためて考えさせる本である。ただし2000円は非常識な価格であり、これは出版社にはあらためてほしい価格設定だ。内容のほとんどが雑誌等からの転載であり、もう少し読者に買わせる価格設定(あるいは価格を高めに設定するなら装丁を考えて欲しい)をしないと、マーケティングに対する熱意を疑わせる。

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