2007年12月25日火曜日

自由主義の再検討  

著者名;藤森保信 発行年(西暦);1993 出版社;岩波書店
 価値観というものと市場原理というものはどうにも相性が悪い。近代経済学では外部性経済効果などと称したりするが、要は市場原理だけではハンドリングできない公害などのことをさす。市場原理で「道徳」や「観念」をおしはかることもできず、これは経済学ではあつかえない題材なのだが、この本では、あえて価値観としての「功利主義」(ベンサム)や「議会制民主主義」と「自由主義」との関係を考察したものだともいえるだろう。市場主義が優勢になれば議会制民主主義は「価値観」ではなく「欲望と利益集約」の場の化す。やや今では古めかしいコミュニズム的な著述もあるが、それは1993年という時代のせいでもあるだろう。個人をなんらかのモデルで社会的関係にとりこませるシステムのようなものを模索していたとも解釈できるのだろう。ただし、それは当時の筆者が予想もしない情報化社会がデジタル回線である程度可能にしたということもみれる。英語の読み・書きさえできれば国際的コミュニケーションもきわめて低額な通信料でできるようになった時代でもある。情報倫理という言葉でおそらくは、ある種の価値観がこれから社会的に共有されるに違いない。デジタル社会では実は性・権力・言語、そして年齢といったものは実はコミュニケーションの障害やノイズにはならないという特質をもつ。アナログとは異なるコミュニケーション時代であり、そこではエイジング差別もレイプも存在しない。ただ存在するのは「言葉」による「礼儀」や「倫理」といったものになる。
 自由主義の再検討はおそらくこれから新たなツールの世界で再構築されるべきなのだろう。所得の再分配が近代経済学のテーマだったとしなたらば今後は「情報の再分配」も一つのテーマになりうる。そんな予感も本書で感じた。内容はかなり高度で社会思想に興味がない場合にはちと辛いかもしれない。

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