2007年12月21日金曜日

著者名;幸田真音 発行年(西暦);2001 出版社;文藝春秋
 高杉良氏といえば経済小説の大家であるが、高杉氏がほめちぎる経済小説家にこの幸田氏がいる。文春文庫から上巻・下巻の2冊。旧大和銀行のニューヨーク支店の損失補てん事件などから題材を採用してはいる。文庫版の解説もまた大和銀行・日本債券信用銀行・日本長期信用銀行を「モデル」としているとあるが、実際は違う何某都市銀行であろう。実際のところ、その都市銀行では国内派と国際派の対立があったように聞くし、大株主には巨大メーカーの名前が連なっている。全国銀行協会をはじめ、事業会社(メーカー)の都市銀行進出は避けたかったはず(日本国内の慣行が大きく崩れるため)。一時期、国内の金融業が外資と手を組む話がちらほらでていたが、そうした話もでてこなくなった。これはもちろん国内基準の金融業と海外の外資系金融機関とでは慣行はもちろん市場の原理がまったく異なるためである。相場の流れにさからったポジションでは損失額は膨らむが、残念ながら日本国内のディーラーに真の意味での投資活動ができる人材はかなり少ない(いても外資にひきぬかれる)。この本では国際市場での厳しさに対応できない国内都市銀行の慣行(傷)と主人公の女性の「傷」をかけたストーリーが交錯している。発表された時代ではまだ山一證券と北海道拓殖銀行が倒産したばかりのころ。現在また何某都市銀行の「救済合併」が問題となっているが、国際業務もホールセールも収益としてのうまみがない現在、合併する片方の都市銀行の顧客名簿や営業ルートはもうひとつの都市銀行にとってはかなりのうまみであろう。しかし、救済される都市銀行の本部づとめの人間(特に国際部門や人事部門など)はリストラの対象となるはずだ。
 この5年間で日本の企業社会は大きく変貌した。この本は架空の経済小説であり(ミステリーでもあり)、未来予測小説ではない。しかし、海外の投資家から日本の金融業がどういうランキングをされているかはよくわかる小説だ。市場のリスクということについて少しでも理解しようとするならば、まずこの小説はお勧めである。

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