2007年12月21日金曜日

スラムダンクな友情論

著者名;斉藤孝 発行年(西暦);2002 出版社;文藝春秋
 キャリアの中でアイデンティティというのは非常に重要だ。自己同一性などと翻訳されるが、実際のところのイメージはわきにくい。自分を自分たらしめるものをアイデンティティというのであれば、自分が本当にやりたいことがやれる場所や時間がアイデンティティということになる。そうした意味では、自分のやらいたいことがやれない場所に身をおくのは非常につらい。精神的においつめられるケースが最近増加しているのは、アイデンティティが見出せない職場などがふえてきたからかもしれない。友情などというものには幻想はいだいていないが、この本はむしろ友情(コミュニケーション)を通じてアイデンティティ論を語る本だと考えられる。内容的には漫画などを題材にとりあげて入り込みやすいが理解はしにくい。結構、実践していくには難易度が高い本ではある。何回やってもほぼ同様の結果をえることができることを「技」というならば、そうした技をみにつけていくプロセスもまたアイデンティティの確立に有用であろう。もっとも技の確立には注意と反復が必要であり、たとえば部活動などで単調な基礎練習を繰り返すのは、そうした技を確立していくための必要不可欠なプロセスともいえる。
 インテリというのはただの物知りということではあるまい。認知科学でいえば問題解決能力の高さを意味するが、それは客観的な状況分析と自分の能力の見極めができて、さらにその方法の解決策を考案できるということになる。ツワイクがバルザックを手本意したような見本となる人間を早く「友」とし、刺激しあう。そしてそれは一種の緊張感を保つものであり、なれあいにはならない‥。
 甘い人間関係ではたぶんこれからは生きていけないのだろう。だからこそ、しかし、友や友情などは、たぶん、必要不可欠なのだ‥二律背反的な要素を含むがゆえに、おそらく読後感はたぶんすっきりしたものにはなるまい。しかしそれだけ人間関係の深さや難しさを豊富な題材で示そうとした著者の意気込みが感じられる。

0 件のコメント: