2007年12月23日日曜日

イギリス人の表と裏

著者名;山田勝 発行年(西暦);1993 出版社;NHK出版
 イギリスという島国の歴史や文化の本はとにかく面白い。同じ島国でしかも王室をもつという共通性はあるが、表層的な部分はまるで異なる。伝統と格式のあるクラブは都市貴族によって創設された‥とうくだりはタイタニックに乗船していた男性貴族たちのふるまいを想起させる。イギリス紳士というカテゴリーも歴史をさかのぼると、貴族・地主階級に限定されそうだが、次男などは産業革命以前は商店などに勤務していた。ということは現在では、商人のなかにも貴族・地主階級が混在しているということになる。そして、その後商人がイギリスの支配層になっていたという経緯もある。19世紀のマナーハウスは日本の荘園に相当するが、近代以後もゴシック様式が好まれていた。筆者はそれを中世封建領主への憧れと形容している。
 高い塔は水道に役立てられ、現在の貯水槽に相当していた。イギリス黄金期はヴィクトリア女王の死後、エドワード7世が就任してからといわれているが、当時個人資産のほとんどは人口の1パーセントが掌握していたという。エドワード7世は陽気で贅沢の限りをつくすイギリスをうみだした。ローストビーフは中世の料理方法のまま進化していないなど歴史の古さを事細かに分析してくれている。都市計画をまずてがけたのはイギリスだし、公園の整備もそうだ、日本の江戸時代末期にはパリにさきがけてロンドンでは地下鉄が走っていた。小学校教育では1990年代でも「怠けるものは救貧印」といった風土が残っているらしい。ただし階級社会が相当厳しくそれが社会の進歩をさまたげているのかもしれない。またイギリスには地震がないので石造りの家が何百年もの耐久性をもつという日本人には信じがたい話もある。土地に対する執着も無く、120年土地権利付きといった家の売買が中心らしい。イギリスの一般的感覚として「紳士が国を動かし」「経済観念しかない人間を軽蔑」といった用語も興味深い。ヨーロッパでもイギリスほど自由を享受した国は少ないのかもしれない。中世ではローマからもっとも遠い国であったし、ルネサンスにはすぐ英国国教を設立し、ローマ法王の支配から脱出している。一応、プロテスタントではあるが、労働の尊厳をといた働かない上層階級で、生産活動に従事したブルジョワが貴族的生活に憧れを持つという矛盾の社会。18世紀のロマン主義はまた文学に彩りを与えている。伝統の国が新奇性をうむという点で音楽、政治そして映画に今後大英帝国が存在力を示す時代は続きそうだ。

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