2007年12月23日日曜日

30代からのサバイバル経済学

著者名;宮内章 発行年(西暦);2000 出版社;PHP研究所
 同じ30代とはいっても30歳と39歳とでは異なるだろう。しかし40代の前提として30代があるわけだし、20代もいずれ30代に突入するわけだからこうした書籍を読んでおくのはけっして無駄ではない。日本社会は裕福といわれているが、実は多額の借金を背負い込んで悲惨な社会生活になっている人間も多数いる。自分の人生をチェックしておく必要性はいつの時代も誰にでもある。哲学論は結構だがその前に生活を設計しておく必要性はあるのだ。
 まずは自分の収入と支出をしっかり認識しておくこと。無駄な支出はできるだけ削減しておいたほうがよい。そのためには複式簿記で使う損益計算書や貸借対照表などを利用するのがよい。自分の現在のキャッシュ・ポジションがプラスかマイナスかを判断する材料になるだろう。住宅ローンや生命保険なども検討材料に入る。
 その後にマクロ経済学について学習しておこう。現在は「将来の予測が成立しにくい時代」ではある。「不確実性の時代」だ。不確実性が拡大しているからこそ日本人の消費よりも貯蓄のほうが増加してきている。マクロ経済において一番心配されているのがインフレーションだ。2002年ごろから「ハイパーインフレーション」のリスクが懸念されているがまだその予兆すらみえない。オイルショックなどが再来すればインフレーションになるが‥。物不足がおきればインフレにはなる。その結果、しかし株価が暴落するリスクなどもあり、イラクの戦争がはたしてインフレーションに良い方向性を与えるとはちょっとは思えない。また小売商の変遷をみても非常に変化が激しい時代であることは間違いない。イトーヨーカ堂は4シーズンではなく10シーズンに衣料品を区分けしているようだが、それだけ消費者の志向はめまぐるしく変化している。1999年に老舗の東急日本橋百貨店が閉店セールをおこなったが、1ヶ月にも及ぶ閉店セールで他店の在庫を持ち込んでうちさばいたという。それだけ在庫には各種生産者や流通業者は頭をなやませているのである。また技術者も30代になると大学時代に習得した技術が活用できない。コンビニエンスストアで日常的にクリーニングサービスを行う時代も予測不可能ではない(すでにセブンイレブンが横浜で実験)。コンビニエンスストアでは昔はスポーツ新聞しかおいてなかったが最近では日本経済新聞なども置いている。これは中高年の消費を念頭においているためだといえよう。
 中高年の定義は難しいが少なくとも34~35歳までに「何らかのスキル」を身につけていない人員はこれからリストラ対象の枠に入る可能性は高い。単なる余剰人員の整理という段階から現在では事業所ごとあるいは事業部門ごと廃止・統合する時代になってきている。これは厳しい。専門能力のスキルアップをはかるのはおそらく30代が最後のチャンスともいえ(40代でもなにもしないよりはよいが)、そのあたりが各個人の人生観ともからんでくる微妙な問題だ。また両親の資産といったものの有無もこれから大きく影響してくるだろう。3500万円台のマンションを購入する世代は32,33歳が多い(大京)ということだが、このローンの支払能力の査定を金融機関がどうしているのかも疑問だ。というのは家具の販売量がそれほど伸びていない。ぎりぎりのところでローンを組んでいるとしたらそれはそれで恐ろしい話ではある。
 生活レベルをいつでも落とすことができるような精神構造に自分自身を作り直しておく必要性がある。そのためにはやはり歴史に学習しておくことは重要だ。第一次オイルショックなど、当時の家計をどうやってやりくりしたのかは非常に役に立つノウハウがあるのだと思う。
 今後の日本企業で年棒制度がじわじわ増加してくるのは避けられないが、それはおそらく次の方向性をたどると通説でいわれている。
 支店でリテールの業務をする場合にはたしてどれだけのスキルがもとめられるかというと実はさしてたいしたノウハウが必要なわけではない。各種の銀行が店舗拡大をとりやめ、削減しているのは、クラーク(事務員)的な銀行員の人件費を削減していくためであろう。逆に高度な金融ノウハウをもっている人間はかなり数が限定されてくるのでこれから需要は増加してくる。本当のバンカーにはそれなりの成功報酬を与えるという論理だ。
 昭和40年代までは、都市銀行は住宅ローンをてがけていなかった。そこで個人向けの住宅ローンをおこなうための機関として住宅金融専門会社が設立された。当時の田中角栄内閣の日本列島改造論などとあいまって都市銀行、住宅専門会社農林系金融機関などが無茶な貸し出しをしてあのバブルとなったわけである。住宅金融公庫のステップアップ返済方式では、5年ごとに金利が見直されるがそのとき高金利だととんでもない支払利息の負担を抱えることになる。デフレ、インフレといったマクロ経済の分析はこれからの生活保護にも絶対必要なのだ。またインフレになると予測される場合には株式を1000株からはじめてみるというのもひとつの手法ではある(証券会社が倒産しても株式は保護預かりとなる)、長期投資・分散投資は投資の基本だからその種類のノウハウ本を何冊か読んでおくよいだろう。リスクとリターンの関係も常に変化の時代では変化する。今日のリスクが明日には2倍になっていることもあるかもしれない。常に年収の8割程度の貯蓄は維持しておくことがひとつの保険になる。お金に余裕がなければ生活にも余裕がなくなる。金銭というのはある意味それだけシビアなものなのだ。また流動性が高いのだから、コンビニエンスストアとファミリーレストランの競合といった業種・業態の異なる競争というのもこれから出てくるのであろう。いずれにせよそうしたマクロな変化の中で自分自身のライフスタイルや哲学をしっかり確立しておくことが最大の重要事項ということになりそうだ。
①サラリーマンにとっての無形固定資産を増やせ
 教育および教育効果から派生した付加価値を増加させる。スペシャリストとしてのスキルを身につける。変化の中で生き残るひとつの手段だ。30代からならば十分ひとつの分野でスキルを身につけることができる。営業部員であれば人脈を確立させる。営業は「物ではなく人を売る」のだから、そうしたノウハウはどこの世界でも通用するはずだ。好奇心を発揮してグラフひとつ見るのでも好奇心を満たしきるまで調査する。そうした疑問をもつ力がスペシャリストへの道を開く。
②自分の視野を拡大する
 情報を顧客に伝えるという作業を行う。そのためには英字新聞(フィナンシャルタイムスなど)を活用するのも一つの手だろう。コソボ問題や東ティモールといった問題を自分自身の問題として理解・活用できればそれがまたスキルアップとなる。
③他人の話を活用する
 他人と会ったときに必ずメモをしてそれを次回あったときにフィードバックする。いかにえらい人とはいえ、自分の話を記憶していてくれれば悪い気持ちはしないし、営業上も有効だが、それをまた自分なりに咀嚼することもできる。
④情報には2種類ある
 インターネットなどで垂れ流された情報をインフォメーション、このインフォメーションに何らかの付加価値をつけたものがインテリジェンスだ。情報にいかに付加価値をつけていくのかは結構難しい。レポートについては3つの論点を盛り込んでおくというのが重要らしいが単なる数字の垂れ流しでは判断する場合にもこまるであろう。またインテリジェンスとは一種の「提案」ということでもあるから、単なる「御用聞き」ということではなく「提案営業」といった視点にもつんがあるかもしれない。
 与えられた情報を自分なりに吟味していかないと新聞もインターネットももはや情報の垂れ流しとなっているので、危険すぎる時代にもなった。
⑤資格の必要性
 資格に対する勉強について社内外の人間にあれこれいわれる筋合いはない。学習してきたプロセスや知識をそれこそインテリジェンスとしてまとめることができるのだから、むしろ自腹を切っても勉強したほうがよい。
⑥これからの人事評価
 目標設定と達成度で計測するケースが増えてくる。これにはやはりメタ認知ができる能力を維持しておく必要性があるだろう。また、心理学を活用したビジネスはますます増加するし、電子商取引が発達してもショッピングを楽しみたいという消費者(主婦層)はあるのだから小売商がすべて電子商取引に特化していく必要性もない。
 この宮内章氏の本は、30代に限定されているが実際には40代、50代にも活用できる情報がつまっている。また、慶応大学経済学部卒業後、野村證券、野村総研、イトーヨーカ堂常務取締役といった実力主義を標榜する企業を渡り歩いているだけに非常に有効な事例があふれている。しかし株式投資などに甘い著述があるのはちょっと残念ではあるが‥。最新版がでることを期待したいが世代論というのはあまり流行しないのかもしれない。しかし、先人に学ぶことは多数あるとともに単に情報を入手するだけでなくそれを整理・加工していくことが重要であるという指摘にはまったくもって賛成だ。また無形固定資産としての勉強や資格取得はやはり個人的にも挑戦をさらに続けて生きたい。そうした意味ではやや時代遅れの感がしないわけでもないが有用な書籍だと思う。しかし、ここに書き込んだのが最後の読み返しで、さて、捨てることになるだけれど(だって変化が激しい時代に、予測がはずれたノウハウ本なんか大事にしまうのは場所と時間の無駄でしょ)

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