2009年1月31日土曜日

ぼくたち、Hを勉強しています(朝日新聞出版)

著者:鹿島茂・井上章一 出版社:朝日新聞出版 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 非常に面白い対談集で、学識豊かなお二人が「ズロース」や「パンティ」の語感などについて語り合ったかと思うと、その中でフランス文学者鹿島茂が「フランスの歴史の中で女性がパンツをはいたのは過去に2回」と指摘。カトリーヌ・ド・メディチの時代とそれからナポレオン3世が第2帝政をはじめた時期だという。カトリーヌ・ド・メディチといえばフランスの近代料理の始祖として有名だが「パンツ」ででも歴史に名前を残していたのか…。さらに廃物となった「パンツ」を回収して素材のリンネルから高級な紙質の本を作るなどのエピソードに話は拡大していく。
 この対談さらには宗教問題にもおよび、フランスのカソリックは森の宗教であるドルイド教の上にかぶさった形になっているので、人物崇拝や生殖器崇拝なども残存しているのだという。
 それにしても井上章一の「青年の考えるユートピアって厳しいね。性欲から出発しているから」というコメントには笑ってしまった。確かに青年の政治闘争の根底には「性的欲求不満」というかそうした側面が少なからずあり、それが革命的精神の支えというか原動力になっている部分がある。
 「書籍」は文化のスノッブ需要といった経済学的な指摘もあり、読んでいて飽きるところがない。解説は室井佑月。

2009年1月29日木曜日

情報のさばき方(朝日新聞社)

著者:外岡秀俊 出版社:朝日新聞社 発行年:2006年
 「物の形で情報を管理しようとしない」というアドバイスが個人的には有用だった。どうしても書籍なりメモなりといった目に見える形で保存しようとするが、学者とか大富豪でもないかぎりそうした情報管理ではいずれ物理的に限界がくる。インデックス情報、つまりどこにどんな情報があるのか、だけを抑えておいて、それをリストアップさえしておけば、書籍などがとる面積は減少する。一度読んだ本でもまた図書館に行けば再読できるというケースでは、逆に言うとわざわざ自宅で保管しておく必要性はないわけだ。
 またいったんメモをとったあと、赤ペンや青ペンでメモそのものを加工していくという方法も気に入った。メモのとりっぱなしではまったく役に立たないがICレコーダーなどを活用してまた同じことを聞きなおす場合、一度目とは違った視点で理解できることもある。それを色違いのペンで記入して再整理していくのはばらばらの事象をつなげていく効果があるに違いない。
 さらにピラミッドのような文章設計図や断片情報を積み重ねて中枢部にいたるというアプローチは独学で特定の分野の理論を理解していこうという立場の人間にとっても有用なスキルだと思った。どうしても新聞記者などジャーナリスティクな方面のマニュアルのように思えてしまうタイトルだが、実際には学生にも一般の社会人にとっても仕えるスキルが多数紹介されている。特に営業関係の方々が業界ニュースなどをまとめていくのにはけっこう役に立つ部分が多いに違いない。

2009年1月28日水曜日

「信用偏差値」~あなたを格付けする~(文藝春秋)

著者:磐田昭男 出版社:文藝春秋社 発行年:2008年
 電子マネーやクレジットカードなどが普及している現在、その「履歴」から消費者の信用度が計測される時代が到来しつつある。
 この本を読むまでは「要はクレジットカードのリボルビング払いなんてやっぱり利用しちゃだめだ」程度の認識だったのだが、クレジット・ヒストリーの信頼度を上げるのは「借りてからしっかり返す」履歴を積み上げていくこと。つまりいったんは何らかの借り入れをしてしっかり返済していること自体が信用度となる。最初からまったく借り入れを利用しない場合にはあまりクレジット・ヒストリーの信頼度が上がらないというのだ。
 返済履歴のほかにも、与信総額に対する利用総額の比率、クレジット履歴の長さ、ローン利用の実態、新しいカードを作ったかなどが信用偏差値の考慮用件となる。あまりカードを使わず、与信総額のうち最低限度の借り入れでしかもしっかり返済していることが大事…ということになりそうだが、こうした電子マネーやクレジットカードの履歴情報は「信用度」以外にも、マーケティングツールのデータとしても使用することが可能となる。このデータ、金融機関のみならず一般事業会社にも利用可能なデータベースになるほか、いったん大きな借金返済での失敗をすると後々、思わぬところで借り入れなどに支障をきたすことにもなりそうだ。これまでも「なるべく借金はしない」というのが日本人の美学だったが、これからは「きちんと返済してしかもクレジット・ヒストリーの信用度が高い」というちょっと進んだ金銭管理が必要になりそうだ。もちろん無理に借金する必要性などぜんぜん必要ないと思うけれども…。

2009年1月27日火曜日

営業と詐欺のあいだ(幻冬舎)

著者:坂口孝則 出版社:幻冬舎 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 「営業」と「詐欺」は紙一重という煽り文句が書かれており、まじめに販売促進活動にいそしんでいる方々にはちょっと刺激的なタイトルかもしれない。ただし中身は販売についてのかなり実践的なテクが満載された一種のマニュアルであり、特に第6章の「撃退法」になると消費者ハンドブックとしても使える。商品の「メリット」「信頼性」「価格」について伝達したあとは、もう販売契約あるのみ…となれば、購入することを正当化する理由だけを消費者に与えればよい。商品それぞれによって特性は異なるかもしれないが、特にハイテク製品の場合には、「メリット」を訴える販売方法はかなり効果があることだろう。メリットの呈示についても特に「希少性」について語るというのはかなり効果的な方法で、目の前の商品の在庫が少ない…というのは一つのメリットになりうる。これは不動産商品などが一番該当するだろう。価格の話になればすでに商談は成功というのも(49ページ)かなり現実的なテーゼである。この「販売」というビジネス行為、実は経験則はかなり語られているが社会科学的にはまだ厳密な理論というものが確立していない分野でもある。いろいろ営業会議を開いたり、目標をかかげたりと試行錯誤はされているし、営業部の必要性はあちこちで認識されてもいるのだが、かといって「これこれが絶対法則だ」というものがない。新規顧客の獲得よりリピーターを獲得せよ…というのも理屈としてはわかるが、なかなか難しい面もある。リピーターには従前よりも価格面や信頼性の向上について訴得なければならないし、維持コストもそれなりにかかるからだ。「高い商品」を高くない…といいはるのはそれほど難しいことではないのだがそうしたテクについても紹介してくれている。肝心のこの本の売れ行きだがあまり話題にもなっていないようでそれが残念だが、2008年9月30日発売のこの新書。営業関係、広告宣伝関係の人には読んでもけっして損にならない内容だし、新書なので本体価格は740円。編集担当は天下の幻冬舎なのだから安心・安全なのでぜひもっと書店にならべて販売してほしい一冊だ。

公明党VS創価学会(朝日新聞社)

著者:島田裕己 出版社:朝日新聞社 発行年:2007年 評価:☆☆☆
 政教分離のため創価学会と公明党は一定の距離を置き、選挙のたびに支援依頼を公明党が出して創価学会がそれを了承するという手続きをするのだという。体質としては保守主義だが、境遇としては革新という微妙な政党体質を2大政党制の中で自由民主党と連立することでクリア。この本の中での情勢分析と現在とではかなり選挙事情も異なってきているが、少なくとも自由民主党にとっては公明党との連立抜きでの衆議院選挙というのは考えられない状況になっている。そして民主党の基盤が公明党と同じく都市部にあるため、選挙協力がしにくいという事情もこの本では紹介されている。
 こうした中、宗教団体としての創価学会と政党としての公明党が必ずしも「一致団結」というわけにはいかなくなってきている世界情勢がある。自衛隊の海外派遣問題についてもそうだが、創価学会の会員には平和憲法の維持と海外への自衛隊派遣には慎重な人が多い。だが政権与党の公明党は、現実的な国際的協調路線が必要なのでソマリアであろうとそれ以外の地域であろうと、外交上の必要性がでてくれば国際貢献の名のもとに自衛隊を派遣せざるをえないという状態がでてくる。時に対立するダイナミズムもこの2つの組織内には出てくる…といった側面は、外部からみて「一つの組織」と見るよりも、ずっとわかりやすいモデルを呈示してくれることになる。今後自由民主党とともに野党として活動することになるのか、あるいは選挙後連立政権の一翼を担うことになるのかは不明だが、創価学会の票については公明党以外に自由民主党も頼りにしている部分があることと、政策面においても無視できない側面があること(たとえば助成金など)をこの新書は明らかにしてくれている。内容は濃く、歴史的な経緯も著述されているので「今」を知るためには「過去」をさかのぼってみるというこの内容構成は特にお勧めだ。

勝間和代のインディペンデントな生き方 実践ガイド(ディスカヴァー携書)

著者:勝間和代 出版社:ディスカヴァートゥエンティワン 発行年:2008年
 御茶ノ水駅前にあるM書店に行くと、著者直筆のポップが置いてあった。マーケティング活動、販売促進活動を実践しているこの著者は、最近では自己啓発や「市場の失敗」などにも発言をするようになってきている。一種の社会的実験を自らの著書で行い、仮説の立案と修正を繰り返しているようにも見える。もしかするとインディペンデントな生き方についても、将来的には改訂バージョンが出来上がるのかもしれない。外部環境はめまぐるしく変化しているし、コアになる部分以外で修正すべき部分がでてくれば当然第2版、第3版といった改訂バージョンも必要な場合がでてくるだろうから。
 さて主に女性をターゲットとして書かれたこの本は、実は男性にとってもエッセンスは活用できる構図になっている。個人的には「仕事の場の外で学び続ける」というチャプターが非常に面白かった。「資本主義では情報はお金そのもの」というばっさりした要約から、毎日新聞を読むことや、専門分野の雑誌を1ヶ月に1冊といった具体的な目標までブレイクダウンされているので、何をすればいいのかわからない場合にはとりあえずこの本の「目標」を自分に設定して、それから自分なりにカスタマイズすることもできる。隙間時間の勉強についても「1・5倍の効果」とコンサルタント出身らしい大まかな数値を計算してくれているので、目標と実行の両方に有用。新書サイズの本ではあるが中身は相当に詰まっている本だ。

民主党~野望と野合のメカニズム~(新潮社)

著者:伊藤惇夫 出版社:新潮社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 先日の日本経済新聞の報道では政党支持率でついに自由民主党を抜き、第一位へ。麻生内閣の支持率低下とあわせて考えると政権交代が次の衆議院選挙で実現する可能性はかなり高くなってきた。日本共産党が小選挙区で立候補者を絞り込む作戦にでてきているのも自由民主党には不利な条件となっている。ただ意外にわからないのは民主党内部のグループや個々の政治家の過去の履歴だ。マスコミ媒体ではどうしても政権与党の動向が中心となって報道されるので、民主党の政治家がこれまでどういう出自でどのような政策目標をもっているのかがよくわからない。それを一気に解消してくれるのが自由民主党、新進党、太陽党、民政党、民主党事務局長を務めた著者のこの新書である。
 民主党内部の事情に精通しているのに加えて、もともと自由民主党にも在籍していたわけだから自由民主党と民主党の党内力学の「違い」も明らかにしてくれる新書。国会対策委員長の山岡賢次氏にしても、この新書を読めば小沢一郎氏と極めて近い元自由民主党員であることがわかるし、管直人グループに名を連ねるツルネン・マルテイや筒井信隆氏など市民運動を重視するメンバー、鳩山グループの左から右へ大きくひろがる人脈といった構成をみていると、現在の民主党執行部はそれなりの内部力学でトロイカ体制となっているのも理解できる。前原グループ、野田グループという次世代の若手政治家の集結する場所もあり、こうした次世代層の厚みはもしかすると自由民主党よりもバラエティに富むと同時に、「用意周到」な政治家構成ともいえるかもしれない。統一性にかける印象はあるが、自由民主党とはまた違う保守政党であることには変わりがなく、こうした政党が政権を握った場合、連立の枠組みにもよるが、同じ保守主義にたっても相当自由民主党とは異なる政策が実行されそうな予感はする。一方、野党としての経験値がきわめて少ない自由民主党はいったん政権を今回渡した場合、これまでの細川内閣などとは異なり、参議院の状況も含めると3~4年は政権から離れるリスクもある。野党としての存在意義をどこまで示せるかがポイントだろうか。一読しても面白い新書だが、民主党がらみのニュースが報道されたときに「レファランス・ブック」としても利用可能な書籍。著者は必ずしも民主党支持とか民主党寄りというわけでもなく、けっこう辛口の文章も散見されるのが興味深い。

あなたもいままでの10倍速く本が読める(フォレスト出版)

著者:ポール・R・シーリィ 翻訳:神田昌典 出版社:フォレスト出版 発行年:2001年 評価:☆☆
 2001年発行の本で私が購入したのが2008年6月4日47刷。ロング・ベスト・セラーの一つといってよいだろう。これまで書店そのほかで見ることも多い書籍だったが、フォトリーディング自体が講習会などに参加してもなかなか習得するのが難しいという先入観があったため購入をためらっていた。これまで自分が会得してきたスキャニングやスキミングなどで別に日常生活に不自由はなかったということもある。ただ一定の目標を設定して本の全体の著述から「必要な部分」だけを抜き出してマインドマップ化してしまうというエッセンスだけの作業であれば、必ずしもフォトリーディングの正統的な読み方でなくとも会得はできる。マインドマップ自体も色鉛筆さえあれば、ばらばらの知識を体系化するのには有用なスキルだし、そうした知識の「見える化」は日本が発明したKJ法とさして大きな変化はない。全体像や目標設定から必要な部分を文章を「絵画」のようにしてみて抜き出していくという読み方はそれほど非合理的なものでもなく不可能なことでもないことはこの本を読んで納得した。おそらく情報源としてインターネットを利用するのと書籍を利用するのとでそれほど大きな差が出てこない手法ではないかと思う。googleでヒットした項目の中で自分にとって本当に必要なページを見つけ、その中からさらに必要な知識を習得するというのも一種のフォトリーディングといえなくもなく、そしてそれは無意識のうちにだれしもが行っている知的作業でもある。定価1,300円で、いろいろな形でカスタマイズすることができる手法がオーソドックスに紹介されている本。

起業家の銭地獄(大和書房)

著者:有森隆+グループK 出版社:大和書房 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 全3巻のうち第2巻に相当する文庫本。経済犯罪の裏表に精通しているジャーナリスト有森隆の書き下ろしの力作だ。これまでの仕事の「まとめ」に相当する三部作だが、特にこの第2巻では、イ・アイ・イグループと旧日本長期信用銀行との関係、誠備グループ、旧アスキー、光通信、リキッド・オーディオ・ジャパン、クレイフィッシュといった企業を実例として、過去の実業家の縦と横の人間関係、さらに新聞や雑誌で報道された断片的な事件をつなく情報と分析が開示されている。おそらく執筆、出版にあたっては弁護士などと相談して相当慎重に文章を選んで「事実」を著述していったものと考えられる。一部、「ここにはもう少し何かあるのではないか」と思う部分もあるが、法廷闘争に持ち込まれて「勝ち目」が薄いと予想される部分についてはあえて、無難な表現に抑制するということも編集段階では当然なされただろう。ITバブルの始まりと終わり、営業部隊の販売優先、技術後回しの熱狂など、過去の事例は経済犯罪では将来にわたってまた「繰り返す」ことが往々にしてよくある。「地上げ」についてもつい最近、老舗の大手都市銀行と裏世界が組んでの「地上げ」が新聞で報道されていた。「ヒットメール」というホスティングサービスの事例など、これからさらによく似た「商売」がネット上でも展開されていくことだろう。報酬制度のあり方から金融行政までミクロからマクロまで教訓に満ちた生きた事例の総まとめ的単行本。

2009年1月26日月曜日

男はなぜ悪女にひかれるのか(平凡社)

著者:堀江珠喜 出版社:平凡社 発行年:2003年
 非常に興味がそそられるタイトルに惹かれて衝動買い。しかし老舗出版社の平凡社だけあって、中身は非常に真面目で学術的な内容。「悪女」の定義として副次的に「顔かたちの醜い女」(角川古語辞典)という意味があるとのこと。なんとなく黒いカクテルドレスに違法すれすれの「ワルイコト」をする往年のキャサリン・ターナーみたいなイメージで「悪女」をとらえるのはかなり「一方的な定義」だったことがのっけから明かされる。イメージとしての「悪女」なので当然時代によってイメージの内容は変化するが、そのイメージの変化を「試し」に追ってみるとどうなるか…という内容の新書である。最終的にはレディース・コミックの世界の分析にまで著者は立ち入るのだが、立身出世タイプの悪女で、でも弱さもあわせもつというある漫画のキャラクターに同時代の「悪女」をかぶらせ、「立身出世」が無理ならば裏技として「しかるべき男性」をつかまえて結婚すること…というテクも伝授してくれる。
「しかしこのような男の数には限界がある。やはり頼れるのは自分自身か」という文章がその後に続くのだけれど。特定の言葉に特定のイメージを曖昧なうちに「一色」で塗り固めてしまうのは危険な兆候で、「悪女」という言葉そのものもかなり多元的で豊饒なイメージを含む。言葉の一つ一つに多義的な世界がある以上、「この言葉はだめ」「あの言葉もだめ」という言葉狩りの不毛さを逆に感じてしまう一冊。差別的言語の問題にも活用できる内容ではないかと思う。

ビジネスマンのための「解決力」養成講座(ディスカバー携書)

著者:小宮一慶 出版社:株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 発行年:2008年 評価:☆☆☆
 定価の1,000円という高さは相変わらずだが、「発見力」「数字力」ときてこの「解決力」で3部作完結ということになりそうだ。知識はツールという立場で問題解決能力の向上のためのスキルを紹介。また「時間」の経過にともなって解決案をとりまく状況も刻々と変化するという「時間」という条件を指摘しているのが面白い。確かに同じ問題が発生しても1990年と2009年とでは問題解決のベストは異なってくるだろう。情報技術の発達でたとえばバックアップをとるにしても、1998年の時代のバックアップと現在のバックアップとではベスト・プラティクスは異なってくる。最新の知識がどれも素晴らしいというわけではないが。少なくともある程度は考慮しておかないと、大事な問題解決のために無駄なことをする可能性も指摘されているように思う。マーケティングの専門家らしく、実践的かつ一般的にも使えるような知識が満載。あとは定価がもう2割ほど安くなることを切に望む…。

READING HACKS!(東洋経済新報社)

著者:原尻淳一 出版社:東洋経済新報社 発行年:2008年
 このハックシリーズはおそらく先駆けとしては東洋経済新報社ではないかと思うが、21世紀に相応しいスキルの集大成。メモやいろいろなアイテムを使って生活のちょっとした改善をしよう…という趣旨の本で本を読むにしても「こういうことやってみようじゃないか」という生活をbettetにするアイデアが詰め込んである。情報技術が進化すればまた陳腐化する可能性のあるハックもあるが、「一人の著者にこだわって読書する」といったようなことは、あらためて「確かに有効だ」と感じた。アウトプットのための「ハニカム・データベース」というアイデアにも感服。真似をしようとは思わないが、もっとシンプルな形で自分なりのこうしたデータベースが構築できればそれは多分アウトプットがもっと効率的にできることになるだろう。垂直型読書というスタイルがここのところ自分自身でも弱くなってきたのを自覚しており、もう少し読書の「方法」についても考え直す時期なのかな…と反省もさせてくれる「ハック書籍」。

竹中式マトリクス勉強法(幻冬舎)

著者:竹中平蔵 出版社:幻冬舎 発行年:2008年 評価:☆☆
 ちょっとしたベストセラーになった勉強本。「飽きるほど暗記を繰り返せ」というテーゼが個人的には印象的。理解をするにしてもまずはキーワードそのものが頭に入っていないとどんなに優れた書籍を読むにしても無意味な結果になることが多いという過去の経験則による。行政書士の試験にしても、やはり憲法の判例やキーワードは重要だし、ITパスポートにしてもサブネットマスクやITILといった用語そのものが頭に入っていないと解説はただ頭の中を左から右へ流れていくだけ。結局最初は「暗記」そして「暗記」から「理解」へと移行していくのが一番効率的な方法ではないかと思う。もちろん学者になるとかこれまで他の人が発見したことがない法則をみつけるとかオリジナリティが必要な分野ではもっと違う学習方法が必要になるのだろう。ただ一般人にとっては、この本に書かれてある勉強法で必要十分だと思う。学者になろうとか政治家になろうと志す人間であっても基礎や基本はやはり一般知識の習得になるだろうから、最低限のスキルを身につけるのに本書はけっして特別なことをやろうとしているわけではない。勉強法の入門書としてはお勧めか。

勝者の条件(ダイヤモンド社)

著者:デニス・コナー 出版社:ダイヤモンド社 発行年:1991年 評価:☆
 古本屋でタイトルをみれ「これだ…」と思って購入したのがこの本だったのだが、実際には私が探していたのは「勝者の法則」という本でこの本ではなくタイトルを勘違いして購入してしまった…。ヨットレースの指導者がアメリカン・カップの準備や勝負にあたっての心構えを解いたものだが、準備・実行・統制の三段階を重視しているのはよくわかる本。戦術の転換など今ではわりと一般的な知識に近いことが網羅されているが、1991年にはまだこうした本は目新しい内容だったのかもしれない。2009年の現在ではむしろ準備・実行・統制の方法のうち具体的なスキルにまで踏み込んだ内容の書籍が主流になってきているほか、手帳にもto doメモが標準装備されるようになってきたので、この本の役割も途中で終了したということかもしれない。ビジネス書籍の歴史をかいまみるような思いがして、間違って購入してしまったものの、つい最後まで読んでしまう面白さがある。

ITパスポート試験標準教科書2009年版(オーム社)

著者:早川芳彦 出版社:オーム社 発行年:2008年
 残念ながらversion1.1のシラバスには対応していない模様。また練習問題はついているが模擬問題はついておらず、しかも解答のみの掲載で解説がない。練習問題の一部は本文にも掲載されていない内容の問題なので、結局、自分自身で解説を作って理解するという作業が必要になる。
 とはいえ、文章中心の著述の中でサブネットマスクの理解などが促進される部分もあり、やはり読まないよりは読んだほうがいいテキストではないかと思う。260ページを超える本だが、持ち歩きやすく、見た目もそれほどぶあつくないのがよい。実務からみた知識の解説もまた貴重といえるかもしれない。新情報処理試験だけあってまだそれほどいい問題集がないのが残念だが、標準教科書があるならば標準問題集も作成してこのテキストの予習・復習ができるようになればありがたいのだが。

2009年1月24日土曜日

残業をゼロにする「ビジネス時間簿」(祥伝社)

著者:あらかわ菜美 出版社:祥伝社 発行年:2008年 評価:☆☆
 時間軸を4つの軸に分けて、並行して「時間簿」を作成することをすすめる新書。確かに同じ1時間であっても移動時間や休憩などの間に進められることはけっこう多い。それで残業時間がゼロになるかどうかはまた別の問題だが、同時並列で複数のプロジェクト、そして家事や育児にあてる時間が必要な人にとっては現在のメモや手帳では物足りない部分もでてくるだろう。この本の内容にしたがえば、「この時間にこれができる」「あれもできる」ということになるのかと…。
 お金のコントロールにも使える手法とのことだが、支出やダイエットなどにはこの時間軸を分析する手法よりもむしろ「大まかな数値データ」を頭に常に入れておくことが大事なのではないかと思う。メモをあまり詳細につけているとそれが目的化してしまうので、「今月の支出目標はこれぐらいであとこれだけ余裕がある」という考え方だが、目標設定は大事だけれど偶然の事象は現実には頻繁に発生する。そうしたときには「記録」よりも瞬時の判断のほうが大事。読者はこの本の中で「使える部分」だけ使って、取り込んでいけばいいのだと思う。「超整理法」にかなり入れ込んでいる自分だが、それでもやはり自分独自のスケジュール立案をしているので、モデルが示されてそれを本で読んで後は自分の使いやすいように加工していくのが本来のあるべき姿だろう。自分なりのカスタマイズがいろいろできるという意味ではこの新書、なかなか面白い。

第1感(光文社)

著者:マルコム・グラッドウェル 翻訳:沢田博・阿部尚美 出版社:光文社 発行年:2006年 評価:☆☆
 「最初の2秒」の判断力の凄さを実証する本。もちろん「最初の2秒」が間違うこともあるわけだが、そうした大事なインパクトについての解説書。「状況」を輪切りにしてこれまでの類型パターンにあてはめて「おかしい」「正しい」と判断する能力は、たとえば多数の人間と会話をしているうちに人間の性格をいくつかの類型に分類し、まだ会ったこともない人間であってもその「輪切り」のどこかに区分してある程度「真実」を類推できる…といった経験則に近いものかもしれない。先入観にひきずられてしまう怖さもあわせもつ「最初の2秒」だが、時間がないがゆえに、先入観によって誤った判断を下してしまうこともある。しかし時間的制約はいつでもどこでもありうることなので、blinkをいかに適正な判断能力としていくのか、といった観点が興味深い。結論は実は曖昧だし、しかも最初の部分がかなりインパクトのある事例が紹介されてはいるが、かといってそれが「絶対」だと著者は主張しているわけではない。「最初の2秒」は大事だが、大事であるがゆえにそれにひきずられて大きな過ちをおかしてしまうリスクについても言及している。とどのつまりは日常生活を送る上で、「最初の2秒」の中には想像以上に凝縮された「判断」「慣習」「先入観」などがこめられており、だからこそその「2秒」を大事にするべきだ…ということになろうか。面白い本だが、濃密な時間を過ごしたい人にはお勧めだが、長い時間をゆっくり過ごす人にはあまり関係ない本かもしれない。だが2秒の積み重ねが人生の蓄積になるのだとしたら、やはりだれしも内容に興味がわく本だといえるだろう。定価は1,500円、四六版264ページ。

2009年1月22日木曜日

会社の品格(幻冬舎)

著者:小笹芳央 出版社:幻冬舎 発行年:2007年 評価:☆☆
 会社の品格を中傷的に議論するのではなく、どちらかといえばかなり個別具体的に議論した新書。個人の集合体とは別個に組織独特の「品格」がうまれ、さらにその「品格」に過剰適応することによって、次第に個人の倫理感が失われ、組織の倫理感が優先されることになる。その結果、組織自体がゆがんだ「ルール」で統制されて、そうした独自ルールの中で内部競争には勝ちあがるものの、「外部」の競争にはとても耐えられない「人間」が誕生していく。
 金銭報酬以外に「意味報酬」を与えられない会社は社員から選別されない存在になる…とややサブプライム不況前の経済実態でのコメントもあるが、基本路線はまったくそのとおり。共同幻想を社員と経営者が作り出せる状況というのが意味ある会社、品格ある会社にとっては大事。最終的に「意味」や「意義」をうちだせず、高い報酬もしくは会社内部だけでしか通用しないポジションでしか「モチベーション」を刺激できないのであれば、「品格のない会社」ということで長期的な市場競争には負けてしまうだろう。
 やや「テーマ」が壮大すぎるのと、経済状況が変化してしまったことで、全体的なテーマが「ぼんやり」してしまったのが残念だが、「過剰適応」など個別具体的なテーマは、やはり会社員出身の著者だけあって鋭い。会計上の利益目標のみならず、社会的な意義など「意味づけ」ができない企業の「品格のなさ」を鋭く指摘しているのが好ましい。

2009年1月18日日曜日

失敗に学ぶ不動産の鉄則(日本経済新聞出版社)

著者:幸田昌則 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2008年 評価:☆☆☆
 中堅のデベロッパーが昨年続けて経営破たんした。その後2009年を迎えたが、株価の動向ばかりがクローズアップされて不動産市況のほうはあまりマスコミでも伝えられない。一部の都市銀行が資産について2800億円の減損処理を行うと発表。これも主な理由が保有している株価の下落だが副次的に融資先の企業の業績悪化があげられている。実際に担保にとった資産が目減りしていって将来キャシュ・フローが帳簿価額を下回れば有価証券と同様に収益性の低下ということで減損処理を行うことになる。おそらく2007年の不動産バブルは完全にはじけたという著者の見方はほぼ正しく、今後も不動産市況の大幅な上昇というのは考えにくい(材料に乏しい。低金利ぐらいは好材料だが…)。
 公的価格を判断材料にせず、実勢価格を重視するとともに利便性を現場をふまえて考慮してから不動産を購入するべきという著者の主張にはまったく同感。すでに人口減少が明らかになっているうえ、農地から宅地への転用や工場売却など土地の供給は拡大するのだから、需要が減少して供給が増加すれば、当然価格は下がる。耐震偽装の問題と建築基準法の改正などで不動産・建設業界への打撃は確かにあったが、長期トレンドはやはり土地価格の下落、建物価格の下落だろう。その中で価格が「高止まり」するのは利便性と安全性などに優れた物件のみという事実は認識したくはないが、認識しておかないと多額のローンの返済に人生を費やすことになる。高齢になってからの住宅の維持・管理の手間なども考慮してから、自分自身の「お買い物」をしないと投資物件としての不動産というのは有価証券以上に危険な代物かもしれない。わかっているようで分かっていないし、奥の深い「不動産」の世界。公示価格や土地ブームなどにまどわされない消費者の知恵をわかりやすく伝授してくれる。

情報処理教科書 ITパスポート2009年度版(翔泳社)

著者:芦屋広太 出版社:翔泳社 発行年:2008年
 新制度のエントリ試験に相当するITパスポートのテキスト。まだ情報がそれほどあるわけではないが、ただ2008年10月にシラバスのversion1.1が公開されている。残念ながらこの本はversion1.0を土台にしているみたいだが、それでも問題集そのものが少ないなかでは貴重な出版物といえるだろうか。誤植は多いが解答のミスはない。10の6乗と表記すべきところが「106」となっている部分があり(370ページなど)、いずれこうした誤字・誤植もある程度まとまれば正誤表としてホームページに記載される予定のようだ。すでに前のほうには正誤表はウェブの所定のページに公表されるとあるのでかなり急いで作成したのがうかがわれる。年度版ということだから、いずれ増刷されていくにつれて間違いも減少するとともに次年度はもう少し問題のバラエティや解説も充実してくるのではないかと期待。かなりあっさりした解説なのと、ページ途中の練習問題のすぐ下に正解が赤字で印刷されているので、何かであらかじめ隠しておかないと正解がすぐわかってしまう。模擬問題は逆に小さく解答がページの下に印刷されていてこれは便利だと思ったが、テキスト途中の練習問題はやはりちゃんと解けるように配慮がほしい。「試験直前シート」付ということで、テキスト途中にでてくる「ポイント」をまとめてくれているシートがある。索引もちゃんと作成してあってこれは便利だが、説明本文の図と文章のバランスがまだまだこなれていないのが残念。「これ一冊」で終了というわけにはいかないのが、さらなる改訂バージョンで改良されればいいなあと思う。「超定番」とか「合格をつかむ」という「煽り文句」がカバーに印刷されており、しかも出して間もない第1刷を入手したのに「大ヒット」と表示されているが、これはちょっと…「?」だがあまり深くは問うまい…

 ただエコ・プロジェクトなどに取り組む姿勢がこの本の冒頭に示されており、書籍の出版社がそうした環境問題に意識を向けるのに対してはプラスの評価だ。

2009年1月14日水曜日

ユダヤ人大富豪の教え(大和書房)

著者:本田健 出版社:大和書房 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 ゲラーというユダヤ人の大富豪に日本の青年がコーチングを受ける…という実際にあった話を小説風に加工した物語。「メンター」という一種の指導者がいかに大事かということが小説仕立てなのでよくわかる。日本のクラブ活動などにみられる先輩・後輩といった上下関係ではなかなかつかめない存在だし、日本企業でもこうしたメンターといった存在は一部のコンサルタント系の会社以外はなかなかみつからないのではないか。提供したサービスの質と量で対価としての報酬額が決まるという基本原則から「好きなことをしていないとなかなか成功できない」というあたりまえのことを認識させてくれる。「いやいや」仕事をしているパン屋さんと「好きでたまらない」とがんばるパン屋さんとでは当然顧客層もパンが好きな職人さんのいるほうへ足を運ぶだろう。利益ばっかり考えている花屋さんが花が好きな花屋さんほど成功しない理由もこの本を読むとわかる。利益市場主義が必ずしも成立しないのが、この「商売」というものなのだ。
「自分の内面とおりあいをつけること」という流れは一種オカルトぽい著述ではあるが、しかしまったく正しい。自分の中にも批判の声はあるわけで相反する主張を自分なりに「折り合い」がついていなければ、行動しようとしても行動できないだろう。「タイトル」はやや「なんだかなあ」というタイトルだが、内容としては適切なメンターが近くにいない人に最適な内容だ。

いつまでもデブと思うなよ(新潮社)

著者:岡田斗司夫 出版社:新潮社 発行年:2007年 評価:☆☆☆☆☆
 ベストセラーになった新書だが、単なるダイエット本でないことは読んですぐわかるような構成になっている。いやもちろんダイエットにとっても非常に有用なのだが気軽にメモ用紙にデータを簡略につけていって、まず客観的状況を数値で把握する…それだけで目標にある程度まで近づくことができるという考え方。「生き方や人生そのもの」も劇的に変える効果があるとは筆者の言葉だが、確かにシンプルかつ奥が深い手法である。
 「問題を明確にして、正確に記録して認識すること。問題が発生してからあたふたするのではなくて、あらかじめ問題を想定して答を用意しておくこと」(23ページ)はダイエットだけの解決手法ではない。我慢しない、無理をしないで継続できることを続けるという考え方は画期的で、これまでの「辛いダイエット」や「食事制限のダイエット」というイメージを覆す画期的な本である。これは一時的なベストセラーにとどまらず、ひょっとするとあと10年ぐらいはロングセラーにもなりうる内容の新書ではなかろうか…。

グラミン銀行を知っていますか?(東洋経済新報社)

著者:坪井ひろみ 出版社:東洋経済新報社 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 融資先を小額でしかも貧しい人に限定するマイクロファイナンス専門の金融機関がバングラデシュにある。貧困を「緩和」し、特に貧困女性の自立支援を図ろうとするこのグラミン銀行は無担保融資である。「銀行」ではあるものの「社会組織」でもあるというややわかりにくいグラミン銀行の実態を著者が現地に尋ねていって取材、さらに解説を加えている。もともとは山口大学博士課程の博士論文として執筆されたものがこうして単行本として出版されたという経緯をたどるが、無担保融資で零細でしかも小口の「銀行」がどうしてビジネスとして、あるいは社会組織として成立できるのかを明らかにしてくれている。推薦の言葉もムハマド・ユヌスグラミン銀行総裁がよせている。
 人間開発指標が177国中138位ともともとかなり低所得者が多い国の上、イスラム教の教義が女性の自立を阻む要素がある。また貯蓄そのものを女性が行うことが難しい状況にあったが、グラミン銀行のマイクロファイナンスで、小規模ビジネスをはじめて利益をあげ、一定の貯蓄をたくわえる女性や屋根のついた家を建てる女性、また「夫」が逃げた女性が独立していく一つの「きっかけ」にもなるなど具体的な事例が多数収録されている。だれだって「明日を考える」。だれだって貯蓄もしたければお金を借りて収益活動をしたくなることがある、だれだって住宅ローンを組みたくなることがある…そうしたニーズに応えつつ、さらに社会組織としてグループ活動の活性化も図る様子も著述されている。おそらくすべてがすべてうまくいっているということではなく、まだまだ試行錯誤の状況もあるのだと思うが、少なくともこれまでの実績と課題を浮き彫りにした実践経済学の書籍。読んでいるうちに経済活動以外のイスラム教のしばりや、バングラデシュという国の社会制度の問題なども考慮しなければならないことに気づく。176ページで1890円。

2009年1月13日火曜日

新ナニワ金融道第3巻(グリーンアロー出版社)

著者:青木雄二プロダクション 出版社:グリーンアロー出版社 発行年:2009年
 かつてはコミックの「続編もの」は失敗するとされていたが、この「ナニワ金融道」の続編は、青木雄二氏がお亡くなりになられて後、プロダクション単位で続編を作成。多少、絵の粗さやキャラクターの「微妙な変化」は感じるが、第1巻から第3巻まで読み通して一つのエピソードが完了。なかなか面白い続編で、表紙の色も2色になった分、前シリーズとの差別化が非常にうまくいっていると思う。まだ債権回収業の本番のエピソードにまではたどりついていないが、「ケータイまんが王国」で連載されていたものがこうして単行本化され、しかもコンビニエンスストアなどにもならべられるようになり、さらに2009年2月からは連載の場所を「週刊SPA!」に移すという(2009年2月24日号予定)。時代は変わったが、「お金」に関するトラブルや哲学のあり方は変化しない。人間の醜い部分も美しい部分も「お金」に関する対処方法と考えると、あちこちにある「落とし穴」を漫画がみせてくれるというのと、「金儲け」の難しさをリアルに描写してくれる点で、21世紀にふさわしい新シリーズ誕生といえそうだ。次の第4巻は2009年5月ごろに発売予定で、新しいエピソードが始まる予定という。これからの展開が楽しみだし、新しいキャラクターの登場もなかなか「香ばしいキャラクター」で楽しみだ。

2009年1月12日月曜日

川本裕子の時間管理革命(東洋経済新報社)

著者:川本裕子 出版社:東洋経済新報社 発行年:2005年
 東京大学文学部を卒業されてからオックスフォードへ。そしてマッキンゼーでコンサルタントとして活躍されてから道路公団民営化に関する委員会の委員などもつとめ、現在早稲田大学教授。そして主婦としての活動もしっかりこなしつつ、仕事もというスーパーウーマンだ。問題点は比較分析から明らかにする、時間管理は総量規制が一番、ウィルスキルマップで業務のランキングをするなどどちらかといえば、ゆったり系統の時間管理で、個人的には共感できる手法。自分のスキル(熟練度)と「やりたいこと」を4分割の表にして得意分野と新たな可能性が開ける分野を「見える化」して時間管理する。時間の総量管理とはいわば時間の「予算管理」。一定の時間数を予算として確定させてその中で資源配分していく手法だが、無限に時間があると考えるからダラダラ仕事も許されるが有限の時間内では手順も効率も合理的にしていかなければならない。
 数式の類はあまりでてこず、グラフもほんの少しで英語もほとんど出てこないというあたりがなんとなく文学部卒業の著者のエッセイ的なビジネス書籍。グラフやパソコンで息が詰まるようなタイム・マネジメントよりもっと大雑把に管理をしたい人に向いている書籍だと思う。なんとなく文庫本として新たに市場に投入されたら、再びベストセラーになりそうなそんな内容。単行本で読むよりも文庫本向けの内容だと感じる。

幸せな経済的自由人の金銭哲学~マネー編(ゴマブックス株式会社)

著者:本田健 出版社:ゴマブックス 発行年:2008年
 ライフスタイル編とは異なり、若干「投資のすすめ」的な色彩が強まった続編。個人的には「すべての経済活動は交換ゲームと知る」というコラムが有用だった。商品には交換価値と使用価値とがある…というのが既存の学問だが、著者はそれをさらに発展させて、給料も労働力と交換したもの、コンビニの買い物も商品とお金を交換したものと列記した上で、「その交換比率を見極められる人」がお金持ちに慣れる人と断定している。同じ商品価値であれば同じ価格で売買されるべきだが、実際にはそうはなっていない。国内でもそうだが海外まで眼を向けると労働力は国内よりも現在は東南アジアのほうが安くなっている。こうした交換比率に眼を向けて、長い年月をかけて交換ゲームをしていく…という発想だ。短い交換ゲームではなく長期的な交換ゲームを続けて生きましょう…というだけでなく、交換で入手した新たな貨幣同等物を、生活費を差し引いた分だけ再投資することも進めている。これって明らかにマルクス経済学の簡略版と通じるものだが、労働力とお金の交換→お金の蓄積(資本蓄積)→投資(さらなるキャッシュ・フローを生み出す資産)といった循環サイクルを進めているのが面白い。マルクス経済学の本よりも「すべての経済活動は交換なんだ」と断定してしまうほうがわかりやすいし、実務的にもいろいろ考え方によってカスタマイズして利用できる考え方となる。この著者の本は、一定のファン層にかなり浸透しているのだが、難しいことをわかりやすく定義して、それをさらに自分自身の体験と重ね合わせてカスタマイズしているのが面白いところだ。メンターが必要という箇所も、自分自身がメンターをみつけたことによって、いかに変化したかが著述されているので、実用性に徹しているのが好感がもてる。本体価格は619円で十分に交換価値あり。

幸せな経済自由人という生き方~ライフスタイル編~(ゴマブックス株式会社)

著者:本田健 出版社:ゴマブックス 発行年:2008年
 「頭の外側より内側の手入れをしなさい」(33ページ)という言葉が印象的な「マネー・ライフスタイル」の指南書。お金儲けをすればいい…という哲学ではなくて、人間関係の中で幸せを感じていこう、お金や仕事より友人を大事にしよう…とどちらかといえば、お金儲けの先にある「幸せとは何か」といったことを論じているビジネス書籍。ボランティア活動で喜びと人脈を入手するなど、非営利や営利に囚われない経済的自由人という生き方を模索。必ずしも個人的にはすべて首肯するわけにはいかない部分もあったのだが、お金に関するストレスをなるべくなくして「幸せな人生」をおくる…という点は同感。お金はあくまで使うものであって、貯めるものではないし、目的ではなくてあくまで手段でしかない。日常生活をほんの少し楽しくするスキルを教えてくれる簡単に入手できる文庫本といった感じだろうか。新幹線などで出張時に読むのがちょうどいい感じのページ数。本体価格も619円と良心的な設定。

2009年1月10日土曜日

オン・セックス(文藝春秋)

著者:鹿島茂 出版社:文藝春秋 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 非常に面白いフランス文学者鹿島茂氏の対談集。世界史の政略結婚、王妃マルゴとナヴァール王アンリの結婚、ヴィクトリア女王の晩節、イタリアとスペインとフランスのカソリックの違い、江戸時代の稚児の文化、アンリ3世のゲイ、文学者ユゴーとモーパッサン、人間のペニスの「ランナウェイ効果」、フーリエの空想的な(?)世界観など多彩なゲストと多彩なテーマが一冊の本の中で縦横無尽に語られる。特に世界史や日本史が好きな読者にとっては意外なエピソードを知ることも出来て読むのがさらに楽しくなるだろう。また解説の部分でも少し触れられているのだが、世の中にはどうしても一面的な世界観ですべてを「切り取ろう」と努力する方もいる。それはそれで大事なことかもしれないのだが、多様な「跳躍」をみせる対談集の中で「不自由なものの考え方」を貫くゲストもいらっしゃって、「性」の文化というものについての取り組み方もまた多様…とうなづくしかない対談もあるのが興味深い。アンリ4世が改宗して王座についたエピソードなど本当に面白く、つまらない対談が多い中では異色の完成度の高さを誇る内容。お勧め。

裏会計学 なぜ社長のベンツは4ドアなのか?(フォレスト出版)

著者:小堺 桂悦郎 出版社:フォレスト出版 発行年:2006年
 2006年のベストセラーだが2年遅れでようやく読み始める。支払利息は損金処理できるとか、経費処理するのと資産処理するのとでは節税効果が異なるといった話のオンパレード。繰越欠損金の節税効果(75ページ)がわかりやすい。これまで税効果会計などで繰越欠損金の税効果については、「丸暗記」に近い状態だったが、要は今年赤字で、次年度以降のある一定年度の範囲内に黒字になった場合、黒字から赤字の分を差し引いて課税所得とすることができる…つまり事実上、将来キャッシュ・イン・フローが発生するので、繰延税金資産になるというわけだが、これまで「文章」としては理解していても、イメージとしては理解していなかった事柄が理解できた。そのことだけでもこの本を読んでよかったと思うべきか。会計学と銘打ってあるが
実際には税務会計に近い内容の本で減価償却をしっかり理解していない読者がはたしてこの本を読んでなるほどと思うかどうかが疑問。粉飾決算のツケはすべて貸借対照表に出てくるというポイントをついた指摘もなるほどと思う。結局架空売上にしても貸借対照表で現金預金または現金同等物がなければフロー面での粉飾はストック面の棚卸しでばれることにはかわりはない。ただ著者が指摘していないことだが、資産の実在性はかなり証明や監査がしやすいが、負債の網羅性(つまり隠れて借金するということ)はかなり見抜くのが難しい。もし架空売上をたてて、隠れて借金をして現金残高のつじつまあわせをすることは可能ではある。ただ入門者向けの「税務会計」の本ということで…加盟金、つまり一種のロイヤルティは投資としてはあまり見合わないという紹介など内容はバラエティに富んでいる。ただし税法もかなり改正され、特に減価償却の計算方法もかなり変化したので2009年に読む場合には、改訂版が出されるのを待つべきか。

2009年1月8日木曜日

殺人症候群(双葉社)

著者:貫井徳郎 出版社:双葉社 発行年:2005年 評価:☆☆☆☆
 「慟哭」がどうしても先にでてくる作家だが、「症候群」シリーズの第3作は「慟哭」に負けない、というよりも「慟哭」以上に完成度の高い小説である。ミステリー小説というよりも、これは明らかに人間群像の「今」と「過去」と「未来」を描写している点で圧巻。文庫本で712ページの分量で、少年犯罪と被害者の「心」と「行動」を描く。この著者には珍しいほどのバイオレンスの描写もすさまじい。これまでバイオレンスや性描写にはややもたつき感を感じたが、この作品でさらっと上品かつ残酷に「事件」を描写してラストにつなげていく。計算も緻密になされ、登場人物が途中から作家の意思よりも小説の世界の中で自由に動き始めていくのを読者は目の当たりにする。
 シリーズ第3作だが第1作と第2作は読まなくても小説の世界は楽しめる。だが第1作と第2作はいずれも時代性を色濃く反映しており、第1作と第2作で「平成のだいたいこのぐらいの年代の話だな…」と読者は理解できる仕組みになっており、やはり「失踪症候群」「誘拐症候群」を読み進めてからこの「殺人症候群」を読むべきだろう。住民基本台帳法や個人情報保護法が施行される前の第1作と第2作、そして少年法改正に揺れた時代の真っ最中にこの「物語」は始まるのだ。
 登場人物のいずれもが「救済」を求めるのは、これまでの作品と同様だが、「神の二つの貌」と同じく「教会」と「キリスト教」が一つのモチーフとなる。そしてラストの解釈は読者の人生観によって異なってくるだろう。

2009年1月7日水曜日

コツコツ勉強するコツ86(幻冬舎)

著者:和田秀樹 出版社:幻冬舎 発行年:2008年
 このところ一般生活の「指南書」的な出版が続いていた著者だがひさかたぶりに社会人もターゲットにした勉強の本を出版。本体価格880円と価格もリーズナブルで読みやすい。「わかる」と「できる」の違いや過去問題3年分の復習を重視する姿勢が昔も今も変わらないが、過去問題を研究といったときに「3年」という数字が明示されたのはこの本が最初ではあるまいか。スランプに入ったら「守りの仕事」というアドバイスは勉強のみならずビジネスでも役に立つアドバイスだろう。また帰宅後は疲れていることを考慮するというアドバイスも非情に有益だ。どうしても気ばかり焦って体力的な疲労を考慮しない傾向が受験生にはでてくるが、やはり疲れているときには疲れているなりの考えしか浮かばないもの。86のアドバイスは過去の著作物とかなり重複する著述があるものの、そのコンパクトバージョンと考えれば購入しておいて損はない書籍。

ITパスポート試験合格教本平成21年度(技術評論社)

著者:岡嶋裕史 出版社:技術評論社 発行年:2009年
 模擬問題を収録したCDと印刷された模擬問題1回分、わりとくだけた説明で分かりやすく説明した本文と3拍子そろっての定価1580円はなかなかお買い得だ。ただ例題の解答が「上下」さかさまに印刷されているのはちょっと読みにくい。電車の中で読んでいてもそのたびごとに本をひっくりかえす必要があり、これがけっこう手間である。イラストもわりと工夫がこらされているだけに例題の扱いをもう少し工夫すればもっと読みやすくなるだろう。ITパスポートは1年に2回の実施だがこのテキストは2009年10月までこのバージョンで出版するようだから、4月の本試験を加味した上で10月の本試験にのぞむべきだろう。シスアドよりも易しいが、かといってあまり楽観しているとレベル2の基本情報技術者で苦労することにもなりかねず、アルゴリズムやネットワークについてはこの段階でさらに理解を深めておくのがいいのかもしれない。

2009年1月5日月曜日

勉強法が変わる本(岩波書店)

著者:市川伸一 出版社:岩波書店 発行年:2000年
 岩波ジュニア新書だが、内容的には社会人が読んでも役に立つ。問題を解いているだけでは学力がつかないなど受験勉強や資格試験などに有用なスキルが紹介されているのだが、やはり認知心理学の先生だけあって非情に用語の使い方が丁寧で言い回しも慎重だ。問題の解説などをよく読んで理解するなど復習のやり方や認知心理学やクリティカル・シンキングの書籍なども紹介されている。また強い信念の前に弱い反論だと免疫効果がついてかえって「信念」が強化されてしまうケースでも強い反論で世界観がひっくりかえることもある…という紹介から論文の書き方まで著述されている。
 スキーマ、処理水準説など難解な用語がまじっているので、ある程度学習方法に興味をもっていた自分にとってはさほどではないが、高校生あたりがいきなりこの本を手にとって読むと仰天するのではないか。
 この新書の中にも名前がでてくるのだが、和田秀樹氏の著作物が高校生や社会人に人気があるのは、復習の効果などをある意味では乱暴なほどわかりやすく書いてしまい、その結果、専門家からは「なんだろう」といわれつつも実務的には役に立つのが和田秀樹氏の著作物だからではないだろうか。厳密性はかけていても「数学は暗記だ」と言い切られると、「暗記してみよう」というモチベーションがでてくるのが初心者だし。物理を学習するのにニュートン力学とは…といった講義よりも、過去問題を丁寧に解いて覚えるといった手法が、とにもかくにも物理を学習してみようという気にはなる。暗記主義という言葉もわりと誤解を招くかもしれないが、初心者が新しいジャンルに挑戦するときにはそれほど悪いことではないと思う。「考える」のはある程度暗記をして自信がついてからでもいいような気がする。とはいえこの新書ももちろん悪くはない。さほど最終的に和田秀樹氏の主張と異ならない結論になっているように思えるし、さらに高度な認知心理への世界に読者をいざなう魅力にもあふれてはいる。

2009年1月4日日曜日

ライフハックのつくりかた(ソフトバンク・クリエイティブ)

著者:小山龍介 出版社:ソフトバンク・クリエイティブ 発行年:2007年 評価:☆☆☆
 最近微妙に増えてきたソフトバンク・クリエイティブの書籍。IT企業グループだけあって、ハックに注目した単行本というのは嬉しい。新書も文庫本もなかなか意欲作品が多く、これからはアナログな印刷にIT企業が独自のドメインから攻め込んでいく印象も受ける。
 そしてこの本は「ハック」というタイトルとは裏腹にきわめて哲学的な内容にまで踏み込んでいる。一種著者の世界観まで披露されているのだが、おそらく最終的には「携帯電話にペンをつける」とかそういうレベルではなく、根幹の世界観が問われる時代になることを語っているのだろう。オートポイエーシスという言葉で拡大していく空間にアウトプットが作り出されていく様子がイメージされているのだが、インプットはハックで行うにしてもアウトプットはどうすればいいのか、といった世界観で想定外のアウトプットを導出する方式を考案している。やや難解でもあるのだが、ただ著者の言わんとしていることはニュアンスから察することができる。「問い」を用意してあとは、空間の変化にあわせて解答も変わってくるだろう…そんな意味合いに解釈した。人間の世界自体が技術進歩も含めて大きく変化する時代に変化を想定していない解答はあまり意味がないと思われる。アウトプットもおそらく一時期には適合していても問いかけに対する解答はきっとまた変化する。そうしたときに自分自身のパターン認識と他人のパターン認識とのシナジーが必要になったりすることもあるだろう。それが著者のいうチームハックということではないかと推定した。ある意味ライフハックで入手したインプットで出した解答は一時的なプロトタイプでさらにそれを改良していく必要性があるということではないか。迂遠にみえて実はそれが最短のルートの「アウトプット・ハック」ではないかと想像する。他のハッキングの本と比較するときわめて難解な内容も含むこの本。しかし空間的な広がりも時間的な広がりも考慮している分だけ応用可能性が極めて高いと思われる。

新ナニワ金融道第1巻・第2巻(グリーンアロー社)

著者:青木雄二プロダクション 出版社:グリーンアロー社 発行年:2008年
 「新」と銘打ってあるが、もともとは歴史に残る名作「ナニワ金融道」(講談社)シリーズ。青木雄二さんが亡くなられてもう続編は無理なのかなあと思っていたが、プロダクションが主体となっての新シリーズ。時代を反映して金融業から債権回収業へと場所を変更する。もちろん本当は法務省の許可や資本金5,000万円以上などの要件が必要なはずだが野暮な話はともかくかつての登場人物たちが自由奔放にまた動き始めるのが面白い。もちろん不満はないではない。故青木雄二氏がこだわっていた「手書きの細かい線」はところどころしかない上に、登場人物の「えげつなさ」はもともとのシリーズよりも「弱い」感じがする。しかしこの新シリーズは「ケータイコミックサイト」に連載されていたものを単行本化したという新しい試みの上、「続編ものはあたらない」というジンクスもふまえての出版。また原作者が亡くなられているという「ないものづくし」の中で出発したシリーズだから、当面は試行錯誤が続くだろうが、なんとか連載を単行本が10巻、11巻ぐらいまでになるように続けて欲しいものだ。

野村の流儀(ぴあ)

著者:野村克也 出版社:ぴあ株式会社 発行年:2008年
 野村克也監督の南海監督時代から現在の東北楽天ゴールデンイーグルス監督に至るまでの名言をこの1冊に集約。野球のことばかり語られているのだが、たとえば野球を自分自身の別のキーワードに置き換えるとそのまま自分自身の哲学や理念にもなりうるという面白い構成。購入したのは2刷目だが、昨年の楽天は5位。ピッチャーの岩隈が最多勝投手となり、一昨年の山崎選手にも劣らない復活ぶりをアピール。地域密着型のチームで、親会社はIT企業でもあるのに「東北」全体をまとめあげるビジネスモデルを実現したチームでもある。何でもいいから勝てばいい…というのではなく、知恵をもって弱さを補い、工夫するという方式がおそらく中小企業やビジネスパーソンにいろいろなヒントを与えてくれるのだろう。「先々を考えた負け方をしろ」というアドバイスも個人的には非常に奥が深く感じられる。

ビジネスマンのための「数字力」養成講座(ディスカバー)

著者:小宮一慶 出版社:株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 数値化と具体化が目標値を決める…というあたりまえのことが、なぜか人間には当たり前にならない。「売れる」「売れていない」の根拠はやはり数値で分析しないとなかなか見えてこないわけだが、主観でものをいっても各人各様でなかなかまとまらない。数字をコンパクトに提出してコンパクトに分析できればそれにこしたことはないし、さらには数字の奥に隠れたものを分析するにはどうすればいいか…そんなビジネスパーソンの欲求に応えてくれるのがこの本で非常に内容が濃い。「高い」「安い」といった抽象的な言葉をなるべく数字でいうように…などのエクソサイズもついているのだが、どれがどれだけ高くて安いのかを具体的に考える癖をつけないとなかなか物事は具体的には進行しない。個人としてはすでに私生活のある「一部」を数量化しているのだが、確かに数量化するだけで一定の目標値には到達できるようになるほか、目標値を超えたときには一種の達成感も感じることができる。こうした達成感を他の分野(体重や歩数そのほか)にも活用していくと確かに仕事にしてもプライベートにしてもいろいろ面白いことが判明してくるに違いない。「家計調査年報」を一回、1963年から2007年まで消費支出ごとに追っていったことがあるのだが、これがまた奥が深くて面白く…。最終的にはデータの原点にさかのぼっていろいろ調べる癖までつくとこの本の内容の「正しさ」が「体感」できると思う。

憎まれ役(文藝春秋)

著者:野中広務・野村克也 出版社:文藝春秋 発行年:2007年
 野中広務氏といえばかつての自由民主党の重鎮。自由民主党では幹事長を務めると同時に自由党や社会党、さらに公明党との連立政権にも大きな役割を果たしたと同時に、小泉純一郎氏の構造改革路線にはあまり賛成していなかった立場の政治家でもある。「あらゆる勝負の基本は分断と懐柔」と言い切るその姿は保守系政治家の大物のしたたかさをみる。「国家100年のためには…」と連立政権誕生の裏を語るが、その一方でこの元政治家はいわゆるハト派の側面も持つ。こうした保守の懐柔戦略を練る一方で、護憲の立場からものをいうという大物政治家は現在では相当少数派であることは間違いなく、楽天監督の野村克也氏との文章のやりとりは読んでいて非常に面白い。「挫折経験」と「苦労」を重視する二人の発言は、若手議員や野球選手に向けてのメッセージであるとともに、すべての「若手」がこれから社会にどう向き合うべきかを教えてくれる人生指南書のようでもある。組み合わせがとにかく面白い書籍でこういう書籍の出版をあの文藝春秋社が手がけるというのも面白い。

読書は1冊のノートにまとめなさい(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)

著者:奥野宣之 出版社:ナナ・コーポレート・コミュニケーション 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 100円ノートを活用したインストール・リーディングを提唱する。「早読み」が提唱される中で何を読んで何を内面に蓄積したのかを重視する著者独自の読み方だが、書籍がこれだけ多数出版されれば、確実に読書活動を自分に役立てようというニーズも多いと推定される。100円ノートと鉛筆だけではじめることができ、さらにテキストデータで索引をつけるというのは前作と同じコンセプト。整理にあまり時間やお金はかけないが自分自身で使いやすい方法を考え出す…という著者のコンセプトは一貫している。個人的には「探書リスト」や「レファレンスブック」の活用というのが取り込みやすいアイデアだった。またテーマやキーワードを簡単にメモをつけて情報収集に役立てるという方法も簡単だし、しかも役立ちそうだ。
 著者は業界紙の記者というが、色々な創意工夫がみられておそらく記事なども相当に書き込まれている方ではなかろうか。読書方法にしても情報の整理にしても、実務をしっかりこなしながら、コストをおさえて自分自身で使いやすいように工夫していく…という姿勢が垣間見えてビジネスパーソンには非常に真似がしやすいのが印象的。おそらく前作のヒットもそうした「取り込みやすさ」が読者に受けた結果ではなかろうか。

口コミ伝染病(フォレスト出版)

著者:神田昌典 出版社:フォレスト出版 発行年:2001年
 「口コミ」が注目されて久しいが、意図的に口コミを作り出そうとしてそれに成功した事例はやはり少ない。多少は口コミというのもあるが最終的には実際に現物をとってみてそれから考える…というケースがほとんどだ。現在ではハイテク機器や家電などではパソコン雑誌や価格.comなどがあるが、「伝染性の高いツール」というのは案外この本で紹介されているようなオリジナルでしかもwordなどは使用していない手づくり的なパンフのほうかもしれない。パーソナルな情報を入れてニュースレターを作成していくという方法は確かに使えそうなのだが個人情報保護の観点からあまり大量に配布されても困る…という社員も少なからずいるはずで、そのあたりの調整は難しそうだ。ただこれまでの既存のマーケティング方式とは異なり、商品企画の段階で「集団で話しやすい商品かどうか」「マスコミが取り上げやすい商品かどうか」といった視点が盛り込まれるのは確か。期待度を低くして現実の驚きを演出するなどといった「落差」の効果も確かにありそうだ。「見てくれは非常にみすぼらしくてアナログなのに使ってみるとどんなハイテク製品よりも使いやすい…」といった落差などは口コミの一つの要因になるかもしれない。マルコム・グラッドウェルの著作や「チーズはどこに消えた?」などが参考文献として挙げられており、この本をきっかけにそうした参考文献にも手を広げてみるのも悪くはない。

誘拐症候群(双葉社)

著者:貫井徳郎 出版社:双葉社 発行年:2001年
 もともとは1998年に単行本として発刊されたものなので小説にはダイヤルアップでネットワークに接続するシーンやプロバイダの会員履歴が閲覧できるシステムなどが出てくる。もちろん現在はこうしたことは不可能だし、もしありうるとすればSNSのごく一部の加入者だろう(SNSであっても正直に実名や住所を掲載しているケースはごくごく稀だ)。犯人は最初から明らかにされているのだがその逮捕に至るまでの流れは、現在だともう少し変化してくるかもしれない。またネットで個人情報を収集するというのもかなり難しい時代にはなってきているのでスパイウェアなどにも通じているプログラミングの知識や実務経験がある人間などが犯人像として浮かび上がってくることだろう。またハードディスクのデータ削除も現在ではフリーウェアで相当高度になってきているので、これも技術の進化が1998年からわずか10年で相当に高度になったという実感がわく。いずれはアイデアはそのままにさらに発展させていくと面白いミステリーということになるのだろう。しかしこの頃の双葉社は本当に実験的な作品を連続して出版している。篠田節子の名作「ゴサインタン」も直木賞受賞前の作品だが双葉社から発行されており、現在も双葉文庫から発刊。当時の双葉社にはやはり文藝に関する何か秘めた思いがミステリーなどのジャンルを問わず社内に醸成されていたのかもしれない。

失踪症候群(双葉社)

著者:貫井徳郎 出版社:双葉社 発行年:1998年
 若者たちの謎の失踪事件が相次ぎ発生。表立って動けない警察の代わりに特殊の外部組織が真相を探る…。住民基本台帳法が改正される前の話で、現在はたしかそう簡単には閲覧ができなくなっているという事情や戸籍の附表についても行政書士試験などでかなり出題されたのである程度戸籍法や住民基本台帳法を学習した人には常識化しているだろう。いずれも個人情報保護法がまだ制定されていない時代だが、今だったらもっとこの「ミステリー」を解読するのには時間がかかったかもしれない。ただ一つ問題は戸籍法についての解釈だが、法律の趣旨からするとこのミステリーに言及してあるような「方法」が本当に違法でないかどうかはちょっと難しい。明文の規定は確かにないが、身分関係を確定するための法律なのにそれを崩壊させかねないような「方法」が明文の規定がないからといって違法ではない…ということにはならないのではないか。公文書偽造など別の要件にてらして刑事告訴することは十分可能ではないか…というのが個人的な疑問。ただし法律的な解釈や2009年時点での法制度などはあまりこの本を読むときには重要な要素ではない。あくまでも1990年代初頭という時代の設定枠さえしっかりしていれば、けっしてこの本を読む上でなんの瑕疵にもならないような疑問である。
あ、なおライブハウスが物語の中に登場してくるが、描写されているような「礼儀知らずのバンド」というのは今ではどこであろうと即刻出入り禁止になるほか、路上のコンサートそのほかも現在では東京都の許可が必要ということで、それほどの礼儀知らずは演奏もできないシステムになっている。これも時代の変化ゆえか。

イラスト版管理職心得(日本経済新聞社)

著者:大野潔 出版社:日本経済新聞社 発行年:2005年
 もともとは1994年に発行された単行本に加筆・修正をして文庫本化した書籍。したがって読んでいるうちに「なんだかこれはちょっと…」と思ったのは時代の変化かもしれない。職場環境も経済環境もだいぶ変化して、「集団の納得」とか「変化」とかそうしたことは一種常識化してしまった時代なのでやや古い印象も。環境の変化に対応するのが大事だとすれば、もう少しこの文庫本の内容も時代の変化を反映すべきだったのかもしれない。2005年と2008年でもだいぶ状況は異なっているし、2008年と2009年1月でも経済環境は大きく違う。時代の雰囲気は一気に悪化し、昨年の1月と2009年の1月はわづか1年しか違うものの世相の雰囲気はまるで違う。来年の今頃は自由民主党が野党になっている可能性もあるという状況では、目標管理システムとか目標をつなげるとはいっても、その大前提である「時代の変化」に大きな動きがあると目標そのもののリンクや優先度なども柔軟に変更しなくてはならないだろう。とはいえイラストや豊富な書式などの参考資料は文庫本にしてはかなりの充実をみせているし、本来はもっと大きく改訂バージョンを出したかったのかもしれないが、それこそそうした改訂版を出すにも時間との問題やコストの問題もでてくる。イラストを新たに書き起こす手間というのは案外コストがかかるものだから、これはこれで1994年、2005年そして2009年に普遍的なテーマを読者が自分自身で見つけ出して活用していくべきビジネス書なのだろう。

2009年1月3日土曜日

SとM(幻冬舎)

著者:鹿島茂 出版社:幻冬舎 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 新書ブームというが、手軽に持ち運びができて深い世界への入り口をコンパクトに紹介してくれるこの新書サイズの大量の発行ブーム、個人的にはかなり嬉しい。いきなり単行本から知らない世界へ本格的に入り込むよりも数々のテーマを簡潔に俯瞰してくれる新書があると著者の世界観なりテーマなりが数時間で学習できる。この書籍も締め切りまで時間が少ないということで、著者が口述したものをリライト、最後に再び著者が赤字を入れて完成したという手順だが、いわば講義をまとまった形でコンパクトにしてくれたようなものなので非常に面白い内容が凝縮されている。寄り道などもあったり、重複する話もあるのだが、それも講義形式と考えれば違和感はない。キリスト教徒はMばかりとか、支配力の強い人間がSではないとかマルキ・ド・サドが近代の始まりだとか、面白い話が満載。人文科学系の本だが読んでいるうちに社会科学にも通じる社会観などもかいまみえてくる。特に中世の人々はポーションを共同体に尽くす必要があったが市民革命のあとは自分自身のためにポーションを奪い合うという分析が興味深かった。個人的にはポーションとはいわば「持分」「残余財産請求権みたいなもの」というイメージで読んでいたのだが、限られた経済資源を市民革命後の市民が取り合えば当然「闘争状態」になる。共同体というものも必要な面がある…といろいろ思考が膨らむ。専門家にとってはこうした新書の内容は「あたりまえのこと」なのかもしれないが、「市民」の立場からするとこうした議論を新書サイズ192ページで学べるのは嬉しい時代。最初の1ページから最後まで一気に読み通せる面白さだ。

2009年1月1日木曜日

ビジネスマンのための「発見力」養成講座(Discover)

著者:小宮山一慶 出版社:株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 発行年:2007年 評価:☆☆☆
 ディスカバー携書の012番。扱っている材料やテーマはPPMなど古典的手法が多いのだが、PPM一つにしても小林製薬と花王の社風を比較したり、マズローの欲求五段階説に具体的な商品・サービスの購入をあげたりと、具体例を豊富に挙げることがわかりやすさにつながっているのが印象的。一つのデータから「点」「線」「立体」と関連付けでどんどん深みを与えていく手法の説明もわかりやすい。「発見力」というのは著者の造語と思われるが、本書122ページあたりの文章からすると「ビジネスマン」の中でも企画や創造的な仕事に役立つことを念頭において書かれた本と想定される。149ページの「一部を取り替える」というのも具体的で実行しやすい。個人的にはパソコンのHDDの中のファイルやフォルダを定期的に入れ替えたり、削除しているがそのたびごとにフォルダのネーミングやファイルの並び、さらに本当に必要なデータかどうかといった検討を加えるので、最終的に整理をしながら一つの秩序ができあがっていくことになる。これもまた現実世界のキャビネットの一部の入れ替えだけではなく、パソコンデータの一部を入れ替えることも同じなのだとなんだか納得。非常に面白いし、電車の中でも読みやすい「新書サイズ」なのだが、テキスト部分がほとんどなのに価格設定が定価1,000円はちょっと高いかな、という印象。マーケティング的にいうと他の新書シリーズは1,000円を切っているのに、この「携書」シリーズはそのそれぞれの単価(P)が異常に高い。表紙のカバーも白と黒の1色で造本になにか特殊な原価が発生するという造りでもないので価格設定は今後ぜひとも見直しをお願いしたいもの。