2009年1月8日木曜日

殺人症候群(双葉社)

著者:貫井徳郎 出版社:双葉社 発行年:2005年 評価:☆☆☆☆
 「慟哭」がどうしても先にでてくる作家だが、「症候群」シリーズの第3作は「慟哭」に負けない、というよりも「慟哭」以上に完成度の高い小説である。ミステリー小説というよりも、これは明らかに人間群像の「今」と「過去」と「未来」を描写している点で圧巻。文庫本で712ページの分量で、少年犯罪と被害者の「心」と「行動」を描く。この著者には珍しいほどのバイオレンスの描写もすさまじい。これまでバイオレンスや性描写にはややもたつき感を感じたが、この作品でさらっと上品かつ残酷に「事件」を描写してラストにつなげていく。計算も緻密になされ、登場人物が途中から作家の意思よりも小説の世界の中で自由に動き始めていくのを読者は目の当たりにする。
 シリーズ第3作だが第1作と第2作は読まなくても小説の世界は楽しめる。だが第1作と第2作はいずれも時代性を色濃く反映しており、第1作と第2作で「平成のだいたいこのぐらいの年代の話だな…」と読者は理解できる仕組みになっており、やはり「失踪症候群」「誘拐症候群」を読み進めてからこの「殺人症候群」を読むべきだろう。住民基本台帳法や個人情報保護法が施行される前の第1作と第2作、そして少年法改正に揺れた時代の真っ最中にこの「物語」は始まるのだ。
 登場人物のいずれもが「救済」を求めるのは、これまでの作品と同様だが、「神の二つの貌」と同じく「教会」と「キリスト教」が一つのモチーフとなる。そしてラストの解釈は読者の人生観によって異なってくるだろう。

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