2009年1月3日土曜日

SとM(幻冬舎)

著者:鹿島茂 出版社:幻冬舎 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 新書ブームというが、手軽に持ち運びができて深い世界への入り口をコンパクトに紹介してくれるこの新書サイズの大量の発行ブーム、個人的にはかなり嬉しい。いきなり単行本から知らない世界へ本格的に入り込むよりも数々のテーマを簡潔に俯瞰してくれる新書があると著者の世界観なりテーマなりが数時間で学習できる。この書籍も締め切りまで時間が少ないということで、著者が口述したものをリライト、最後に再び著者が赤字を入れて完成したという手順だが、いわば講義をまとまった形でコンパクトにしてくれたようなものなので非常に面白い内容が凝縮されている。寄り道などもあったり、重複する話もあるのだが、それも講義形式と考えれば違和感はない。キリスト教徒はMばかりとか、支配力の強い人間がSではないとかマルキ・ド・サドが近代の始まりだとか、面白い話が満載。人文科学系の本だが読んでいるうちに社会科学にも通じる社会観などもかいまみえてくる。特に中世の人々はポーションを共同体に尽くす必要があったが市民革命のあとは自分自身のためにポーションを奪い合うという分析が興味深かった。個人的にはポーションとはいわば「持分」「残余財産請求権みたいなもの」というイメージで読んでいたのだが、限られた経済資源を市民革命後の市民が取り合えば当然「闘争状態」になる。共同体というものも必要な面がある…といろいろ思考が膨らむ。専門家にとってはこうした新書の内容は「あたりまえのこと」なのかもしれないが、「市民」の立場からするとこうした議論を新書サイズ192ページで学べるのは嬉しい時代。最初の1ページから最後まで一気に読み通せる面白さだ。

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