2010年12月29日水曜日

バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる(光文社)


著者:高橋洋一 出版社:光文社 発行年:2010年 本体価格:777円
国の貸借対照表を作成したとき、負債が多くて資産が少なくなる。ではその貸借差額が借方に生ずるがその差額とは何か…と著者は「課税権」とする。民間企業では無形固定資産に相当する部分だが、貸借対照表は著者がいうように国の一定時点のストックを表す表であると同時に将来のキャッシュフローを読み解く表でもある。負債が多くて資産が少ないが貸借バランスがとれるとなれば、負債の穴埋めをする課税権という無形固定資産があるということになる。著者は財政投融資に関係する部署にいたということで、財政投融資のALMを手がけていたという。年金や郵便貯金で集めたオカネを特殊法人に貸し付けていくという構図のなかで、いくら預かって、どれだけ運用すれば安全圏内か…と読み解くには確かにALMの考え方が一番リスク管理には適していただろう。この本ではこのほかに特別会計の問題、金融政策、プライマリーバランスとマクロ経済学の主なトピックスが扱われており、標準的なテキストと並行して読み進めると考え方の幅が広がると思う。固定相場制・金融政策・資本移動の同時成立はありえない…というやや面倒な考え方もわかりやすく説明されている。ただ理論から導き出される命題についてはこの本以外の論拠もあるので、安易に著者に同意するべきではない。いかにも確かに…とは思いたくなるが、それ以外の考え方はないか、それ以外の論拠はないか。なぜそれでは政策当局は金融緩和をさらに推進しないのか…と疑問を持つことが大事。日銀総裁も副総裁もいわば経済学のプロ。天下りなどの利権などよりも優先すべき課題については重々自覚されているはずで、それにも理由がある。理論どおりにならない現実を考えていくには面白い一冊ではないかと思う。

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