2010年12月19日日曜日

迷走する帝国(上)(第32巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2008年(文庫版) 本体価格:400円(文庫版)
人間行動を左右するのはルールとインセンティブ、とミクロ経済学では考える。人間社会全体で考えると法律を改正することによって個人のモチベーションが左右され、それが社会全体の動きにつながっていくという流れになるだろう。もともと軍事政権が成立した段階で、あるいは皇帝ネロの死後の内乱などにローマ帝国崩壊の芽はあったが、カラカラ帝以後の3世紀は「3世紀の危機」ともよばれる真の崩壊への道をひた走る。皇帝の政策が法律として示されるローマ帝国でカラカラ帝は、アントニヌス勅令によってローマ市民権を属州民についてもすべて与えるとした勅令は社会のルールを変更。増税を狙った政策なのかもしれないが、実際には属州民のモチベーションとともに旧来のローマ市民の公共投資への意欲もそぐ結果となる。ローマ社会は階級社会ではあったが、属州出身の皇帝も存在し、階級の差異はあっても流動的なものだった。その結果異質な価値観を取り込みやすい社会だったのがすべてローマ市民ということになると同質化社会へと変化する。社会の活力がそがれる結果となり国家財政は悪化したのであった。カラカラ帝はその後ダキア、メソポタミアなどへ防衛戦争にでかけ、はてはパルティア王国の皇女に結婚を申し込み拒否されるという事態に陥る。その結果人心が離れ謀殺。その後皇帝マクリヌスが就任するがパルティア王国との弱腰外交が拒否され、やはり同じ軍団の兵士に謀殺。オリエント出身の皇帝ヘラガバルスが皇帝となる。オリエント風の太陽神信仰を持ち込み、殺害される。その後アレクサンデルが皇帝へ。シリア出身の母親ユリア・メサのもと、司法権の地方自治体への譲渡などの制度改革に乗り出すが、ササン朝ペルシアがパルティア王国にとって代わり、カッパドキアに侵攻される。なんとか対処したもののゲルマン民族との弱腰外交でやはり不信任され、マインツ付近で同じローマ軍によって殺害される。

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